GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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約一月開いてしまいましたが、本日より更新を再開させていただきます。
お待たせして申し訳ありませんでした。


第63話

エントランスの一角。

ミッション受注カウンターの脇に設置されたソファーに、僕たちは座っていた。

あの衝撃の後、目が覚めたらカノンさんが凄い勢いでアラガミにバレットを連射していた気がする。

その時の流れ弾に当たったせいか、そもそもそれ自体が夢だったのか。

意識がはっきりした時にはすでに訓練場の外だった。

そんな僕の目の前には、落ち込んでいるのか体を折り畳むようにしているカノンさんが居る。

 

「……すみません……」

 

その体勢のまま、消え入りそうな声で謝るカノンさん。

そんな姿を見ているのはなんだか忍びない。

 

「ええと……頭を上げてください、カノンさん」

「はいぃ……」

 

やっと顔を上げてくれたカノンさん。けれどその表情は申し訳ないという感情一色に染まっている。

夢うつつに見たカノンさん?は、やはり気のせいだったという気がしてならない。

 

「すみません……以前から、誤射が多いとは、言われていたんです……。一緒にミッションに行く皆さんからも、『固定砲台』とか、『誤射姫』とか言われて……」

「そう、だったんですか……」

 

何となく、問題はそこではないような気がする。

いや、誤射は誤射で問題なのだけれど、もっと別の問題があったような気がする。

それこそ、高圧的に罵られるような……。

 

「あの……、訓練場で突然変わられたように見えたのは……一体……」

「あ、はい……。どうにも私、実戦でもそうなんですけど。アラガミを目の前にすると、緊張のせいか人が変わったようになると言われてまして……」

 

その説明に得心した。多分、というか確実に、ハルオミさんがカノンさんの訓練を僕に預けたのは、彼女のこの性質による所が大きいのだろう。いきなり実地訓練に行かなくて本当によかった。

誤射で足止めされて、アラガミに総攻撃を食らう想像がとても簡単にできる。まるで体験でもしたようにだ。

 

「なるほど。しかし、緊張しないようにする為には実際に経験を積んでいくしかないと思います」

「な、なるほど。そうですよね!」

 

淡々とした調子でそう提案するシエルさんに、カノンさんは大いに頷いている。

しかし、そうするとなると---。

 

「よろしくお願いします、教官先生!」

「ああ、ええ。そうですよね。そうなりますよね」

 

それまでの落ち込んだ表情から一変。輝くような笑顔でそう頼まれては、断ることは難しかった。

 

「いいんですか?デイト」

「ええ……任務に支障は出ないようにします。やる気を無碍にするのも悪いですし」

 

カノンさんには聞こえないように気を使って言われた言葉に頷く。

カノンさんの晴れ晴れとした笑顔とは反対に、前途多難な予感を覚えて僕の笑顔はひきつっていた気がした。

 

「それじゃあ、早速行きましょう!反省を活かすためにも、直ぐに反復したほうがいいですよね?」

「え?」

「そうですね。確かに、基礎力の向上を目標とするなら、反復練習は欠かせません」

「え?」

 

何故かやる気に溢れた二人がどんどん話を進めていく。

数分後、僕はまた訓練場の一室に立つことになった。

 

 

 

 

「……大丈夫ですか、教官先生……?」

「……ええ。なんとか……」

 

実戦なら、「バイタル危険域です」と言われそうな気がするけれど、行動に支障はない。無いったらない。気にしたら余計に動けなくなりそうだ。

 

「これまでの訓練を観察させていただきましたが……カノンさんのバレットは、かなりの高確率で仲間、この場合はデイトに被弾するようですね」

 

淡々としたシエルさんの言葉に、カノンさんが益々小さくなる。

そんな反応に頓着せず、シエルさんの淡々とした検証は続く。

 

「言葉遣いが乱れていてもいなくても、誤射率には変動は見られませんでした。カノンさんが発射したバレットは、7割以上の確率で仲間に被弾している事になります。これは、実戦では致命的な事態を引き起こしかねないかと」

 

淡々とカノンさんの傷を抉っていくシエルさん。きっと、というか確実に、シエルさんに悪気はない。

物言いが率直過ぎる傾向があるだけで、多分。

 

「そうですか……やっぱり私、この仕事に向いてないんです……」

 

けれど、それが分かるほど交流が合ったわけではないカノンさんは、益々落ち込んでしまった。

彼女の周囲にだけ、湿気が漂ってキノコが生えてきそうだ。

 

「いいえ。まだ、そうと決めつけるのは早いと思います」

 

と、それまでと何ら変わらない口調でシエルさんが言った。

カノンさんも、不思議そうな表情で顔を上げる。

 

「仲間に当たる事が分かっているのならば、当たっても問題のないバレットを携行、装填していればいいのです。遠距離型神機の役割は、なにも攻撃に主軸を置くだけのものではありません。デイトの状態を見ても、カノンさんの火力の高さは明らかです。そこに加えて、最近考案されたオラクルリザーブを組み合わせ、放射型の回復弾を運用すれば効果的かつ効率的な体力の回復を行えます。……そういった味方が同じ戦場に居るのは、非常に心強いです」

 

滔々と、流れるような説明。

それを息切れ一つ起こさずに説明したシエルさんに向けるカノンさんの表情にはうっすら涙が浮かんでいる。

 

「あの……何か、気に障る事を言ってしまいましたか?」

「ち、違うんですっ。今まで、一緒で心強いなんて、言って貰えたことなくて……」

 

そう言って微笑むカノンさん。それを見て、シエルさんもほっとしたように微笑んだ。

けれど、そんな和やかな空気も長くは続かなかった。

はっと表情を堅くしたカノンさんの言葉が、重く響く。

 

「そういえば、私の神機じゃオラクルリザーブ使えないんでした……」

「…………」

 

その場に沈黙が下りる。

いや……そもそも高火力での誤射が無くなるだけで、僕たちとしては助かるのだけれど。

 

「それは、どのようにして判明したのですか?」

「オラクルリザーブが解禁された時に、リッカさんの方から……『カノンちゃんの神機は、オラクルリザーブと相性が悪いみたいなんだ』って……」

 

言い終えると同時に、肩を落としてため息をつくカノンさん。湿気た空気が周囲に再来する。

 

「でも、リザーブが解禁されたのって、もう結構前になりますよね?今なら、新しい理論や技術が構築されて、カノンさんの神機でも使えるようになってるかもしれませんよ?」

「そうですね。可能性としては、十分に考えられます」

 

僕の言葉に、シエルさんが頷いて同意する。

縋るような視線のカノンさん。それに微笑んで席を立つ。

 

「ちょっと、聞いてきますよ。その間、シエルさんと今後の方針を話して待っていてください」

「そんな、自分の事なのに……私が自分で行って聞いてきますよっ」

「いえ。リザーブの事に関しては僕が聞くだけですみますけど、訓練の方針は、ご自分でちゃんと理解しておいた方がいいでしょう?」

「デイト君……よろしくお願いしますっ」

 

感動した様子で頭を下げるカノンさんに、若干心が痛む。

カノンさん本人が行ったら、きっと結果が変わらないだろうから、と考えていたせいだ。

きっと、オラクルリザーブが禁止されているのは、神機のせいじゃなくて、カノンさん本人の問題だろうし。

2桁に及ぶ訓練のおかげで、さすがの僕もその答えに行き着いた。

 

 

 

 

機械油や金属の臭いが混ざって籠もった部屋の中。

オイルで顔を汚したリッカさんに冷やしカレードリンクを渡しながら、早速カノンさんのオラクルリザーブについて聞いてみた。

カレードリンクを一口飲んでから、苦笑を滲ませて口を開く。

 

「……君も、薄々気づいてるんじゃないかな。オラクルリザーブの理論が発表されて、なおかつそれが実装されるってなったとき、ここの神機使いの半数が転属願いを出したんだよ」

「やっぱり、そうなんですか……」

 

予想通りだった。

やっぱり、カノンさんを直に来させないでよかったと思う。

カノンさん相手に本当の事を言うわけにも行かないから、"神機のせいで使えない"という嘘を押し通すしか無かったはずだ。

 

「君も大変だったみたいだね……」

 

と、リッカさんの視線が、僕の頭部に向かう。

 

「ええ、まあ……」

 

敢えて鏡は見ていないけれど、髪の焦げる臭いや、見える範囲での髪の巻き方から大体の想像はつく。

 

「まあ、話を戻すけど。……けど、それを別にして考えると、彼女の神機適合率って凄く高いんだよ。だからあたしとしては、それだけ高い適合率を誇る神機でオラクルリザーブを使った結果を見てみたいと思ってる」

「それなんですけど---」

 

と、ここでリッカさんに、シエルさんが言っていた案を話してみた。

これなら被害者は出ない。どころか、色々な意味で人助けになる。

 

「成る程ね……。確かにそれなら、余所からも文句は出ないか……解ったよ。あたしの方で、彼女のオラクルリザーブの運用が問題ないって話を通しておく」

「はい。お願いします、リッカさん」

 

色よい返事を貰ってほっとする。

そのまま整備室を出ていこうとすると、今度はリッカさんの方が僕を呼び止めた。

 

「前に協力してもらったリンクサポートデバイスなんだけどね、君に付けて貰ってたデバイスを調べてみたら面白い事が解ってね」

「面白い事ですか?」

 

言葉通り、本当に楽しそうな表情で頷くリッカさん。

目が輝いている、というのは、こういう状態を表す言葉なんだろうと実感させられる。

 

「そう。仮定として、君の《喚起》の力がデバイスにも作用したという前提で実験に付き合って貰ったでしょ?動作したから、その原因を突き止める為に調べてみたんだよ。そうしたら、君に貸したデバイスの基本性能が、実験前と比べて向上してたんだ」

「そうなんですか?でも、一体どうして基本性能まで?」

「そこなんだよね。これも《喚起》能力の内なのか、それとも別の要因なのか……」

 

言い淀んで、カレードリンクに口を付けるリッカさん。

けれど、もう無かったのか名残惜しそうに缶を口から離す。

 

「まだこっちまでブラッドのデータ全てが回ってきた訳じゃないから、現段階ではこれが君の《喚起》の力だけの影響だっていう断言はできない。他のブラッドのメンバーも一緒に居たみたいだし、複数の《血の力》の影響を受けた結果かもしれない。まあ、その辺りは今後の課題かな」

「つまり、結局……?」

「詳しい事は続報で……って事かな」

 

何も解らず、謎が増えただけと言えなくもない状況なのに、リッカさんの表情に苛立ちや悩みなんかのネガティブな感情は見られなかった。

むしろ、新しい壁を乗り越える事に燃え上がっているようだ。

 

「そうそう。今度時間がありそうな時にでも、君のデータ取らせて貰っていいかな?結構項目も多いし、脳波なんかも見たいから、あたしが直にやっておきたいんだよね」

「解りました。では、また」

 

手を振るリッカさんに見送られて、今度こそ整備室を後にする。

オラクルリザーブが使えるようになるかもしれないと伝えると、手を握られて上下に大きく振り、「ありがとうございますっ」とお礼を言われてしまった。

もちろん、シエルさんも同様に。

 

「お二人のお陰で、道が開けたような気がしますっ。これからもよろしくお願いしますねっ」

 

輝く満面の笑顔。

少しばかり不安はあるけれど、回復主体に回るという方針だった筈だし、そうそう事は起こらないだろう。

そう思ってほっとしていた僕は、上からの視線に気づかないままだった。

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