GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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第38話

人に聞きながらギルさんを探す。けれど、なかなか見つけることが出来ない。失礼な事を言ったせいで避けられているのかと不安になる位だ。

やっと見つけることができたのは本当に偶然。エレベーターを降りるギルさんと、乗ろうとした僕がはち合わせしたことでやっと会う事が出来た。

一瞬、お互いに驚き固まってしまう。

先に回復したギルさんが、横をすり抜けるように行ってしまう。けれど、ここで只見送っては駄目だ。

みっともなくてもなんでも、きちんと謝っておかなくては。

とっさに掴んだ腕。振り払われる事はなくて、その事に安心する。

けれど、見上げて合った目は、まだ少し不機嫌そうだった。

 

「さっきはすみませんでした、ギルさん」

「……」

 

その表情は変わらないし、ため息すら出なかった。けれど、歩き去ろうとしていた体の向きは変えられ、僕の方を向いてくれた。

 

「あの…僕、失礼な事を言ってしまって…本当に、ごめんなさい」

 

そう言って頭を下げる。

その上から、ギルさんの堅い声が降って来た。

 

「何がその"失礼"になるのか、ちゃんと解ってんだろうな?」

「それは…僕の不用意な発言で、ギルさんに嫌な思いをさせた事、です」

 

ナナさんやロミオ先輩。そしてレア博士のお陰で気づくことが出来たその事。僕が思い当たるのは、これしかない。

けれど、もう一度目が合ったとき、そこに肯定は浮かんでいなかった。かといって、否定したい訳でもなさそうだ。

強いて言うのなら、そう、悲しみや、哀れみだろうか。

けれど、それも一瞬の事で、すぐに帽子の鍔に隠されてしまう。

「ギルさん?」と呼びかけると、ぶっきらぼうな声で「なんだ?」と返事が来る。そのときには既に、あの不可解な感情は伺えなくなっていた。

 

「いえ…。お引き留めしてすみません。聞いてくれて、有り難うございました」

 

掴んでいた腕を放し、軽く頭を下げる。

一先ず謝罪出来たのだから、今はこれ以上何かを言うのは止めておいた方がいいだろう。

まして、見間違いと言われてもしかたのない、一瞬浮かんだだけの感情を追求するのは、それでなくても気が引けた。

 

 

 

 

 

 

デイトと別れ、フライアからあてがわれた自室へ戻るギルバート。

その胸中は、大いにため息を吐いて吐き出してしまいたいような感情に占められていた。

幾らカッとなったからといって、流石に殴ったのはやりすぎたかと反省はした。

謝罪をする積もりは無いし、その必要もないとは思う。先ほど、デイト本人に会うまではそう思っていた。いや、今でもその行為自体の謝罪をする積もりはない。

だが、なぜ彼処まで徹底して、自分の価値を認めないのか。その事が、怒りを通り越して、彼の流儀ではない感情まで抱かせる。

似ているようで、決して重ならないデイトと彼女。

その相違は、二人が自覚する己の価値、そのものと言えた。

 

 

 

 

 

 

「デイト。ギルバートと何かあったのか?」

 

フライアの進路を塞いでいたアラガミの討伐終了後、隊長がそう言ってきた。

思わず、離れた場所でアラガミを警戒しているギルさんの方を見てしまう。これでは、肯定したも同然だった。

仕方なく、小さく頷く。

 

「はい…。ちょっと」

「そうか…」

 

口元に手を当て、何かを考え込む隊長。仲間内の不和を気にしているのだろう。

 

「すみません。改善しようとは、思うんですけど…」

 

けれど、その改善しなければならない事こそが解らないのだ。

以前の言動から考えると、というか。要点も考えずにただ謝罪を繰り返したのでは意味がないどころか逆効果だろうし。

 

「珍しいな」

 

と、そんな呟き声が隊長から聞こえた。

何かと見れば、隊長が僕を見ている。その表情は、微かに驚いているようにも見えた。

 

「何がですか?」

「いや。お前が、俺たちの誰かと引きずるようなぶつかり合いをするのは、珍しいと思ってな」

「…そう、ですね」

 

隊長の言うとおりだ。

だからこそ、今の状態の打開策が解らないのだけれど。

けれど、それでも。

 

「誰かとぶつかる必要なんて、無いじゃないですか」

 

そうしたいという人がいるのなら、僕よりは確実にそちらが優先されるべきなのだから。

けれど隊長は、器用に片眉だけ動かすとそれを否定した。

 

「それは違うな」

 

意外な言葉に、とっさの反応が遅れる。

 

「本当にそう思っているなら、あんな顔をする事もないだろう?」

「それは…でも…」

 

確かに、相手の意志だけを尊重して、自分の意志を押し殺す事を是とするなら、そもそもこんな事を考えて悩む必要はないのだ。なぜなら、相手の意志だけを尊重するのなら拒絶すら受け止めて認めるだけでいいのだから。

その現状を修復しようとする行為、そしてそれを模索するということは、どんな理由があろうと、そこに僕自身の意志があることを示していた。

 

「……」

「デイト。俺は、お前なら皆を旨く纏めてくれると思って、副隊長に任命した」

「…はい」

 

隊長の言葉が突き刺さる。今の僕は、その隊長の考えを裏切ってしまっている。さぞ、落胆されただろう。

 

「その皆の中には、お前も入っている事を忘れるな」

「え…?」

 

驚いて隊長を見る。

背後から夕日に照らされて、輪郭から光に溶けてしまいそうにも見える隊長は、頼もしく見える笑顔を浮かべていた。

 

「みんなの中に…僕が…」

 

想像もしなかった事を想像してみる。

例えば、守る為に矢面に立つのではなくて。守り、守られるように円を組む。その中、円を組む一人に、僕が立つ。

どこか違和感を覚え、それがそれ以上の何か、沸き上がるもので払拭されていく。それが後ろめたく、けれど同時に心が躍っても居た。

 

「まだ、何となくですけど。解ってきた気がします」

 

僕の答えに、「そうか」と頷く隊長。

今ならきちんと解る。皆が僕の言葉に怒った理由が。怒ってくれた理由が。

そして、ギルさんに謝罪したときの間違いも。

それに気づくと、今度はまた別の重苦しさがのし掛かってはくるのだけれど、気づかないままよりは余程よかったんだろう。

 

「ありがとうございます、隊長」

 

「いや」と短く答える隊長が、一瞬、夕日の中に飲まれて見えた。

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