GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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第45話

内側に膨らんだ壁。

装甲壁に出来た腫瘍のようなそこから、段々と音が聞こえてくるようになった。

金属を引きちぎり、かみ砕いているような音だ。

冗談のような早さでその音が大きくなり、冗談で済ませたいような異貌が見え始める。

その間に、こっちの戦力も揃いつつあった。

僕と先輩の他にも、極東のゴッドイーターが増えてきている。

アラガミが、今見えている一体なら、この人数でも十分だ。

 

「こちら東部、オラクル反応の詳細は解りますか?」

『少々お待ちください。……そちらは、中型種が1体。他にも小型アラガミの反応が多数見られます』

 

僕の質問に答えたのはフランさんだった。少し驚くけれど、今はそれより目の前のアラガミに対処しなくては。

最低限確認すると、1世代と2世代目の神機が半々程度。1世代の人たちは、遠距離型が多いようだ。

1世代の人たちは役割が固定化されてしまうから、2世代目以降の僕たちが臨機応変に動くことになる。特に、1世代目の長距離神機を持つ人たちを気にかけておくようにしよう。

そんな思考の間にも、開いた穴に手をかけ広げる巨大な手。

鋼鉄にも似た質感を見せるその手の先には、蛇腹状に繋がった羽とも腕ともつかない部位が伸びている。

 

「シユウですか」

 

言う間にも、頭部を狙ったオラクルのレーザーが放たれる。

幾条もの細いレーザーが鬱陶しかったのだろう。翼手と呼ばれる部位を無造作に動かし、貫通出来ないレーザーを止める。

けれど、アラガミへの攻撃はレーザーだけじゃない。

注意がおろそかになっている下半身にも、神機が直接食い込み、爆発や散弾が体を削り取っていく。

それを嫌って、周りを吹き飛ばすように回転しながら飛び上がるシユウ。何人か吹き飛ばされてしまったけれど、着地の隙にまた頭部を打ち抜かれる。

何発目か。シユウの頭に張り付いたバレットから、更に数発の短いレーザーが射出され、とうとうシユウの頭部が破壊される。

固い物を割ったような音とともに、シユウの頭部が無惨に裂け、内部のオラクルが露出した。

けれど、頭部にコアは無いようだ。

破壊された頭部を押さえる様子は、頭が痛い時の人間によく似ている。

そんな隙は逃さないとばかりに、近距離神機を使う人たちが殺到する。

僕もその波に加わり、下がっている翼手を貫く様に刺すけれど、狙いが僅かにずれて断つまでには至らない。今は強引に押し切るより、離脱したほうが良さそうだと判断して後ろに下がる。

入れ替わるように接近した人が切り上げ、僕の付けた傷と交差するような形にはなったものの、完全に切断はできなかった。

不格好にぶら下がる片方の翼手を気にした様子は見せず、翼手の先端。壁をちぎった巨大な手から、エネルギー弾が発射される。目標は、僕の右に居る遠距離神機使い。先ほどから、的確に頭部を狙っていたスナイパーの人だ。

左は民家。右は仲間。どちらに動くべきか迷ってしまったその人の周りに、近距離神機使いは居ない。

 

「下がってください!」

 

放たれたエネルギー弾と同時に駆けだし、装甲を展開する。

連続したエネルギー弾が装甲に当たり、何度も金属質の音を響かせた。

衝撃で少し後退してしまったけれど、全弾凌ぐことが出来た。

後ろに下がった神機使いの女性も、後転したときに汚れてしまった以外は怪我も無さそうだ。

 

「大丈夫そうですね。よかった」

「え…、あ、はいっ」

 

頷いて起きあがる彼女から、シユウに向き直る。

小型アラガミが辿り着く前に押し切れるか。

それ次第で、この地区の建物をどの程度残せるかが変わってきてしまう。

 

『間もなく、小型アラガミの到着予測時間です』

「―――っ」

 

冷静に勤めようとする声に告げられ、焦りが募る。

シユウの挙動を見る限り、あと一息の所までは来ているはずなんだ。

先輩や周囲の人たちにも、今の通信は入っている。みんな一様に、緊張度が増した表情を浮かべた。

と、突然シユウが逃走を開始した。行き先は穴の向こう、居住区の外ではなく、装甲壁にそった内部。

ここで逃がしたら被害が拡大する。

後続の小型アラガミの総数が不明な以上、人数を裂くような事になるのは避けたい。

周囲の人が足止めにと、下半身に神機をたたき込み、遠距離神機使いの人たちが、周囲の人たちを巻き込まないようにバレットを打つけれど、決定打にならない。

視線の先には、逃走を続けるシユウと、それになんとか追いすがっている先輩の姿がある。

 

「先輩!」

 

銃声や、他の人の声にかき消されないように声を張り上げる。

振り返った先輩が振り返って、小さく。けれど確かに頷き返してくれた。

それを受けて、チャージを開始。なるべく射線上に人が居ない場所を探す。地面も出来るだけ平らな方がいいのだけれど、それは現状無理な相談というものだ。

制御できる限界までチャージしたところで駆け出す。

 

「退いてくださいっ!」

 

と、僅かに射線上に立つ人たちに退いて貰い、クリアになったシユウとの直線に向かって、スピアを放った。

指から離れる直前まで狙いを研ぎすましたスピアは後塵を巻き上げて肉薄。轟音を上げ、狙い過たずシユウの胴を装甲壁に縫い止めた。

この程度、と。束縛から抜け出そうともがくシユウ。そこに、神機を構えた先輩が接近。

 

「うりゃああぁぁぁっ!」

 

紫の陽炎を纏ったバスターブレードが、シユウの体を斜めに断ち割った。

 

「ギ……ギャギャ……」

 

断たれた後も、暫くもがいていたシユウ。

その動きが止まり、コアからの離散が始まった所でようやくスピアを抜くことが出来た。

 

「お前……以外と大胆な事するなぁ……」

「そうですか?」

 

確かに、訓練で教えられた物とは違うけれど。

 

「装甲壁で止まるでしょうし。何とかして足止めもしなくちゃいけなかったですし」

 

そう思って投げた。チャージグライドも、制動さえ出来ているなら余計な荷物はない方が早いに決まっているし。

とはいっても、これはそうそう使うわけにいかないのも重々承知している。進行方向に壁があったからこそ成立したのだし。

 

『のんびりしている場合ではありませんよ。小型種、来ます!』

「「!」」

 

通信通り、広げられた穴からオウガテイルが乗り込んできた。当然1匹ですむはずもなく、2匹3匹どころか、一息の間にダースが作れる程増えていた。

 

「ったく……遠慮しろってんだ……」

「まあまあ」

「グチってても相手は減らないわよっ!良いから、手ぇ動かしなさい!」

 

そんな声が飛び交う中、何とかアラガミを逃さない様に追い込み、討伐する事が出来ていた。最後の人の声がやたらと野太かったけれど、あまり気にしないようにしよう。

 

 

 

穴から溢れてくるオウガテイル。その中に、少し毛色の違う個体が混ざっている。

とはいえ。オウガテイルだという事には間違い無いだろうと、警戒は残しつつ穂先を定め、的の大きい胴体部分に向けて刺突を放つ。

狙い通りなら、最低でも動きを止めることが出来ると思っていたその一撃は、予想を外れて傷を負わせるだけに止まった。

 

「―――っく」

 

尾による薙払いを避け、距離を取る。

どうやら、脂を纏った剛毛に、穂先を流されてしまったようだ。全く効果がない訳では無いようだけれど、今までのオウガイテルと比べると随分"硬い"。

 

「大丈夫か、デイト」

「ええ。思ったより硬かったので驚きましたが」

 

軽く息を付きながらの返事に、「うへぇ……」と、ため息ともつかない悪態のようなものが聞こえた。

連戦で、しかも数が多い上防御性能も上がっているとなると、当然の反応かもしれなかった。

 

『東部、聞こえていますか。アラガミは、現状増えることは無いようです。ですが、気を抜かずこれに対処してくたださい』

「聞いたかお前らっ!とっととアラガミ共をぶっ潰すぞっ!!」

 

通信直後の怒号に、周囲からときの声が上がる。どうでも良いことだけれど、怒号を上げた声が、あのとき女性のような口調で話していた声ととてもよく似ていた。

相手の底が見えて意気を盛り上げた僕たちが、オウガテイルや、その後増えたドレッドパイクを纖滅するのに、そう時間はかからなかった。

軽傷を負った人は居たけれど、ヴェノムを受けた訳でもなく。大きな問題は無さそうだった。

 

「あの……」

「はい?」

 

背後からかけられた声に振り返ると、土埃で汚れた女の人が立っていた。

 

「さっきは、有り難うございましたっ」

「え?……あぁ、いえ。お怪我も無いようで何よりです」

 

誰だろうかと思ったら、どうやらシユウ戦で背後に庇った人だったらしい。あの時は顔を確認している余裕まで無かったから気づかなかったけれど。

その人は、再度礼を言って頭を下げると、慌ただしく去っていった。おそらく、隊の人と合流するんだろう。

 

『東部の討伐完了を確認しました。北部、西部共に鎮圧を確認、支部に帰還してください』

「了解しました」

「りょうかーい」

 

通信が終了し。先輩が思いっきりのびをした。

 

「ふあぁーぁ……。あー、何か、どっと疲れたな」

「まあまあ。開いた穴の警戒も他の人たちがしてくれてますし、今日は帰って休みましょう?」

 

気が抜けたんだろう。大きなあくびを漏らす先輩と並んで、北部への道を辿る。

僕たちを含め、防衛に当たったゴッドイーターの戦いを裏切ることなく、被害は最小限で押さえられたようだった。

これから暫く、装甲壁の修理とアップデートが終わるまではローテーションを組んで装甲壁の警備に当たる事になるだろうけれど。それまではゆっくりと休みたいところだ。

装甲壁に開いた穴を警戒する最低限の人たちを残して、三々五々帰還を開始する人々。

相変わらず、僕たちは遠巻きにされているようだったけれど、一番最初にエントランスへ入った時ほどのものは感じられなかった。

 

 

 

 

 

 

無事にアラガミを撃退したという報告がはいり、サカキは小さく息を吐いた。

ノヴァが極東沖から彼女とともに飛び立って以来、ここまで大きな襲撃はそうそう無かった。

今回は、主力不在の所へ来ての襲撃だったため少しばかり不安ではあったけれど、奇跡的に人的被害は無く、何とか収束させることができたようだった。

報告に寄ると、東部にアラガミが集中していたようだ。何か群れの移動でもあったのかと思い、過去のアラガミの襲撃報告などを調べて見るけれど、今回のことに該当するような案件は発見できなかった。

過去の事例から原因を判断出来ないのであれば、今後に備える他ない。

今回採取されたであろうアラガミのコアを使って、装甲壁のアップデート行い。それから改めて原因を探ることにした。

考えを纏めながらも、次々指示を送るサカキ。

その端末にメッセージランプが点灯し、今回の報告だろうかと通信を繋げる。

そうして告げられた情報に、サカキはしばし手を止めた。

 

 

 

 

 

 

支部の入り口付近で、みなさんと合流する事ができた。負傷もなく、何よりだ。

 

「着いて早々これか。流石は激戦区と言ったところか…」

 

感心したように言う隊長。みんなも、ほぼ同感のようだ。

 

「ここ最近は、こう言った襲撃も減っては来ていたようなんですけどね」

「そうなのか?」

 

先輩の言葉に頷く。とはいっても、確かに着任した日の夜にこんな事があっては、あまり信憑性は無いかもしれないけれど。

 

「はい。最近は以前より通信機能なんかも発達したようで、アラガミの発見とその報告も随分スムーズになったようなんです。ですから、ここまでたどり着く前に排除できるケースが殆どだったようで…」

「なるほど…」

 

極東だけでなく、どの支部でも警戒、監視は24時間体制だろうけれど、人のしていることらから完全は無い。不備を出さないように動く事が大前提ではあるのだけれど、"絶対"なんて無い。

 

「なあー、それより帰って休もうぜー?」

「そうだねえ、流石に疲れちゃったよ」

 

先輩はここにくる途中も何回か欠伸をしていたし、ナナさんも眠そうだ。かく言う僕も、緊張が解けた今、実は少し眠い。

そんな僕たちを見て苦笑をこぼした隊長。

 

「俺たちも戻るか」

「さんせーい」

 

みんなで支部内に戻り、神機を預けてエントランスまで戻る。

そこには、眠る前の休憩を取っているらしい人達と、まだオペレーションに従事しているヒバリさんの姿があった。

どうやら、フランさんはフライアから情報だけ共有していたようだ。

みんなと一緒に用意された部屋に戻る。その前に、心配してくれていたユノさんに先輩が感動しきりな場面もあったけれど、その後は特に何事もなく朝を迎える事が出来た。

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