GOD EATER2 ~Nam Oratorium~ 作:〆渡
試験を終えて、ロビーへと戻る。
ここに来た当初はそこまで気にしている余裕が無かったけれど、改めて見ると極東とは随分と雰囲気が違う。どこか職員も穏やかというか。いや、決して極東支部の職員がピリピリしていたという訳ではないけれど。
それにしても、他の支部はみんなこんな雰囲気なのだろうか。
カウンターに居たオペレーターのフランさんや、案内をしてくれた職員さんに進められた通り、エレベーターを使って庭園フロアに向かう。
言葉の意味は知っているけれど、ここに来るまで実物を見たことは無かった。
例えば、外部居住区なんかでも余裕のある人は、個人的に一つ二つの植物を育てていたりしたものだけれど。食用でもない植物が群生している場所なんて、今の時代滅多に見られるものじゃない。
エレベーターが静かに止まって扉が開いたとき、まだ嗅ぎ慣れない臭いと一緒に様々な色が目に飛び込んできた。
サクリ、という音と、足裏からの感触に、くすぐったさを覚えて頬が緩んでしまう。
左手側に設置されている東屋の近くまで来たとき、奥に生えている大きな木の下に座っていた人物に声をかけられた。
「ああ…適合試験、お疲れ様。無事終わって何よりだ」
「ありがとうございます、ジュリウスさん。…あ、これからは、ジュリウス隊長、とお呼びしないとですね」
「ああ。これからよろしく頼む、デイト」
そう言って、アッシュブラウンの目を細める。
普段は無表情のせいで近寄りがたい雰囲気を醸し出しているけれど、こうして表情を動かせばそれも一変して、柔らかい空気を纏う。
もっとも、それを知ったのはフライアに移ってからここ2、3日の事で、最初に会った時は緊張したものだけれど。
1週間程前、このジュリウス隊長とその育ての親でもあるらしいラケル博士が極東支部を訪れた。
最初は、珍しいお客さんだという程度の認識しかしていなかったおかげで、リッカさんを手伝っての神機の整備中に支部長室に呼び出された時は驚いたものだ。
何せ、訳も解らず支部長室に行ってみれば、一見自分と同年代位の少女に「貴方を迎えに来ました」と言われたのだから。
その時のサカキ支部長がなんともいい難い表情をしていたのは、ちょっとした思い出だ。
その後、サカキ博士も交えての会話となり―と言っても、混乱していた自分と、ラケル博士の付き添いとして来たジュリウス隊長はほとんど口を開かなかったのだけれど―ラケル博士の語る内容に、ひとまず納得した僕はここ、フェンリル極地化技術開発局、フライアに移籍してきたのだった。
「それにしても、やっぱりここは落ち着きますね」
「あぁ」
隣のジュリウス隊長と同じように黙ったまま、この場所を僕なりに満喫する。
偏食因子の組み込まれた特殊なガラスの向こうには、晴れ渡った青空が続いていて眩しいくらいだ。
アラガミの心配もなく、植物に囲まれて空を眺める。そんな贅沢な時間は名残惜しいけれど、そうゆっくりしていられない。
そろそろ訓練場に行かなければ。
立ち上がった僕をジュリウス隊長が見上げる。
「そろそろ行くか?」
「えぇ。早く実戦に出られるようになりたいですから」
「いい心がけだ」
そう言って、ジュリウス隊長も立ち上がる。そうすると、やはり僕よりも隊長の方が背が高い。
ズボンに付いた草を払うと、僕たちは訓練場に向かうため、エレベーターに乗り込んだ。
訓練場のあるフロアで降りると、軽い挨拶をして分かれる。
僕は訓練場前へ、ジュリウス隊長は別の扉へ。
極東とは違い、無骨さをあまり感じさせない扉。それを潜ると、既に運ばれていた僕の神機と、それを運んで来てくれた職員さんがいた。
「デイトさん、こちらが貴方の神機になります」
「ありがとう御座います」
微笑みながらお礼を言う。
笑顔は万国共通。それは、今もそう変わらない。
「それでは」、と退出する職員さんを見送って、神機が納められたケースを開く。刀身、銃身、装甲。それぞれのパーツが折り畳まれた状態で納められている。まるで、体を丸めて眠っているみたいだ。
「行こうか」
神機の柄を握ると、目を覚ましたようにオレンジ色のコアの周辺から数本の触手が伸びる。
それが腕輪の穴に潜り込んでいき、数秒もしないうちに、戻っていった。
最初にこうして接続起動さえしてしまえば、大丈夫らしい。
昔、それこそ最初期の神機は、使っている間ずっと腕輪と接続していないとならなかったそうだけれど、今では随分動きやすくなったものだと感心せざるを得ない。
確かに、戦闘中ずっと繋がっていたのでは動きも制限されてしまうだろうから、喫緊の課題でもあったのかもしれなかった。
訓練場内部に続く扉を潜る。
そこは隊長を含む僕の先輩達が何度も使ってきたのだろう痕が残されていた。
やはり、少しは緊張してしまう。そんな僕の心中を知ってか知らずか、スピーカー越しに先ほど分かれたジュリウス隊長の声が聞こえてきた。
『ではこれより、訓練を開始する。』
「よろしくお願いします」
小さく頭を下げ、神機を構える。今回の装備はショートブレードとスナイパー。
僕と適合した神機の本体は、他にチャージスピアとショットガンにも適応できる機体らしいけれど、ひとまず今回はこの装備に慣れておこうと判断した。
次々出される指示通りに体を動かし、暖まったところで、訓練用のダミーアラガミと戦う事になった。
ダミーとはいえ、爪や牙で攻撃されれば痛いことに変わりはない。
疑似コアを中心にオラクル細胞群が形成され、オウガテイルを模した姿に固着する。
それが完全に終わる前に、高い方の段差に上り神機を銃形態に移行、エイムモードを起動してダミーに狙いを定める。
相手がこちらに気づいた時には、照準は定まっていた。
まずは右目に1発、そして咆哮を上げ大きく開かれている口に2発。
それでダミーはあっけなく倒れた。
一息ついて台から降りる。
『よくやった。―だが、まだ終わっていないぞ』
「ギャオオオォォォォォォッ」
「!?」
丁度前後を挟まれる形で2体のダミーが急速固着する。
飛びかかってくる後ろの1匹と、尾による凪ぎ払いを仕掛けてこようとする前の1匹と。その2匹からステップで距離を取る。
大きく開いた距離で神機を剣形態に戻す。
今度は2匹とも尾の先から針を飛ばしてくる。床に刺さった分が耳障りな音をたて、残りは僕が展開した装甲、シールドに弾かれ火花を散らした。
「…驚きました…」
装甲を閉じると、また針を飛ばそうとこちらに尾を向けている二匹のダミー。先ほどの衝撃だけで軽く手が痺れているのに、もう一度防御してまともに神機を握っていられる自信は、ちょっとまだない。
それならと、射出された針の上を飛び、上からダミーの胴体を地面に縫い止めそこを支点に回転。着地の勢いに逆らわないで神機を持ったまま転がり距離を取る。
「ギョアアァッ」
もう一匹が再度放った針が僕の転がった後に突き立っていく。まだ倒れているダミーにも何本か刺さっているけれど、それによるダメージは感じられなかった。煩わしそうに体を揺すったものの、それを取り込みさっき僕の神機が刺さった傷を修復してしまう。
「反則ですよねぇ…っと」
尾をバネに飛びかかって来た所を避わす。そのままの勢いで、まだ奥にいる別のダミーに切りつける。怯んだ所を更に切りつけ、そのまま行動停止にまで追い込んだ。
「後一匹」
懲りずに飛びかかってくるダミー、それを下からの切り上げで怯ませ、返す刀で打ち落とす。
切っ先が下を向いている神機の捕食形態を起動、そのまま真下で起きようと足掻いているダミーに、大きく開いた黒い顎を向けた。
「ごちそうさま」
バクリ、とダミーを捕食すると、神機から何かが伝わり、活性化した僕の中のオラクル細胞が熱を持ち始める。
「これがバースト状態…」
当然ながら初めて経験するバースト状態。ただでさえ尋常ではない身体能力を持つゴッドイーター達の能力をさらに底上げする、切り札のようなもの。
確かに、この状態なら今でも中型アラガミ位なら一人で討伐できるような気がしてしまう。
握りしめた神機の向こうに、今度は4体のダミーが出現するまでは、そう思えた。
「……」
ジュリウス隊長は、天然で鬼教官。そう、心のノートに刻むことにした。
*
訓練場を見渡せる部屋で新人の様子を監督していたジュリウスの元に、オペレーターのフランから訓練の経過情報が送信される。
一体のダミーを倒すのにかかった秒数等の戦闘情報、そして、脈拍や心拍数などのバイタル情報。
おそらく、ラケル博士にも同様の報告が送られているのだろう。
なおも情報を受信し続ける端末から目を上げると、ダミーの残骸に囲まれながら、神機を支えにやっと立っている状態の新人を見てその目を細めた。
「頼もしい事だ」
情報の繰り上がりで画面から消えた総討伐数ーその数55。
ダミーとはいえその数を討伐した上で、神機を支えにしているとはいえ立っている。
ジュリウスが訓練の終了を告げてようやく、彼は崩れるように座り込んだ。