GOD EATER2 ~Nam Oratorium~ 作:〆渡
今回、後半の*以降多少暗い部分が入ります。
極端に重くはないと思いますが、念のため。
局長だという人物から、直々の要請を受けて、フライアという場所に出向する人員を選ぶ事になった時、エミールはすぐさま立候補した。
助けを求めた手を拒むなど、彼の中の騎士道精神が許さなかったからだ。
貴族としての心構え、『ノブレスオブリージュ』。そんな
いや、例え貴族でなくても、騎士としてこの手に武器を取っただろうと、彼は思っている。
そうして、意気軒昂、自分の神機であるポラーシュターンと共にトラックに乗り込み、フライアへと向かう事になった。
けれど、その道中問題が起きてしまった。
想定外のアラガミの群が進路上に現れ、その道を塞いでしまったのだ。
運転手は、すぐさまフライアへとその旨を報告した、相手の反応は迅速で、直ぐに所属している『ブラッド』という部隊を派遣してくれることになった。
神機を握る身としては歯がゆいけれど、多勢に無勢なのも事実。
エミールは、車内で己の不甲斐無さに拳を握りしめた。
要請を受けて来た自分が、逆に助けられるとは、と。
己の未熟を責める時間が続き、断続的に入ってくる情報に一喜一憂する。
そのたび、エミールの中に燃え盛る炎に、少しずつ薪がくべられていく。
その炎が天をも焦がす勢いを持った時、彼は反射的に動いていた。
運転手が止めるのも構わず神機を取り出し、隠れる様に留められていたトラックから飛び出す。
断片的な情報と、直感とも言える感覚に従って走る。
強化されたゴッドイーターの脚力で地面が軽く抉られるが、今はそれを気にしている余裕と猶予は無い。
彼は走った。義憤の叫びを上げて走り続けた。
細い坂道を駆け降りると、アーチの先にアラガミの姿が見える。
こちらに尾を向けて威嚇するオウガテイル。
あれこそ、彼が人々から退けるべきものだ。それは、武器を持たない一般人でも、同胞であるゴッドイーターでも変わることはない。
アーチを潜り、広場に走り込んできた彼は、その信条に従って朗々と名乗りを上げた。
*
突然現れたエミールさん。
その行動に、ブラッドメンバーは勿論、アラガミ達ですら行動を止めている。
慣れない人相手には、やっぱり衝撃が強いものらしい。
アラガミにまで効果があるのは、もう凄いとしか言いようがないけれど。
「さあっ、今こそ力を合わせ、この局面を乗り切ろうではないかっ!」
そう僕たちを鼓舞(?)するエミールさん。その両手には、彼の神機である金色に塗り分けられたハンマーが握られている。
それを構え、オウガテイルに肉薄する。
大上段に振りかぶったハンマーを、懐かしくもある「騎士どおぉぉぉおっ!」のかけ声で振り下ろした。
以前のナナさんと比べても、なんら遜色のない轟音が地面を揺らす。土煙が晴れたとき僕らが見たのは、見事につぶされたオウガテイルだった。
「さあ、何をしている諸君!僕達が出会えた今が好機!今こそ、我々の騎士道をこのアラガミ達に見せつけ、正義の鉄槌を食らわせるのだ!!」
エミールさんの言葉に、エミールさん自身にあっけに取られていた僕達も再度動き出す。
それぞれの役割をこなし、少しずつ、でも確実にアラガミの数を減らしていく。
切る、断つ、穿つ、潰す。そして食べる。
一時は底が見えないと思っていたアラガミも、後は片手で足りる数になった。
闖入者の登場にはどうなるかと思ったけれど、逆にその事が、僕達に追い風を運んでくれたようだ。
オラクル濃度が下降し、アラガミ出現の心配が低くなったと報告が入った所で、エミールさんの乗ってきたトラックへと戻る。
一人残された運転手さんは、僕達と一緒にエミールさんが戻ってくると、もの凄くほっとした様子を見せて、次に「あんな事はもう勘弁してくださいよ」と言った。
その運転手さんが僕達に気付き。その目が僕を捕らえた時、その表情が変わった。
「?」
他の皆もそれに気付いた様で、僕とその運転手さんを見る。
「…うちの隊員が、何か?」
「ああ、いえ、スイマセン。なんでもないです」
到底、何でもないなんて表情じゃなかったけれど、続く彼の「何時までもここに居て、またアイツらが近くに来るなんて嫌ですよ」という言葉に、納得はしないながらもトラックに乗り込んだ。
フェンリルの輸送部隊が使うトラックだけあって、その中は広い。…筈なのだけれど、今はなぜか、神機のケースとも趣の違うスーツケースが幾つも場所を占領していた。
「ああ、すまないね。極東から持ってきた僕の私物なんだが」
「私物って…多すぎだろ…」
そう言って、ケースを避けながら奥に乗り込む先輩。ケースは回収しておいたので神機は今収納されている。
「何を言う。着替えと最低限の日用品だけだぞ?」
「うわー…、凄いねー」
エミールさんは、何やら欧州の貴族階級だったせいか、時に酷く贅沢だ。
フライアで感覚が麻痺して来ている僕でさえそう思う。
移籍当日、僕の荷物はスーツケース一つ分だったはずなのだけれど。どうして短期間滞在する予定のエミールさんの方が荷物が多いのか。
深く考えすぎると悲しくなりそうなので、もう止めておこう。
全員がトラックに乗り込み、荷台部分の扉をギルさんが閉めた。
最近のトラックは、襲われても時間が稼げるように、内側からロックできるものが多い。
アラガミには、当然殆んど意味がないから、悲しい事にその対象は人間なのだけれど。
扉が閉められたのを運転手さんが確認して、トラックが出発する。
このまま順調にいけば、フライアには日暮れ前に着けるだろう。
「救援感謝する、エミール」
「礼には及ばない。最初に助けられたのは僕達の方なのだ。何より、先ほど戦場でも言ったが、僕達は手を取り、力を合わせて戦うべきなのだからな」
「…そうか」
フッと、音がしそうな笑みを浮かべて会話する隊長とエミールさん。
隊長も貴族出身の雰囲気だから、何か通じあうものがあるのだろうか。
「デイトも、無事ゴッドイーターになれたようで何よりだ」
「あ、はい。ありがとうございます。エミールさん」
なんだか凄く先輩のような口振りだけれど、確かエミールさんも、僕が極東に居た頃は、まだなりたてのゴッドイーターではなかっただろうか。
まあ、この喋り方はもう、エミールさんの個性でもあるから今更言っても仕方がない。
この喋り方ではないエミールさんも、もの凄く違和感があるだろうし。
「あそっか。極東から来た人なんだから、デイトの知り合いでもおかしくなかったんだよな」
「最近、デイト馴染んでるから、ヨソから来たの忘れがちだよねー」
「そう言ってもらえると、僕も嬉しいです」
*
トラックの荷台部分。本来なら機材や物資などを積んでいるそこに、今は6人のゴッドイーターが乗っている。
そこから漏れ聞こえて来るのは、彼らの楽しそうな談笑。
その中でも、丁寧に話す少年の声が聞こえる度、ハンドルを握る手に力が入った。
口元を引き結んだ表情も固く、噛みしめた唇を今にも破ってしまいそうだ。
「どうして」
低い、くぐもった声が漏れる。
けれどそれは、元々の音量が小さかったのと、走行音に邪魔をされて誰にも届かない。
それでも彼は続ける、「どうして」、と。
頭では解っている。彼は何も知らないのだと。
―いや、解っていた。
実際目にするまでは、相手に非は無いと解っていた。時間もある程度たった。もう自分は受け入れられたのだと思っていた。
けれど、実際少年が目の前に現れた時、受け入れたと思っていた感情が、受け入れた振りをしていただけだと気づかされた。
何も知らないで、のうのうと保護され、生活も保障されている存在。
そんな少年が、自分から大切なものを奪って、尚笑って暮らしている。
そんな事は間違いだと感じた。
それが正しいと言うなら、自分が今持ってる感情だって正しいと肯定されるべきだ。
頭はドロドロと猛っているのに、体はまるで切り離されたように運転を続けている。
地平線に近づく太陽の光。その先に、走行する巨大な建造物が現れた。
通信が入り、スピードを緩めるから、後部入り口からトラック毎入るよう指示を受ける。
その通信が切られ、吸い込まれるようにフライアへの入り口を潜ったとき。
「なんでアイツの方が生きてるんだ」
暗い呟きが、閉じる入り口の音に紛れて消えた。