GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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第30話

細かい担当なんかも決まり、移動用のヘリに乗り込むために皆で廊下を歩いていた。けれど、いつもより口数が少ない。

 

「…ジュリウス、大丈夫かなぁ…」

「大丈夫だって、ナナ。ジュリウスなら、アラガミが何匹かかってきても軽ーく捻って帰ってくるよ」

 

殊更明るいロミオ先輩の声も、少しばかり空しく聞こえる。

隊長居ない時だからこそ、こんな空気じゃだめだ。僕がしっかりしないと。

 

「そうですよ、ナナさん。帰ってきた隊長を迎える為にも、僕たちは僕たちの仕事を頑張りましょう?」

「デイト…うんっ」

 

僕が笑ってそういうと、ナナさんも笑って頷いてくれた。それを見て、黙ったままのシエルさんにも目を向ける。

表情はいつもと変わらないけれど、手が自分を抱くような形で組まれている。何となく、緊張していたりするときの癖なのかな、と思った。

 

「シエルさんも。帰ってきた隊長に何を言うか、今から考えておくと良いかもしれませんよ」

 

僕の言葉に、シエルさんが顔を上げる。そして、やっと小さく笑ってくれた。

 

「…そうですね。きちんと、考えておかなくてはいけませんね」

「ええ」

 

まだ、完全にいつもの雰囲気に戻った訳じゃない。けれど、さっきよりは断然に良い空気だ。

仕方のない状況だったとはいえ、隊長は僕達を信じて任せてくれたんだ。なら、その信頼を裏切るなんて真似はできない。

何より、裏切るつもりなんて無いのだから。

 

 

 

屋上に位置するヘリポートでは、移動用のヘリが、飛び立つ準備を行っていた。

数は二つ。僕たちが乗るものと、神機兵を運ぶ為のものだ。

収納された状態でも大きい。確かに、あのケースが一緒に乗り込む事になったら、人の居るスペースが無くなってしまうだろう。

 

「はー…、でっかいなー」

 

思わず、と言った感じで感嘆の声を漏らすロミオ先輩。ケースは、そんな先輩よりも高さがあった。

 

「せんぱーい、デイトー。そろそろ出発するってーっ」

「おう、今行くーっ」

 

回転するプロペラの音にかき消されないように声を張り上げる二人。

 

「さて、それじゃ行くか」

「はい。頑張りましょう」

「頼りにするぜ、副隊長!」

 

バシッ、と背中を叩きながらのそんな言葉。

遠慮の無いやり取りが、妙にくすぐったかった。

 

 

 

吐く息が白い。

ヘリから見た景色には氷が浮かぶ湖があり、周囲の山には雪が積もっていた。

当然、現在は閉じている堤防部分にも、雪が積もっている。

けれど、今では人も居ないだろうに、堤防あたりの雪は端や日陰にしかない。

つまり、人間以外の生き物。その殆んどはアラガミだろうけれど。それらが頻繁に現れる、という事を表しているのだろう。

幸い今は晴れていて、雪が降るような心配はない。ヘリの着陸場所から作戦開始地点まで移動する間にも、新しく降る雪に視界を塞がれ、足を取られるという事は無かった。

 

「副隊長、こちらの準備は終了しました」

「あ、はい。今行きます」

 

シエルさんの声に促されて皆の処へ戻る。

そこには僕たちだけで、まだ神機兵の姿はない。

少し時間をずらして直接輸送される事になっている。僕たちが露払いを終えたら、即機動する事ができるかららしい。

露払い中に被害が出でもしたら困るんだろう。

なんだかなぁ、と思わない事はないけれど、一度引き受けた以上はきっちりやり遂げなければ。

局長やクジョウ博士は置いておくとしても、隊長からの信頼には応えなくてはならない。

 

「では、当初の予定通り最初にA地点のコンゴウを、その後でシユウに対処しましょう」

シエルさんとの会話を終えてそう言うと、ギルさんが口を開く。

「二手に分かれなくていいのか?」

「それも考えましたけど、それぞれの距離と位置を考えると今回は分散して戦うより、集中してそれぞれを撃破した方が、結果として被害が少ないと判断しました」

 

情けない話ではあるけれど、やっぱり僕はまだ弱い。自分の責任で誰かが傷つくのが。それが仲間であることが怖いんだ。

それでも決める事は決めなくちゃいけない。

それに、僕が仮にとんでもなく見当違いな事を言ってしまっていたら、経験からギルさんが、知識からシエルさんが止めてくれるだろう。

深呼吸をして神機を握る。集中した時に訪れる、幕を引いたような感覚にも慣れてきた。

 

「ブラッド、作戦を開始します」

『了解しました。ー御武運を』

 

フランさんの声が途切れ、僕たちも行動を開始する。

地を蹴り、下にある円形の広場に降り立つ。

一本道の様な堤防を進んだ先に、元は水上にせり出した通路だったと思える箇所がある。現在は途中で壊れ、人間にとっては行き止まりと言っていい状態になっている場所。

その場所に、こちらに背を向けた状態のコンゴウが居た。どうやら寒冷地適応型の堕天種では無いようだ。

その無防備な背に、複数の補食口が殺到。悲鳴のような鳴き声を上げるコンゴウの周りで、オラクルが活性化したときの光が発生した。

損壊したにも関わらず、変わらぬ動きで振り返るコンゴウ。その周囲から僕たちが散開した処に、後方からレーザー状のオラクルが束になって殺到。コンゴウの体の随所に、文字通り喰らい込んでいく。

「ウゴォオッ」と吠え、後ろへ座り込む。そこに、容赦のないナナさんの一撃が振り下ろされ、面部分が破砕された。

 

「よっし、もうちょっと!」

 

割れた面を庇うような体勢で、今度は背中を丸める。

そんなコンゴウに、僕、先輩、ギルさんからの攻撃が殺到する。

僕の切り上げと交差するように降り下ろされた先輩のバスターブレー

 

ドがパイプ器官を破壊、空気を利用した攻撃手段を奪う。

更に、駄目押しとばかりに決められたギルさんの刺突で地に縫い止め一瞬の自由を奪う。シエルさんからの的確な狙撃で少しずつぼろぼろになっていたコンゴウは、自力ではどうにもできない状態になっていた。

ギルさんが離脱し、のそりと起きあがるコンゴウ。地面に両腕を叩きつけ威嚇を行う。その時丸めた背、その亀裂からその個体のコアが見えた。

 

「そこですね…」

 

空中で最大まで補食口を展開、コア毎コンゴウの体を食いちぎる。

断末魔まで生物を真似るように痙攣、腕が地面に落ちたところで離散が始まった。

 

「楽勝だったな」

「ええ。流石に5人居ると違いますね」

 

先輩とシエルさんがそんな会話をしている。その横で位置情報を確認すれば、シユウらしい反応がこちらへ向かっているような動きをしていた。

けれどまだ距離はある。シユウはコンゴウと違って、特別聴力に優れていたりするわけでは無いから、まだ問題はない。

この間にみんなに問題がないかざっと確認しておいた方がいいだろう。

とは言っても、先ほどの戦闘では消耗したのはシエルさんのオラクル位だ。

息切れも無い。

銃形態に変形し、銃口をシエルさんに向け引き金を引く。

発射された濃縮弾がシエルさんに吸い込まれ、リンクバーストが発動。全員がバースト状態になった事を確認、短く声をかけて移動を開始した。

一直線の堤防を駆ける。

陽の光を反射して光る手すりと湖面。それを受けながら、先ほど確認した地点まで走る。けれどおかしい。

シユウは、超巨大とは言わないまでも、人と比べると大きいアラガミだ。

それが、こんな見晴らしのいい場所で見あたらないものだろうか。

 

『ブラッド1、アラガミの全反応が消失しました。討伐の方が完了しているなら報告を』

 

フランさんから入った情報に僕たち全員が顔を見合わせる。確かに今さっきコンゴウは倒した。けれどシユウには遭遇してすらいない。

 

「フランさん。シユウの反応まで消失したんですか?」

『はい。こちらではそのような観測結果になっています』

 

通信の向こうからも、少しばかり困惑したような声。今の会話で、僕たちがまだシユウと交戦していない事に気づいたんだろう。

でも、それならシユウはどこに消えたっていうんだ。

コンゴウ討伐直後はまだ確認できていたはずだ。

どうしたものか。完全に討伐できたと言えない以上、神機兵の運用テストを開始する訳にもいかないだろう。

かといって、反応の無いアラガミをこの人数で探すのも難しい。

というか、こんなに見晴らしがよくて見つからないものをどう探すというのか。

 

『ブラッド1、聞こえていますか?局長の方から指示がありました』

「…なんと仰っていましたか?」

 

嫌な予感がする。時間を惜しむ性質からして。

 

『アラガミの反応が無いなら、早急に運用テストに移るように、と』

 

通信はみんなの耳にも届いていたらしい、シエルさん以外の顔に、若干の不満と不安が滲む。

 

「……」

「副隊長、局長の言うとおりです。反応が消失した以上、テストを開始した方がよいかと」

「…そう、ですね。解りましたフランさん、神機兵の配置が完了したらまた連絡します」

 

『解りました』という返答を最後に一度通信を切る。

嫌な予感はするけれど、根拠のない事で作戦を中止する訳にもいかない。

きっと、この予感のようなものだって、自分の弱気から来ているんだろう。

 

「みなさん聞いての通りです。これからそれぞれ、担当の神機兵と一緒にテストに向かってもらいます」

 

最初はここと同じような作りの堤防の両端にそれぞれ一人ずつが配置、テストを行う予定だったのだけれど、今の人数では1人のあまりが出てしまう。

そこは僕が担当しようと言ったのだけれど。

 

「では、神機兵βの護衛に向かいます」

 

シエルさんに反対されてしまった。

彼女の言い分は、「仮に問題があった場合、搭乗経験のある自分の方が対処が容易」だという事だった。

確かに、搭乗どころか触ったことすらない僕では大きな頼りにはならないだろうけれど。重ねて「私は私のできる事をします。貴方は副隊長としての仕事をしてください」と言われては、それ以上の反論ができなかった。

 

「何かあったら、直ぐに連絡してくださいね」

「はい。迅速な情報伝達は、作戦にも影響しますからね」

 

「そういう事ではない」そう言う前に、シエルさんは神機兵との合流ポイントへ向かっていった。

 

「…おい」

「あ、はい。僕たちも行きましょうか」

 

僕とナナさん、ギルさんと先輩がそれぞれ同じ堤防でテストを行う。

全員が配置に着いたことを確認して、フランさんにテストの開始を告げた。

 

 

 

極々弱い効果を及ぼすフェロモン剤を端の広場に設置。誘い込まれた小型から中型のアラガミを対象にテストを行う。

僕も予定に従ってフェロモン剤を設置、神機兵が起動される。

今回渡された端末には起動と停止の信号を送る機能が備わっていない。最終的には、それぞれの支部で一括管理、把握する予定だそうなので、今回のテストはそれも兼ねて実験しているのだろう。

起動されると、ブレード型神機を担ぐようにして立ち上がる。

何も持っていない方の腕はだらりと下げられ、前傾姿勢をとる姿は、兵というよりも、獣のような印象を受けた。

起動した神機兵は、まだ自分の敵がいないと解っているのか微動だにしない。それはなんだか、繋がれている番犬のようにも見えた。

数秒、視界の先に動くものが見えた。誘い出されたアラガミだ。

 

「またコンゴウ…」

 

誘い出されたコンゴウは、山の斜面から降りてくる所だった。

時折周囲を見回すような仕草を見せている。

神機兵の後方に下がって観察を開始。けれど、コンゴウが広場に降りるまで神機兵の反応は無かった。

障害物とアラガミの視覚識別が鈍いのだろうか。偏食場パルスが罠とアラガミのもので交錯しているだろう現場では、アラガミに対する反応が遅くなる可能性があるようだ。

攻撃面では、確かに評判どおりなのかもしれなかった。僕は他のゴッドイーターの戦闘を見たことがあるわけではないけれど、一対一でもひけはとっていない。

けれど、回避や防御の面が気になる。

回避が大振り過ぎたり、といった細かい点ではあるのだけれど、たまにヒヤリとさせられる。

つい神機を構えそうになったこともあった。

何かあったら、討伐してから連絡をいれる事にしよう。と心に決め観察を続行する。

コンゴウは攻撃時にも隙が大きいから戦えているけれど、他のアラガミだとしたらどうだろう。

今回は見失ってしまったけれど、シユウあたりが相手だったら、今の性能では厳しいのではないだろうか。

コンゴウの空気弾が神機兵に迫り、掠め飛んでいく。それでバランスを崩した神機兵の復帰が遅れ、今が狙いとばかりに再度空気を貯め、あわや。というような場面もあった。

ゴッドイーターの援護位ならともかく、第一線での実戦投入には、もう少し調整が必要そうだ。

今日2度目になるコンゴウの断末魔を聞きながら、そう所見も送った。

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