GOD EATER2 ~Nam Oratorium~ 作:〆渡
「は?」
「だから、悪かったっつってんの」
場所は庭園。ドーム状の阿屋には、僕とロミオ先輩、そしてギルバートさんが居た。
あの後、先輩が『一応…あいつに謝り行くから、付いてきてくれないか』と言われて、僕は迷わず頷いた。
ナナさんも付いて来たかった見たいだったけれど、残念ながら、朝入れてしまった訓練の時間に引っかかってしまい、僕に、「ちゃんと謝れるか見ててあげてねー」と言って、訓練場へ行ってしまった。
その背中にロミオ先輩が憤慨していたのは言うまでもない。
まあ、そんな事があって、周りの職員さん達に行方を聞いて回った結果。僕たちはここでこうしてる。という訳だ。
謝られているギルバートさんは、そんな先輩が意外だったのか、軽く驚いているように見える。
けれど、直ぐに元の表情に戻ると、「別に」と口を開いた。
「俺は俺の仕事をするだけだからな。…ただ…まあ、よろしくな、ロミオ。後そっちの…デイトだったか」
「はい。よろしく」
「ああっ」
ひとまず、丸く収まりそうでよかった。
今後は解らないけれど、その時はその時で、またこうしてきちんと顔を合わせて話せば、大抵のことは大丈夫なはずだ。
「なんだ、お前。嬉しそうな顔しやがって」
「こいつは、いっつもこんな感じだよ。な、デイト」
「え?えっと…。そうみたいです」
ロミオ先輩とのやりとりに、ギルバートさんが思わずといった感じで笑う。
それに釣られるように、僕と先輩も笑った。
久しぶりに、声を出して笑ったかもしれない。
そのまま話が弾んで、お互いの神機の話になった。
先輩やギルバートさん曰く、やはり長年使っていると、癖なんかが解ってくるもので、愛着も沸くのだそうだ。
「ギルバートさんの装備って、何ですか?」
「ギルバートさん、は止めてくれ。ギルでいい。こいつみたいにな」
言われる前からギルと呼んでいた先輩を指すギルバートさん。
「……ギル」
「おう」
「…さん…」
「……」
どうしてもさんはつけてしまう。というか、年上を呼び捨てなんてあり得ない。「まあまあ」と、取りなす先輩の声がありがたい。
「デイトだって、そのうち慣れるだろ。それで、何使うんだよ」
「…チャージスピアだ」
スピア!チャージスピアと言っただろうか、今。
思わずガバッと寄る僕、それに驚くギルさん。
「チャージスピアの使い方、教えてくれませんか!?」
「教えて…って」
たじろいだままのギルさん。そんな彼に助け船を出したのは、ロミオ先輩だった。
「あー、こいつさの神機さ、複数装備できる機体なんだよ。で、対応してるのがショートブレードとチャージスピアなんだけどさ。なんか、スピアの方の扱い、上手く行ってないんだって」
ロミオ先輩の説明に、こくこくと頷く。必死になりすぎて言葉が出てこないのが、もどかしい限りだ。本当なら、人に頼むときは自分で説明なりしないといけないというのに。
「複数装備できるってんなら、ショートブレードの方を使ってればいいだろ。両方やろうとして中途半端になったら、周りが迷惑するんだ」
「それは…はい…」
「そうキツい言い方すんなって。両方ものになるなら、そっちの方がいいだろ?な?」
フォローしてくれる先輩。それはありがたいけれど、ギルさんの言っていることは至極正論だ。
僕の自己満足で誰かに迷惑をかけるなんて以ての外だ。
「有り難うございます、ロミオ先輩。でも、ギルさんの言うとおりです。無理を言ってすみません、ギルさん」
僕が頭を下げてギルさんが小さく鼻を鳴らすのと、その場の全員の端末が震えたのは、殆ど同時だった。
それぞれ確認してみると、ミッションの発行連絡だ。隊長が朝言っていたもののようで、ギルさんを含めたブラッドメンバーの名前が表示されている。
ミッション内容は、フライアに合流する部隊の為の露払い。
彼らの進路上で群れているアラガミの撃退のようだ。
主に確認されているのはオウガテイル種を中心とした小型のアラガミ達。
オウガテイルは油断さえしなければ、そう危険な相手じゃない。後は、一緒に出現しているコクーンメイデンの、長距離からの射撃にも気をつけたい。もっとも、こちらも移動はできないため、引き離してさえしまえばあまり怖くはない。
どう動けばいいかを、一応頭で組み立てる。あとは現場で臨機応変に、だ。
ロミオ先輩が呼んでくれたエレベーターに向かう途中、「おい」とギルさんに声をかけられた。
「さっきも言ったが、わざわざ教える気はない」
「…はい」
その言葉にうなずく。僕も納得できる言葉だったから、そこに異論はない。
「ただ…。お前が勝手に見て覚えるってんなら、それまで止めるつもりは無い」
「―!はいっ。有り難うございますっ」
僕がお礼を言うと、ギルさんは足早にエレベーターへ向かってしまった。慌ててその後を追い、エレベーターに乗り込む。
「優しいとこあるじゃん、ギルちゃーん」
「うるせえ、さっさと押せ」
にしし、と笑う先輩をギルさんが睨む。けれど、それも今は効果がないみたいだ。
ナナさんと話していたとおり、優しい人でよかった。心から、そう思った。
ヘリから降りた先に、情報通り小型アラガミの群が見える。現状、イレギュラーの存在は視認出来ないし、フランさんからも報告は無い。
「確かに、これは大規模ですね…」
内容から露払いかと思っていたけれど、これはなかなかに歯ごたえがありそうだ。
ナナさんやロミオ先輩は、僕と同じように緊張いた面もちを見せている。対して、ギルさんとジュリウス隊長は、気を抜いている訳ではない自然体だ。
これが、経験の差というものなのだろうか。
「肩の力を抜け。訓練で見せた実力を発揮できれば、ものの数ではない」
経験と自信に裏打ちされた隊長の言葉に、少し肩の力が抜ける。これなら、体がこわばって動けない、という可能性は低そうだ。
深呼吸を一つ。神機を持つ手に力を入れて構えると、さっきまでの緊張が嘘のように落ち着く。
僕の斜め後ろ、ギルさんが立っていた筈の位置から「ほう」と言う声も、前に立つ隊長の、僕たちを信頼しているような笑みも、遠く感じるけれどそれが心地いい。
普段なら違和感を感じる所なのかもしれないけれど、不思議と、その時の僕はそれを当然の様に感じていた。
待機場所となっている崖の上から地面に降り立ち、群れているアラガミに向かう。
緩やかな扇状、鶴翼とも見えるような状態に散開し、敵の攻撃を分散させる。
突出する両端部分は射程が一番短いナナさんと僕。
その1つ内側に、ロミオ先輩とギルさん。そして中央はジュリウス隊長だ。
大分編み目は大きいけれど、網で追い込む様にしてフライアへの接近を防ぐ事。これも目的に入っている。
神機を構え、オウガテイルとコクーンメイデンに迫る。
僕とナナさんが、それぞれ一番手前のアラガミに攻撃できる、そんな距離に入ったとき、地面の土を巻き上げる位の衝撃と共に、アラガミが形成された。
緑色の外郭を持つ、昆虫のようなアラガミ、ドレッドパイクに、単眼と、それを押さえる手がボロ布に包まれたような外見を持つナイトホロウだ。
同時に、フランさんからアラガミ形成の通信が入る。
幸いにして、ドレッドパイクが出現したのは比較的後方。ナイトホロウはそれよりも手前に出現している。ナイトホロウは、コクーンメイデンと同じ射出系の攻撃手段しか持たないし、ドレッドパイクも直ぐには攻撃に移れない範囲だ。
予定通り、射出系を中衛以降の先輩方に任せ、手前のアラガミから対処、討伐していく。
前衛でもある僕とナナさんに隙が出来たら、中衛の二人がフォロー。後衛の隊長は、基本的に銃でフォロー、迎撃をしながら、最低限の指示。
最初は、それで順調に数を減らせて居たのだけれど、狩っても喰べても減るところを知らないこの量に、こちらが消耗させられてしまう。
大きなダメージは無いものの、小さいミスや怪我が目立ち始めてきた。
どうにも、あの日の訓練を思い出す。
「まだ減んないのかよ、こいつらはぁ」
「ちょっと、疲れてきたね…」
成果が見づらいのも、気持ちを萎えさせる事に一役かってしまっている。
「ちょっと待て、何か声が…まさかっ」
珍しく慌てたように見えるジュリウス隊長に釣られて、同じ方向を見る。
植物公園の方から、その音は響いてきているらしい。
近づいてくる毎に、単なる音ではなく、何かを叫んでいる声だというのが解ってくる。
どうやら、アラガミの増援、という訳ではなさそうだ。人の声を模倣する新種のアラガミという訳でなければ。
アラガミも、異様な気配を感じ取っているのか、声のする方向へ警戒を向ける。
一部は僕たちを警戒しているけれど、攻撃までする様子はなかった。
僕たちとアラガミが注目するなか、植物公園と広場をつなぐアーチを潜って現れたのは、金髪にフリフリの貴族趣味な服を着た、僕の見知った人だった。
「待たせたなブラッドの諸君!この僕、エミール・フォン・シュトラスブルクが来たからにはもう安心だっ!!」
次回はエミールさん大活躍の予定です。