GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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第12話

夜が明けた。

今日は確か、新しい人が来るとう事だった筈だ。

…といっても、いつ来るのかとか、そういう正確な所は聞いていなかった。

せめて、ミッションが入っていない時間に顔を合わせることが出来るといいのだけれど。

そう思いつつ、送られてきた今日の情報を確認する。

すると、珍しい事にミッションが入っていなかった。

確かに最近解ったところでは、フライアにもブラッド以外にゴッドイーターが居るようだけれど、それにしても、一日に一件も入っていないなんて。

けれどそうすると、ジュリウス隊長に座学の時間をとって欲しくもある。けれど、隊長の休みがそれで無くなってしまうのも困りものだ。

きちんとした休息は、どんな凄い人だろうと必要なのだから。

髪をセットしながら、どうしたものだろうかと一日の計画を考える。

そういえば、コウタさんと、その前の第一部隊の隊長さんが言っていた。

『休みを休みだと思うな』、と。

ゴッドイーターという職業にも、一応休日というものはある。けれど、それは得てして襲撃などで潰れがちなものらしい。

 

「…とりあえず、覚悟だけはしておこう」

 

頬を叩いて気合いを入れると、ひとまず食堂へ向かう事にした。

 

 

 

食堂へ入ると、ジュリウス隊長しか居なかった。

どうやらロミオ先輩とナナさんはまだゆっくりしているらしい。

 

「おはようございます、隊長」

「ああ、おはよう。早いな」

「そうですか?」

 

そう言われて食堂の時計を確認すれば、7時を少しすぎた頃だ。

特別早いと言われる程では無いような気がする。

 

「ああ、ナナもロミオもこの時間にここで見かけた事はないな」

「ああ…」

 

そういいながら紅茶に口を付ける隊長。同性の僕から見ても絵になる人だ。

 

「今日の予定だが、午後に取られていた空白の時間があっただろう?その時間帯にミッションが入る予定だ。正確な時間はまだ決定していないが。新しいメンバーもそれまでにはこちらに合流する」

 

隊長の言葉に、もう一度端末を起動、予定情報を開く。

確かに、表化されている予定一覧の下に、3時~6時までミッション待機、と追記があった。

 

「はい、解りました」

「俺はそろそろ行くが、ロミオやナナに会ったら、一応言っておいてくれ。俺の方でも、すれ違ったら言っておく」

「はい」

 

僕の返事を聞くと、隊長は食器を下げ食堂から出ていった。

これからいくつか処理しないといけない仕事があるのだろう。

本当に頭の下がる思いだ。

注文した朝食を殆ど食べ終えた所で、やっと二人がやってきた。

 

「おはようございます、二人とも」

「おはよー、デイト」

「はよーっす。…てか早いなお前」

 

そう言うロミオ先輩の顔はまだ少し眠そうで、気を抜いたら欠伸が出てきそうだ。

ナナさんの方は何時もと変わりなく、『今日も元気!』と全身で主張していた。

 

「そうだ。忘れない内に連絡しておきますね。今日は、午後3時からミッションに備えて待機しておくように、との事らしいです」

「ああ、知ってる。端末に送られてきたからな」

 

そういうロミオ先輩。気配りが出来るだけでなく、更に要所はきちんと締める人だったようだ。

僕の中で、ロミオ先輩の評価が更に上昇したとき。

 

「って、さっきジュリウスとすれ違った時に教えてもらったんだよねー?」

「ちょ、ナナ!バラすなってっ」

 

ナナさんの一言で元に戻った。

曖昧に笑う僕の表情に何かを感じたのか、ロミオ先輩が露骨な話題変換を試みる。

その内容は今日来る予定の新しい人の事だ。

全くの新人、という訳ではないので、新人さん、とも言いづらい。

とにかく、男性らしい、という事と、前に居た支部しか今のところ解っていない。

まさか、ダミアンさん位年上の人が来るとは思えないけれど、何年か実績があるような話だったから、僕よりは年上の可能性が高い。後は、適合したのが何歳かにもよってくる。

 

「これだけじゃ、どんな人かまではわかんないねー」

大盛りのご飯を前に、可愛らしく眉を寄せるナナさん。

先輩はその隣で甘くないパンケーキをほおばっている。

 

「そうですねえ」

「まあさあ。色々考えるより、会った時にでも本人に聞けばいいじゃん?」

 

確かに、現状ではそれが一番確実だろう。

まだ朝食を食べている二人と別れて、午前中の内に訓練の申請をしようとロビーへ向かった。見慣れてきた訓練場。

そこで、動かないように設定されたダミー相手にスピアの先を向ける。

 

「やああぁぁっ!」

気合いと共にチャージを解放。流れに逆らわず―。

 

「うわっ!」

 

足下から伝わる衝撃にバランスを崩し、槍を巻き込んで回転、ダミーに体当たりする形になる。

足の縮め方が足りなかったらしい。突進時の制動自体には慣れてきたと思ったとたんこの有様だ。

実際の現場では、こんな平坦な地面なんて滅多にない。もう少し足を体に近づけた方がいいのだろうけれど、それもやりすぎると重心がずれて、さっきみたいに床に刺さってしまう原因になる。

払ったときの隙もどうにかしないといけない課題だ。

結局、訓練あるのみというのはわかるけれど、やはりスピアに熟達した人の指導も欲しいところだ。

フライアの中に、そういった人はいないのだろうか。ブラッド以外でも。

ショートブレードは、多少の隙があっても、ステップである程度離脱しやすいし、装甲の種別も、展開が遅いタイプでは無い。

神経質にはならなくてもいいと解ってはいるけれど…。

 

「デイト君。訓練時間、そろそろ終了します」

「解りました」

 

訓練をすればするだけ、問題点ばかり見えてくる気がしてしまう。

けれど、訓練をしなければ成長も見込めない。

なんだかループにとらわれたような気がしてしまう。

「ありがとうございました」と挨拶して訓練場を後にする。

なんというか、自分でも掴めるものがないと、無駄に職員さんを付き合わせているような気分になってしまって自己嫌悪に陥る。

自分が思うほど他人は気にしていない。と言うけれど、その逆もあり得る事だって想像できる。

…いや、確かにここで僕が勝手にネガティブになって、全てが解決するわけではないのだけれど。

こういう気分の時は庭園に行こう。

植物に囲まれて空でも見上げれば、こういう気分も晴れるかもしれない。

そうと決めて、訓練場との中継地にもなっているロビーへ戻る。

出撃にも使うエレベーターから降りると、ターミナルが複数台設置されている前で、ロミオ先輩、ナナさん。そして、見たことのない誰かが会話していた。

…というより、ロミオ先輩が一方的に話しかけているように見える。

漏れ聞こえてくる限り、見知らぬ人が何をしてきたのかと聞いているようだ。

全身を紫を基調にした服で纏めているその人。僕より年上に見えるその人の手首には、僕たちと同じ黒い腕輪がはまっている。

では、誰かの付き添い。という訳ではなく、あの人自身が今日移籍してくると言われていた本人のようだ。

けれど、どうにも様子がおかしい。

何というか、関わられること自体を、嫌がっているというか、なんというか…。

とりあえず、今の状況を好ましいと思っている雰囲気ではない。

ナナさんもよく見れば、どうしたものか、という表情だ。

幸い、真ん中あたりで話している3人―ロミオ先輩が一方的に、という状況ではあるけれど―は、そう遠い訳じゃない。ここからでも声をかけるだけで十分届く筈だ。

 

「ロミオ先輩」

「ん?お、デイト。こっちこっち」

 

手招きされ、逆らわずに近寄っていく。元からその予定でもあったことだし。

けれど、僕が加わったことで新しい人はますます不機嫌さを増したようにも感じられる。

 

「お前からも聞いて見てくれよ。今まで向こうでどんなことしてたのかって」

 

そんな、何気ない質問に、紫の人はその拳に力を入れる。

僕としても、今までの実戦経験なんかは聞いておきたいけれど、どうにも様子がおかしい。

少なくとも今のところは、これ以上この話題に触れない方がいい気がする。

 

「ロミオ先輩。移動とかで疲れているでしょうから、あんまり引き留めたら悪いですよ」

「でもよお…」

「この人…えっと、お名前は聞いてもいいですか?」

「…ギルバート・マクレインだ」

 

これは流石にセーフティラインだったようだ。

流石に名前まで言えないと言われてしまっては、今後どう呼びかけたものか困ってしまう。

ずっと『新人さん』や、『紫さん』なんて呼ぶわけにもいかないだろうし。

むう、と少しばかり不満げなロミオ先輩。ホッとした様子のナナ先輩。「よろしくお願いします」と頭をさげる僕。

そんな僕たちを見て、ギルバートさんは、毒を抜かれたように盛大なため息をついた。

 

「…悪いな、少し気が立ってた」

「ううん、しかたないよ。慣れない場所だし…ロミオ先輩も、ちょーっとしつこかったしね?」

「な、なんだよ、ナナまで。そりゃ、しつこかったかもだけどさ。ああいう、軽いノリの方が早くなじめるだろ?」

 

一応。というか、ロミオ先輩も、決して悪意があった訳ではない。という事が解ってもらえたようで良かった。と、ギルバートさんの反応を見て思う。

一瞬だけれど、ハッとしたような顔をしていたから。

そのままキャンキャンとじゃれ合い出す二人を見ていると、ギルバートさんが「ここは何時もこんな感じなのか?」と聞いてきた。

 

「そうですね。この場所…というか。お二人が」

「…そうか」

 

帽子の鍔を持ち、僅かにずらすギルバートさん。腕と髪の隙間から見えた口元は、何かを堪えているように見えた。

 

「お前達…。ああ、どうやら顔合わせは無事にすんだみたいだな」

「デイトが来たおかげでねー」

 

階下からきた隊長が、「ほう」と僕をみる。

 

「それなら良かった。この後にミッションが控えているからな。悪感情があっては、成功するものも成功できない」

 

隊長のその言葉に、ロミオ先輩が口の端をもじもじと動かす。

危うくそうなりかけた事を思い出してだろう。

結果的には何事も無かったので、よかったというところだ。

 

「あんたが隊長か」

「ああ。ジュリウス・ヴィウコンティだ。これから、よろしく頼む」

「ギルバート・マクレインだ。…よろしく」

 

そう言って、一人立ち去っていくギルバートさん。

残された僕たちは。それを目で追っていた。

 

「あいつ。なんだかキレやすそうだなー」

 

と、小さくつぶやく先輩。

確かに、ナナさんとは違う方向からずんずんと近寄ってきてくれる先輩と、今のギルバートさんでは、相性が悪そうに見える。

 

「まあ、直ぐにとは言わないが仲良くやってくれ。『家族』としてな」

 

そう言い残して隊長はまた下に行ってしまう。どうやら、仕事の合間だったらしい。

けれど、そう言われてしまったロミオ先輩の顔には、『あれと仲良くとか、無理っぽくね?』と書かれているように見える。

どうやら、さっき頑なに自分の質問に対して答えてくれなかった事が、少なからず響いているらしい。

普段そうされる事が少ないからだろうか。

けれど、隊長の言うとおり、任務に感情を持ち込んだら、勝てるものも勝てなくなるのは目に見えている。

よくて不必要な怪我。最悪は…極東で見てきた通り、帰らない誰か、だ。

そういうのは、積極的に見たいと思わない。

幸い、ギルバートさんはそこまで気にした様子は、少なくとも表向きには見られなかった。

そうすると、解決したいなら、ロミオ先輩に何か話を振った方がいいだろうか。

ただ問題は。年上、目上の人に対する態度というものはある程度学べたけれど。相手を諫めたり宥めたり、といった対応は、これまで殆どする機会がなかったため、どうしたらいいのかよく解らないという点だ。

そもそも、何を話題にして、どう言えば、比較的丸く収まるのだろうか。

頭を悩ませる僕の隣、ターミナルに近い方で、なにやら二人が話している。何か、僕の話をしているような気がする。こちらを指さしてるし。

首を傾げると、ロミオ先輩が、余分な力の入っていない笑顔になった。一体どうしたのだろうか。

 

「どうしました?あ、何か顔に付いてますか?」

 

顔を両手で探ると、ナナさんが「付いてないよー」と言ってくれる。

では、どうして先輩は急に笑顔になったんだろう。

 

「色々あるんだよ。ね、先輩?」

「まあな。まあ、俺も子供じゃないし、あいつも一応謝ったしな。水に流してやるよ」

 

 

 

 

俺が、もう気にしない事を伝えると、デイトは前にラケル先生の研究室で見たときみたいな、すげー子供っぽい笑顔になった。

いや、俺より年下なのは知ってるけどさ。身長の事は、まあ置いといて。

記憶喪失だから余計なんだろうか。『俺達(家族)』の事になると、いつもより感情が出ていると気づいた。

泣いた事はまだ無いけど、最初に会ったときより、笑うし、驚くし、落ち込んだりもしてる。本人が気づいているかは知らないけど、少しむっとしてる時だってある。

さっきだって、ナナに言われてあいつを見たら、口元に手なんて当ててなにやら考え込んでたから、どうせさっきの俺とギルのやりとりで、なんか考えこんじゃったんだろうなって解った。

まあ、確かにギルとは何となく遣りづらい。それは直ぐにはそう変わんないけど。でもまあ、言ってみればデイトは俺の後輩で、弟分みたいなものでもあって。そんな奴が悩んじゃうっていうなら、俺だって大人の対応って奴をしない訳にもいかないじゃないか。

ジュリウスが言ってた事だって、頭では尤もだって解ってはいるし。

それにやっぱり、人の笑ってる顔を見てる方が、俺もうれしい。

そうと決めたら、あいつにも一応謝ってくるか。オトナとして、借りを作っておくのもなんだしな。




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