GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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第27話

数日後、シエルさんの言うとおり局長室に出向く事になった。

内容は局長から許可を貰うために説明を行うことだったけれど、その説明も、局長と博士たちとの間ですんでしまう。

僕たちは、まあ立っているだけで良かった。実際に許可を貰う部隊が顔も見せないというのでは話にならないから現場に居る、という程度のものだろうけれど。

とりあえず、その話も無事に済み、今僕たちはやっと解放された所だ。

けれど、みなさんが僕を見る目が何時もと少し違う。一体どうしたというのだろうか。

 

「…なあ、デイト。お前、今怒ってるだろ?」

「え?嫌だなあ先輩。どうして僕が怒るんですか。無事に許可も貰えそうですし、怒る事なんて何も無いじゃないですか」

 

「あはは」と笑う僕に、益々みんなの目が刺さる。

 

「まあ、動物園みたいにアラガミがみんな檻にでも入っていてくれれば楽ですけどね、ほんとに。局長の所の会社で作ってくれませんかね。出来るのなら」

「…怖えよ」

 

また「あはは」と続ける僕に、小さくつぶやく先輩。

その評価には首を傾げざるを得ない。口調は何時も通りの筈だし、特に怒って見せている訳でもない。表情は何時もの通り、笑っている筈だ。

まあひとまず。

 

「冗談は置いておいて、無事に極東へ行けそうでなによりです。その間の任務も、頑張らないといけませんね」

 

「冗談?」という声が聞こえてきた気もするけれど、気のせいという事にしておく。

なんだんかんだと、極東の皆さんに会えるのも楽しみなのだ。

 

「やっぱり、帰るのって楽しみ?」

「そうんですね…。みんなと一緒だから楽しいのかもしれません」

「そっかぁ」

 

僕の答えに、嬉しそうにうんうん頷くナナさん。

言ったとおり。一人ではなく、新しい仲間、『家族』と一緒だと言う事が大きい。

こちらでも大切な人たちが出来た事を、知らせたいと思ったのかも。

そう思える相手が出来た事が嬉しくて、自然と顔が綻んだ。

 

 

 

もう慣れてきたカウンセリングというソウ先生との会話。

最近は目立った問題も無いので、本当にただのお喋りだ。

お茶を飲んで、たまにお菓子なんかが置いてある事もある。

 

「これだけの期間問題がないとなると、大丈夫だって言ってもいいんじゃないかな」

「そうですか…、良かったです」

 

笑ってそう言うと、ソウ先生が少しばかり意外そうな顔をする。

どうしたのかと首を傾げれば、「いや…」と言いにくそうに口を開いた。

 

「当然かもしれないけれど、君も変わったと思ってね」

「そう、でしょうか?そうだったら、嬉しいです」

「…本当に変わったよ。やっぱり、若い人はいいね」

 

おどけた様な仕草でそんな事をいう先生、それに笑いがこぼれてしまう。

最初と比べて、こうして砕けた会話も出来るようになって来た。勿論、最低限の礼儀、とでも言うべきものは持ってだ。

 

「先生だって、まだまだじゃないですか。僕のお兄さんって言っても通じるでしょう?」

「解らないよ?こう見えて、凄く若作りかもしれない」

 

「そんなあ」なんて言いながらも、笑ってしまう僕。

しばらく、他愛のない事を話した後何時もの質問をする。

 

「それで先生。今度の診察は何時ですか?」

 

間隔が開き、不定期になった頃から、こう聞くのがお決まりの様になっていた。

決まっていればこの場で教えてくれるし、先生の都合で決まっていない時も、そう言ってくれる。

今回もそうだと思っていたのだけれど。先生は少しばかり困った顔のまま僕を見ていた。

そうして、一見関係のない事を口にする。

 

「今度、極東に行くんだってね」

「あ、はい。もうご存じだったんですね」

「うん。まあね」

 

何故か歯切れの悪い先生。

少しの間悩むような表情を浮かべていたけれど、大きく息を吐くと真剣な表情で僕の方を向いた。自然、背筋が伸びる。

 

「実は、君たちが極東支部に出向く間、僕は本部へ向かう事になってね。きっと長期間向こうへ行くことになるはずだから、その間君のカウンセリングが出来なくなってしまう…」

 

突然の言葉に驚いて、何もいえなかった。

いや、突然だったのは先生もなんだろう。戸惑いの滲んだ表情からそれが伺える。

 

「ああ、でも心配しないで。ラケル博士の方とも情報の共有はしていたし、今の君の状態なら問題ないはずだ」

 

僕が黙ってしまったからだろう、先生が慌てたように付け足す。

けれど、そういう所に関しては心配していない。博士から依頼された先生だという事もあるし、何より今までの会話からも、そう言うところを等閑にしない人だと感じていたから。

けれど、寂しいと思ったのも事実だ。

親しくしてくれた相手と別れるのは寂しい。たとえ、先生の方は仕事だからという理由だったとしても。

けれど、別に一生会えないという訳でもない。本部への出向という事だから、その用事が終わればまた戻ってくるのだろうし。

それなら僕に今出来るお礼は、先生が心配しないよう見送る事だ。

 

「少し寂しいですけど、お仕事なら仕方ないですよ。今の位置からとなると、本部は遠いでしょうから…お気をつけて」

「…うん、ありがとう」

 

少し安心して貰えただろうか。

いくらか表情が軟らかくなった先生が、笑ってそう言ってくれた。

 

「ああ、そうだ。よかったらこれを預かって置いてくれないかな」

 

そう言って差し出されたのは、随分草臥れた袋だった。許可をとってから中を覗くと、古いノートが入っている。

 

「これは?」

「それは、私の父が使っていたノートでね。研究内容が書いてあるものなんだ」

「えぇ!?」

 

驚いてしまう。けれど、どこに驚いたのかは自分でも解らない。

先生のお父さんも研究者だった所か、それとも研究内容の書いてあるなんていう大切なものを渡されたところにか。

 

「あんまり気負わないで。中の研究成果自体は、もうデータとして保存してあるから。ただ、道中でもしアラガミに襲われたりした時に、破損したり、無くしてしまいたくないから、預かっていて欲しいんだ」

「先生…」

 

そう言われたら、断るなんて事出来ない。

これはきっと、無事に帰ってくる為の願掛けでもあるのだ。

 

「…解りました。僕がお預かりさせていただきます。だから…帰ってきてくださいね。待ってますから」

「うん。ありがとうデイト君」

 

そう言って手を差し出してくる先生。頭を撫でた以前とは違って、それは僕の前で止まる。

子供や、治療対象としてではなく、対等に見て貰えた気がして嬉しかった。

その後、まだ色々準備なんかがあるという先生と別れて部屋に戻った。

一人の部屋で、あの人の事を考える。

柊さんだ。

あの時は何も解らず分かれる事になったけれど、極東に戻れば、顔を合わせることもでてくるかもしれない。

みんなが楽しそうに話していたから気をつけていたけれど、あの人と顔を合わせる可能性を思うと、やっぱり少し気が重い。

けれど、逃げている訳に行かないのも事実だ。

 

「うん、大丈夫!」

 

何が、とか。そういう細かいところは考えてない。けれど、声にだしたら少しばかりすっきりした。

大丈夫。嫌いなら嫌いでいい。それでも僕は、あの人も含めたみんなを守るだけだ。

一度そう考えると、不思議と、更にやる気が出てきた。

 

 

 

 

「…こんなものかな」

 

部屋を見回すソウ。

フライアに所属していらい暮らしてきた部屋は、今はいつもより更に整頓されていた。

部屋の隅には、本部へ提出する情報が納められたケースがあった。

並大抵の衝撃では壊れない、特別なケースだ。フライアのみならず、フェンリルの物資なども、これと同じ作りの入れ物で運ばれる。

その荷物の中には、彼が以前プリントした書類も入っていた。

 

「……」

 

覚悟の伺える目でそれを見つめるソウ。

その目がふ、と緩む。

デイトに渡した袋。あれを渡した時の彼の反応を思い出したからだ。

最初は、いわゆる『いい子』で居ようとしている事が伺えるばかりだった。

誰にも頼らないで生きていかなくてはならない。

保護されたのだから、大きすぎるその恩を返すためにも役に立つ自分でなくては意味がない。

そんな、強迫観念じみた考え方をするところが多く見受けられたけれど、徐々に、そんな考え方が変わってきたようだ。

当初のままだったら、いくら自分に託された物とは言え、中身を見ていいか聞くこともなかっただろう。ただ預かって、ただ返すだけだったはずだ。

その変化の全てを自分が導いたと思うほど、傲慢ではなかった。

心や精神とは、周囲との関わりで絶えず変容していくと考えているからだ。

それでも、人の。いや、デイトの変化に関われた事を、ソウはうれしく思った。

 

「あの人の代わりだけれど、少し位の罪滅ぼしにはなったかな」

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