GOD EATER2 ~Nam Oratorium~ 作:〆渡
「そろそろ終わり、ですかね…」
「かなあ…。さっきよりは減ってるよ」
ナナさんの言うとおり、崖下のオウガテイルの数は減ってきていた。
先ほどまでは、倒して霧散、その細胞を利用しての再固着の繰り返しで、堂々巡りだったのだけれど。オラクル細胞でも劣化するのか、それとも他の理由なのか、先ほどからその数を減らし始めていた。
「これなら、隊長達とも早めに合流出来そうですね」
そう言い終えるより早く、インカムに通信が入る。
『ブラッド3、ブラッド4、警戒してくださいっ、付近に高濃度のオラクル反応が確認されました!』
緊迫した声。それをかき消すほど近くで、低いうなり声が聞こえる。
考えてではなく、本能の領域で体を捻る。
直後に舞う砂埃に、さっきまで自分が立っていた地面が抉られたのだと解った。
背筋が冷える間もなく、針の生えた尾が迫る。
ギンッと、鈍い金属音が聞こえた。
思わず閉じてしまった目を開ければ、装甲を展開しているナナさんの背がある。
一瞬誰かの背中が二重写しに見えるけれど、頭を振ってその残像を追い出した。
今は、そんなものに気を取られていいような状況じゃない。まず、目の前の脅威に対処しなければ。
「お願いします!」
「まっかせて!」
背後で固着したオウガテイルにハンマーを向けるナナさん。それと背中合わせになる形で、僕は眼下に銃口を向ける。
崖下で群れている同種から離れる様に歩いていくアラガミ、その個体に向けて引き金を引く。
「…逃がしませんよ…」
ここで逃がしたら、隊長達に迷惑がかかるだけじゃない。「任せて」と言ってくれたナナさんに対しても失礼だ。
だから、僕の仕事はこの一条。背後を気にする事ではない。
集中し、一体一体を確実に貫いていく。エイムモードの視界すら、黒く霞んでしまうけれど、倍率を上げれば問題はない。
背後から振動が伝わってくる。けれど気にする必要はない。ナナさんが負けるはずはないのだから。
そうして、最後のオウガテイルが塵になったとき、背後のナナさんもコアの補食を完了していた。
「お疲れさまです」
「お疲れさまっ」
言い合って、どちらからともなく伸ばした手で、ハイタッチを交わす。
『こちらブラッド1、目標の討伐を完了した』
『ブラッド5、こっちも終了だ』
「ブラッド3、4。こっちも大丈夫だよ」
どうやら、今回も無事に任務を終える事ができたらしい。
大きな怪我も無いようで何よりだ。
そう、気持ちが緩んだ時、またインカムにノイズが混ざり、悲鳴のようなフランさんの声が聞こえた。
『こちらフライア!周辺に、高濃度のオラクル反応を感知。大型種と思われます、警戒を!』
『各自、通信は聞こえたな!?大型種相手に散開していては不利だ。全員、B地点へ集合しろ、そこで迎え打つ!』
ジュリウス隊長の指示に、インカムから『了解』という声が聞こえる。
けれど、間に合うだろうか。
背後から、凄まじい速度で地響きが近づいてきている。
「早く下へ!」
「う、うん。君も早く!」
ナナさんの後ろで、背後を気にしながら走る。
さっきの通信からはまだ数秒、交戦していた場所にもよるけれど、まだ全員が揃うには時間がかかる。
けれど、その威容は既に僕たちの背後に居た。
堂々たる白い体躯が崖の上から僕達を睥睨していた。背から生えた赤い触手は、風も無いのに蠢いている。
そして、炯々と輝く金の瞳に、体が萎縮する。
あれには勝てないと、体が訴える。
背後で、神機の音がする。顔をあまり動かさないように確認すると、ナナさんが神機を降ろしてしまっていた。
それほどの威圧を、あのアラガミは放っている。
「ナナさんっ」
「ぁ、う、うん。ごめん」
何とか気を取り直し、神機を再び構えるナナさん。けれど、いつもの様な覇気は全く感じられない。完全な及び腰だ。
深呼吸して、一歩前に出る。ナナさんが僕の名前を呼んだけれどそれに応える余裕は無い。
ただ、気圧されないようにと気を張って、アラガミから目を反らさないだけで精一杯だ。
今にも背後から、隊長達が合流してくれないだろうかと期待してしまう。
けれど、それより早く、目の前のアラガミが動いた。
こちらに向かって跳躍、無造作に振り上げた両足を、今度も無造作に振り降ろす。
動けないでいるナナさんを突き飛ばし、直撃を避ける。かすり傷程度で済み、気が緩んだところに、長い尾による薙ぎ払いが直撃した。
「っぅー」
装甲を展開する事もできず吹き飛ばされる。
顔を上げれば、白いアラガミはナナさんへと向かっていた。
チリリと、小さな痛みが走る。
誰かの背中、真っ赤な血、手のひら、金色の目。
覚えのない光景がフラッシュバックする。これが走馬燈という物か?
いや、今命の危機に晒されているのはナナさんの方だ。
だからこれは幻覚、今は必要のないものだ、切って捨てろ。
―ぃ。
体が熱い、けれどバースト状態とも違う。もっと、体の奥から来るもの。
―なさい。
沸き上がるもの、刻まれたもの、自分が今喚び起こすべきもの。
この赤い光が、きっとそうだ。
理解なんてしていない、自分でも説明しようのない感情にまかせて、腕を振り上げるアラガミに向かって走る。
考えもない、訓練で身につけた筈の動きでもない。きっと、端から見たら命を捨てにいく暴挙。
それでもこれは、決して間違いなんかじゃない。
―さあ、喰らいなさい。
「やああぁぁぁっ!!」
下方からすくい上げるように切りつける。元から不安定だった体勢も手伝って、白いアラガミはこちらが驚くほどあっけなく地面に倒れ込んだ。
その間にナナさんを助け起こし距離を取る。
けれど、そこまでだった。
急に体から力が抜け、膝を付いてしまう。呼吸も荒く、全力疾走した直後のように体が重い。
せめて目だけは逸らさない様にとするけれど、それすら億劫だ。けれど、目を逸らせば直ぐにでも飛びかかってくる。半端なダメージは、獣を挑発しただけだ。
だから、ひたすら前を見る。
人類最後の砦、人類の守護者。
家族の一人も守れなくて、そんな言葉を背負っていい筈がない!
*
ジャキッ、っと音を起てて、デイトが地面に神機を刺した。それに掴まるようにしてやっと立ってる。
そんな状態なのに、顔だけはあのアラガミから逸らさないで、まっすぐ前を見ていた。
年下の男の子が―。
ううん、そんなの関係ない。家族が、私を守ってくれようと頑張ってる。
だったら、私だって守る。大切な『家族』なんだから。
正直に言えば、怖い。
相手は大きいし、さっきの怪我で気が立ってる。けど、だからってそれは、こうして後ろで小さくなってる理由にはならないんだ。
神機を構え直して握りしめる。
その時、後ろから人の声が聞こえた。
「大丈夫か」とかそんな声。
みんなの声だって分かった途端に、ホッとして、嬉しくて、まだ敵が居るのに凄く安心してしまった。
ジュリウスが、ロミオ先輩が、ギルが、エミールが、皆が来てくれた。
ジュリウスがデイトを支えて、他のみんなが一斉にアラガミに向かってバレットを放つ。
その後ろで、反対から私もデイトを支えた。グッと体重がかかるけれど、仲間の、家族の重みだと思うと、それすら嬉しい。
3人の弾幕に押されて、アラガミがじわじわと後退していく。そうしてついに、恨めしそうにこっちを見ながら、元来た崖の奥に逃げていった。
「―っ」
それを確認して安心したのか、デイトからかかる重みが増す。気が抜けちゃったんだろう。
ジュリウスと一緒に、ゆっくり地面に座らせてあげると、小さく息を吐いた。