GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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第21話

帰りのヘリの中。皆が、というか。ロミオ先輩とエミールさん、それにナナさんが盛り上がっている。話題は、先ほどの大型アラガミだ。

僕はといえば、隊長曰くの『血の目覚め』の反動なのか、申し訳ない事に椅子の大部分を占領する形で横になっていた。

 

「なんかこう…、ピカーッて赤くなって、ズバーって感じ?」

「そうそう、ズバーッ、ドカーンみたいな感じなんだよな!」

「ほほう。僕も騎士として!民の盾として!そのような技を修得してみたいものだ」

 

噛み合っているのかいないのか、今一判断しづらいけれど、楽しそうなので何よりだ。

あの感覚を忘れなければ、これからは自分で制御して使う事もできるといわれた。もちろん、そのための訓練は必要だけれど。

あの力を的確に運用できれば、大きな戦力になるのは間違いない。

また一歩、願いに近づいた事が嬉しい。

 

「…なにニヤニヤしてやがる、ちゃんと休んどけ」

 

どうやら笑っていたらしいく、ギルさんがそう言ってくる。

 

「嬉しいんです。これで、もっと皆の役に立てるから」

 

僕の言葉に、ギルさんの眉がぴくりと動く。けれど、その後に何かを続けることは無かった。

 

 

 

無事フライアに着く。ケースを預けて身軽になった僕は、久しぶりに感じるソウ先生の部屋を訪れていた。

 

「失礼します」

「やあ、なんだか久しぶりな気がするね」

 

ソウ先生も同じ事を思っていたようだ。

差し出されたカップを受け取る、今日は変わった香りのお茶だった。

 

「これは極東のお茶でね、ドクダミという植物のお茶らしい」

「ドクダミ…?毒をもって毒を制するということですか?」

 

僕が聞くと、先生はおかしそうに笑う。

 

「いやいや。でもそう思ってしまうよね。…ドクダミっていうのは、毒を矯める。止めるという意味から来た言葉だそうだよ。つまり、ハーブの一種だね」

 

「なるほど」と、カップの中身を口に含む。瞬間的に香りが口いっぱいに広がって、少しばかり動きが止まる。

 

「…まあ、体に良いものだけれど、無理して飲むことはないからね?」

「…はい」

「さて、それじゃあ今回の状態だけれど…ー」

 

言いながら、大きめの画面に僕のバイタル情報が表示される。

やはり、見てもよくわからない。

 

「定期的に君のバイタル情報を取らせて貰っているんだけれど、今回のデータでは、大きく乱れているところがあってね。自分で心当たりなんかはあるかな?」

「あ…はい…」

「ああ、ならいいんだ」

 

そういって、先生は詳しい内容までは聞こうとしなかった。その事にほっとする。

自分でもまだ整理ができていない事を、人にどう話せばいいのか判らなかったから。

 

「情報が入ってくるだけだと、やはり実際にはどうであっても不安ではあったからね。何も無いって君から聞けて、ほっとしたよ。このまま順調にいけば、いずれこの時間も必要なくなるかもしれないね」

「……」

 

そうか、そうなってしまうのか。

問題ないと診断されるのはうれしい。けれども、何故だろうか。この時間が無くなる事を、寂しいとも感じていた。

 

「…君がそんな顔をする必要はないだろう?もっと喜びなさい。それに、まだ先の話だよ」

「…はい。それまで、よろしくお願いします」

 

小さく頭を下げると、「うん」と穏やかな声が上から降って来た。

 

 

 

 

検診を終えてデイトが出ていった室内。途中から点滅していた携帯端末のランプ。新着の情報があることを知らせるその光に、何か嫌な予感を感じながらも、公用端末であるという事実が、彼にそれを開かせた。

表示された文字列を呼んでいく彼の顔が、皮肉気なものになっていく。

 

「成る程?」

 

乱暴に端末を置くと、自分の端末を起動、その内容を紙に印刷し始める。

必要な内容を全て印刷し終えると、それを特殊なスーツケースに入れ、厳重に封印した。

この時代、信頼の置ける隠し場所さえあるなら、こうして紙に残して置いた方が安心だ。データとして残してあるものは、いつ誰に見られるか。どんな保護をしていたとしてもその心配が残る。

念のため、データを消去。その上で、まだ中身の残っているカップをその上に翳す。

 

「……」

 

数秒の躊躇い。

けれど、結局液体は零れ、キーボードの間から奥へと流れていった。

それを、廃棄品としてダストボックスへ落とす。

 

「…これで、父さんの物は全部無くなってしまったな」

 

写真も残っていない今となっては、もう父の顔すら曖昧だ。

 

 

 

 

あの日、僕が『血の力』と言われる物に目覚めてから数日。

あの日は、落ち着いてからラケル博士直々に座学の時間を取ってもらい、あのアラガミの事や、感応種の詳しいお話、更に感応現象の事なんかも聞かせてもらった。

正直な事を言ってしまうと、本当に理解したかは我ながら怪しい。

とりあえず、偏食因子が従来の物と違うから、アラガミによる感応の影響を受けにくい、という事が判った。

つまり、あの時自分が感じていた圧迫感も、単純な威圧によるものだけではなかったという事だろうか。

その話を聞いて、神機もアラガミの一種なのだと改めて感じる。

そういえば、その時に、また新しいメンバーが増えると言っていた気がする。

まだ人数が少ないから余計にそう感じるのかもしれないけれど、人が頻繁に増えているように感じる。

まあ、仲間が増えることに異論は無い。博士達だって、考えた上での事なのだろうし。

そのうちジュリウス隊長から教えられたら、またロミオ先輩は女の子かどうかを気にするのだろうか。

 

「また後輩ができるのかあ…。俺も、気合い入れないとな」

 

そういって胸をはるロミオ先輩。その反応に、僕は首を傾げてしまった。

 

「なんだよ、そんな不思議そうな顔して…」

「デイトは、きっと先輩が『女の子かな?』って聞かないのが不思議なんだと思うなあ」

 

と、ズバリ答えを言うナナさん。ピクリと跳ねた僕の方を見逃さず、ロミオ先輩が半眼で見てくる。

 

「デーイートー?俺だってなあ、何時も何時も女の子の事しか考えてないわけじゃないんだぞ?」

「…はい、すみません…」

「―といいつつ、実は期待している先輩なのでした」

「ナナー?」

 

今度は、茶化すナナさんに向かっていくロミオ先輩。

こんな風に楽しい日常に、今度はどんな人が加わるんだろうか。

そう考えるだけでも、楽しい。『家族』や仲間っていうのは、暖かいものなんだと知った。

 

「…何してんだおまえら」

 

と、そこにギルさんがやってきた。どうやら、訓練が終わった後みたいだ。

口々に労うと、どこか戸惑った様子で「ああ」と返す。

最初の頃の僕と少し似ている。

 

「今度、また新しい人が来るみたいで、その事を話してたんですよ」

「そうそう。男の人かなー。女の子かなーってね」

「ナナぁ、それはもういいだろ」

 

僕たちのやり取りに、ピクリとも表情を変えないギルさん。その雰囲気を感じ取ったのか、ナナさんとロミオ先輩も彼を見る。

僕たちの視線を感じて、それを遮る様に帽子を直すギルさん。

鍔から手を離した時には、いつものニヒルな表情を浮かべていた。

 

「また新顔とは、ここは随分人手が充実してるんだな」

 

どこか、トゲを感じる言葉だ、けれど、外から来た僕には何となくそれが理解できる。

違う言葉を使うなら、「贅沢」とも言えるだろうか。

とにかく、何かにつけてフライアが優遇されているのは確かだろう。

僕も、良かれ悪しかれその恩恵を享受している。

それはギルさんも同じで、彼自身それが判っているからこその、さっきの言葉なのかもしれなかった。

 

「そうなのか?どこもこんなもんなんじゃないの?」

「いえ、そうでも無いですよ。大体は、アラガミの出現数と、その個体の強大さで脅威レベルを判断し、それに沿ってどの支部にどれだけの人員を手配するか決めるものだと思いますし。それを考えると、フライアにこれだけの数のゴッドイーターが常駐しているのは、割合として考えると、人員過多に見えると思います」

「そうなんだー」

 

ナナさんの言葉に頷く僕とギルさん。やっぱり、中からだけ見るのと、外を知っていて中を見るのとでは大分違うものなのだろう。

 

「でもまあ、もう決まっている事みたいですし、今は新しい人をどうやって迎えるかを考えませんか?」

「お、そうだな!ナベはもうギルの時にやったからなー。次は何がいいかな」

「えー?お鍋じゃだめなの?おいしいよ?」

 

もう、話題は歓迎会の内容に移っている。

楽しそうな二人を見るギルさん。その表情は、まだどこか暗い。

 

「…僕たち、負担が少ないですよね。任務は1日1回位しか入りませんし」

「そうだな…」

「だったら、回数以外の所で、他の人達を支えれば良いと思いませんか?」

 

僕の言葉に、ギルさんがこっちを見る。心なしか、その顔は驚いているようだ。

 

「先日博士にお聞きしたんですけど、あの時の白いアラガミ。あの種類、確か感応種っていう個体には、従来の神機では対抗策がないそうなんです。だから…」

「そういう敵にこそ、俺たちが…ってか?」

「はい」

 

微笑んで頷く。間違った考えでは無いはずだ。

 

「…ったく。その相手に喰われそうだった奴が良く言ったもんだ」

「お陰で助かりました、ありがとうございます」

「礼ならもう聞いた。2度は余計だ」

 

癖なのか、帽子の鍔をつかんでそっぽを向いてしまうギルさん。

どうしたものかと思っていたら。

 

「なあ、お前等はなにがいい?」

 

唐突にかけられる先輩からの声。いや、先輩にとっては、決して唐突では無いのだろうけれど。

 

「ナナは、また故郷ナベでもいいんじゃないかっていうんだけどさ、俺は違う物がいいと思うんだよねー」

「…なんでもいい。部屋に戻らせて貰う」

 

ロミオ先輩の問いかけを振り切るように行ってしまうギルさん。なんとなく、声をかけづらい背中に、成すすべなく見送ってしまう。

 

「なんだよ、あいつ。ノリ悪いなあ」

「まあまあ、誰でも機嫌が悪いとき位あるよ」

「腹が減ってる時のナナとか?」

「そうそう。身長の事をイジられた先輩とか」

 

そんな切り替えしに、反射的にか「うるさいよっ」と返す先輩。

どうやら、メニューはまだ決まりそうになかった。

 

 

 

 

デイト達と分かれて、自室へと足を向けるギルバート。その表情とは裏腹に、彼の内心はそう穏やかではなかった。

特に、誰が何をしたという訳ではない。強いて言うなら、ロミオの楽天的にすぎる所はそりが合わないけれど、そこまで目くじらを立てる程の事でも無かった。もちろん、言うべき時には言わせてもらう事もあるだろうけれど、それも彼を仲間だと思えばこその、ギルバートなりの行動だ。

苛立ちを覚えるというなら、それは寧ろ自分に対してのものだった。

半ば逃げるように、ブラッドとして試験を受けフライアにやってきた自分。

目標はあれど、そこへ届かない自分自身に一番腹が立つ。

それに、デイトも苦手だ。

嫌いな訳ではないし、話していると落ち着きもする。けれど、希に彼の口から零れる、ギルバート自身の過去を思い出させるような発言。

なまじ似たような目をしているから質が悪い。あの人と重ねざるを得なくなってしまう。

デイトからすれば、勝手な理屈だろうけれども。

儘なら無い感情に蓋をするように、帽子を深く被りなおした。

 

 

 

 

暗い、暗い場所。

敢えて消されているのか、天井に取り付けられている明かりは、今は休んでいるようだった。

その中で動く陰が2つ。

大きい影と、小さい影。

それは、微妙な距離をお互い保っていた。

 

「話ってのは?」

 

そう切り出す大きい影。それに小さい影は黙ってある物を差し出した。

 

「これは?」

 

影の手に乗せられていたのは、小さなチップ。けれど、今の世では、下手な爆弾よりも恐ろしいものだった。

 

「…これを、そいつの車に取り付けろって?いいんですか?貴重な医者でしょう?」

 

そんな言葉にも、小さい影は揺らがない。

 

「…へえ、『あいつ』が信頼してる医者ね…。…いいですよ、やります」

 

そういって、車のナンバーを聞くと、大きな影は出口に向かって歩いていった。

それを見送る小さな影。

一瞬開いた扉から差し込んだ光に照らされて、薄く微笑んだ口元が見えた。

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