GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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第53話

極東に来て数日。概ね好意的にブラッド(僕たち)は受け入れられたようだった。

顔見知りの人達に一通り挨拶もすませたりなんだりと忙しかった。まあ、意識的にそうしていたのだけれど。

柊さんの病室には、まだ行けていない。若干躊躇っていまうという僕自身の理由の他に、現在病室の前に『面会謝絶』と書かれているからだ。

容態が悪化してしまったのかと心配になっていたのだけれど、先程そうでは無かったのだと解った。

医務室前を通りがかった時、思っても見なかった言葉が聞こえる。

 

「柊君も、そんな事するようには見えなかったけどね……」

「でも、人は見かけに寄らないって言うし……真面目に仕事してるんだって思ってたけど……ちょっと裏切られた気分だわ……」

「まあ、まさか物資を横領するとは思わないわよねぇ」

「……え?」

 

言葉の意味が理解できずに固まる。

その間に会話の話題はどんどん変わって行き、いつの間にか外部居住区でのおすすめの店の話になっていた。

 

「あら?大丈夫、日暮くん」

「あ……桐谷さん。はい、すみません。ちょっと、ぼんやりしちゃって」

 

心配そうに声をかけてくれた桐谷ヤエさんに心配をかけないようにと、そう答える。

それでも、若干心配そうな表情で「あんまりムリはしないようにね?」と言ってくれた。

そのお礼を言ってフロアを後にする。

今の話は本当なのだろうか。それを確認しようにも、今もまだ柊さんの病室は面会出来ない状態だ。その話が出来るとすると、支部長くらいだろうか。

そう考えて支部長室まで行くと、返事がない。どうやら、今は外出しているようだ。

それなら、と研究室の方へ行っても、こちらにも居ない。ラウンジやエントランス、神機保管庫から整備室。このどこを探しても居ないとなると、後はどこを探すべきなのかすら解らない。そうやって支部の中を歩いている間にも、ちらほらと柊さんのした事が聞こえてくる。大体の人が、あの話を信じているようだった。

何とも言えない気分になり、ため息が漏れてしまう。

 

「デイトさん。ブラッドに任務がアサインされました。準備が終わり次第向かって下さい」

「あ、はい!」

 

悩んでいても任務はこうしてやってくる。今は任務を優先して、考えるのは終わってからにしよう。

 

 

 

あの時リッカさんが言っていた通り、サポートデバイスが装着された神機を握って立つ僕の前で、何故か金髪揺れている。

おかしい。ブラッドに金髪の人は居なかったはずだ。

 

「現実逃避はよくないぞ?」

「ちょっと待って下さい。眼鏡の度数が合わなくなったみたいです」

 

言いながら眼鏡を外す。僅かにぼやけた視界の外から。「デイトにあんな対応させるって、逆に凄いな…」という声が聞こえてきた。

眼鏡を戻してまた正面を見る。やはり、金髪の人がいる。

アームウォーマーに隠れた手で握る神機は、身長と殆ど同じ長さのバスターブレードだ。

 

「デイト。サカキから、伝言がある」

「サカキ支部長からですか?」

 

一体、リーゼさんを仲介にするなんてどうしたのだろう。用があるのなら、直接端末に送るなり、部屋に呼ぶなりすればいいのに。

 

「ん。『君も色々大変な時期だろうから、余計な事は気にしないで自分の事を考えなさい』……だそうだ」

「やっべぇ……めっちゃ似てる……」

 

先輩が驚くのも無理はない。それくらい似ていた。

正直、僕もちょっと驚いた。顔真似までする必要は無いと思うけれど。

それにしても。

 

「一体、どういう事でしょう?」

 

心当たりが無い訳じゃない。寧ろ有りすぎる位だけれど、どの事に関してそう言われているのかが判断できず、そう言ってみる。

 

「さて?あたしは頼まれただけだ。サカキの真意なんて解らない」

「それは……そう、ですよね」

 

そこまで深い事情をきちんと理解して動いているのか怪しい所ではあるし。失礼な感想だけれど。

 

「お前ら、そろそろ出るぞ」

「あ、はい」

「了解だ、紫の人」

 

「誰が紫の人だ」というギルさんの文句にも耳を貸さず、軽快な足取りでみんなの元へ向かうリーゼさん。

いつの間にか仲良くなっていたようで、シエルさんとも親しげに話していた。

 

「デイトー、お前も早く来いよーっ」

「今行きますっ」

 

何だろう。先生の事を知った時や、柊さんの事を耳にした時とも違う、このもやもやとした気分は。

走って、みんなの輪に入る。そうすると、言いようのないもやもやが小さくなった。

 

 

 

*****

 

 

 

吹き付ける砂埃で多少汚れながらも、ミッションは無事に終了した。

オウガテイル相手だと考えると、少し手こずった結果だけが、幸い怪我もなく全員僅かな疲労以外にはなんの不調もなかった。

 

「おい」

「え?あ、ギルさん」

 

神機の調子を見ていたデイトに、ギルバートが声をかける。デイトの方は、最近直接会話をする事が無かったせいか、少し緊張した様子だ。

表情が優れないギルバートを見て、今さっきのミッション中に何か至らない所があっただろうか、と不安になるデイト。

 

「動きが何時もと違ったが、何かあったのか?」

 

その言葉で、デイトの顔が曇る。任務に個人の事情を持ち込んだ事を申し訳なく思っていると同時に、その原因が浮上してきたせいだ。

本人は何時もと同じように動いていたつもりだったけれど、どうやらそうでもなかったらしいと気づいて、困ったような笑みで肯定する。

 

「……はい。……でも、まだ……どう言っていいかとか。どうすればいいのかとかも解らないんです」

「……そうか」

 

曖昧な表情で伝えられた言葉から何かを感じたのか、ギルバートからそれ以上の追求は無かった。依然その目に警戒するような色は伺えるが、それも少し薄らいだように見える。

 

「気にしてくれて、ありがとうございます」

「任務中にぼんやりされて、支障が出ても困るからな」

 

突き放すような言葉に含まれた気遣いを感じて、力の抜けた笑みを浮かべるデイトを軽く見咎め、けれど特には何も言わずに背を向けるギルバート。その背に拒絶以外のものも感じて、デイトは細い息をついた。

 

 

 

*****

 

 

 

みんなと一緒に、ジープで極東支部へ戻る。

今回も運転は僕。隣には何故かリーゼさんが座っていた。

シエルさんやナナさんに被害が出ないという意味では、安心な配置と言える。

けれど、そうまじまじと見られてはやりづらい。

僕がフライアへ行っている間に何か変わったのか、リーゼさんも少しばかり行動が落ち着いたように感じられた。依然なら、後部座席へ移動してセクハラの限りを尽くしていたと思う。

 

「……何か、僕にご用ですか?」

「ん?いや。少年の成長は、早いと思っただけ」

「貴方と僕じゃ、そんなに変わらないでしょう?」

「んむ。でも、一つ違う」

 

何故か胸を張って言われた言葉に小さく嘆息する。

確かに、リーゼさんは僕の一つ上。驚く事にシエルさんと同じ年なのだけれど、全然そんな風に見えない。

偏に、年相応の落ち着きというものが足りないせいだと思う。

 

「だから、そうだな。デイトは弟なんだな」

 

その言葉にハンドル操作を誤り、車体が大きく乱れる。

後部座席からみんなの驚いた声と軽い悲鳴が混ざりあって聞こえてきたけれど、それに頓着する余裕が無かった。

 

「い、今。なんと……?」

「ん?だから、デイトは弟だと。ウチのたいちょーとかは、兄だな。シエルとか、アリサは姉、エリナは妹」

「お、じゃあ俺は?」

 

後部座席から顔を除かせた先輩がそう言い、先輩の顔を見た後、少し考えるような間を置いて

 

「……あにうと?」

「何それ新ジャンル」

 

おそらくというか、兄と弟の混成語が唐突に飛び出して面食らう先輩。それに対しても、リーゼさんの鉄面皮は崩れない。

 

「ロミオは年上だけど、弟みたいだから。だから、あにうと」

「お。俺だって、年相応に頼りがいがあったりするんだぞ!?」

 

少しばかり動揺した様子でそう主張する先輩とリーゼさんが見つめ合う。

そのまま暫し。

先に折れたのは、案の定というべきか先輩だった。

目を剃らし、ずるずると後部シートに座り込む先輩。今度はリーゼさんが後部座席に向き直り、先輩の頭をよしよしと撫でている。

「わたしもお姉ちゃん?」との言葉に大きくうなずくリーゼさん。ナナさんがギルさんや隊長についても訪ねる。

 

「ジュリウスは、父。紫のギルバートは、反抗期の兄」

 

何故ギルさんだけ具体的なのか。けれど、言いたいことは解ると思ってしまった僕も同罪か。

 

「年齢で考えるなら、俺よりもギルバートの方が父に適任だと思うのだが」

「俺は、こんなめんどくさそうなガキはごめんだ」

 

隊長の、どこかずれた真面目な応えに、ギルさんが心底、という声で応じる。

父親、か。僕の記憶に該当する人物はいないけれど、どんな人だったのだろうか。

ふと、先生の顔が浮かびそうになって、考えを止めた。小さく首を振って、正面を見る。

後部座席からは、まだ家族ならどの役割かという声が聞こえてくるけれど、その声も頭のすみに追いやって運転だけに集中する事にする。

賑やかな声を意識から追い出していた僕は、リーゼさんの半眼が僕を見据えている事に、極東へ着くまで気づかなかった。




一周開いてしまってすみません。熱でダウンしておりました。orz
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