GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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残酷な描写+基本サブキャラのみの話となっております。
何れかに引っかかりを覚える方は御注意ください。


第48話

揺れる車内で、ソウは過去の事を思い出していた。

思い出、というには多少苦いものの、それが己を形作るものである事は了解している。

そして恐らく。否、確実に、この道行きがその"思い出"に端を発するものだと言うことも。研究者だった父。めったに家には帰って来ず、帰ってきたと思ったら、着替えなどをもって直ぐまた出かけてしまうから、直接話した事など数えるほどだった。

最後に会話をしたときも、何やら重要な研究を行うチームに招かれたから、数年単位で帰れなくなる。という、ほとんど連絡事項のようなものだった。

 

『次に会うときは、お前も立派な学者になっているんだろうな』

 

最期に聞いたその言葉を、今でも思い出す。

次に父に関わる連絡があったのは数年前。

研究施設から成果の一部を奪って逃亡したという、ソウにとっては信じられない報告だった。

既にフェンリルの本部で職務に就いていたソウだったけれど、この情報で立場は一変した。

査問会にかけられ、ソウ自身は無関係であると判断された。けれど、同じ場所で働き続けるには、厳しい状況だった。

 

辞めてしまおうか迷っている所に届いた小包。差出人の名は、知らない名前だった。

少なくともフェンリルの検査を通過して届けられたものだからと、開封する。中には、古いタイプの大型端末が入っていた。

骨董の域に足を踏み入れそうなそれを、とりあえず起動してみる。

ろくにセキュリティもかけられていないそれの内容を見て、ソウは目を見張った。

最初こそ父の手記かと思っていたものは、だんだんと内容を変え、彼が行っていた研究の実状が綴られるようになっていった。

道徳的に考えれば、非人道的と謗られても仕方のない内容だった。年端もいかない子供達を使った人体実験。うち殆どが、死亡している。

何よりソウが恐ろしかったのは、実の父がこの実験に荷担していたという事実だった。

データを全て読み終わった後、ソウは父の死の原因が、この実験にあると考えた。

科学者として優秀だったが、親としての情も確かに示していてくれた人だ。その父が、仕事とはいえこんな実験に心を痛めない訳が無かった。

きっと父は、この事を本部に告発しようとして、その途中殺されたに違いない。

そう確信したソウは、最後に書かれていた責任者であろう人物を調べることから始めた。

 

ラケル・クラウディウス。

 

幸い、直ぐに調べられる事だった。けれど。

慈善活動も行っている、情深い天才科学者。閲覧できるデータからは、そんな当たり障りのない事しか解らない。

当然だ。大々的にそんな事をしていたら、周囲の人間が黙ってはいないだろうし。手記にも、研究に関わっていた人間は極少人数だと書いてあった。

そうなると、権限が強い訳でもない―――今やその僅かな力すら実質的に無いソウには、手の打ちようがない。

もう自分にはどうしようもないのか、そんな時、上から辞令を渡された。

辺境、極東辺りにでも移ることになるのかと思っていたソウは、内容を見てまた驚く事になった。

移籍するのは想像どおりだ。けれどその先は、極東やその他辺境と呼べる場所ではなく、本部直轄と言えるフライアだった。

どうやら、"かくも慈悲深いクラウディウス博士"が、

 

『お父上の様に聡明であろうから』

 

と言ってソウを招きたいと申し出たとの事だった。

あまりにも良すぎるタイミング。

何かの罠かもしれないとも、もちろん考えた。

けれど、それ以上のツテも無かった彼は、虎穴に入る事で情報を得ようと決心したのだった。

過去の記憶に浸っていたソウ。その追想を、運転手の悲鳴と車体の揺れが引き裂いた。

 

「!?」

 

突然の揺れに驚き、しかし迅速に状況を把握しようと努めるソウ。通話ボタンを押し、運転手にどうしたのか問いかける。

 

『あ、アラガミが…沢山、何で……っ!』

 

その言葉に、ソウも驚かざるを得なかった。

極東支部のサカキという支部長が提唱したように、近年アラガミの行動パターンが解析され、比較的安全な場所やルートが割り出されて来ている。

今ソウ達が走行している道も、そうやって指定されたルートであるはずだった。

単体での遭遇はあり得ても、沢山と表現されるほどの群れと遭遇する確率は低いはずだった。

だというのに、今運転手は確かに"沢山"と言った。

仮に単体でも、運搬用トラックでは逃げきる事は難しい。群れとなればなおさらだ。

 

「直ぐに救援信号を送ってくださいっ!直近の支部から神機使いが来てくれますっ!」

 

問題はそれまで自分たちが保つかどうかであったが、あえてそれは言わなかった。

荷台部分に居るソウには、どの種のアラガミが襲ってきたのか解らない。このトラックでは、小型で小回りが利く相手ほど逃げることが難しくなるだろう。

逆に、小回りの利かない相手なら、翻弄し続けていれば何とかなる可能性が出てくる。

それを確認して貰おうと通話を試みるが、運転手は経験か浅いのか、経験の有無が問題ではなくなるほどアラガミが集まっているのか、とても要領を得ない答えが返ってくるばかりで何の参考にもならない。

これでは駄目だと、何とか相手を落ち着かせようとするものの、聞く耳をもたれなくてはそれまでだ。

とうとう、通話回線の向こうから、恐慌をきたした声が聞こえ始めた。徐々に、車の振動も激しくなっている。

 

「私の声が聞こえて居ますか!?返事をしてくださいっ」

『あ……あぁ……。駄目だ、食われる。食われて死ぬっ』

「大丈夫ですっ落ち着いて下さい!」

 

外の実状が伺えない為、比較的落ち着いているソウ。しかし、外が見える運転席に座っている男にとって、ソウの言葉はなんの気休めにもならない。

小型アラガミが数体なら、彼もここまで怯えたりはしない。しかし、強化ガラスの外でこちらと併走しているのがベテランでも苦戦すると言われているヴァジュラでは、怯えるなという方が無理な話だ。

しかもそれが数体。確認できるだけで4~5体現れたとなれば、抵抗するすべを保たないただの運転手には、耐えられない事だった。

そもそも、と運転手は考える。それは現実逃避にしかならないものだけれど、わずかでも精神の均衡を保とうとするある種自然な働きだった。

そもそも、この仕事には不自然なところが多かったのだ。

極東に近いあの位置から本部まで移動するという事なら、本来ヘリが用いられるはずだ。なのに、今回本部に出向するなんたらいう医師を運ぶ足には、運搬用のトラックが使われる事になった。

それを聞いたとき、担当になった運転手は面倒だと思うと同時に、上と上手くいっていないのだと、少しばかり同情もしたものだ。

更に、長い旅になるからと、自分に与えられる給与にも、色を付けてもらえるという話だった。

いくら本部直轄の支部に勤めているからといって、ゴッドイーター達に比べれば雀の涙同然だ。それが特別賞与として別途手当までもらえるとなっては、引き受けない理由は彼には無かった。

最近の調査で割り出された、"比較的安全"なルートを記した地図を受け取り、今回運ぶ者を積み込んで出発する。

最初の道中は快適だった。

言われたとおり、アラガミと遭遇する事もなく途中の支部にたどり着き、補給と休養をとってから出発する事ができた。

雲行きが怪しくなったのは、道のりを半分ほど過ぎ、ロシア支部を発ってからだ。

小型のアラガミを目撃する事が増え始めた。

最初こそ、驚きつつも発見される前に大きく迂回し、回避していた。

けれど、徐々にその頻度が上がっていき、目撃するアラガミも徐々に大きくなっていった。

そして今、彼の運転するトラックはどこからともなく現れたヴァジュラに、捕食対象と見定められたのだ。

 

「くそっ、俺は死なない。俺は死なない……っ死にたくない……っ」

 

脳裏に、家族の事が過っては消えていく。

厳しかった父。少し気弱なところがあったが、優しかった母。

彼らの事を思い出し、流す気もない涙がこぼれた。

会いたい。こんな世の中だからこそ、死ぬときは家族に看取られたい。

親しくしていた女性の顔を思い浮かべ。

それを最後に、彼は何かを考える事ができなくなった。

運転席は鋭い爪で無惨に切り裂かれ、人体一つ分の血液がぶちまけられた有様は、正しく血の海と表現するしかない有様になっていた。

運転手を消されたトラックが、その衝撃で横転する。

そうなって、ソウはなにが起きたのか悟った。

横倒しになったことで歪んだトラックが、更に外からの衝撃で凹んでいく。

徐々に破壊されていく荷台。いや、既に棺桶と呼んでいい状態だろうか。

唯一の出口から飛び出した瞬間食われる事は、ソウにも解った。自分には、どうあがいてもそれを回避する能力が無い事も。

運転手が、ソウの言うとおり救援信号を送っていたとしたらこの籠城にも意味がでてくるかもしれないが、直前の様子ではそれも期待できそうになかった。

彼の傍にある物といえば、本部に提出するための書類と、移動、滞在中の自分の荷物のみ。

護身用にと拳銃を所持してはいるけれど、このトラックをひっくり返すような大きさのアラガミに効果は望めまい。

 

「……父さんも、似たようなものだったのかな?」

 

逃亡した末に、アラガミに食い殺された父。

似た道を歩くのは、もっと別の形にしたかったものだ。そう思うと、自然と笑いがこみ上げてくる。

 

「今……、私がこの状況で選べる道は、そう多くは無いなぁ……」

 

そう言って視線を落とした先には、手に持った拳銃。

セーフティの解除されたそれは、いやに冷たく、重く感じられた。

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