GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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第24話

シエルさんが僕たちに合流して数日。

僕も含めたみんなが、あのスケジュールを何とかこなしていた。

正直、もっと早く根を上げてしまうのではないかと心配していたナナさんや先輩も、今の所粛々とこなしている。

けれど、弊害もでていた。

シエルさんは、あの日の宣言通り、戦術連携を基本に据えた作戦を立案してくれている。

ブリーフィング時での問題は殆ど無い。アラガミの性質も地形の把握なんかも、僕よりずっと詳しい。

でも。

慣れない生活リズムで疲れの取れない状態が続き、連携そのものが、小さなミスや状況の変化で上手くいかない。

そんな状況が続いて任務成績が上がる訳もなく。皆も不満や鬱憤がたまっている状況だった。

隊長は、こういう時もある、と言ってくれてはいるけれど。縦社会である以上、いつまでもそうは言っていられないはずだ。

一応、そもそもの原因は何だろうか、という事を考えてみる。

管理されている状況でのストレス。

一応、休み時間が最初の計画より増えたとはいえ、これもあるだろう。

今まで座学の時間は半分以下だったし、戦闘訓練は自主的なものだった。

いくら配分が理想的でも、押しつけになってしまっては逆効果だった、という事だろう。

これは、きちんと止められなかった僕にも責任がある。

次、さっきの事が遠因になっての、任務中の凡ミスの連発。

蓄積された疲労からくる注意力散漫など。いくら空中を飛んで無音だからといって、アラガミの接近に気づけないようではいくら何でも危険すぎる。

これは慣れるしかない問題かもしれないけれど。今までになく細かな指揮による、任務の遅滞。

…慣れるしか、ないのだろうか。

確かに、細かい指示はそれに慣れてさえいれば、効果を発揮できるだろう。

けれど、今までの戦闘スタイルと違いすぎて、僕を含めた4人は、ちぐはぐに感じてしまっていた。

そのせいか、うまく切り替えられずに、命令伝達時の遅滞が生じている。

結果として、討伐対象を取り逃がしそうになったり、といった事になっているわけだ。

 

「……」

 

今までの僕なら、"僕の言い方が悪かったから"とか"僕が上手く理解できていなかったから"とか。とにかく何でも自分が悪い方に考えていた。

今でも、それが完全に消えた訳じゃないけれど。でも、それがどんなに一人よがりな事かも、少しずつ解ってきた。

僕がどんなに強くなっても、偉くなっても、僕一人で全てが背負えるわけじゃない。

だから、今回の事も、一人で考えて結論を出すんじゃなくて、皆の意見を聞いてからどうするか決めよう。

今の状況を続けていくのか。それとも、前のやり方に戻すのか。その他にも、やり方はきっとあるはずだ。

そう思ってロビーへ向かう。予定表だと今は自由時間のはずだから、ロビー辺りに皆居るはずだ。

そうしてエレベーターを降りたとき。

 

「先ほどの任務中の様な行動は控えてください」

 

静かな、だけど威圧感のある声が聞こえてきた。

声の主はシエルさん、相手はやっぱりギルさんだ。

 

「あの状況じゃ、ああ動くのが一番だった」

「今回はそうだったかもしれません。しかし、今後より強大なアラガミと対峙した時もそれでは困ります。一人一人が勝手な行動を取っていては、指揮系統が乱れ迅速な伝達が出来なくなり、遅れをとる事になりかねません」

 

二人の声は大きくないものの、お互いに一歩も引かない様子だ。

こういう時に止めに入ったりする二人は、今はソファーにぐったりと横たわっている。

 

「……」

 

仕方がない。いや、チームを取り纏めるのも、副隊長としての勤めらしいから、放棄するわけにもいかない。

なんとなく、この年にして中間管理職についた気分だ。

 

「二人とも、いったいどうしたんですか?」

 

内容は聞こえていたけれど、ワンクッションを置くためにそう切り出す。

ギルさんは舌打ちをしてそっぽを向いてしまった。

 

「副隊長からも言っていただけませんか?任務中は、上意下達を徹底するべきです」

「その上意下達の為に、追討許可をいちいち取ったり、追撃指示を待てっていうのか?アラガミは待っちゃくれなんだ」

 

こう言うときは公正に、より理のある方を尊重したいとは思うのだけれど。正直に言ってしまうと、僕にはどちらの理が正しいのか判断が付きかねる。経験も知識も二人より劣っている僕には、どちらの言葉も正しく聞こえるからだ。

任務中に、みんなが好き勝手に動いてしまってはそれも問題があるし。かといって、いちいち確認を取っていては、後手に回ってしまうのも事実。

どちらにも理があるのならば、その理を壊さない程度に、お互い近づける事はできないだろうか。

妥協…と言うと、何となく良くはないイメージになりがちだけれど、時にはそれも必要だと思う。

二人の、「どちらが正しいと思う?」という視線には腰が引けそうになるけれど、もうただ阿ってだけいる訳にもいかない。

 

「…僕は、…今から卑怯な事を言います。どちらの意見も正しいと思います」

 

二人からの視線がきつくなる。

 

「一応最後まで聞いてくださいね?どちらも正しいとは思います。けれど、それは全てに於いて、では無いとも思います。シエルさんの言う、戦場で個人が勝手に動いていてはいけない、という意見もわかります。ギルさんが言うように、いちいち承諾を得ている様な時間があるような任務ばかりじゃないというのも、実感しています」

「「だったら」」

「だったら、この両方をすりあわせて見ればいいと思いませんか?」

 

二人が何か言いかけたのを遮って、自分の意見を言ってみる。

初めての事でドキドキしているけれど、それを落ち着かせるのは後だ。

 

「今は二人とも、ちょっと意固地になっている所もあると思います。もうちょっと落ち着いた時にでも、お互いの意見を考えてみませんか?こんな風に言い合うだけじゃなくて、例えば自分が譲れない所をお互い抜き出して、それをつき合わせていけば着地点が見えるかもしれないじゃないですか」

 

まだ、二人とも少し不満そうに見える。

不満、とは少し違うか。

 

「二人とも、それぞれに仲間を思っての事だから。それだけ真剣だからぶつかっちゃってますけど、だからこそ、折り合いもつけられると信じてます」

「…副隊長」

「…いっちょ前に言いやがって」

 

そう言って帽子の上から頭を押さえるギルさん。

僕を見るシエルさんの顔からも、険しさがなくなっている。

おずおずとギルさんに向き直るシエルさん。どこか戸惑うような目でギルさんを見る。それから、ソファーを占領して横たわっている二人を。

そして最後に、僕の方を見た。その目が、揺れている。

 

「…すぐに答えが出るような、軽い問題じゃないと僕は思います。だから、出来るだけみんなが納得できる形に持っていけるよう、頑張りましょう?」

「理想論、だな」

 

ギルさんの苦みを感じさせる声。嫌悪ではないそれが何なのか僕には判らない。けれど、今の僕が言える事はこれだけだ。

 

「理想とか、こうしたいって事は、出来るだけ口に出す事にしたんです」

 

僕が言うと、ギルさんは少しばかり驚いた顔になった。僕がこういう事を言うのは、意外だっただろうか。

…そうかもしれない。今までは、殆どその場の流れで喋っていたようなものだから。僕自身の意志、というものは希薄だったのだろう。

でも、それを変えようと思った。

嫌がられる、嫌われるのをただ怖がるんじゃなくて、その先にある関係をつかめる様になりたい。

 

「…合わないやり方、理解はしきれない考え。だからってお互いに拒否したり、押しつけたりしてるだけじゃずっと変わらないから」

 

僕の台詞に、シエルさんの目が揺れる。

 

「私は…。…私の考えは、押しつけ…だったのでしょうか」

 

弱く、戸惑ったような声に罪悪感を覚える。

けど、自分から切り出した以上、ここでのらりくらりとかわすのは良くない。

 

「…そう、ですね。シエルさんにそのつもりが無くても、現状は押しつけに近いと思います」

「…そう、ですか」

「でも、シエルさんが本当に僕たちの事を考えて予定を組んでくれた事も判ります。だって、そうで無かったらあんなに具体的で細かい訓練メニューなんて作れませんから」

 

僕を見るシエルさん。今度は驚いている。

隣のギルさんも、わずかにハッとした表情だ。

そう、確かにシエルさんは、幼い頃から勉強してきた戦術知識なんかに頼り過ぎていて、言うなれば『頭でっかち』になりがちなところがある。

けれど、僕があの日感じた様に、確かに僕たちと感情を交わしたいとも思ってくれているのだ。

その表し方が、彼女の場合ああいう風に現れがち、というだけで。

そのやり方を否定するのは、やっぱり痛い。

けれど、それじゃあ伝わり難いよ、と誰かが伝えないと、ずっとすれ違い続けてしまうかもしれない。

近くに入るのにすれ違うだけなんて、そんなの寂しい。

 

「…シエルさんは、きっと不器用で、でも優しい人です。ギルさんと少し似てますね」

「おい」というギルさんの声。半眼で睨んでいるけれど、怖さは感じられない。

「ギルさんも、ぶっきらぼうですけど、優しい人です。だから、慣れない状況で皆が怪我しないかとかが心配なのかなって」

「なに解ったような口利いてんだ」

 

そこで何故か声を低くするギルさん。

 

「だってギルさん、同行する任務でのバレットの順序、変わってますよね?今は回復弾が交換しやすい位置にありますし、前より前線に出る回数が減って、その代わりにみんなの体力に気を配ってくれてるじゃないですか」

 

僕の発言に、今度はギルさんが驚く。

でも、そこまで驚かなくても良いと思う。だって、以前『見て覚えるのまでは止めない』と言われてから、余裕があるときは出来るだけ観察させてもらっていたのだ、幾らなんでも、それ位気づく。

 

「…そうやって、命令なんてなくてもお互いを支える事ができるチームにしていきたいですね。まあ、確かにギルさんが言ったように理想でもあるので、必要な時には『命令』させてもらう事になると思います」

 

その必要な時、を判断する経験も僕はまだ足りていない。判断の経験ばかりは、がむしゃらに訓練してどうなるものではないし、かといって何もしなかったら経験なんて益々得られない。

だったら、現状での最良だと思うことをしておく。

それまでの、お互いがお互いの判断でいい結果を出せていた頃みたいになれるように。

 

「あ、もう最後の座学の時間ですね。行きましょうか」

 

ソファーの二人にも声をかけて、その時間講義を受ける場所まで向かう。

ふと振り返ったナナさん。

 

「デイト、なんか変わった?」

 

そんな事を言ってきた。

 

「そうですね。いい方に変わって行ければと思ってますよ」

 

言い終わったとたん、後ろから首に衝撃。前に引かれてつんのめるような体勢になってしまう。

 

「ま、あんま根詰め過ぎんなよ。俺たちもフォローするからさ」

「はい、先輩」

 

何故だろうか。いい人で居ようとしていた頃よりも、今の方が人が近い。

その事が不安で、でもとても嬉しかった。

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