GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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今回、後半の*以降多少暗い部分が入ります。
極端に重くはないと思いますが、念のため。


第14話

 

局長だという人物から、直々の要請を受けて、フライアという場所に出向する人員を選ぶ事になった時、エミールはすぐさま立候補した。

助けを求めた手を拒むなど、彼の中の騎士道精神が許さなかったからだ。

貴族としての心構え、『ノブレスオブリージュ』。そんな狭い慣習(決まり事)などいちいち教えられなくても、それは既に彼の中にあった。

いや、例え貴族でなくても、騎士としてこの手に武器を取っただろうと、彼は思っている。

そうして、意気軒昂、自分の神機であるポラーシュターンと共にトラックに乗り込み、フライアへと向かう事になった。

けれど、その道中問題が起きてしまった。

想定外のアラガミの群が進路上に現れ、その道を塞いでしまったのだ。

運転手は、すぐさまフライアへとその旨を報告した、相手の反応は迅速で、直ぐに所属している『ブラッド』という部隊を派遣してくれることになった。

神機を握る身としては歯がゆいけれど、多勢に無勢なのも事実。

エミールは、車内で己の不甲斐無さに拳を握りしめた。

要請を受けて来た自分が、逆に助けられるとは、と。

己の未熟を責める時間が続き、断続的に入ってくる情報に一喜一憂する。

そのたび、エミールの中に燃え盛る炎に、少しずつ薪がくべられていく。

その炎が天をも焦がす勢いを持った時、彼は反射的に動いていた。

運転手が止めるのも構わず神機を取り出し、隠れる様に留められていたトラックから飛び出す。

断片的な情報と、直感とも言える感覚に従って走る。

強化されたゴッドイーターの脚力で地面が軽く抉られるが、今はそれを気にしている余裕と猶予は無い。

彼は走った。義憤の叫びを上げて走り続けた。

細い坂道を駆け降りると、アーチの先にアラガミの姿が見える。

こちらに尾を向けて威嚇するオウガテイル。

あれこそ、彼が人々から退けるべきものだ。それは、武器を持たない一般人でも、同胞であるゴッドイーターでも変わることはない。

アーチを潜り、広場に走り込んできた彼は、その信条に従って朗々と名乗りを上げた。

 

 

 

 

突然現れたエミールさん。

その行動に、ブラッドメンバーは勿論、アラガミ達ですら行動を止めている。

慣れない人相手には、やっぱり衝撃が強いものらしい。

アラガミにまで効果があるのは、もう凄いとしか言いようがないけれど。

 

「さあっ、今こそ力を合わせ、この局面を乗り切ろうではないかっ!」

 

そう僕たちを鼓舞(?)するエミールさん。その両手には、彼の神機である金色に塗り分けられたハンマーが握られている。

それを構え、オウガテイルに肉薄する。

大上段に振りかぶったハンマーを、懐かしくもある「騎士どおぉぉぉおっ!」のかけ声で振り下ろした。

以前のナナさんと比べても、なんら遜色のない轟音が地面を揺らす。土煙が晴れたとき僕らが見たのは、見事につぶされたオウガテイルだった。

 

「さあ、何をしている諸君!僕達が出会えた今が好機!今こそ、我々の騎士道をこのアラガミ達に見せつけ、正義の鉄槌を食らわせるのだ!!」

 

エミールさんの言葉に、エミールさん自身にあっけに取られていた僕達も再度動き出す。

それぞれの役割をこなし、少しずつ、でも確実にアラガミの数を減らしていく。

切る、断つ、穿つ、潰す。そして食べる。

一時は底が見えないと思っていたアラガミも、後は片手で足りる数になった。

闖入者の登場にはどうなるかと思ったけれど、逆にその事が、僕達に追い風を運んでくれたようだ。

オラクル濃度が下降し、アラガミ出現の心配が低くなったと報告が入った所で、エミールさんの乗ってきたトラックへと戻る。

一人残された運転手さんは、僕達と一緒にエミールさんが戻ってくると、もの凄くほっとした様子を見せて、次に「あんな事はもう勘弁してくださいよ」と言った。

その運転手さんが僕達に気付き。その目が僕を捕らえた時、その表情が変わった。

 

「?」

 

他の皆もそれに気付いた様で、僕とその運転手さんを見る。

 

「…うちの隊員が、何か?」

「ああ、いえ、スイマセン。なんでもないです」

 

到底、何でもないなんて表情じゃなかったけれど、続く彼の「何時までもここに居て、またアイツらが近くに来るなんて嫌ですよ」という言葉に、納得はしないながらもトラックに乗り込んだ。

フェンリルの輸送部隊が使うトラックだけあって、その中は広い。…筈なのだけれど、今はなぜか、神機のケースとも趣の違うスーツケースが幾つも場所を占領していた。

 

「ああ、すまないね。極東から持ってきた僕の私物なんだが」

「私物って…多すぎだろ…」

 

そう言って、ケースを避けながら奥に乗り込む先輩。ケースは回収しておいたので神機は今収納されている。

 

「何を言う。着替えと最低限の日用品だけだぞ?」

「うわー…、凄いねー」

 

エミールさんは、何やら欧州の貴族階級だったせいか、時に酷く贅沢だ。

フライアで感覚が麻痺して来ている僕でさえそう思う。

移籍当日、僕の荷物はスーツケース一つ分だったはずなのだけれど。どうして短期間滞在する予定のエミールさんの方が荷物が多いのか。

深く考えすぎると悲しくなりそうなので、もう止めておこう。

全員がトラックに乗り込み、荷台部分の扉をギルさんが閉めた。

最近のトラックは、襲われても時間が稼げるように、内側からロックできるものが多い。

アラガミには、当然殆んど意味がないから、悲しい事にその対象は人間なのだけれど。

扉が閉められたのを運転手さんが確認して、トラックが出発する。

このまま順調にいけば、フライアには日暮れ前に着けるだろう。

 

「救援感謝する、エミール」

「礼には及ばない。最初に助けられたのは僕達の方なのだ。何より、先ほど戦場でも言ったが、僕達は手を取り、力を合わせて戦うべきなのだからな」

「…そうか」

 

フッと、音がしそうな笑みを浮かべて会話する隊長とエミールさん。

隊長も貴族出身の雰囲気だから、何か通じあうものがあるのだろうか。

 

「デイトも、無事ゴッドイーターになれたようで何よりだ」

「あ、はい。ありがとうございます。エミールさん」

 

なんだか凄く先輩のような口振りだけれど、確かエミールさんも、僕が極東に居た頃は、まだなりたてのゴッドイーターではなかっただろうか。

まあ、この喋り方はもう、エミールさんの個性でもあるから今更言っても仕方がない。

この喋り方ではないエミールさんも、もの凄く違和感があるだろうし。

 

「あそっか。極東から来た人なんだから、デイトの知り合いでもおかしくなかったんだよな」

「最近、デイト馴染んでるから、ヨソから来たの忘れがちだよねー」

「そう言ってもらえると、僕も嬉しいです」

 

 

 

 

トラックの荷台部分。本来なら機材や物資などを積んでいるそこに、今は6人のゴッドイーターが乗っている。

そこから漏れ聞こえて来るのは、彼らの楽しそうな談笑。

その中でも、丁寧に話す少年の声が聞こえる度、ハンドルを握る手に力が入った。

口元を引き結んだ表情も固く、噛みしめた唇を今にも破ってしまいそうだ。

 

「どうして」

 

低い、くぐもった声が漏れる。

けれどそれは、元々の音量が小さかったのと、走行音に邪魔をされて誰にも届かない。

それでも彼は続ける、「どうして」、と。

頭では解っている。彼は何も知らないのだと。

―いや、解っていた。

実際目にするまでは、相手に非は無いと解っていた。時間もある程度たった。もう自分は受け入れられたのだと思っていた。

けれど、実際少年が目の前に現れた時、受け入れたと思っていた感情が、受け入れた振りをしていただけだと気づかされた。

何も知らないで、のうのうと保護され、生活も保障されている存在。

そんな少年が、自分から大切なものを奪って、尚笑って暮らしている。

そんな事は間違いだと感じた。

それが正しいと言うなら、自分が今持ってる感情だって正しいと肯定されるべきだ。

頭はドロドロと猛っているのに、体はまるで切り離されたように運転を続けている。

地平線に近づく太陽の光。その先に、走行する巨大な建造物が現れた。

通信が入り、スピードを緩めるから、後部入り口からトラック毎入るよう指示を受ける。

その通信が切られ、吸い込まれるようにフライアへの入り口を潜ったとき。

 

「なんでアイツの方が生きてるんだ」

 

暗い呟きが、閉じる入り口の音に紛れて消えた。

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