GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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第64話

満足したリーゼロッテがラウンジから出ると、エントランス上部に設置されたコの字型のソファーから下を見ているエリナを見つけた。

なにやら機嫌が良くなさそうな表情で睨む先には、二人の女性に挟まれている(ようにも見える)デイトの姿があった。

その二人ともが豊かな胸囲を誇っている事もあって、エリナとしては理由は解らないものの面白くない。

自分でも知らぬ間に寄っている眉間の皺、その深さが端的にその内心を表していた。

 

「ほほう。なんともうらやまけしからん立ち位置だな」

「!?」

 

後ろから聞こえた声に驚き、慌てて振り返るエリナ。

背後には、いつの間に居たのかリーゼロッテが立っていた。

必要無いだろうに、手をかざして階下を見下ろしている。

 

「な……っ、い、いつからそこに居たのよ、リーゼ!」

「ん?ついさっきだぞ?縁に手をかけてじっくり下を見ている辺りからだな」

 

内心の読めない半眼。寧ろここまでくると無表情と同義な気さえしてくる。

そんなリーゼにため息を吐いてエリナも普通にソファーへ腰を下ろした。

見つかってまで醜態を晒すなんて事をする気は無いし。そもそも、特定の誰かを見ていた訳では決してない。

無いのだ。

だから、人が来て会話をしている以上、他へ目を向ける必要なんて無いのだ。

必死に、自分にそう言い聞かせるエリナ。

しかし、リーゼロッテの方は先ほどまでのエリナと同じように階下の三人を見ていた。

 

「……成る程。あれがいわゆる『リア充モゲろ』という状況か」

「なにそれ」

「旧時代の極東で使われていたという言葉だそうだ。暇つぶしにノルンを見ていたら見つけた」

「……よく解んないけど、ろくな意味じゃなさそうね」

 

呆れた調子のエリナの言葉に、発言したリーゼロッテも頷いた。

元々、深い意味もなく言っただけのようだ。

 

「しかし、どうして熱心に見ていたんだ?何か用があるなら、直接行けばいいだろーに」

「べ、別にデイトに用なんて無いわよ!ただ……そう、人を見てただけ。人間観察よ!」

 

誰も個人名などは出していないのだけれど、デイトの名前を出して必死に否定するエリナ。

リーゼロッテは、特に興味があったわけでは無いのか、それとも敢えて気づかない振りをしているのか、そこにはふれず「そうか」と流した。

そして、デイトを視界に納めた時から気になっていた事を口にする。

 

「あいつはどうして微アフロになっているんだ?」

 

元からのくせっ毛と、焦げたように縮れた毛が混ざりあって。完全な、とは行かないまでもアフロを連想させる髪型になっている。

本人と、周りの二人が気にしていないからいいようなものの、周りを歩いている他の人たちは、必ず一度は彼の頭に視線を向けていた。

 

「……カノンさんと訓練でもしてたんじゃないの?」

 

と、僅かに棘を含んだ調子でエリナが答える。

それは珍しい事だった。

彼女自身、かなりの努力をして神機を得るに至った。だからこそ、きちんと訓練を行い、努力している相手に棘を向けるような事は無かったはずだ。

彼女が信条とする『華麗』な振る舞いも、そういった言動に影響していたかもしれない。

だというのに、今は唇を軽く尖らせ、まるで拗ねた子供のような面もちですらある。

あまり見ることのないエリナの表情に、カクリと首を傾げるリーゼロッテ。

 

「……つまり。エリナもあいつに訓練して欲しいのか」

「―――っ!」

 

何気ない様子で投げられた爆弾に、エリナは固まる。

何か反論しようととっさに開いた口は、しかし何も音を発せずにぱくぱくと空しく開閉しているだけだ。

耳まで赤く染まる一瞬の変化に、その変化の原因であるリーゼロッテは「おぉ」と、やはり驚いているのか解りづらい反応を見せただけだった。

 

「何言ってるのよっ!私は、そんな……っ、デイトと訓練したいなんて一言も言ってないでしょっ!」

 

やっと吐き出された否定の言葉に、リーゼロッテはいつもの表情のまま「別にデイトとは言っていない訳だが」とのたまった。

その事で、また頭に血が上っていくエリナ。

自分の身近な金髪には、ろくな相手が居ない。

かといって、これ以上無闇に言葉を重ねるのも華麗ではない。

「ぐぬぬ」とでも表現できそうな顔でリーゼロッテを睨むエリナ。効果があるかは、また別だが。

 

「エリナちゃん?どうかしたんですか?」

 

と、横合いから声が聞こえた。

先ほどまで階下に居たはずの人物の声に驚き、また固まるエリナ。

ぐるりと迂回するように来たのは、話題の中心であるデイト本人だった。

先ほどの叫び声を聞いて来たのだろう。何やら心配そうな表情でエリナを見ている。

しかし、当のエリナはそれどころではない。

『デイトと訓練したいなんて一言も言ってない』という、自分が言った否定の言葉がぐるぐると頭を回っていた。

固まってしまったエリナの状態をどう考えたのか、デイトは彼にとって手前に居るリーゼロッテを見てため息をついた。

 

「また、何か変なことでも言ったんですか、リーゼさん?」

「失敬だな、あたしは仮にもふにふにが付いている相手を苛める趣味はないぞ」

 

胸を張って言われる反論に、頭が痛そうな顔をするデイト。

そんなデイトに、リーゼロッテが「それより」と続ける。

 

「エリナが、何かお前に言いたい事があるみたいだぞ」

「僕にですか?何でしょう、エリナちゃん」

 

何も気づいていないらしいデイト。どうやら、声は聞こえたけれど、その内容までは聞き取れなかったらしいと解って、少し落ち着くことができた。

しかし、そうすると今度は、素直に話していた内容を教える事も躊躇われた。

しかし、リーゼロッテが事前に『デイトに言いたいことがある』と言ってしまっている時点で、「関係ない事だ」と誤魔化す事もできなくなった。

四面楚歌。

様々な感情が渦を巻き、カオス状態になっているエリナの内心を知る由もなく、デイトはいつもののほほんとした顔でエリナの発言を待っていた。

 

「べ、別に、大したことじゃないわよ。……その、ブラッドは特殊部隊だっていうけど、どの程度実際動けるのかとか、そんな話をしてただけなんだから」

 

極東に来てからも、既に何度か共にミッションに出向いているのだから、どの程度動けるも大体解っているはずなのだが、混乱しているエリナはそこに気づかなかった。

勢いのままに喋り、肩で息をしている。

 

「エリナちゃん、何度か一緒に任務に……」

「き、気のせいでしょっ」

 

強引に過ぎる、切断する勢いの否定に気圧されるデイト。「そ、そうですか……」という声から、若干怯えのようなものが伺える。

 

「ええと……それじゃあどうするのが良いんでしょう」

 

及び腰での問いに、止まらない勢いのまま、エリナは言い放った。

 

「どの程度戦場で動けるか、見せて貰おうじゃないっ」

 

ビシッ、と音がしそうな勢いでデイトを指さし言い切る。

未だ困惑顔のデイトが「はあ……」と、煮えきらない返事で頷いた。

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