GOD EATER2 ~Nam Oratorium~ 作:〆渡
約束の時間になり、エミールさんとギルさんを連れて食堂へ向かう。
道中、ギルさんはエミールさんの態度に辟易していたようだったけれど。
「はいっ。じゃあ、小さくて悪いけどブラッドの新メンバーと、極東からのお客さんの歓迎会をはじめまーす!」
ロミオ先輩がそう言って、「カンパーイ」とグラスを掲げる。
念のために言うと、全員ソフトドリンクです。お茶やジュースなど。ナナさんとロミオ先輩が、食堂の人たちに話を通してくれていたおかげか、瓶の状態で机の上に並んでいる。
机を2つ付けた状態で、その真ん中には鍋。それを取り巻く様に、サラダや一品料理が並んでいた。
前回の様に鍋の蓋を開ける任務を任された隊長。今回湯気の中から現れたのは、赤い色をした鍋だった。
おそらくトマトベースのスープ。けれど合間にお酒の香りもする。具材は鳥ツミレ、エビ、ウインナー、ジャガイモ、タマネギ、人参、キャベツなど。
幹事でもあるロミオ先輩曰く、それぞれの出身から少しずつ食材をかけあわせて出来た鍋だとの事。
「あれ?そうしたら、イギリスの食材ってなんですか?」
「ああ、なんかさ、鍋もさ、調味料に酒使うらしいじゃん?そこを、サケじゃなくて、ウィスキーにしてもらったり、後、ちょっとした隠し味でライム入れてもらったんだ」
なるほど、目には見えない所で活躍していたらしい。
ウィスキーも、独特の香りが逆にこの洋風の鍋とは合っている。
ほくほくと火の通ったジャガイモにスープが染みておいしい、人参も、酸味のあるスープのおかげか、逆に甘みが増して感じられる。
具から出汁が出て、その出汁をお互いに吸収して。
僕たちもそんな風に、お互いを高めあっていければ良いと思う。
「ちゃんと食ってるか?」
「え?あ、はい。ちゃんと食べてますよ。ギルさんこそ、もっと食べていいと思いますよ、あなたの歓迎会でもあるんですから」
そう言うけれど、ギルさんは応えずに前を見る。その視線の先には、ナナさんとロミオ先輩。
ナナさんはいつもの清々しい食べっぷりだし、ロミオ先輩も、つられるように豪快に食べている。
因みに、隊長は自分のペースで優雅に、けれど狙っている具は逃さずに食べている。エミールさんも、フライアでの初の食事を優雅に、けれど大量に堪能していた。
「……」
「……」
「皆さん凄いですね」
「…ああ」
具が半分より減ったころ、案の定ナナさんが、「シメに入るよー」と、先輩と二人で鍋を持っていく。
待っている間は、サラダなんかをつまみながらも談笑が続く。ギルさんも積極的な参加はないけれど、聞けばキチンと応えてくれた。けれど、やっぱりまだ、前に居た場所の事何かは言いたくないらしい。けれど、そう口にしてくれるだけ、距離が縮まったとも考えられる。
「そういうお前はどうなんだ?あいつが言ってたが、お前も別の場所から移籍してきたんだろ?」
「僕ですか?はい。以前はエミールさんと同じ極東支部にお世話になっていましたけど」
「そういえば、俺も詳しくは知らないな」
二人に見られて、思わず苦笑が漏れる。
「そんな風に見られても、保護された事以外は、特にお話できるような事はありませんよ?」
適性があるから、支部内での仕事を手伝って、いろんな部署の雑用のような事をしてきただけだ。
「いや、謙遜する事はないぞ、デイト。君の働く姿勢は素晴らしいものだった」
それまでサラダをつついていたエミールさんが、突然そんな事を言い出す。
けれど、心当たりが全くない僕としては、誉められても照れる事すらできない。
そんな折り、タイミングがいいのか悪いのか、二人が戻ってきた。
「おっまたせー。今回は、ご飯じゃなくて、パスタだよーっ」
「ほらほら、熱いウチに食べようぜ!」
鍋敷きの上に置かれた鍋から蓋をとる。
赤いスープに、うっすらと面が浮かび、その上を焦げたチーズが覆う。
薬味の緑は、ネギでは無く、パセリとバジルの様で、爽やかな香りがした。
二人が手分けしてそれぞれの皿によそい、席につく。
「そういや、さっきは何話してたんだ?」
「ああ、デイトが向こうで、どう暮らしていたのかと、エミールがな」
「お、それ俺も聞きたい!」
「ロミオ先輩まで…」
本当に、人が聞いておもしろい様な話なんてないのだけれど。
「そうだな。では、何から話そうか」
けれど、エミールさんは話す事に乗り気だし、ロミオ先輩とナナさんも、すっかり聞く体勢だ。
隊長は、そこまであからさまではないけれど、話されれば聞くだろう。
唯一、ギルさんだけが、「いいのか?」という目を僕に向けている。
まあ、聞かれて困るほどの過去がある訳ではないから、僕としては構わない。
小さく頷くと、ギルさんは何も言わないでより深く背もたれに体を預けた。
*
僕が初めてデイトを見たのは、まだ自分の腕にもこの赤い腕輪が填められていなかったころだ。
友人の妹に合いに来ていた僕は、その妹が良くいる場所だから、と極東支部へ直接赴いた。
おそらく、ホールに常駐しているであろうオペレーターの女性に聞けば何か判るだろうが、生憎と本業のほうで忙しくしている。そこにわざわざ余計な仕事を増やすのは、騎士の行いではない。
そこで、後ろから僕を追い抜いて来た少年に声をかけた。
珍しい程に白い髪が目立っていたというのも、理由の一つかもしれない。
そこの君、と声をかけると、少年が振り返り、その手に抱えていた物が見えた。
書類の束だ、どうやら、ただ歩いていた訳ではなく、書類をどこかへ運ぶ途中だったらしい。
人の仕事を遮ってしまうとは、なんたる不覚!
全く優雅ではないこの行動にも、少年の方はなんら不満を表す事無く「どうかしましたか?」と訪ねてくる。
しかも、僕がショックを受けているのを、気分が悪いとでも思ってしまったのか、声音にも心配の色が伺える。
「あの、医務室の方に…」
「いや、心配には及ばない。それより、遮ってしまって悪かった。君の職務を全うしてくれたまえ」
「ですが、何かお困りだったのでは?」
なんという事だろうか。
僕が貴族であるとは知らないはずなのに、ただの個人である僕に心を砕いてくれるとはっ。
肉親の減ってしまった少女。親友の妹でもあるその少女が、極東でいかに寂しい思いをしているかと参じたけれど、それは多いな偏見だったようだ。
いや寧ろっ、激戦地でありながらも、病気療養の少女を受け入れ、それを守護している事を思えば、この極東で戦い、働く物たちこそ、真に人類の守護者と言えるのではないか!?
そう、きっとここでは、彼ら一人一人が騎士なのだ!
なんたる事だろうか!
富を奪い合い、財産をため込む事に腐心する貴族が増えているなかで、この場の人たちはお互いを支える為に、己の職務を全うしている。
その姿のなんと美しい事か!
それに気づくきっかけとなってくれた少年。彼の名前は、是非知っておかなければなるまい。
「少年、君の名は?」
「え?えっと…日暮、デイト…です」
「日暮デイト、良い名だ。日々を賢明に生きているであろう君たちを体言するような名前だな」
うむうむと頷くと、少年、デイトも嬉しそうに笑う。
「数少ない僕の持ち物だから、そういってもらえると嬉しいです」という発言には少しばかり引っかかるものがあったが、まあそれは些末な事だろう。
「僕はエミール・フォン・シュトラスブルク。エミールでいい」
「エミールさん、ですか。ご丁寧にどうも」
「さあ、お互いの名前も知ったことだし、これで僕たちは友人だな!」
僕の当然の言葉に、デイトは「え?」などと惚けた声を出した。
しかし、当然のことだろう。何せ、今の世界でも特権階級にる貴族の僕から、友人と言われたのだ。驚かない方が無理というものだろう。
それを察し、鷹揚に頷く。
「なに、気にすることはない。貴族ではないから、などという事は、友人に慣れない理由にはなりえないと、僕は気づいたのだから!」
「…はあ…」
「さあ、そうとなれば友よ!君は君の職分を果たすんだ、それが他の人間を守り、ひいては君や君の周囲の人間を守ることにつながるのだから!」
「えっと…。もし、何かお困りなら、近くの人に聞いてみて下さいね?皆さん良い方ですから、きっと助けてくれると思いますよ」
それでは、と礼をして自分の行くべき場所へ向かう友。そんな友人を見送るのは、僕にとっても誇らしい事だった。
*
「…とまあ、出会いはこんな感じだっただろうか?」
「そうですね。それでおおむね間違いありません」
僕が肯定すると、エミールさんは満足そうに頷いた。
あの後、エミールさんとエリナちゃんはちゃんと会えたらしい。
適性が解る以前から支部の方に来ていたエリナちゃんと丁度鉢合わせした形で、だけれど。
「…てか、大変だったんだな…お前」
もの凄く同情的な視線がロミオ先輩から向けられる。話の途中から、隣のギルさんにも同じ様な目で見られていた。
「うむ。当時は職員も少なかった様でな、デイトも忙しそうに働いていた」
エミールさんの言葉に、彼と僕以外の心が一致したような空気が広がる。つまり「大変なのはそこじゃない」だ。
「ねー、えっとエミールさん。他には何かない?」
「他にか、ふむ」
すっかり空になり冷えてしまった器を前にして、腕を組み思い出そうとするエミールさん。
「そうだな、極東ではここと違い、人が多い為に、物資の配給などが追いつかない事が多い。そのため、外部居住区の住民からの苦情が絶えないのが現状だ。実際に支部へ来て不満を露わにする民も多い。その応対も見事にこなしていたことがあったか。それに、リッカ嬢からも聞いたが、神機の整備もそこそここなすそうだな?彼女に整備を依頼したときに聞いたぞ」
「へー、すっげーじゃん、もっとさ、そう言うことも聞かせてくれよ。って…あれ?」
ロミオ先輩が驚いたのか、少しばかり間の抜けた声を上げる。
きっと、僕が見えない事に驚いたんだろう。
「…言われて恥ずかしいなら、最初からそう言え」
「や、やめて下さい、襟首を掴まないで」
まるで猫の子でも扱うように、ギルさんによって椅子の上に戻される。せっかくみんなが話を聞いている間にと思って隠れたのに。
「食事中に席の下に潜るのは、行儀が悪いぞ、デイト」
言葉は叱るものだけれど、その口調はどこか楽しそうで、実際、隊長は今ほほえんでいる。
「なんだよ、これくらいで照れるなって」
「照れてません、…むしろ、それくらいでそんなに楽しそうにしないでください」
「その位、などと言うものではないぞ?実際、皆君に感謝していたのだからな」
鷹揚な調子で僕の言葉を打ち消すエミールさん。
なぜだろう、本当ならギルさんとエミールさんの歓迎会だったはずだ。なら、話というのも彼らの話になるのが普通じゃないのか?どうして、こんな風に僕の話になっているのか。
血が上りすぎているのか、考えがグルグルと纏まらない。
そんな僕を見かねた様に、隊長が口を開いた。
「どうやら、これ以上は止めておいた方が良さそうだ。料理も無くなった事だし、今日の所はこれでお開きとしておこう」
そう言われて、みんなが食器をカウンターに片づける。鍋の方は、ギルさんが持ってくれている。
僕が持つとは言ったのだけれど、「いいから、さっさと行け」と言われてしまった。
「ごちそうさま」、と口々に告げ、食堂を後にする。
盛り上がりが落ち着けば、満たされたお腹と相まって今度は眠気をさそう。
欠伸をかみ殺す僕の隣で、ロミオ先輩は大きな欠伸をこぼしている。
そのままエレベーターに乗り込み、みんなにお休みの挨拶をしてから部屋へ戻った。