GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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第54話

水の中から見上げているように、歪んだ景色。そこへ出ていくことに焦がれる。

僅かに残った植物も、無惨に穴の開いた建造物も、寄り集まって懸命に生きる人間も、それらを喰らうアラガミ達も。

その全ての在りように焦がれる。

手に掴み、直に触れ、感じる事はまだ夢のまた夢。所詮塵芥と同等の存在。

だからこそ、今は耐える。

何時か水の上に顔を出す為に。

自らの足で立ち、自らの肌で感じる為に。

 

 

 

*****

 

 

 

極東へ帰りついた後、リッカに呼び止められたデイトを除いたメンバーは、それぞれがエントランスやラウンジで小休止をとっていた。

その中で、唯一安らげていない人物が一人。

ギルバートだ。

 

「…………」

 

原因は瞭然。

隣でじっと見つめてくるリーゼだ。

見つめる、というと何やら甘い雰囲気を想像しそうだけれど、彼女の半眼ではロマンスの欠片も感じられない。

もとより、ギルバートもそういった空気には縁遠い雰囲気を纏っている為、勘違いされるという事は無さそうだが、それでも現状にはどうしたものかと思えてくる。

 

「……何か用か?」

「おお。……いや、特に用があるわけではない」

 

淡泊な感嘆詞の後に、これまた淡泊な否定が乗る。今までの視線は何なのかと言いたくなる程淡泊な否定だったのだが、あえてそこには触れない事にした。

 

「あえて言うなら、ギルベルトが一番見ていて面白そうだったからな」

「ギルベルト……?」

「んむ……?ギルベルト……?ジルベール?ジルベルト?」

 

似たような名前を羅列するリーゼ。珍しくその額に皺が寄っている。

自分の事を呼んでいるのだと解ったギルバートは、気遣うというよりは面倒事を避ける為に、「ギルでいい」と言った。しかし、何度も確認するように「ギル」と連呼されると、流石にそれが名前なのか、それとも別の何かなのかゲシュタルト崩壊が起きてくる。けれど、それ以外では特に害もないようなので、放っておくことにした。

 

「ギルは、あれだな。えーと……ツンデレ?とかいう奴だな」

 

唐突な発言に固まるギルバート。それに構わず、リーゼはうんうんと頷いている。

 

「確か……テンプレーションとも言うらしいな?」

「……何を言ってるんだ……?」

 

低いギルバートの声に、首を傾げつつも顔を向けるリーゼ。

 

「何とは?……何かおかしな事を言ったか?」

 

何かもなにも、おかしい所だらけで、どこからつっこめば良いのか判断が付かないくらいだ。

ため息をつくギルバートに首を傾げ、こくこくと頷く。

 

「どうやら、おかしな事を言ったようだな」

 

「すまない」と、これも淡々と謝罪するリーゼに、ギルバートは少なからず戸惑った。

これが他の人間ならそうはならなかっただろうが、いかんせんこれまで散々奇行を見てきた相手からの真っ当な反応は、困惑の対象になる。

「いや……」と歯切れ悪く返答したものの、何やら座りが悪いのは否めなかった。

このまま此処でこうしていても、その空気はどうにもならないと判断したギルが席を立とうとした所で、背後から別の声がかけられる。

 

「お、ギル。ここに居たのか」

「ハルさん」

「おお、ハルオミ」

 

今し方ラウンジに入ってきたらしいハルオミ。まだ手に何も持っていない彼は、どうやらギルバートを探していたようだ。

知己であるらしいという事以外知らないリーゼロッテには、久しぶりに会った後輩とも仲が良さそうで結構な事だ。という認識だ。

 

「リーゼも、お疲れさん」

「おーう」

 

ハルオミの労いに、片手を上げて応えるリーゼロッテ。心なしか嬉しそうに見える。

もっとも、表情が変わっている訳ではないのだけれど。

 

「さて。それじゃあ、あたしはそろそろ行く」

「そうか?じゃあ、また今度ビールでも飲もうぜ」

 

「んむ」と返事をしてのたのたとラウンジを出るリーゼロッテ。その後ろ姿からは、戦闘時の様子は欠片も伺えなかった。

しかし、そのまま出ていくのかと思いきや、何かを思い出したように振り返る。

 

「ギル。あいつは……」

 

そ、そこで途切れる言葉。

あいつというのが、おそらくデイトを指すのだろうと何となく感じたが。その具体的な続きが何時になっても始まらない。

 

「なんだ?」

「いや、すまない。なんて言おうとしたか忘れた」

 

頭に手をやりそう答えるリーゼロッテに、肩すかしを喰らったような気分にさせられる。

若干どころでなく、戦闘中の様々な動きを実生活で発揮しても良いように思えた。

行け、と手を振ると、リーゼロッテは手を振ってラウンジから出ていった。

つき合いよく手を振り返して居るハルオミ。リーゼロッテが出ていった扉が閉まると、何かを握る形になった手を傾けるジェスチャーをした。

酒につき合えよ、という事のようだ。

 

「……まだ夕方っすよ?」

「幾ら俺でも、今すぐにとは言わないさ。今夜あたり、どうだ?」

 

そう言うことなら、と頷くギルバート。変わらず接してくれる事を有り難く思った。

 

 

 

*****

 

 

 

エントランスで、何も考えないようにぼんやりとしていると、ラウンジからリーゼさんが出てきた。

僕に気がつくと、「いよぅ」と片手を上げて近寄ってくる。

そのまま正面のソファーに腰を下ろしたけれど、特に何かを言うでもなく、投げ出した足をブラブラさせていた。

そのままお互いに何を言わず、僕はといえば、視界の真ん中にいるリーゼさんを見るともなく見ることになった。

キョロキョロとあちこち見回したり、何故かソファーの下をのぞき込んだりしている。何かあったのだろうか。

と、いうか。年齢相応の行動なのだろうか、これは。

落ち着きの無さは、まるで子供と同じくらいに思える。

 

「どうしたね、そんなに見て」

「いえ……随分……その、頻繁に動かれるな……と」

「ん?そうだったか?」

 

ちょっと大げさな位首を傾けるリーゼさんに頷く。

 

「そうか。しかし、デイトは動かないな。不精か?」

「……それは、意味が違うような気もしますが……」

 

ふむふむと頷くリーゼさん。こういう時のちょっとした動作が幼く見える要因なんだろう。

そうやって、取り留めもない会話をしていると、いつの間にか夕飯時になっていたらしく、ラウンジへ向かう人たちが増え始めた。

その人たちに混ざっていたコウタさん達に誘われて、夕飯をとる事にする。

先に中に居たハルオミさんが、こちらに軽く手を振ってくれる。ギルさんが少し離れた場所に居ることに、何故か違和感を覚えてしまうけれど、別に顔見知りだからといって何時も一緒に居る訳ではないだろうと思い直す。

コウタさんが夕食に誘っていたけれど、この後用事があるらしくまた今度、と言って出て行ってしまった。

最初の顔ぶれに、途中でエリナちゃんが加わり、4人で食事をとった。

やっぱり、エリナちゃんの態度がどこか変わったように感じるけれど、本人に聞いても「気のせいよ」と言われてしまうだけだ。

スプーンを持ったまま首を傾げる僕と、ツンとした表情でご飯を食べるエリナちゃん。

それを交互に見て、コウタさんはなんとも言えない生暖かい笑みを浮かべていた。

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