GOD EATER2 ~Nam Oratorium~ 作:〆渡
昼食を終えてロビーに戻ると、ジュリウス隊長とフランさんが何やら話しているところだった。
先輩達と連れだってそちらへ向かう。すると、フランさんが僕たちに気づき、その反応でジュリウス隊長もこちらを振り返る。
「ああ、お前達か。丁度いい、午後から新しい任務だ」
「えぇー?またかよ」
「そう言うな。デイトの復帰に併せているから、そう難しい任務じゃない」
ジュリウス隊長の言葉に二人が僕を見る。
かなり驚いているみたいだ。
「ちょ、おま。なんでさっき言わないんだよ!」
「よかったー。また一緒にミッション行けるんだね」
「あ、はい、すみません。また、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げると、頭上から暖かい肯定の声が聞こえてきた。
『偵察班からの報告では、今回の討伐対象はオウガテイル2体との事です。―御武運を』
出撃前にフランさんから言われた言葉を思い出しつつ、ズボンのポケットから瓶入りの錠剤を取り出し、飲む。
ざらついた感触が舌の上から喉へ移動し。多少緩慢に飲み下されていく。
その時、反射的に吐き出しそうになってしまうのを堪え、何とか胃に送り込んだ。
ちょっとした苦行を終えた気分になり、大げさにもため息を付いてしまう。
そのまま視線をあげると、ナナさんも何かを飲み下した後のようだった。
けれど、失敗したのか、とても不味そうな顔をしている。
ナナさんも薬を服用している様だ。…ひょっとして、胃薬なんかの類だったりするんだろうか。
「はあ…。もうちょっと味がなあ…」
そう言うナナさん。セットされた髪の先端が、少しばかりうなだれて見える気がしてしまう。
「そいえば、デイトもお薬飲んでたけど」
「あ、はい。念のために、ミッション前には飲んでおくようにと、ソウ先生から」
僕がそう答えると、ナナさんは「ソウ先生?」と首を傾げる。確かに、自分と直接関わりがなければ、たくさん居るフライアの職員全員の事を知っているはずもないだろう。
「はい。優しそうな先生でしたよ」
「そっかー。ならよかったね、デイト」
「そうですね」
確かに怖かったり、相性の良くなさそうな先生でなくて良かった。
いくら治療に信頼が置けても、それでは進んで治療に行こうとは思わないだろうから。
「ナナさんも先ほど何か飲んでいましたけど」そう聞こうとして直前で口をつぐむ。
僕はこうして聞かれても特になにも感じないけれど、ナナさんもそうとは限らない。
親しき仲にも礼儀あり、というそうだし。
「私のお薬も、もうちょっと甘かったり、おいしければいいのになー」
「いえ。僕の薬も別においしくはありませんよ?」
「そうなんだろうけどさー」
*
ソウっていう先生に看てもらってるらしいデイト。
その話の流れで何か口を開こうとしていたのを、無理矢理やめたように見える。
そうして、何時もと同じなような、でもどこか違うような。そんな笑顔を浮かべた。
こういう時のデイトは、多分、言いたい何かを我慢したりしてる時だ。
まだ、長い間一緒にいた、とは言えないから。本当に想像でしかないけど。
けど、前みたいに余計かもしれない事を言って、なんか空気がギクシャクしてしまうのも嫌だなーと思ってしまう。
それに、嫌われるだけなら…。うん、それも嫌だけど。
少し前までみたいに避けられて、遠くに行ってしまうような感覚を覚える方が嫌だった。
遠くに行ってしまったら、もう会えない。
そっちの方がきっと辛い。
だから、多少無理矢理かな、と思っても他の事を口にした。
デイトも、特に不思議には思わなかったみたいで、その話題に乗ってくれる。
そう、これでこんなもやもやした気分はおしまい。
ちゃんとお薬も飲んだし。
約束を守っているから、きっと大丈夫だ。
*
前回も来た場所、黎明の亡都と呼ばれている地域。
今回のミッションもこの場所だ。
以前のミッションではこの区域を俯瞰で見たとはいえ、実際に隈なく歩き回った訳じゃない。油断は禁物だ。
送られてきた情報を確認すると、オウガテイル2体の反応は1体ずつ離れた場所にある。
「二手に分かれた方がいいな。俺とナナは公園跡に、ロミオとデイトは、図書館跡に向かってくれ」
「了解しましたー」
「りょーかい!」
「了解です」
僕たちの返答に隊長が頷き、それぞれ崖から降下すると自分達の標的に向かって走り出した。
崩落した図書館の外壁、そこを走りながらロミオ先輩に声をかける。
「ん?どうした?」
「あ、はい。今回は僕が後衛で、ロミオ先輩に前に出てもらった方がいいかな、と」
僕の提案に、先輩は露骨に「ゲッ」という顔をする。
けれど仕方ない。ロミオ先輩の銃身、ブラストより、今日僕が装備しているスナイパーの方が圧倒的に後衛向きなのだから。
二人の前衛が、お互いを気にしながら神機を振り回すよりよほどやり易いと思うのだけれど。
そう説明すると、ロミオ先輩はやけくそにも見える反応で、わずかに僕の前に出た。
「援護は、任せたからなっ」
「了解です、先輩」
オウガテイルが視認できたところで止まり、エイムモードで拡大された視界の中心に居る標的に向かって引き金を引く。
毛に覆われた胴に2発。そして左目―僕から見て右側の目をレーザーで焼き潰す。
どうせ直ぐにオラクル細胞によって修復されるけれど、それで十分。
突然の襲撃に狼狽える様子のオウガテイル、その作られた死角から、ロミオ先輩のバスターブレードが気合いと共に叩き込まれ、降り下ろされた力に抗えず、地面に屈する。
尾を使い、何とか起きあがろうともがく行動に、思わず及び腰になる先輩。
レーザーでアラガミのその動きを封殺する。
「もう一度お願いしますっ!」
「このおおぉぉっっ!!」
放出されたオラクルを纏った大剣が、今度こそオウガテイルを行動不能に追い込む。
これを離散仕切る前に補食して、コアを回収するのも仕事の一つだ。
コアの回収を終えた先輩に、「お疲れさまでした」と声をかける。
時間にしたら短いけれど、それでも、死と隣り合わせの緊張感の中では数時間にも感じる。
オウガテイル一匹だって、油断をしたら死んでしまうのは僕たちの方なのだから。
ちょっとばかり疲れたような、でもほっとしたような笑みを浮かべるロミオ先輩。
「おう」と応えた手は、ちょっと震えていた。
それに気づかない振りをして、僕は通信機の向こうのジュリウス隊長に、こちらの討伐完了を報告した。
*
『こちらは問題なく終了しました』
「そうか、解った。こちらも問題ない。予定通りの場所で落ち合い、ヘリを待とう」
『了解しました』
通信が切れ、無意識に息を吐くジュリウス。どうやら、彼自身気づかぬ内に、前回の二の舞にならないかと彼を心配していたらしい。
ナナも、通信自体は聞こえていたのだろう、安堵した様子を見せている。
出発前の様子を見る限り、という判断材料ではあったけれど、ロミオともうまくやっているようだ。
ラケル、レア、両博士以外の人物がブラッドのメンバーを一部であってもサポートできるのかと不安に思った事もあったが、そんな心配は杞憂のようだった。
人数も増え、その関係も決して悪くない。
合流の為に走ってくる二人を見ながら、洋々としたブラッドの先を、ジュリウスは見た気がした。
*
帰りのヘリの中。ジュリウス隊長が唐突に口を開いた。
「そういえば明日、新しいメンバーが来るそうだ」
「新しい…って、女の子?」
何故か嬉しそうに聞くロミオ先輩。
ジュリウス隊長はそれに苦笑して、「いや」と短く返答した。ロミオ先輩が露骨にがっかりしてみせ、それをナナさんがからかう。
「以前からイギリスのグラスゴー支部でゴッドイーターをしていたらしい。だが今回、俺たちブラッドが有する偏食因子へ適合することが解ってな。それを受けての転属ということだ」
「すると…、ブラッドとしては新人さんですけど、ゴッドイーターとしてはベテランさんという事ですか」
「そうなるな」
どんな人なのだろうか。ナナさんが「怖くない人だといいねー」と言っているのには同意だ。
まあ、何にせよ『家族』が増えるのは、きっと嬉しいことに違いなかった。
帰投後、報告があるというジュリウス隊長と別れ、僕たちは先に食堂へ向かった。
「先に行っている」と伝えて何も言われなかったから、恐らく後から食堂へ来るだろう。
ひとまず、比較的端のほうに席を取り隊長が来るのを待つことにした。
「それにしても、女の子じゃないのかあー」
「まだ言ってるんですか、先輩」
大きくため息をついて、イスに深く座り込む。いつもの位置、ロミオ先輩の隣に座ったナナさんはといえば、肩を竦めてあきれているようだ。
「そんなこと言ってると、これから先メンバーが増える事になる度に、50%の割合で落ち込む事になりますよ?」
実際の正確な男女比は解らないけど、僕が言ったより実際は低い確率になるだろう。
なにしろ、好みというものもある。
勿論、ロミオ先輩があの人みたいに、女性ならだれでも大歓迎だというなら話は別だけれど。
「う…。だってよぉ…お前は残念じゃないのか?」
「いえ、特には」
本音を答えると、小さく「この裏切り者め」と言われた。どうしたら今の発言が裏切りになってしまうのか、そこからまず教えて欲しい。今度座学でもお願いしてみようか。
「あ、ジュリウス。こっちこっち!」
ナナさんが手を振る。その先には声の通り、ジュリウス隊長の姿があった。
それにしても、仮にも上官の隊長に、1週間経たないうちに呼び捨てできるナナさんは、ある意味で尊敬してしまう。真似は出来そうにないけれど。
席を立ち、隊長と一緒にカウンターへ向かう僕たち。
ここの人たちは、みんなそれぞれ好きな時間に食事を取るようで、食事時と言っても込まないのが普通の様だ。極東では、広さの問題もあるけれど、食事時は大変だった。
やれ注文の品が来ない、やれ注文を取りに来ない。セルフのお冷やを入れてこいと言われるetc.
緊急の事態に対してどのように動くか、何を優先的に処理するか、という訓練にはなったと思う。
「今日は何にしようかなー」
「ここ、和食が殆ど…ああーっ!」
「どうした、ナナ」
メニューとにらめっこをしていたナナさんが、突然大声を上げる。最近では他の職員さんも慣れたのか、わざわざこちらを見ることも少なくなってきた。
元々そんな視線を気にするタイプではないナナさんは、今日もやっぱり、安定のナナさんだった。
「お鍋!お鍋あるよ。もう夕ご飯だし、みんなでこれ食べようよ!」
ナナさん電子メニューの一角を示す。
そこには、土鍋で煮込まれた料理が表示されていた。
並べて移されている取り皿と比較する限り、複数人で食べるサイズのようだ。
「いいんじゃないですか?」
「ふむ…初めて食べるな」
「へー、いいじゃん。何か楽しそうで」
満場一致で鍋を頼む。
相変わらず短い待ち時間で提供された鍋をロミオ先輩が持ち、僕が取り皿とお玉を、隊長はレンゲや箸。そして一応フォークを、ナナさんが付属のタレと薬味を持って席へ向かう。
蓋が閉まっているのに、煮込まれた具材のいい匂いが鼻先を擽る。空腹感が増し、口の中に唾液が貯まるのを感じてしまう。
空いている4人掛けの席、その真ん中に鍋が置かれ、取り皿やレンゲ等がそれぞれに回される。
「それじゃあ、隊長。お願いします」
ナナさんが冗談混じりに―表情そのものはミッション中ですら見たことがない位真剣だけれど―そう言うと、何故か隊長までつられて真剣な表情になる。
「いくぞ」
と、なんだか開けたらアラガミでも飛び出すんじゃないだろうかという雰囲気だ。
そうして、立ち上る湯気と共に蓋が持ち上げられる。
そこから現れたのは―。
ふっくらとした鳥つみれ、それを支えているのは白菜の根本付近だろうか。その後ろには鱈が置かれている。火が通りやすいため、後から乗せられたようだ。
つみれの隣には四角く切られた焼き豆腐。身の白さとつけられた焼き目のコントラストがいい。
そんな白い風景に色を添えるのが、花型に飾り切りされた人参だ。極東の花であるらしいサクラを模した形は、色以外でも目を楽しませてくれる要素になっている。
淡い緑の白菜の葉部分。そこからも別の赤が覗いていた。あちらはエビらしい。
茹であがった殻の部分が、人参とはまた違った赤みを添えている。
それらを覆う様に散らされた水菜は、蒸された事によって葉の緑色を濃くしており、鍋一つの中に、見事な色彩が描かれていた。
それぞれの器に取り分け、好みの薬味を散らす。タレはぽん酢とゴマだれの二種類だ。
ナナさんとロミオ先輩はゴマだれ、僕と隊長はぽん酢で、それぞれ食べてみる事にした。
「あっつ!?」
と、具を冷まさないで口に入れた先輩が火傷をしたようだ。
向かいに居た隊長が水の入ったコップを渡すと、勢いよくそれを含んだ。
「あー…。まだひりひりする…」
「急いで食べるからだよー。ちゃんと、こうやってふーってさましてから食べないと」
そういって、ナナさんは鱈を頬張る。とても幸せそうだ。
僕たちもそれを真似て、ある程度吹き冷ましてから具を口に運ぶ。
見た目通り柔らかいつくね。肉汁として染み出してきた油とうま味が口いっぱいに広がり、その温もりと相まって何故かとても幸せな気分になれる。
タレとしてかけたぽん酢も、酸味と塩気が程良く味を引き締めてくれる。微かに香るのは柑橘の香りだろうか。
隊長はエビの殻を妙に綺麗に剥いていた。見事に足の部分まで身に残っている。
ロミオ先輩は冷まし足りなかったのか、口の中でハフハフと焼き豆腐を更に冷ましているようだ。
そうして食べ進めていくと、四人だけあってすぐに無くなってしまう。
腹8分目より少し少ないだろうか。これでは、夜中にまた何か食べてしまいそうだ。
「ちょーっと物足りないな」
「ボリュームがあるように見えて、以外と少ないものなんだな」
と、僕と同じ様な感想を持ったらしい先輩と隊長。
けれど、一番そう言いそうなナナさんが「甘いなぁ二人とも」と、鍋毎カウンターに向かっていった。
まさかお代わりを要求するのだろうかとみていると、何やら調理師さんと話している。
話が纏まったのか、こちらを向いて指で円を作る。
オーケーサインを送ってきた。
それでも、僕たちには何がオーケーなのか解らない。
男三人が解らないなりに待っていると、ナナさんが再びお鍋を持って帰ってきた。
蓋が閉じられ、中から湯気が漏れている。
まさか、本当にお代わりを?
「おいおいナナ。お代わりまでいくとちょっと多くないか?」
「違うよー先輩。お代わりじゃなくて、シメ」
そういって、ジャーンと開けられる蓋。
近づきすぎて、一瞬めがねが曇ってしまう。
曇りを拭って目に入って来たのは、優しい薄黄色と、その上に散らばった緑だった。
「雑炊でーす。やっぱりお鍋といったら、シメがないとね」
「これは…卵とさっきの薬味の…ネギでしたか?」
「そうそう、美味しいよ。はい」
ナナさん自らみんなに取り分ける。ちゃっかり自分の分が多いのはご愛敬だろう。
柔らかな湯気を立てる雑炊を、レンゲで掬い口に運ぶ。
柔らかくなった白米に、それまでの鍋の出汁がぎゅっと詰め込まれ、それが口の中に広がっていく。吸いきれなかった出汁も卵に閉じこめられ、刻まれたネギの刺激も心地いいくらいだ。
なんだかんだと雑炊まで完食した僕たちは、しばらく食堂のイスから動きたくないと思わされるほどの至福を味わっていた。
けれど、まだ仕事があると言う隊長が動いたのを皮切りに、今日はお開きと言うことになる。
特に予定の無かった僕たち三人も、それぞれ部屋へ向かったりと分かれた。
ロビーのフロアでロミオ先輩と分かれた後、ポケットから振動が響いてくる。通信機だ。
取り出してみると、ソウ先生からだった。
今日の任務中の話を聞きたいとの事だ。
断る理由も無いので、向かう旨を返信。もう一度エレベーターを呼んだ。
任務中の記憶を思い出すけれど、あの時の様な不備はない。今日の所は、何も問題ないと報告できるはずだ。
そう思うと、不思議と足も軽くなる。
部屋には戻らずそのまま先生の部屋に向かうと、午前中と同じように迎えてくれた。
「やあ、わざわざすまないね。せっかくの自由時間だったろう?」
「いえ。必要なことですから」
「そう言って貰えると助かるよ。どうだった、久しぶりの外は?」
そういって飲料の入ったカップを渡してくるソウ先生。今日はお茶のようだ。
「そうですね…2日出なかっただけなのに、とても…解放感がありました」
「そうだろうねえ。極東に居た頃は特に制限なんて無かっただろうから余計だろう?」
ソウ先生の肯定の言葉に、僕は苦笑しながらも頷く。
僕が保護されて、適性を有することが判ってからは、外部居住区という所にすむ場所を提供されてきた。本来なら支部内に部屋が用意されるらしいのだけれど、当時空きは無かったらしい。
下手に他の人と同室になると、色々と問題があるだろうと言うことで、比較的支部から近いバラックが用意された…との事だった。
そこから毎日支部に通っていた事もあって、外に出ない日が殆ど無かった僕にとっては、この2日間はじわじわとくるものがあった。
庭園も好きだけれど、やはり直に外を感じるのとは違ってくる。
「『赤い雨』さえ降っていなければ、毎日支部とを行き来してましたからね」
「ああ…。赤乱雲か…」
「はい」
人体に有害な赤い雨。それが降っている時、原則僕は与えられた住居で待機、という事になっていた。念のためと防護服を与えられてはいたけれど、それを使うような事は結局なかった。
極東を中心に降るようになったらしい赤い雨の原因は、未だにはっきりとは判っていないらしい。極東にいた時分も、サカキ博士が支部長職と同時に、その原因を究明しようと研究に勤しんでいた。
「ここいらでも…というか、今では世界中でその現象は確認されているけれど、極東への集中はデータを見れば明らかだね。人によっては、月の緑化と関係あるんじゃないか…なんて意見もあるようだけれど」
「そうなんですか?」
「まあ、月の緑化と赤乱雲、そして赤い雨の確認された時期はほぼ同じだからね。そういう考えが出るのも自然かもしれないね」
支部で働いていたと言っても、全てが解ったり知ったり出きる訳じゃなかったから、今の先生の話は僕にとって馴染みのないものだった。
データベースで情報を閲覧するのとは、また違った印象を受ける。…といっても、データベースを閲覧出来るようになったのは最近のことだけれども。
「本題からずれちゃったかな。今日送信されてきた情報を見る限り、変調はなかったみたいだね。自分ではどうだった?」
「自分でも、違和感はありませんでした。…初めて、ミッションに成功した…っていう気持ちではありますけど」
記録として失敗していた訳ではない。けれど、自分になんの不備もなくミッションを終えることができて、とてもホッとしている。
そう言うと、先生は目を細めて「良かったね」と言ってくれた。
「はい。これからも、この調子で頑張ります」
「…うん。そうだね。けど、あまり無理をしちゃ駄目だよ?」
「はい、解ってます」
確かに、先生の言うとおりだ。
このまま調子に乗って、それで失敗していては本末転倒、目も当てられない。
気を引き締める僕を見ている先生の表情から、笑顔が消えている。
「先生?何か、おかしな事を言ってしまいましたか?」
「ぁ…。ああ、いや。何でもないよ。少し、ぼうっとしてしまってね」
「ごめんごめん」と謝るソウ先生。確かに、僕の診察もきっと急に入ってきた仕事だろうし、まだ時間の整理なんかが追いついていないのかもしれない。
医師、とは言っても、治療をしていればいいというわけでもなく、自分の専攻に関する勉強、研究なんかもするものなのだろうし。
「お時間を作っていただいて、ありがとうございます先生。今日は、もう失礼しますね」
「ああ、うん。気を使わせてすまないね。何かあったら、連絡をくれ」
「はい。ありがとうございました」
*
礼を言って退出するデイトを見送り、ソウは自分の大型端末を起動した。
この端末は充電だけはやむなく行っているが、入局時に渡された携帯端末とは違い、フライアに直接接続されていないため、この中のデータは彼しか知り得ないものだった。
認証コードを打ち込み起動する。
ファイルを表示すると、何かの研究記録のような文章が次々表示された。
専門の研究者でなければ、半分程しか理解出来ないそのファイルは、データ自体が破損しているらしく、所々文字化けしており、更に内容を読み解く事が難解になっていた。そのせいか、時折添付されている画像も、表示できない事を示すマークに変わってしまっているのが殆どだ。
ただ、数少ない表示出来る画像の1枚。
まだ子供と言える人間の顔が映された画像。
そこでスクロールをやめ、ソウは画像のみを表示。その画像が表示されている画面の隣に、支給品の携帯端末を並べる。
「やっぱり、似ている」
並べられた端末に表示されているのは、先ほどまでここにいて、ソウとカウンセリングという名の会話をしていた少年。日暮デイトのものだった。