GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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第29話

「おはよ……。…デイト?」

「はい、おはようございます。先輩」

 

まず僕に気づいたロミオ先輩。その挨拶が中途半端に止まり、まるで確認する様に僕の名前を呼ぶ。

その様子に、他の皆も僕の方を振り返った。

その表情が、多少の違いはある物の驚きに変わっていく。

 

「…そんなにおかしいですか?」

 

あんまり皆が凝視するものだから不安になる。

確かに、自分でも切りすぎたとは思っているのだ。もう少し、後ちょっと、とやっている内に、予定よりも大分短くなってしまったから。鏡の前で鋏を手放した時には、ロミオ先輩より僅かに長い程度にまで来てしまっていた。

 

「いや。いいんじゃないか?」

 

そう隊長が言い。それに続いて皆も同意してくれる。

いや、同意されなくても切ってしまった髪は戻らないのだから、どうしようもない事と言ってしまえばそれまでなのだけれど。それでも嬉しいものは嬉しい。

 

「お前って、くせっ毛だったんだな」

「前はきっちりセットしてたからねー。気づかなかったよ」

「そうですね。前はその…ちょっと思うところがあって、セットするようにしてたんです」

 

先輩とナナさんの言葉をはぐらかすような返事。隠すつもりでは無いけれど、積極的に話したいことじゃない。

なのに。

 

「…ガキっぽく見られんのが嫌だったんだろ?」

「なっ!?」

 

ギルさんの指摘に驚きが隠せない。「やっぱりか」なんて声が聞こえてきそうな表情。その通り過ぎて、否定の言葉も思いつかなかった。

 

「え?お前、そんな事考えてたの?」

「そんな事って…。…僕にとっては大切な事だったんです」

 

声が少しばかり拗ねたような調子になってしまう。

ああ、もう。これじゃあ駄目だ。いくら何でも子供っぽ過ぎる。

 

「…大人の人に混じって仕事をする訳ですから、見た目を少しでも大人っぽくした方がいいかと思っていただけです」

 

そんな僕の言い訳に、ギルさんが目で「ガキだな」と言っている気がする。

いや、被害妄想は止めておこう。それに、実際自分でも子供っぽいなあとは思っているのだ。

だから、少しばかり気まずそうに見ている二人に向けても言っておく。

 

「でも、別にもうそんな必要無いかなって。見た目ばっかり気を使ってもしょうがないですし」

 

背伸びを止めて、ちゃんと地に足を着けて歩いていけば、きっとちゃんと進んでいける。無理な状態で歩いて行っても、途中で辛くなるだけだ。

 

「どんな見た目でも、子供っぽくても、僕は自分にできる事をしていければいいかなって。そう思っただけです」

 

まあ、まだ現状では開き直りが半分ほど混ざってはいるけれど、別に嘘を言っている訳じゃない。

家族に、こういう類の嘘を吐く気は毛頭無い。

けれど、そう言った僕を何故か皆が、程度の差こそあれまた驚いた顔で見つめている。その中で隊長だけが笑っていた。

 

「…ま、良いんじゃないか?せいぜい頑張ってくれよ、副隊長」

 

そう言って肩を叩いてくるギルさん。その顔には、若干人の悪い笑みが浮かべられていた。

 

「さあ。皆そろった所でクジョウ博士の所に向かうぞ」

 

クジョウ博士の所へ向かうという事は、神機兵の方の準備が終わったという事だろうか?

皆に続いて部屋の扉を潜ると、中にはやっぱり顔色の良くないクジョウ博士がいた。

 

「あぁ…すみませんね、ご足労いただいて」

 

「どうぞ、かけてください」と言って、備え付けの椅子を示す。

自分はモニターの前に立ったままだ。

 

「えー…。今回は、ブラッドの皆さん直々に…」

「御託はいい、さっさと本題に入ってくれ」

 

クジョウ博士の言葉を遮って先を促すギルさん。博士の方は萎縮してしまった様子で、けれど説明を続ける。

 

「確認されているのは、コンゴウ種とシユウ種のようですが」

「え、ええ。そうです。そいつらを討伐し、神機兵が一対一で戦える状況を、皆さんに作って頂きたいのです」

 

僕と隊長で事前に伝えておいた内容。けれど、やっぱりナナさん、先輩、ギルさん辺りの表情は不満そうだ。

それに気づいていないのか、それとも気づいていてそれでも続けられる心の持ち主だったのか、博士は説明を続けていた。

内容はあの時聞いたものと殆ど同じ、対象アラガミを討伐した後、神機兵一体につき一人が付き添って護衛兼観察。一定時間が経過するか、異常が確認されたときに報告を行う、というものだ。

もう少し細かい内容を詰めよう、という事になった時、誰かの端末が震える音がした。

動いたのは隊長だ。

端末を取り出すと、一言断りを入れてから通信を入れる。

ひとまず小休止になるだろうかと思われた。けれど、隊長の顔がどんどん険しい物になっていく。

その空気が伝わったんだろう、その場の全員が隊長を見つめていた。

隊長の言葉を聞く限り、また感応種と思われる個体が現れたらしい。その言葉にクジョウ博士以外の全員が緊張を高める。ひょっとしたら神機兵護衛任務の前に、そちらの救援に向かう事になるかもしれない。

通信を終えた隊長がこちらに向き直る。

 

「隊長、今の通信は…」

「ああ、聞いていたと思うが、どうやら感応種が現れたらしい。オウガテイルと似たような外見だと言うことだが、知っての通り感応種に従来のゴッドイーターだけでは対応できない」

 

隊長の言葉に頷く。実際に見た事は無いけれど、従来の神機では正常に作動しないという話だ。

 

「では、私たちが…?」

 

シエルさんがそう言うと、クジョウ博士が「そんなっ」と、通信が入ってから初めて反応を示した。

 

「今ブラッドに…貴方達に抜けられては困ります。神機兵の方も、開発を急がなくては…」

 

博士は博士で、局長の方がうるさいのだろう。それはある程度理解できる。けれど、今はそれよりも人命の方が大切だ。

「そんなことを言っている場合では無いでしょう」、と言おうとした時、隊長が僅かに先んじて口を開いた。

 

「はい。神機兵の護衛も疎かにはしないように、と局長の方からも連絡がありました」

 

隊長のその言葉に僕たちは唖然と、博士の方はほっとした表情になる。

つまり局長は、救援要請を無視して神機兵を護衛しろと言うのか。

見殺しにしろ、と。

自分でも、カッとなるのが分かった。ナナさん、ロミオ先輩も理解できないという顔だ。

ギルさんは帽子と髪のせいで表情こそ伺えないけれど、その雰囲気だけで頭に来ている事が分かる。

いや、いけない。落ち着いている隊長やシエルさんを見習わないと。

 

「…それでは、救援要請は受け付けないという事ですか?」

 

自分でも、声が震えていた気がする。

隊長にぶつけても仕方がない、何の解決にもならない。けれど、自分の感情を抑えるのが何故か難しかった。

 

「…いや、救援にはオレが向かう。副隊長、お前に神機兵の護衛を任せる」

「ぇ…」

 

隊長の答えに、僕以外も驚いたようだ。

クジョウ博士は「神機兵搭乗経験のあるジュリウスさんが抜けるのは…」と難色を示す。けれど、隊長は毅然とした態度を崩さなかった。

 

「全員で救援に向かい、直後に護衛任務に出ることも可能でしょう。しかし、そうなった場合神機兵の護衛を十全にこなせるかという不安が残ります。けれど、神機兵の無人運用のテストも先送りにはできないのでしょう?」

「それは…はい…」

 

おどおどと同意するクジョウ博士。博士自身、局長からもそう言われているんだろう。

そんな博士から視線を外し、隊長が僕を見る。

ピリッとした緊張が走って、椅子の背もたれをつかんでいた手に力が入った。

 

「副隊長、お前には神機兵の護衛任務を頼む」

 

その言葉に、流石に部屋がざわつく。驚いていないのは発言者である隊長だけだ。

 

「俺は救援要請に向かう。情報通りなら俺一人で対処可能だろう」

 

「なら僕が」と言いそうになるのを堪える。

冷静に考えて、僕より隊長が向かった方が救援対象の人たちも生還率が高くなるだろう。

こちらはあくまで露払い。付近には感応種の反応もない。それならば、という事だ。

 

「頼んだぞ、副隊長」

「…はい」

 

僕が頷くのを確認して、すぐに隊長は部屋を出ていった。博士が止める暇もない。

 

「…少し予定とはズレが出ますが、神機兵を一体減らしてテストを行う方向でどうでしょうか」

「そうですね…それしか無いでしょう…」

 

博士の方も、完全にとは言い難いけれどひとまず納得はしてくれたようだ。

無理に予定数の神機兵を起動しても、監督が行き届かない方が、結果として効率が悪いと判断したんだろう。

動員する神機兵と、その割り当てを決める簡単話し合いを始める事にした。

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