GOD EATER2 ~Nam Oratorium~ 作:〆渡
何とか自力で神機をケースに納め職員さんに運んでもらう。
そうして扉から通路にでると、そこには微笑んでいる鬼教官。もとい、ジュリウス隊長が立っていた。
その横を、僕の神機を持った職員さんが軽く頭を下げて歩いていく。
それに軽く手を挙げて応えた隊長がこちらに向き直った。
「期待以上の結果だった」
「そうですか…よかったです」
あれで当然とか、まだまだ足りない、なんて言われたらどうしようかと思ってしまった。ひとまずほっと胸を撫でおろす。
「今の動きを見るに、実地訓練の予定を多少早めても大丈夫だろう」
「え、本当ですか!?」
「あぁ。適合試験後のメディカルチェックの数値次第ではあるがな」
「……っ」
嬉しい。
あまりに嬉しすぎて、さっきまでの訓練の疲労を感じなくなるくらいに。
これからラケル博士の所に行くという隊長と分かれて、神機保管庫へ向かう。
刀身をチャージスピアに、銃身をショットガンに変更してもらい、訓練場の使用申請を出した。
のだけれど。
「受け付けられません」
「そんなあ。どうしてですか」
「ジュリウス隊長から、最低でも1時間はあなたに使用許可を出さないように、と承っていますので」
フランさんに素っ気なくそう言われて、知り合いの「休めるときに休むのも仕事のうち」という言葉を思い出す。
仕方なく、その日はあてがわれた部屋に戻ることにした。
エレベーターに乗ろうと階段を下りた先。
大きなモニターと、ちょっとしたベンチが設置されているロビーの休憩所に、女の子が一人座っていた。
猫の耳のような髪型に、ピンクを差し色にした布面積の少ない服。
いろいろと気になる所はあるけれど、一番目を引いたのは、彼女が両手に持ってかぶりついているものだ。
ベースは、ふつうのコッペパン。
けれど、そこに挟まっているのはジャムでもクリームでもあんこでもない。
おでんだ。
目を閉じて、開く。
やはりおでんだ。
味のしみていそうな大根。。柔らかく煮込まれたようなタコの足。つるりとひかる卵など。
下にうっすらと伺える黄色は辛子だろうか。
それだけだと美味しそうにみえるけれど。しかしそれらはしっかりとパンに挟まれているのだ。
いったいなにがあっておでんをパンに挟むに至ったのだろうか。
「んむ?…あなたも食べる?」
じっと見ていた事に気づいた女の子が、隣に置いてあった袋から同じものを取り出し、満面の笑みで僕に差し出してきた。
そんなに晴れやかな笑顔で差し出されたら断れない。
「ありがとうございます」
「うん!おいしいよ、お母さん直伝、ナナ特製のおでんパン!」
とても見たままの名前だった。けれど、想像に反してパン事態はふわふわのままだ。
一口食べてみると、以外とおいしい。
敢えて甘みの抑えられたパンのすぐ内側には湯葉が敷かれていて、汁気を伝えすぎないようにしているらしい。串かと思っていたものは、食感からして葛きりだろうか。味の染みたおでんと柔らかいパン。それだけだと味がぼやけてしまう所を、アクセントの辛子が引き締めている。
「おいしいですねぇ」
「でしょ?」
僕の感想に嬉しそうに笑うナナさん。その手にはすでに3つめのおでんパンがある。
「そういえば、君もブラッドの新入生…じゃなくて、新入りの人?」
「はい。極東支部から来ました、日暮デイトです。よろしくお願いします、ナナさん」
「あれ!?私、名前教えたっけ?」
「先ほど、これをいただくときに」
僕の答えに、「あぁ、そっかぁー」と納得するナナさん。
ころころとよく表情のかわる、一緒にいて楽しそうな人だ。
「えーっと、では改めまして。香月ナナ、同じく、ブラッドの新入りです!よろしくねー」
「はい」
「そういえば、さっきフランちゃんと揉めてたみたいだけど、どうかしたの?」
「ああ、いえ。少し休憩を取るようにと、注意されてしまいました」
苦笑混じりの僕の答えに、元々大きなナナさんの目がさらに丸くなる。
「じゃあ君が、さっき訓練でダミーをたっくさん撃破した人なんだ!」
「えぇと、おそらく」
「凄いなぁ。私、なんだかあたふたしちゃって…。もう少しで低い方の高台壊しちゃうところだったよ」
あはは、と彼女は笑いながらさらりと飛んでもないことをいう。
ダミーとはいえ、アラガミの攻撃でも破壊はされない訓練上を破壊しそうになるなんて。
僕のそんな内心を知らず、ナナさんは上機嫌で残りのおでんパンを平らげる。
途中で噎せてしまわないのだろうかと不安になるような速度だ。
そんな心配を軽々飛び越えて、ぺろりと食べきると、隣に置いてあった袋を担いで立ち上がった。
「よっし。私も負けてられないなー!そろそろ訓練にいってきまーす」
「行ってらっしゃい」
「うん。また、一緒におでんパン食べようねー」
笑顔で訓練場に向かうナナさんを見送り、残りのおでんパンを堪能していると、またジュリウス隊長がロビーにやってきた。
多分、ナナさんの訓練を行うんだろう。
「あぁ、お前か。…それはなんだ?」
「お疲れさまです隊長。おでんパンと言うらしいですよ。味見しますか?」
「いや、いい。それより、先ほどの話だが」
「―!はい」
「ラケル博士からも、恐らく問題ないとの答えをいただいた。明日、1400に実地訓練を行う」
「了解しました」
「この後に控えているもう一人の訓練結果如何で、メンバーが一人増えるかも知れない。覚えておいてくれ」
付け加えられたジュリウス隊長の言葉に、先ほどまで会話していた人物が頭をよぎる。
「あ。ナナさん、ですか」
「ああ、そうだ。もう顔を合わせていたのか」
「ええ。このパンも彼女が」
「そうか。これからも仲良くやってくれ。俺たちは、同じ血を分けた『家族』だからな」
「家族…」
耳慣れない言葉に戸惑う内に、ジュリウス隊長は別れを告げ、足早に訓練場へ向かっていく。隊長職はどこも忙しいようだ。
「家族、かあ…」
ぼんやりとそう呟きながらパンをかじっていると、またエレベーターから人が降りてきた。
やはりロビーは人の行き来が多い。
今度は、ニット帽を被った少年だ。
ゆっくりとおでんパンを食べていた僕に気づいたその人は、鼻歌を止めて僕をみた。
「あれ?見ない顔だけど…」
「こんにちは。迷子…じゃあ、なさそうですね」
僕より少し年下に見えたけれど、その手首には腕輪がはめられている。と、言うことは、年下でも先輩なんだろう。
「迷子って、俺はこれでも19だぞ!」
「…え?」
僕の耳がおかしくなったんだろうか。目の前の少年が19歳だと主張している気がする。
「えー、と…すみませんでした、先輩」
「せ、先輩…。先輩かぁ、いい響きだな…」
"先輩"という単語に反応して、うっとりとするその姿は、余計に年上には見えない。
そんな、失礼な僕の心中を察したのか、はっと我に返り、むっ、と腕を組む。
「そ、そんなセリフに騙されないからな」
「はい。本当にすみません」
どうやら、本当に心中を読まれてしまったらしい。流石、ゴッドイーターとして生きてきた長さが違う。
僕は居住まいを正し、後進として、先達に教えを請う事にした。
「俺はロミオ。お前は?」
「はい、日暮デイトといいます。ご指導、よろしくお願いします、ロミオ先輩」
「ああ。っと、その前に言っておく!ブラッドは甘くないぞ、覚悟しておけよ!」
「…ええ、身を持って学習しました」
「お、おぉ…そっか」
「はい……。…ジュリウス隊長達が言っていましたけど、血の力って何ですか?」
重くなった空気を払う為に、意識して明るい声で質問する。けれど、ロミオ先輩の様子が一気にぎこちなくなる。
「いい質問」とは言っているけれど、あまりふれられたくない話題のようにも見える。
「そうだなぁ。『ブラッド』は『血の力』を秘めていて…そう!『血の力』に目覚めると…必殺技が使えるんだ!」
「必殺技…ですか?」
「ああ!うちの隊長なんて、凄いんだぜ?どんなアラガミだってズバーン、ドバーンって倒しちまうんだからな」
身振りを交えて、自慢げにそう話すロミオ先輩。なんだか、極東で見た、兄弟の自慢をしていた男の子に表情が似ている。
「凄いんですねぇ。じゃあ、ロミオ先輩の必殺技はどんなものなんですか?」
「ば、バッカ、お前、ほら…必殺技ってのはさ、そんな、すぐに手に入るもんじゃないんだよ…」
「なるほど。確かに、先輩の言うとおりですね」
先輩の言うとおり、必殺、とつくものがそう簡単に手に入るはずもないか。もし簡単に覚えられるのなら、今頃アラガミとの戦いはもっと楽になっているのだろうし。
「…お前、なんて言うか、マジメだなぁ」
「?そうですか?」
「そうだよ。…まあ、そういう事とかはさ、『ブラッド』を設立した『ラケル博士』に、どんどん聞いてみればイイと思うぜ」
なるほど。ロミオ先輩の言葉に頷きながら納得する。
確かに、その方が詳しい話を聞けるだろう。もっとも、榊博士の例を考えると、科学者の視点で説明されて理解できるか、という問題が残るけれど。
「そうですね、そうしてみます。ありがとう御座いました、ロミオ先輩」
お礼を言ってロミオ先輩と別れる。向かう先は高層フロアにあるラケル博士の研究室だ。
*
その後、一人ロビーに残されたロミオは、ゴッドイーターですら聞き取れるか、という声量でぽつりと呟いた。
「天然か…っ」
そうでなければ腹黒か。
見た目で判断するなら、呟いた通りなのだけれど。
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