GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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今回は、主人公の後ろ向きに加えて、オリキャラが陰湿な回になっています。
苦手、嫌いな方はご注意ください。


第15話

フライアへ入艦し、トラックを降りる。

さっきの運転手さんに何か知っているのか聞きたかったけれど、フライアの職員さんと何かを話していて、とても何か口を挟めるような雰囲気ではない。

何時までも搬入口に立っているわけにもいかず、後ろ髪を引かれる思いで僕はその場を後にした。

 

 

 

「おお!これが噂に聞くフライアか!なんとも優雅な所だ」

 

癖なんだろう。何時もみたいに一房長い髪をいじりながら、エミールさんが感嘆の声を上げる。

聞きようによっては嫌みにも聞こえる筈の内容だけど、本人の人柄故か、そんな気配は微塵も感じられない。

それに、僕も最初に来たときはあまりにも極東と違うので、その雰囲気に戸惑ったものだ。

後から降りてきた僕達を振り返り、改めて、という感じで向き直る。

 

「ブラッドの諸君!これから、共に降り懸かる困難を打ち払い、この船の洋々たる前途を開いていこうではないか!!」

 

仰ぐように両手を広げ、多少芝居かかって見える動作で言うエミールさん。

みんなの反応はそれぞれだ。

けれど、誰にも否定的な感情は見られない。

癖の強い人ではあるけれど、真っ直ぐな人だというのを、皆解ってくれたんだろう。

その場は一時解散という事になった。ロミオさんとナナさんから、後で食堂に集合、と言われ、何時もの事なので承諾する僕。時間はあまり取れないが、とジュリウス隊長も頷いてくれていた。

そして、誘われたら基本的に断る事がないエミールさん。

ギルさんだけは最後まで渋っていたけれど、ロミオ先輩に押し切られる形で、最後には頷いていた。

 

「さて…、デイト。局長殿に挨拶に伺おうと思うのだが、案内してくれないか?」

「あ、はい。こっちです」

 

確かに、フライアに到着したのだから、そこの責任者である局長に、一応挨拶はしておかないといけないだろう。

エミールさんと一緒にエレベーターに乗る。

扉が閉まり、重力がかかるのを感じるとエミールさんに聞きたかった事を質問した。

 

「あの…。さっきの、運転手さん…一体どういう方なんですか?」

「ああ、彼か。申し訳ないが、僕も詳しくは知らないのだよ。今回の移動は彼が担当するという事くらいしかね」

 

その言葉に、落胆しながらも納得する。

確かに、エミールさんが何らかの意図を持って彼を指名したのでもない限り、詳しい事を知っている筈が無かったのだ。

あの時の表情を見る限り、僕の忘れてしまった何かを知っているのだろうかと考えたのだけれど。

 

「…ふむ。何か気になる事があるなら、合ってみるかね?」

「え?」

「なに、彼とて極東に生きる騎士の一人、同じ騎士である君合うことを拒む道理はあるまい!」

 

変わらない調子でそう言うエミールさん。その根拠があるのか無いのか解らない自信が、今はとてもうらやましい。

 

「じゃあ、そうですね。時間を見て、合いに言ってみようかと思います」

「うむ。人同士、語り合って解り合えぬ事などない!」

 

そう言い切ると、高らかに笑う。正直、この狭いエレベーターでそれをされると、強化された聴覚に響くのだけれど…。まあ、上機嫌な所に水を差すこともない。それに、エミールさんはなんだかんだと、他人に水を差されない性質の持ち主でもある。

軸がブレない、と言えばいいだろうか。

とにかく、良くも悪くも強烈な自我の持ち主だ。ここはひとまず、何も言わないのが吉だろう。

 

 

 

そう時間もかからずに局長室から戻って来たエミールさん。彼にフライア内を案内しながら、外部から訪れた人たちが一時的に寝泊まりする区画へ向かう。

エミールさんの話によれば、運転手さんは彼の隣の部屋を宛がわれているとの事だ。

 

「柊君、居るかな?」

 

ノックと共にそう呼びかけるけれど、何の応答もない。

もしかして出かけて居るのだろうかと、引き返そうとしたとき、中から物音が聞こえた。

それから、慌てて扉に駆け寄ってくるバタバタと言う音が近づいてくる。

そう待たずに扉が開けられ、中からあの運転手さんが出てきた。短く整えられた黒髪が少し乱れているから、休んでいる所だったのかもしれない。

悪い事をしてしまった、長い運転と襲撃で、精神的にも疲れているだろうに、それを慮る事を忘れてしまっていた。

それまで瞼が下がり気味だった灰色の目が、僕を視界に入れた途端キツくなる。

あの時より幾分抑えられているとはいえ、やっぱりそこには確かな嫌悪があった。

僕に対して向けられているということは、僕を知っている、という事でもある。

ひょっとしたら、過去の僕を知っているのかもしれない。

そう思うと、相手のキツい視線もあって、相手の疲れを思う余裕は減っていった。

 

「…なんですか、シュトラスブルクさん。一応帰るまでは仕事ないんで、ゆっくりしたんですけど」

「ああ、すまない柊君。君に、少しばかり聞きたいことがあってね」

「……」

 

明らかに不機嫌そうな柊さんにも、エミールさんは鷹揚な態度を崩さない。

それに感嘆するでもなく、無言で柊さんを睨む僕。なんだろう、最近らしくない気がする。

いや、今は僕自身の戸惑いなんて置いておけばいい。

 

「…貴方は、僕の事を知っているんですか?」

「……」

 

目が合う。

嫌悪と、それを跳ね返す挑戦的な視線。

しばらく、その状態が続く。

エミールさんですら口を開かない中、空気を壊したのは柊さんだった。

 

「別に」

「―っ。別にって事はないでしょう?だったら、あんな顔をする必要だって無いはずです」

「別にって言ってるだろ?ただの勘違いだよ、ボウズ」

「な―っ」

 

絶句してしまう。

勘違いだと言うなら、どうして今もそんな目で僕を見ているのか。

冷たくて、鋭利で、拒絶してるくせに、手ぐすねを引いているような。

そこで、気付く。

この視線には心当たりがあった。

襲撃後の外部居住区で、仲間が戻らなかった時の極東支部で。

僕はこんな視線を何度か目にした。

けれど、その対象はアラガミだった筈だ。

どうして、僕がそんな視線を向けられているんだ?

 

「…そんな勘違いで人を振り回すなよ。そんな事しなくたって、みんなが構ってくれるだろ?」

「……」

「柊君、休息を邪魔されて苛立つのは解るが、少し言い過ぎではないかね?」

 

何故だろう。彼の言葉が突き刺さる気がした。

エミールさんの取りなしの言葉も、意味の分からない音にしか聞こえない。

エミールさんにお礼を言わないと。そして、柊さんにも。

謝って、それで立ち去って…。

…解らない。僕の勘違いだったんだろうか。彼は、ゴッドイーターという存在そのものが嫌いで、僕だけに向けた感情ではなくて。それを、勝手に勘違いしただけなんだろうか?でも、だったらどうして、僕を見てあんな表情を?エミールさんとも、一緒に移動してきたんじゃないんだろうか。

…極東でも、こんな僕を受け入れてくれて、フライアへ送り出してもくれて。

フライアに来てからも、みんな優しくしてくれて。期待もしてくれて。

ブラッドのみんなが、家族と呼んでくれて。

だから、勘違いしていたんだろうか?

好悪の差こそあっても、特別な感情を向けらる存在なんだと。勘違いしてしまったんだろうか?

そう思うと、申し訳ない気持ちと恥ずかしい気持ちが綯い交ぜになって、なんだか自分でもよく解らなくなってしまう。

でも、駄目だ。ここで混乱したらいけない。エミールさんには勿論。柊さんにだって、これ以上の迷惑はかけられない。

 

「…ごめんなさい…、お時間を取らせて。…失礼します」

 

途切れ途切れに謝罪して、そのまま背を向ける。

せめて走り出さない様にエレベーターへ向かったつもりだけど、うまくそう出来ているだろうか?

背後から聞こえて来る足音に、耳をそばだててしまう。

それは、僕から少しばかり離れた所で止まった。

 

「先ほどはすまなかった、デイト。同じ極東の者として詫びよう」

 

エミールさんの、いつもみたいに芝居がかった、でもすまないと思っている事は解る声が聞こえた。

走っては居ないはずなのに乱れていた呼吸を整えて、そちらに振り返る。

 

「いえ、僕の勘違いだったみたいですから。柊さんが怒るのも、仕方ないですよ。エミールさんも、なんだか変な事に巻き込んじゃってごめんなさい」

 

大丈夫、きっと笑えている。いつもよりは不自然な笑顔かもしれないけど、笑えてる事が大切だ。

笑えるなら、まだ大丈夫。

時間はかかるかもしれないけど、自分できちんと整理なりできる。

何かを言おうとしたエミールさんを遮る形で、食堂に行こうと促すと、返事も聞かないでエレベーターを呼んだ。

 

 

 

 

嫌な奴の訪問を受けたものだと、何かに当たり散らすような勢いで、部屋に置いてあった水を呷る柊。

一杯では足らず、二杯、三杯と呷ると、ようやく落ち着いてきたのか、先ほどよりも眉間の皺が穏やかになっている。

先ほどの少年、エミールに付き添われてか案内されてか、柊の元を訪れた彼は、柊にとって『自分達を守ってくれるゴッドイーター』では無く、『アラガミと同じ位憎い異物』でしか無かった。

勿論、自分の境遇がありふれている事を、彼は理解している。

極東に限らず、世界中でそんな事は日々起こっている。

だが、ありふれているからといって、それを許容出来るわけではない。

失われたモノが、当人にとって大きければ大きいだけ。

 

『大丈夫。貴方の部屋が狭くなっちゃうよ。でも、ありがとうね』

 

「―っ」

 

ダンッ、とコップを机に叩きつける。

忘れようとしていた事を思い出す。

思い出したものは優しい声なのに、微かに疼くような痛みも、柔らかな幸せも感じる事は出来ない。

ただ、喉元を掻き毟りたくなるような苦しさと、切られるように鋭い痛みだけが感じられる。

あの少年は確かに憎い。失う事になった直接のきっかけだから。

けれど同時に、多少強引にでも彼女を留めておけなかった当時の自分も、同じ位憎いのだった。

 

「違う…。俺が憎いのはあいつだ。あいつだけだ…っ」

 

コップを握ったままの手に、白くなるほど力を入れる。

呪詛のような言葉が、部屋に淀んでいく。

そんな空気を払う様に、また部屋の扉がノックされた。

あの日暮とかいう少年ではないだろう。だとすると、苦言を言っていたエミールあたりだろうか。そう検討をつけ、居留守を決め込もうとする柊。しかし、ノックは一定の間隔を挟んで続けられる。

そのうち、「留守ですかー?」という声まで聞こえてくる始末だ。

連絡なら、艦内で渡された端末に入れればいいものを、一体何があってここまでわざわざ足を運ぶのか。

これ以上騒がれるのも迷惑なので、ささくれた気持ちのまま扉をあける。

そこに居たのは、少年と少女の2人。確か、あの時救援に来たメンバーの中に居たはずだ。

一体なんの用だろうか。まさかとは思うけれど、デイトに何か言われて来たとでも言うのか。もしそうだとしても、憎悪に軽蔑が加わるだけで、何も変わらないのだが。

そう、斜に構えた事を考えていた柊の思考は、朗らかな少年の声で裏切られた。

 

「あー、えっとー。これからさ、みんなでメシ食うんだけどアンタも来ない?せっかくはるばる極東から来たんだしさ。ウチのメシ、結構美味いんだぜ?」

 

どうやら、単に食事の誘いらしい。確かに、空腹は感じている。けれど、確実にデイトも来るであろう場所にのこのこ誘われるつもりは、柊には無かった。

 

「…悪いけど、疲れてるんだ。ほら、ずっと運転しっぱなしだったから」

「そっかあ…」

 

柊が断ると、二人とも残念そうな顔になる。

関係のない人間にそんな顔をさせるのは忍びなかったけれど、デイトと一緒に食事をとる事は、想像だけでも胸が悪くなる。

実際にその場に居ては、空気が悪くなるだろうし、あの時の誤魔化しもばれてしまう。

悪意を向けられること。それ自体は、苦しいし辛い。けれども、明確にそれが解れば、誰かに助け、支えてもらう事も出来る。

けれど、明確にそれが解らない、あるいは判断出来ない状況である場合、それを誰かに言ってもいいものかどうかの判断からつきかねる。

仮に相談できたとしても、確証がない場合対症療法ともいえる対処しか出来ない。

そうして、じわじわと苦しんでくれた方がいい。

我ながら陰湿だと、柊自身感じているけれど、この程度ではまだ足りないとも思っている。

復讐。いや、ただの憂さ晴らし。

それを頭が理解していても、ひた走る感情は止めどなく、時折自分ですら、どうしたいのかという判断を狂わせるものだ。

まさに、彼はその渦中にいた。

ただ相手が苦しめばいい。そうでないと彼女が浮かばれない。

大切な相手の生前の思い出すら、その渦に飲み込まれて消えていく。

名残惜しそうに去っていく二人を見送って、柊は宛がわれている自室へ戻った。

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