GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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第49話

ラケル博士の研究室。もう通い慣れたその場所で、信じられない。信じたくない事を知らされた。

 

「……ソウ先生が……?」

「ええ……ロシア支部から発った後、消息が解らないそうなの……」

 

博士からの肯定を聞いて、何も考えられなくなる。

今僕は真っ直ぐ立っているだろうか?

判然としない感覚と同じく、現実味の感じられない意識ではそれすら解らない。

いつの間にかきつく握りしめていたらしい手に、そっと何かが触れた。

 

「ごめんなさい。貴方には、知らせた方がいいかと思ったのですが……考えが至らなかったようね」

 

そう、すまなそうに目を伏せる博士。触れた手から、労りが伝わってくる。

 

「……いえ。何時かは、解ることですから。……教えて下さって有り難うございます」

 

今僕は、ちゃんと笑えているだろうか。

心配されないような表情が、できているだろうか。

博士の表情を見るに、僕の行動は失敗しているようだ。これじゃあ、余計心配をかけたも同然だ。

 

「無理はしなくていいのよ?」

「いえ。大丈夫です」

 

そう言って、やんわりと博士の手から離れる。今は、無理にでも強がっていないと、どうにかなってしまいそうだった。

博士は気を使って"消息不明"という言葉を使ってくれたけれど、今の時代消息不明は死亡と同義だ。つまり、もうソウ先生と会うことは無い。

 

「……っ」

 

目の奥が熱い。喉が意志と関係なく動く。頭も痛い。

初めての感覚に戸惑い、なんとかしないとと思っても、思考が纏まらなくなる。

 

「……今日はゆっくり休みなさい。私から、サカキ支部長に連絡しておきましょう」

「いえ。本当に、大丈夫です。……失礼します」

 

博士の言葉は有り難かったけれど、それを断って退室する。今は、ゆっくり休んであれこれ考えてしまうより。なにも考えなくて済むように、動いていたかった。

 

 

 

 

 

 

目を覚ました時、最初に目に入ったのは白い天井と幾つかの見知った顔だった。それでも彼は目を覚ます直前を思い出し急いで体を起こす。

 

「―――ってぇ……」

 

けれど、半ばほど体を起こした時に走った鈍痛に、眉をしかめて止まらざるを得なかった。

 

「おい、無茶すんなって」

「私、ヤエさん呼んでくるっ」

 

周囲が俄かに慌しくなるのを感じ、改めて周囲を見回す。

白い内装に、幾つも並んだベッド。どうやら、自分はあの後無事に救助されたらしい。ほっとした表情の知り合い達が、口々に「よかった…」と言うのを見て、そんなにひどい怪我を負ったのかと聞く。すると、想像とは裏腹に皆首を横に振った。

 

「いや。怪我自体は大したこと無かった……と言っても、ちゃんと治るって意味ではだけどな」

「ただ、ね。救助されてから、全然目を覚まさなかったから……」

「そうだったのか……」

 

確かに、体がどこか自分のものではないような感覚があるから、心配されるだけの期間は意識不明のままだったのだろう。

今も心配そうな表情を向ける知り合い達に、彼は苦笑を漏らした。

 

「心配かけて悪いな」

「良いって、お前が無事でホント良かったよ」

 

心からそう言ってくれる相手に嬉しさを覚える。

 

「そうだ。今はまだ良いけど、動けるようになったら助けてくれた人にもお礼言っとけよ。仕事とはいえ、一応命の恩人になるわけだしさ」

「ああ、そうだな。誰が救助に来てくれたのか知ってるか?」

 

彼の言葉に、知り合いの女が頷く。それに併せて短く整えられた髪が揺れた。

けれど、彼女が口を開くより先に、隣の男が口を開く。

お調子者のその男は、隣で遮られた彼女が睨んでいるのも気づかず、楽しそうに助けてくれたゴッドイーターの事を話し始めた。

 

「銀髪の、可愛い子だったぜ?胸も、でかかったし」

「サイテー」

 

半眼でそう言われ、慌てる男。反論するが、ムキになっているのが丸分かりだ。

 

「な、なんだよ。お前だって、もう一人の奴の事『可愛いー』とか言ってただろ?」

 

途中に似ていない物まねも交えてそう言う男に、しかし彼女は平静な態度を失わず「はいはい」と流している。

 

「リツくんは知ってるかな?前極東に居た男の子なんだけど」

 

と、そこまで聞いてベッドの上の彼。柊リツは嫌な予感を覚えた。それは、もう確信と言っても良い。

やめろと言いたかったけれど、意に反して口が動かない。

その間にも、彼女は決定的な名を口にした。

 

「日暮デイトくんって言うんだけどね。知らないかな?」

「……っ」

 

柊の無言をどう解釈したのか、彼女は小さく頷き「知らないか」と言った。

彼女の隣に立つ男も、こちらは本当に知らないのだろう、首を傾げている。

 

「日暮って、そんな奴居たっけ?」

「ほら、一年くらい前に保護された男の子だよ」

 

そう言われて男も思いだしたようだ。「あー。あったなぁそんなこと」と、さして興味は無さそうな様子で言った。

 

「確か、アラキ達が保護したんだっけ?」

「そうそう。たまたま東雲くん達が帰ってきてる時で良かったよねぇ」

 

そのまま、当時の思いで話に話題が移っていく。けれど、それに加わる余裕は柊には無かった。

苦しめてやりたい。復讐してやりたい。

そう思っていた相手に、命を救われた。その事実は、彼にとって受け入れ難いものだ。

堅い顔で黙ってしまった柊を、まだ体調が完全に戻っていない為だと誤解した二人は、今度こそ看護師を呼びにいくために病室を後にした。

一人残された病室で、柊は小さく悪態をつく。その矛先は、あの少年ではなく、自分に向かっていた。

 

 

 

 

 

 

何時の間に極東支部まで戻ってきたのだろうか。人とぶつかってしまってから、やっと自分がどこにいるか認識する。

人で賑わうエントランス。みんな、忙しそうにしている。

その事実が、何となく遠い気がして、居心地が悪い。けれど、そう感じるのも何となく鈍かった。

とにかく頭が痛い。けれど、休んでいたくはない。

 

「……医務室……」

 

そうだ。医務室で頭痛薬でも貰ってこよう。それを飲めば、この頭痛も少しは楽になってくれるかもしれない。

そう思って医務室へ向かう。普段比較的静かなこのフロアは、何故か今日、少しばかり賑やかだった。

いったいどうしたのだろうかと思っていると、病室の方から人が出てくる。お見舞いの人だろうか。

いや、あの人達には見覚えがある。以前柊さんを搬送する時に会った人たちだ。

向こうも僕に気づいたのか、手を振ってきた。

 

「日暮くん。どうしたの?」

「あ……こんにちは。ちょっと頭痛薬を貰おうと思って」

 

そう言うと、女の人は少し心配そうな表情になって「あんまり無理しないようにね」と言ってくれた。曖昧に笑って頷いておく。

会釈しながら横を通り過ぎようとしたとき呼び止められた。何かと思って振り返ると、柊さんが目を覚ました事を教えられた。

 

「……本当ですか?」

「うん。ありがとね、日暮くん」

 

「それじゃあまたね」と、一緒に居た男の人と立ち去っていった。

柊さんが目を覚ました。その事を喜んでいる自分が居たことに驚く。

苦手だと思っていたし、今でもきっとそう感じるだろう。けれど、自分が誰かを助けられるのだと解って、とても安心できた。

何故だろう。ここまで何とも無かったのに、足が震えて上手く立っていられない。このまま入っていったら、何事かと思われてしまうだろう。

人があまり通らない場所で良かった。こうして座り込んでしまっても、誰かに見られる心配がない。本当なら、自分の部屋が一番いいのだろうけれど、そこまで保つ自信が今は無い。

エレベーター脇のベンチに腰を下ろす。見てみれば、震えているのは足だけじゃなかった。

そのまま、震えた手で自分を抱いて、壁にもたれ掛かる。

冷えた壁が心地よく熱を吸収してくれて、少し、落ち着いた。

それでも、震えが完全に収まるまでそうしている。

人が通らなかったから、それほど時間は経っていないのだろうか。軽傷者の手当をする部屋に入り、中にいた女医さんに頭痛薬を貰った。

つなぎに白衣という変わった格好の女医さんは、「あんまり薬に頼りすぎても駄目だよ?」と言いつつも、頓服分を含めた量の錠剤を渡してくれた。

お礼を言って、ひとまず一回分を医務室で飲ませてもらい、そこを後にする。

頭痛は完全に収まった訳ではないけれど、大分軽くなっていた。

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