GOD EATER2 ~Nam Oratorium~ 作:〆渡
復帰報告が終わった後、シエルさんに声をかけられた。どうやら、僕が居なかった間に気づいた事があるらしい。
付いていった先の庭園でいつものように阿屋に座った所で、しばらく間を置いてからシエルさんが口を開く。まるで、何を言うか吟味しているような間だ。
ようやく話してくれた内容は、部隊の遠距離での攻撃について。
バレットエディットの件ではその半分が頭を通過していった。けれど、シエルさんがバレットの事を話す時、本当に楽しそうな表情を見せる事を知った。
そう言えば、僕たちに座学を教えている時もこんな表情だった気がする。
「デイトさん、真面目に聞いていますか?顔がにやけていますよ」
「え?ああ、すみません。シエルさんが随分楽しそうに話すので…」
僕の言葉にシエルさんが驚いた様子を見せる。軽く自分の頬に手を当て、確認する仕草も見せた。
「すみません…」
「そんな、謝る事じゃないですよ。楽しそうなシエルさんを見ているのは僕も嬉しいですし。続きも聞きたいです」
そう言うと、シエルさんもほっとした様子で、けれど気を引き締めるような表情になった。
そしてその話の帰結として、僕は今嘆きの平原と呼ばれる場所に立っている。
平原とは言うけれど、一面の野原という訳ではなく、中央には瓦礫等で形成されたカルデラ、その更に中心には竜巻が吹き荒れている。
その影響だろうか、ヘリではなく車でここまで移動してきた。以前エミールさんが乗っていたようなトラックではなく、もっと単純なジープだ。運転手は僕。たまに隣のシエルさんに方向を確認しながら走って到着した。
道中、僕が居ない間の事を、『報告』としていろいろ聞かせてくれた。
意外な事に、職員さん達の中では今回の懲罰の理由が好意的に迎えられていること。
ギルさんがとても心配してくれていた事。
僕が居るのと居ないのでは、ブラッドの動きがぎこちないという事。これはやっぱり嬉しかった。
そして一番驚いたのは、シエルさんもブラッドアーツ、つまりは『血の力』に目覚めたと言うことだった。
なんでも、あの面会の後の任務で気づいたらしい。
「君のおかげです」
と言われた。
けれど。
「そんな事ありませんよ。『血の力』は、思いの強さで目覚めるのだそうです。だから、シエルさんの中に、それだけ強い思いがあったからだと思いますよ」
「…そう、なのでしょうか」
何故か、少し残念そうな様子のシエルさん。
けれど、僕としてはそれに頷くしかない。
「ええ。…ですが、もし僕にも何かのお手伝いが出来ていたとするなら、嬉しいです」
そう続けると、シエルさんも微笑んでくれた。
「…はい。ありがとう、デイトさん」
何故だろう、他意の無いはずの真っ直ぐな感謝の言葉がとてもくすぐったくて、赤くなる頬を誤魔化す為に、モニターを確認するふりをして顔を逸らした。
いつもの通り、現場から離れた所にジープを停めて、竜巻が見える所まで来る。そうすると、風が強くなったのを感じた。
それでもこの規模の竜巻が発生している割には弱いものだろうか。
空は黒い雲に覆われていて今にも雨が降り出しそうな空模様だし、降られて風邪をひく事がなければいいけど。
風邪と言えば、帰ったらラケル博士からメディカルチェックを受けるようにと言われた。チェック無しに神機兵に搭乗したことによる影響の有無と、懲罰後の体調変化なんかを見るらしい。
手間をおかけしてしまった事については、少しばかり申し訳なく思う。
博士の部屋から出たときにすれ違ったレア博士にも、心配をおかけしてしまったようだ。まあ、レア博士の場合は多少の打算というか、そういうものがあるのだろうけれど。
「デイトさん、準備の方は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
余計な方向に膨らむ僕の思考を、シエルさんの冷静な声が引っ張り戻してくれた。
今回は僕たち二人だけ、正式な任務では無いからお互いに私服のままだ。
新しいバレットの検証をしたい、という事で。極東に近づいている今、付近にサテライト拠点やらがなく、万一にも流れ弾が人に当たらない場所ということでここを選んだらしい。
ドーナツ状の平原には、まだアラガミの姿は見られない。
「確か、ヤクシャ、でしたっけ?」
「はい。コンゴウと同じように、聴覚が発達したアラガミです」
以前、座学で見た映像では、右腕が砲身になった二足歩行の人型アラガミだったと思った。
基本的に射出系の攻撃手段を取り、時には砲身を使っての薙払いもしかけてくる。遠近ともに油断は出来ないけれど、それだけの敵だ。
「では、僕が前衛で引きつけますので、納得するまで試してください」
「はい。ありがとうございます」
見下ろした平原には、ヤクシャ以外にも小型のアラガミが確認できる。神機兵の護衛ではないけれど、ヤクシャの前に全て叩いておきたい所だ。
「ザイゴート種が居るのがやっかいですね…」
ザイゴート種は目敏く、ヤクシャは耳が良い。ドレッドパイクは…置いておこう。
ザイゴートを潰す音がヤクシャに察知されたら、直ぐにでもよってくるだろう。
そして、まっすぐヤクシャに向かっても、姿を見られたら群がられる。
「早々に小型アラガミを撃破し、ヤクシャに当たるべきですね」
シエルさんの迷いのない声。
気のせいか、頭の中がクリアになった気がする。
「こちら日暮、ミッションを開始します」
『了解しました、健闘を祈ります』
聞きなれた声がインカムの向こうから聞こえてきて、それに背を押されるようにシエルさんと地面を蹴った。
着地するより先に、ザイゴートが僕たちを知覚する。
卵に女の人が張り付いたような形状のこのアラガミは、牙の生えた口を大きく開いて威嚇してきた。
現在僕たちに気づいているのは4体。
左右それぞれに2体づつというバランスの良さだ。
何も言わなくても、それぞれ近い方のザイゴートに対応、僕は剣形態で、シエルさんは銃形態で、それぞれ打ち落としていく。
小型アラガミ位なら、一撃で無力化できるようになってきた。自分の成長を嬉しく思う。
最後のザイゴートが低くバウンドして転がっていく。
それが止まったところで、コアを捕食した。正式なミッションで無いとはいえ、資源を持ち帰るに越したことはない。
シエルさんが警戒してくれている横で、送信されてきた情報を確認する。
どうやら、ヤクシャは地図の左側、C地点からこちらに向かってきているようだ。
シエルさんの方も特にオラクルが不足しているという事はなさそうだった。
彼女を見ると小さく頷いてくれたので、敢えて見えるように姿を晒して向かっていく。
視力がそこまで良くないヤクシャは、僕に気づくと屈み込むような体勢でこちらを威嚇してきた。
どうでも良いことだし、まったく直して欲しくはないけれど、いちいち威嚇してくるのは敵と相対している状況でどうかと思う。
それとも、
と、いきなり片膝を着いて発射の構えをを取るヤクシャ。
軌道が固定されているので回避は容易だ。
念のためにシエルさんの位置を確認してから、僅かに横にずれる。
数個の輪が現れ、僕の横を紫のオラクルが通過していった。
まだ体勢を動かせないでいるヤクシャに、ステップで肉薄、その勢いのまま逆袈裟に切り上げる。
これで、今のところヤクシャは僕を敵と認識したはず。よほどの痛手を被らない限り、シエルさんへは向かわないだろう。
予想通り、何度かスナイパーのレーザーに貫かれても、執拗に僕を追い、オラクルを射出してくる。
気を逸らさせない程度に攻撃をし、あとはちょろちょろと逃げるだけの僕の存在は、想像以上に苛つくものらしく、体が所々ちぎれかけているのも手伝ってか、時間が経つにつれて動きが単調になっていた。
そうなってくると避けるのも簡単で、シエルさんの事を気にする余裕も生まれてくる。
周囲にはほかのアラガミの反応も無いため、シエルさんも思うようにバレットを交換できているようで何よりだ。
三本のレーザーが絡み合うように飛ぶ物、放物線ではなくカクカクと屈折するもの、幾重もの円を描いて檻のように見えるもの。
様々なバレットがヤクシャに喰らい込んでいく。
けれど、唐突にレーザーの雨が止んだ。
見れば、シエルさんは困惑したように銃形態の神機を見下ろしていた。
まさか、故障でもしたのだろうか。
腕を押さえ、捕食の為に後退しようとしているヤクシャに止めを刺し、シエルさんの元へ向かった。