GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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pupulus
第23話


「はあ…」

 

つい、ため息が漏れて仕舞う。

こんな事ではいけない。副隊長にも任命されたのだから、もっとしっかりしないと。

少なくとも、みんなの前では気持ちを表しすぎないようにしないといけない。

とは、思うけれど。

 

「……」

 

誰もいない庭園。ガラス越しに見える空は、多少雲があるものの、快晴といって良いくらい晴れている。

思いっ切り伸びをして、木の根本に座る。背中を預けると、少し安心した。

 

「何だ、先客がいたか」

「あ…隊長…」

 

ゆったりとした動作で歩いてきて、隣に腰を下ろす隊長。丁度、試験の日とは逆の位置どりだ。

 

「不安そうだな。そんな顔だ」

 

隊長の言葉に、躊躇いつつ頷く。さっき決心した事は、もうどこかに吹き飛んでしまったらしい。

 

「あはは。ちょっと、緊張し過ぎですよね。そんな、いきなり『隊長をやれ』なんて言われた訳でもないのに」

「そうだな」

「…です、よね」

 

自分で言った事とはいえ、きっぱり言い切られて少しばかり落ち込む。

 

「緊張するな、とは言わない。寧ろ、緊張感も持てない人間を、副隊長に任命しようなどとは、幾ら俺でも考えないさ」

 

そう、笑みを含んだ声で言われてハッとした。

僕が、不安だ、無理だと思うのは僕の弱い部分だ。それを急に直せるとは思わない。

けれど、そればかりを主張しているだけでは、僕の何かを見いだして、それを信じてくれた隊長の思いを、裏切っている事になるんじゃないだろうか。

そう思い至ると、恥ずかしくなる。

 

「あの時も言っただろう?『俺が、お前一人にすべてを背負わせるとでも思ったか?』」

「…はいっ」

 

そうだ、副隊長になったからって、最初から上手くできなくてもいい。

きちんと副隊長としての仕事をこなせるようになるまで。いや、そうなれたとしても、支えてくれる人たちが、僕の周りにいてくれる事に代わりはないのだから。

あの時みたいに、僕がみんなの助けになれて、みんなが僕を助けてくれる。

そんな風になれるように、がんばろう。

 

「…いい顔だ」

「はい。有り難うございます、隊長」

 

向き直って頭を下げると、「いや」という応えがあった。

 

「実は、ギルバートに言われてな」

「ギルさんに、ですか?」

「ああ。『モノになる前に潰すな』とな」

「ギルさん…」

 

モノになる、と思ってくれた人がいる。

そうでなければ、あの場で反対されていただろうけれど、そう言って貰っていたのだと思うと、より実感して嬉しさを感じられる。

 

「…そう言って貰ったなら、ますます、頑張らないといけませんね」

 

何故だろう。自分でも単純だと思うしかないけれど、この場所に来た時とは全然違う。

信じて貰えてると解っただけで、意識、気分はこうも変わるものらしい。

今なら、ロミオ先輩とも話せる気がする。

そして、気がすることが、きっと大切だ。

 

「わざわざ有り難うございました、隊長。僕、ちょっと用ができたので、これで失礼しますね」

「ああ」

 

 

 

 

「デイトなら、もういないぞ」

 

新しい来訪者に、ジュリウスはそう声をかけた。

 

「そうかい」

 

答えたのはギルバートだ。何気なく庭園を見回していた視線を、ジュリウスに向ける。

 

「それにしても、気づいていたならわざわざ俺に言わなくてもよかったんじゃないか?」

「あんたがあいつを指名したんだろうが。だったら、フォローもあんたの仕事だ」

 

ぶっきらぼうで、上官を上官とも思わないような返答。だが、ジュリウスはおもしろそうに続けた。

 

「なるほど?…それにしても、よく見ているものだな」

「あんたが見えて無さ過ぎなんじゃないか?」

 

むっとしたような鋭い視線を向けられる。けれど、ジュリウスの泰然とした態度は変わらなかった。

 

「ふっ…、そうかもしれないな」

 

そんな態度に、いちいち突っかかる事をやめ、ため息を一つばかりついてから口を開くギルバート。

 

「…まあ、あいつにとっても、今回の事は荒療治なりにいいきっかけになるだろ。自信の無さをどうにかすれば、そこそこ良い使い手になりそうだしな」

「…そうだな」

 

ギルバートの言葉に、空を見上げつつ答えるジュリウス。

その先には、美しい青空が広がっていた。

 

 

 

 

「あ、ロミオ先輩」

「ん?おおデイト。さっきはありがとな」

 

僕の声に振り返った先輩からは、さっきの違和感は感じられなかった。

 

「いえ。えっと、お話したいことがあるんですが」

「お、おお…。なんか気合い入ってんね」

 

ロミオ先輩と一緒に、ロビーのソファー、その一番奥に座る。

 

「で、話って?」

「…その…、間違ってたらすみません。ロミオ先輩は、…僕が副隊長になったのが…嫌、ですか」

 

嫌、という言葉では足りないかもしれない。

自分より後に入ってきた人間で、経験があるわけでもなくて。不安に思われたって仕方ない。

―けど。

 

「僕は、まだ経験も浅くて、色々不安に思われるような所もあると思います。けど、頑張りますから」

 

こんな言葉しか出てこない事がもどかしい。

型にはまった言葉なら覚えて居るのに、こんな時に、どんな風に言えば良いのか解らない。

今まで他者との会話で使ってきた言葉は何だったのだろう。

ただ相手の望むように、相手の気分を害さない様に、それだけを考えてきた言葉が、今は役に立たない。

自分の気持ちを伝える、ただそれだけの事が、こんなに難しいなんて思わなかった。

その場だけの軽口でもない、形式ばった文言でもない。

想いを伝えようとする事は、こんなにも難しい事だっただろうか。

 

「だから…っ」

 

すれ違う事が寂しい。

伝わらない事が悲しい。

だから、そうならないように―。

 

「見ていてください。僕は、僕なりの事しかできませんけど、それでも、副隊長の勤めを果たそうと思います。ジュリウス隊長や皆さんに応える為にも」

 

僕の、今言える全てで先輩にぶつかっていく。

先輩は、少しばかり驚いたような顔で僕を見ていた。

何か、おかしな言葉になっていただろうか。

いや、格好ばかりつけても意味はないから、そこはいいのだけれど。

「あーぁ」と、ロミオ先輩が大きなため息を吐いてソファーに沈み込む。

 

「先輩?」

 

やっぱり、何かおかしかっただろうか。それとも、まだ足りない何かがあったのだろうか。

顔を上げた先輩が、何とも言えない表情で僕をみる。

 

「それ、最初に任命された時に言えてたら、かっこ良かったんだけどなあ」

「…そうですよね。すみません…」

「ジョーダンだって、そんな顔すんなよっ」

 

僕の謝罪に、慌てたようにそういう先輩。

きまり悪そうに頭に手を当てると、言葉を続けた。

 

「ん…まあ、今のはちょっとキツかったか?でも、今の聞けて良かったよ」

「先輩…」

「なんかあったら、後輩を支えるのも先輩の勤めだからな」

 

そう言って胸る先輩が、なんだか大きく見えた。

 

「よろしくお願いします、ロミオ先輩」

「おうっ」

 

 

 

 

そして時間は過ぎ、約束の18時。

当面の引っかかりは取り除く事ができた僕も、そこに居た。

中心には、驚いたような困ったような顔のシエルさん。助けを求めるように隊長や僕たちをみているけれど、残念ながら今回、助けは無い。

もはや恒例になりつつあるこの光景に、他の人達もチラと目を向けるだけだ。

 

「…これは一体、どう言うことなのでしょうか」

 

右隣に居る隊長ではなく、僕の方に聞いてくるシエルさん。隊長よりは組みしやすいと判断されていそうだ。

確かに、その通りではある。けれど、殆ど携わって居ない僕が言ってしまっていいのだろうか。

ロミオ先輩達を伺うと、GOサインが出されている。

 

「シエルさんの歓迎会です。ようこそ、ブラッドへ」

 

僕の言葉に、驚いて目を見開くシエルさん。

みんながそれぞれに、「よろしく」と言う中、余計に混乱したような表情になった。

 

「……」

「…シエルさん?」

 

あんまりにもそのままだから、心配になって声をかけてみた。どうかしたのだろうか。

 

「こんな…。こんな事は、非合理的です。…ですが」

 

そこで言葉を切って、シエルさんがほほえんだ。あの時研究室で見た、柔らかい笑顔だ。

 

「ですが。どうやら私は、嬉しい、と感じているようです。ありがとうございます。皆さん」

 

そう言って、軽く頭を下げる。

今回も率先して動いていたロミオ先輩も、なんだか嬉しそうだ。

 

「さあ、ではそろそろ頂こう」

 

隊長の言葉で、みんなが席につく。シエルさんにもあれを教えて、みんなで手を合わせた。

 

「「「「「「いただきます」」」」」」

 

 

 

 

そろそろ料理もなくなってきた。

シエルさんの歓迎会の筈なのに、なぜかシエルさんが率先してみんなに料理を取り分けていた。取り皿の上に、バランスよく料理が取り分けられていく様は、見ていて気持ちいい。

一緒にお鍋をしたら、いい感じで仕切ってくれそうだ。

 

「おまたせー」

 

と、料理の量を見て席を外していた先輩が戻ってきた。

その手には、あまり大きくはない器がある。

それを、シエルさんの前に置いた。

 

「これは…」

 

お皿の真ん中にはプリン。その周りに、スカートの様に2種類のコンポートが添えられている。お約束の様に飾られたクリームには、飾りのミントが寄り添っていた。

 

「おっちゃんに言って、作っといて貰ったんだ」

 

にかっと笑うロミオ先輩。なんだか嬉しそうだ。

置かれたデザートのお皿を、シエルさんはただただ眺めている。

 

「あ、あの…これは」

「シエルのだよ。…って、甘いのとか大丈夫なんだよな?」

 

慌てて僕に聞いてくる先輩。僕としても頷きたいところだけれど、推測でしかないので首を動かすことはできない。

せいぜい「多分…」と小声で答えるしかない。

先輩に腕を引かれ、少しばかり離れた所に移動する。

 

「多分って、お前。もし嫌いだったら嫌がらせってもんじゃ無いぞ?歓迎会でわざわざ嫌いなものって」

「そんな事言われたって。恐らく、ってちゃんと言ったじゃないですか」

 

僕としては真っ当な抗議だった訳だけれど、先輩は「あーあー、きこえないー」と耳をふさいでしまう。

 

「お前達。シエルに呆れられるぞ」

 

隊長の声でテーブルを見れば、みんながこちらに笑顔や苦笑を向けていた。

先輩と二人、決まり悪く頭をかく。

シエルさんに呆れられていなかったのが、せめてもの救いだろうか。

 

「…私の為、と言ってくれるのでしたら。これを、皆さんと食べたい、です」

 

おずおずと言われたシエルさんの言葉に、真っ先に反応したのはナナさんだ。

「やったー」と素直に喜ぶ姿は、年上ながらに微笑ましい。彼女のあの素直さは、今後見習っていきたい。

みんなで分けて、本当に小さくなってしまったプリン。

でも。

 

「一つのものを訳あっただけなのに、…凄く、おいしいですね」

 

本当に、その通りだった。

因みに、食器が片づけられた食堂で、シエルさんがおもむろに電子手帳を取り出し、みんなにあのスケジュールを説明したときには、それまでの和気藹々とした空気が一変。阿鼻叫喚を生んだ。

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