GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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第59話

こちらに背を向けた状態で、何かを捕食している赤いカリギュラ。

硬質化した鱗が、反射させた光と体内から滲んでくる光とで輝き、炎みたいに揺らめいて見えた。

そこに鋼と鉄が噛みつき、削り取っていく。

それにはさして痛痒に感じなかったのか、低く喉を鳴らしてゆっくりと振り返る。

近くで見ると本当に大きい。マルドゥークよりも体長がありそうだ。

それでも、二人は果敢に向かっていった。

振り回される尾を避け、当たれば肉を削られるどころか体を断たれそうな爪をギリギリの所でかわしていく。

時折、かわし切れない腕や尾の動きを制限するようにレーザーが宙を飛ぶ。

当然、それで完全に動きを封殺できるとは思っていない。ただ援護として、僅かでも隙を作ることができればいい。

座礁した空母の端。

中心から少しずれた場所が円形に抉られている場所を見下ろす形で、神機を構えていた。

新しいバレットに交換して振り上げられようとしている腕に向かって引き金を引く。

途中で散弾状に広がったレーザーが手のひらに辺り僅かに動きが鈍る。

その若干秒で、ギルさんは離脱していた。

先ほどから何度か僕の居る方に顔を向ける赤いカリギュラ。至近で二人が戦っているから、こっちに来る事はないだろうけれど、緊張するのは事実だ。

そのたびに、ギルさんやハルオミさんが注意を引きつけてくれるのだけれど、気のせいか段々と頻度が上がっている気がした。

そして遂に、カリギュラが鎌首毎、その巨体を僕に向けた。

地面を割らんばかりに叩きつけると、その地面が変色。

渦を巻く。

そして、それと同じ渦が僕の足下にも発生。尋常ではない熱気が感じられる。

 

「くぅ……っ」

 

慌ててその場から転がって逃げる。

ブーツの底からゴムの焼ける嫌な臭いがしたけれど、それ以外、被害らしいものは無かった。

カリギュラの背に取り付いたハルオミさんが、背中の羽の様な形状のブースターを破壊してくれていなければ、直撃するタイミングだった。

 

「大丈夫か!?」

「はい!問題ありません!」

 

返事をしながら神機を剣形態にする。この距離で銃形態のままだと回避だけでは危険だ。

ガキンッと音がして剣形態が固定された直後、下手な刀身よりも鋭いだろう爪が僕たちの立っていた場所を薙払った。

短い悪態をついて体勢を立て直す二人。僕もショートブレードの切っ先を向ける。

どうやら、まだ相手の注意は僕を向いているらしい。その証拠に、振り下ろされた爪が抉っているのは僕が立っていた場所を中心にしている。

弾けたコンクリート片が散らばって、その幾つかが足下にも転がってきた。

 

「しっかし、元気な奴だねえ。もう、結構入れてるんだがなあ」

「なら、倍叩き込んでやるだけです」

 

そう言って神機を握るギルさんの手に、また力が籠もった。

 

「では、僕がこのまま注意を引きつけます。二人はその隙をついてください」

 

現状だと、それが一番のはずだ。

僕を見るギルさんの目が、何か言いたそうに揺れる。僕じゃない誰かを見て。

 

「大丈夫です、ギルさん。僕が必ず隙を作りますから。だから―――」

 

そこまで言って言葉が止まってしまう。

けれど、どう思われても、これは伝えたい。

ギルさんの神機。その長い柄の一部に触れる。

 

「だから……僕を信じて、この槍を届かせてください」

「デイト、お前……」

 

目を見開いて僕を見るギルさん。僕はと言うと、気恥ずかしくて思わず笑ってしまった。

そのまま、地面から爪を抜いたアラガミに向かっていく。

背後からは、呼び止める声ではなく、神機を構える音が聞こえた。

 

 

 

*****

 

 

 

まだ成長過程になる背中が赤いアラガミに向かっていった。

 

「ああまで言われたんだ。こっちも、応えないとな」

 

その背を見るハルオミの口元には笑みが浮かんでいた。

いつもの飄々とした、つかみ所のない笑みとは別種の笑みが少年の背中を追って行く。

その笑みがギルバートにも伝播した。

 

 

 

*****

 

 

 

爪で抉られた地面を越え、無防備な位一気に相手の懐に入り込む。

そのままだと攻撃し辛かったんだろう。尾を支えに上体を持ち上げた処で、体を支えている後ろ足にハルオミさんのバスターブレードが深く食い込んだ。

苦悶の雄叫びを上げて身を捩る赤いカリギュラ。

そのまま倒れ込んできそうだと判断して、後方に回避する。

 

「デイト!」

 

声を同時に、頭上から影が差す。

倒れ込む寸前の体勢で、それでも腕を振り上げたカリギュラが居た。

 

「―――っ!」

 

倒れる勢いを利用して、地響きと共に腕が振り下ろされる。

何とか装甲を展開出来たものの、目と鼻の先で鱗と鉄が火花を散らしている。

押し負けまいと耐える中、装甲と鱗が互いに引っかかり力の掛かり方を狂わされた。

筋にかかる負荷に負け、神機毎持っていかれそうになる。

 

「この……っ」

 

ギリギリと筋が痛むけれど、今手放せば諸とも潰されて終わりだ。

そんな風に悟った時、僕の名前を呼ぶギルさんの声が聞こえた。

 

「デイトォっ!」

 

そうだ。僕はさっき、ギルさんに「大丈夫」だと言った。

それを嘘にする訳にはいかない。

右足の膝から力が抜ける。

そのまま押し切ろうとする腕に逆らわず、装甲を僅かに傾けて力の方向を逸らした。

共に下方に逸らした神機を銃形態に変形。至近距離から拡散レーザーをその顔面に放つ。

その反動を利用して更に後転、距離をとる。

人間くさい動きで顔を覆っているアラガミ。軽く頭を振り手を離すと、所々欠けた鱗の下から漏れ出た濃いオラクルの余波が、まるで輪郭を飾る襟の様に吹き出していた。

グググググ……、という低い唸り声に続いた吠え声で、活性化したのだと解る。

怒りで輝いた目が僕を見据える。

半分伏せたような体勢から、無事な方の腕を構えるカリギュラ。

とはいっても、僕のいる位置までは届かないだろう距離だ。

カリギュラの後方に居るハルオミさんは勿論、ギルさんも既に距離を空けている。

それぞれが、その攻撃に対して安全な場所にいる筈だ。

それでも、"危険だ"という直感は消えない。

回避か防御か。どちらが被害が少ないかの思考に入った瞬間。赤いカリギュラが動いた。

振り上げた腕の鱗が変形、展開され、翼状の刃を形成する。それと同時に、背中のブースターから余剰オラクルが噴射され、それをカタパルト代わりに文字通り飛んでくる。

始めて見せる挙動に驚きつつ、迫る刃と自分との間に神機を滑り込ませる。

ギリギリと耳に刺さる金属音。足の裏で地面が抉られていくのが解る。

じわじわと削られる神機に、焦りとも違う感覚が沸き上がる。

けれど、この状態ではどうにも動けない。

下手に動けば、即座に体を断ち割られておしまい。

それだけは、ごめんだ。

 

 

 

*****

 

 

 

「デイト!」

 

腕に巨大な刃を展開したルフス・カリギュラが、デイトめがけて一気に飛び込んでいく。

ギルバートとハルオミの名を呼ぶ声に一拍遅れて、重く甲高い金属音が耳に刺さった。

駆けながら見れば、何とか神機でガードする事に成功したようだった。

しかし、変形は間に合わなかったのか、銃身での無理な防御になってしまってる。あれでは、早々に耐えきれなくなることは明白だった。

 

「くっ―――」

 

過去の出来事が脳裏に蘇り、神機を持つ手が色味を失う。

それでも、そんな自分を叱咤し、神機を握りなおした。

その時、僅かな違和感が神機から伝わる。

初めての感覚に戸惑うところだが、状況がそれを許さなかった。

違和感を振り払い、神機とアラガミに集中する。

疾走しながらもチャージ、その穂先をルフス・カリギュラに向ける。

そんな余裕がないからだろうか。

今は、デイトに対して感じていた不信感など吹き飛んでいた。

刃に耐えるデイトが、過去の情景と被る。

まるでやり直しのような状況。けれど、結果までやり直したりはしない。

今度こそ、この槍を、あいつに。

 

「届けええぇぇぇぇええっ!」

 

地を蹴り、スピアと共に疾る。

集中で、視界が狭く、鮮明に研ぎ澄まされる。

速度を落とした世界で、赤い鱗の一枚一枚まで識別できた。

穂先が届き、鱗を砕き割ってその下の軟細胞部分に到達したところで、時間の流れが元に戻る。

轟く様なほうこうが近距離から耳朶に刺さり、うわんと鳴る。

それでも怯むことなく、いっそう深くに穂先を沈めた。

力の方向を逸らされた腕から逃れたデイトは、既に距離を開け、次のバレットを装填している。

降り注ぐ三色のレーザーが、今度こそルフス・カリギュラの体を地に縫い止めた。

往生際悪くもがく巨体。通常の生物なら脊椎に相当する部分に、レーザーとは別の青白い光が墜ちた。

その反動で巨体が緩く波打ち、肩口に刺さった薄桃色の神機が飛ぶ。

それが綺麗にコンクリートに突き立った処で、ルフス・カリギュラの上に立ち上がるハルオミ。

その視線が、神機を捕らえ目が細められる。

数秒瞼が閉じられた目を開くと、静かな目が薄紅の空を見上げた。

 

 

 

*****

 

 

 

完全に停止した赤いカリギュラ。

その傍らに立つ二人の表情が、少し、晴れたように見えた。

勿論、これでいきなりケイトさんの事が昇華できる訳じゃないと思う。

それでも、一つの区切りには、なったと思う。

 

「デイトも、おつかれさん」

「いえ。少しでもお手伝いが出来て、よかったです」

「ああ。ありがとな」

 

そう言ってくれるハルオミさんは、憑き物でも落ちたようなすっきりした表情をしていた。

こちらに歩いてきているギルさんも、ここに来るまで、そして戦闘中に感じたような追いつめられた様子は無くなっていた。

その事に、内心でほっと息をつく。

 

「ギルさん、お疲れさまです」

「いや。……間に合ってよかった」

 

つと目を逸らして、さも何でもない事のように言うギルさん。

 

「はい。有り難うございます、ギルさん」

 

そうお礼を言うと、少しばかり驚いた表情で僕を見た。

帽子を直すような動作で隠された表情。

それが鍔の下から現れた時、ギルさんの口元には薄い笑みがあった。

 

「変わったな、お前も」

「そうですか?」

「ああ」

 

どうやら、僕も知らない間に変わっているらしい。

それが、少しでも良いものであればいいと思う。

薄い笑みのままハルオミさんの方へ向かうギルさん。ぼくもそれに続く。

 

「よっし。それじゃあ帰るか、アナグラへ」

 

 

 

極東支部へ帰りついた後は、何時になく慌しかった気がする。

ケイトさんが使っていたという神機をリッカさん達に渡して、整備保管をお願いしたり。

ブラッドのみんなに出迎えられたり。

何故か、ハルオミさんがエリナちゃんに叱られていたり。

僕たちに向かって言われた『お帰り』に、何故か胸の辺りが暖かくなって、自然と顔が緩んだり。

だからだろうか。

部屋に着くなり、早々にベッドに倒れ込む。

 

「……明日は、朝一で検しん……」

 

そのために目覚ましをかけようと手がさまよい、固いものに触れた所で意識は完全に眠りに落ちた。

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