GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

40 / 70
変態さん出現につき、ご注意ください。


第40話

先に降りたリーゼさんは、真っ直ぐ進み一番奥の扉の前に立つ。

 

「ここが支部長室。メガネのサカキは、大体ここにいる」

 

まるで眼鏡をかけていないサカキ支部長が存在していそうな言葉だけれど、そんな人は存在していない。

長すぎる袖に覆われた左手で、くぐもったノックをするけれど、中から返答は無い。

それに頓着することなく、リーゼさんは無断で扉を開け、中に入っていった。

顔を見合わせつつ、僕たちもそれに続く。

中には、相変わらず書類が積まれた机があり、そこにサカキ支部長が座っていた。

両手で頬杖を着いたまま、身じろぎもしないでこちらを見ている。

何かあったのだろうか。

謎の緊張感に包まれていく室内で、リーゼさんは一人腕まくりをしている。といっても、ブカブカの袖を手が見える程度まくりあげただけなのだけれど。

そして、何をするかと思えば、支部長の目の前で、パンッと大きく手を叩いた。

突然の奇行に驚き、ただ固まる僕たち。その音に、支部長もビクリと肩を跳ねさせた。

その弾みでずれてしまった眼鏡を直し、室内を見回している。

その開いているのかいないのか解りにくい目が、おそらく僕たちを順に見て、最後にリーゼさんで止まった。

 

「やあ、リーゼ君。予定通りに彼らを案内してきてくれたようだね」

「ん。予定外の睡眠をとってたのは、サカキの方」

 

リーゼさんの、大凡目上の人間に対する物とは思えない言葉遣いも気にせず、支部長は「ごめんごめん」と軽く謝った。どうやら、依然として書類仕事が減る様子は無いようだ。

 

「改めて。ようこそ、ブラッドの諸君。私がここの支部長ペイラー・榊だ」

「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティ以下隊員各位、ただ今着任しました」

 

何事も無かったように挨拶を返す隊長。その冷静さは、場所が変わっても相変わらずのようだ。

 

「ああ、久しぶりだねジュリウス君。…デイト君も、元気そうで何よりだ」

「あ、はい。皆さんのお陰で。支部長も…相変わらず忙しそうですね」

 

先ほどの様子から、"お元気そう"というのもはばかられて、そう言ってみる。

支部長はと言えば、困ったような笑みを浮かべて、そうだねぇ、とつぶやいた。

 

「本当なら、研究したいことが山ほどあるんだが…まあ、"責任"は果たさないといけないからね」

 

そういえば、以前から僕が似たような事を言うと、支部長は"責任"という言葉を口に出していた。

そこには、単に支部長としての責任以外の何かが伺えて、当時も今も、僕にはそれ以上何も言えなかった。

 

「さて、すぐにでも任務に入っても貰いたいところだけど…まずは改めて極東支部が置かれている状況について説明するよ?」

 

そこから、黒蛛病、赤い雨、そして。

 

「いわゆる、接触禁忌種と呼ばれる、新種のアラガミだ。…君ら『ブラッド』は、交戦経験があるんだよね?」

 

エミールさん自身や、彼が出向していた事で、フライアからも連絡があったんだろう。そうで無くても、感応種と"交戦"できたという事だけで、各支部の間を飛び交うだけの情報になりうるのだろうし。

僕たちが感応種に対抗しうる原理を滔々と語る支部長。その机の前に立っているリーゼさんが、ナナさんとシエルさんに向かっている。その両手が、実に不穏な動きをしたまま少しずつ横にずれていき、僕の視界から消えていく。

支部長のお話もきちんと聞かなくてはいけないし、かといってリーゼさんが何をしているか把握出来ないのもそら恐ろしいものがある。

そして、僕のその心配は、支部長が口癖の「実に素晴らしい」を口にした所で現実のものになってしまった。

おそらくまだ続く筈だった支部長の言葉を遮って、短い悲鳴が室内に響く。その発生源は僕の左手側、ナナさんとシエルさんが立っていた方だ。

おそるおそる見れば、リーゼさんがシエルさんに背後から抱きついている。

その顔には『至福』と書いてあるのが僕にでも解る。

 

「あ、あの…」

 

戸惑った様子のシエルさん。支部長の方は、もう慣れたものなのだろう。日常風景を見ているように揺るがない。

仕方がないので、僕が彼女を外す事にする。

 

「リーゼさん。せめてお話が終わるまでおとなしくしていてください」

「いや、そこなのか?」

 

先輩が更にそう言ってくる。どこかずれていただろうか。

いや、それを確認する前に、リーゼさんに離れて貰わないと、これ以上どう暴走するか解らない。

 

「リーゼさん」

 

ちょっと強い口調で名前を呼ぶと、彼女がやっと僕の方を見た。

今度は打って変わって、…というか、普段の半眼だ。

 

「二つのふにふにがある以上、これを無視するのは世界の理に反する。むしろ、背後からという遠慮を見せた事を考慮してもいいくらいだ」

「そんな理は存在しませんし、それはもう遠慮とは言いません」

「じゃあ。貧乳が巨乳に惹かれるのは、重力に逆らえない位自然な事だという方向で」

「何を口走っているんですかあなたはっ」

 

もう本当に嫌だ。この人は苦手だ。

あけすけで、恥も外聞も無いようなものなんじゃないだろうか、本当に。しかも、こういう時だけ何故か普段とは違って滑らかに喋り出すのだ。

懐かしく感じたくはない動きで、リーゼさんがかけたホールドを解く。

そして、シエルさんにお詫びをした。

 

「すみませんシエルさん。リーゼさんは…その…ちょっと変わってて」

「んむ。次はぜひふにふにしたい」

「貴方は本当に……っ」

 

全く反省の伺えないリーゼさん。

どうすれあば黙ってくれるだろうかと思案していると、後ろから吹き出すような音が聞こえた。

見れば、先輩が誤魔化すように口元を覆っている。

 

「先輩?」

「あ、いや。悪い。…なんかさ」

 

悪いと言いつつ、笑いをかみ殺せていない。

その笑いが徐々に空気感染したのだろうか。今度はナナさんの表情が、笑みを含んだ物にかわった。

そして、今度は抱きつかれていた筈のシエルさんまでクスクスと笑いだした。

いや、シエルさんは違うのかもしれない。怒りが高すぎても笑う人はいると言うし。

 

「あの…、本当に失礼しました」

「ああ、いえ。違うんです」

 

改めて謝ると、シエルさんがそう言った。では、怒っていないのだろうか。

 

「デイトさんが、あまりに表情を変えるので…」

 

そう言って、またクスクスと笑い始める。

そんなにおかしな顔をしていただろうか?

 

「やれやれ…堅苦しい話はここまでかな?」

「そのようですね」

 

苦笑気味のそんな声。

僕は申し訳ないような気分で頭に手をやり、下方のリーゼさんは何故か胸を張っていた。

噂に聞くドヤ顔にも見える表情だ。解せない。

 

「全く…何やってんだか…」

 

ギルさんが、おそらくいつも通り鍔を下げた時、支部長室の扉が開けられた。

そこから、今度はオレンジがかった茶髪を、黄色いバンダナで押さえ、白い制服を着た人が入ってくる。

コウタさんだ。

 

「博士ー!歓迎会のスケジュール、みんなに聞いてきましたよ……って、あれ?」

 

僕たちが居るとは思って無かったんだろう。動きと共に、報告の声も止まる。

きょろきょろと室内を見回し、それぞれの上を通過したところで、僕に目が止まった。

 

「デイト!ってことは、キミたちがブラッドかぁ」

 

ポン、と音を立てて手を打ち合わせるコウタさん。小さい会釈を返しておく。

 

「おっと。俺は、極東支部第一舞台隊長、藤木コウタです。よろしくね」

「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです。こちらこそよろしくお願いします」

 

以前と変わらない快活さで、隊長達にそう挨拶するコウタさん。それに、隊長も丁寧な挨拶をかえす。僕たちを含めた他の皆は、それに併せて軽い会釈をしておいた。

 

「って、リーゼもここに居たのかよ」

「ん。きょーかんから、ブラッドの案内を頼まれた。たいちょーにも、言っておいた筈」

 

リーゼさんの言葉に、「そうだったっけ?」と後頭部に手を回すコウタさん。

誤魔化すように、「まあ、それより」と、多少わざとらしく声を上げた。

 

「ラウンジで歓迎会の準備してるから、リーゼも手伝って来いよ」

「む…。仕方ない。ふにふに達ばかり働いているのは、あたしの美学に反する」

 

それは一体どんな美学だと言うのか。けれど、下手に聞き咎めて墓穴を掘るような真似はごめんだ。

名残惜しそうにナナさん達を見ているリーゼさんを見送って、コウタさんが僕たちを振り返る。

 

「ってわけだからさ。みんなは、その間ゆっくり極東支部を見て回るとイイよ!」

 

そう言うと、コウタさんも支部長室を後にした。本当にあの報告だけが目的だったみたいだ。

 

「行っちゃったぁ。忙しそうだねぇ」

「そうだなぁ…。歓迎会とか何とか言ってたから、そのせいも有るんじゃないか?」

 

そのまま、歓迎会のごちそうに意識が向く二人。

以前僕が話した極東のご飯の感想も絡めて、どんなごちそうが出るのかという予想で盛り上がっている。

 

「そうそうデイト君、シエル君。君たちには、お礼を言って置かないとね。どうやら、うちの職員を助けて貰ったそうじゃないか」

「いえ。我々は救援要請に応えただけ、ゴッドイーターとして当然の事です」

「それでもだよ。本当にありがとう」

 

そう言って、形ばかりではなく頭を下げるサカキ支部長。

何というか、面はゆいものを感じる。

 

「彼らは、もうこちらに搬送されているんですか?」

 

以前お見舞いに行こうかと病室の前を通った時は、まだ面会謝絶のプレートが掛かっていたため断念したのだけれど。慎重に運ぶ程度ならば大丈夫な容態だったのだろうか。

 

「ああ。今は、医療フロアの一室に運び込まれているはずだよ」

「そうですか…よかったです」

 

ほっとした。搬送の為とはいえ、動かして大丈夫だと言うなら、回復はそう遠い事ではないだろう。

胸を撫で下ろした所で、支部長がこちらを。いや、僕を見ている事に気づいた。

いつもの飄々としたつかみ所の無い表情ではなく、口元から笑みの消えた真剣なものだ。

 

「…サカキ支部長?」

 

声をかけると、かけていた眼鏡を外して拭き始めた。

一体どうしたのだろうか。

 

「さあ。そろそろコウタ君の言ったように、この支部内を見て回るといい。これから、よろしく頼むよ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。