GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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遅くなりましたが、今週の更新をさせていただきます。


第65話

顔を真っ赤にして怒っているエリナちゃんに、ミッションへの同行を言い渡された。

凄い勢いでミッションカウンターに向かっていき、ヒバリさんとミッション受注のやりとりをしている。

 

「デイト。私も同行した方がよいのでしょうか?」

「エリナちゃんはブラッドの、って言ってましたけど。今回は大丈夫ですよ。皆さんは、万が一に備えて待機していてください」

 

エリナちゃんと入れ違うように上ってきたシエルさんにそう言って、僕も階段を下りていく。

カウンターの前には、まだ少し顔が赤いけれど、大分落ち着いた様子のエリナちゃんが居た。

近づいて、何が相手なのか聞こうと思っていると、後ろから服の裾を掴んで止められる。

振り返って目線を下げると、リーゼさんがそこに居た。

 

「……何か?」

「一つ、言わせて貰おう」

「なんでしょうか?」

 

普段よりは真剣な雰囲気に呑まれないように聞き返す。

何を言われるのかと身構えていると、あまり聞き覚えのない単語が飛び出した。

 

「鈍感系マジ爆発しろ」

「……え?」

 

それぞれの単語は理解できるけれど、それが合わされてどういう意味になるのかが解らない。

どこかの国のスラングなのだろうか。それにしても物騒な単語が入っていたけれど。

どういう意味かと問うより先に、リーゼさんは階段を上って行ってしまった。

 

「デイト、行くわよっ」

「あ、はいっ」

 

エリナちゃんに促され、引っかかりながらもミッションへ向かった。

 

 

 

ジープに乗って着いたのは、段々と見慣れてきた都市跡だった。

過去の建物が、夕暮れでもないのに長い影法師を落としている。

建物の陰に隠れて外をうかがうと、大量の小型アラガミが闊歩していた。

 

「どっちが多くアラガミを倒せるかで勝負よ。……もう此処まで来たんだから、思いっきりやってやるわ」

 

神機の調子を見ながらそう説明するエリナちゃん。何故か、後半から自棄な気配を感じたけれど、どうしたのだろうか。

緊張でもしているのかと、思ったら、腕が勝手に動いていた。

 

「大丈夫ですよ。いざとなったら、僕もいますから」

 

そう言って頭を撫でる。

そうは言っても、実際には帽子を軽く撫でるだけなのだけれど。

 

「それじゃあ―――始めましょうか」

 

そう言って出口を向く。けれど、エリナちゃんの反応が無い。

どうしたのかと振り返ると、また顔を赤くしていた。

流石に頭を撫でるのは子供扱いと思われただろうか。

 

「~~~っ。行くわよ、デイト!」

 

小さく震えていたと思ったら、元気に飛び出していってしまった。

どうやら、ため込んだ物はアラガミに対してぶつけることにしたらしい。

神機を構え、飛ぶように出て行ってしまった。

 

「あっ、待ってください、エリナちゃん!」

 

慌てて僕も追いかける。

相手はもうお馴染みと言えるドレッドパイクやオウガテイルその他。

一体一体はどうということも無いけれど、数は多い。

とはいえ、こちらも一人ではないので問題はない。

 

「やあぁぁっ!」

 

頼もしい声を背景に、どんどんアラガミ達が数を減らしていく。

時折掠めていく遠距離からの攻撃。その原因であるコクーンメイデンやナイトホロウを中心に倒していくと、思ったよりも早く全滅させることができた。

対応してくれていたオペレーターの人にミッションの終了を告げ、エリナちゃんの所に向かう。

一つ、大きく深呼吸をして息を整えたエリナちゃんも、ちょうど僕を振り返った。

 

「……えっと……」

 

何故だろう。その表情は、とても機嫌がよさそうだとは言えない。

けれど、怒っている訳でもなさそうだった。

近い物を言うなら、拗ねているというのがしっくりくるだろうか。

 

「僕、また何かしましたか?」

 

恐る恐るそう聞いてみると、今度は整息の為ではない、大きなため息をつかれてしまった。

 

「何でもないわよ。……結局、勝負だってかなわなかったし」

「え?でも、数はエリナちゃんの方が多かったでしょう?」

 

不思議に思えて聞き返す。

討伐数は、エリナちゃんの方が多かった。僕もやることはやったと思うけれど、一歩及ばず、といった所だろうか。

けれど、そう言ってもエリナちゃんの表情は晴れない。

 

「そういうトコよ!……私は、アラガミで手一杯で、他まで気を回す余裕なんてなかった。数だって、途中から解んなくなっちゃってたし……」

 

声の勢いがどんどん失速していき、最後には俯きがちになってしまうエリナちゃん。

髪の隙間から僅かに見える目の際が赤くなっている。

 

「なんか、遠くなっちゃった気がするな……」

 

 

 

*****

 

 

 

デイトとエリナが出ていったエントランスで、残った三人はお茶をしていた。

カノンが以前作っておいたというカップケーキを温めなおしてお茶受けにしている。もっとも、その大半はリーゼロッテの胃袋へ消えていたが。

 

「二人だけで、大丈夫でしょうか?」

 

缶をテーブルに置き、シエルが呟いた。

デイトが引っ張られるように出撃して以降、三人の中で一番一番落ち着きがない。

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

そしてこれも、何度目になるか解らないリーゼロッテの答えだった。

根拠などない筈なのに、何故か不思議と安心できる。

 

「それにしても、エリナちゃん張り切ってましたね。……少しは、うまく行っているでしょうか?」

「どうかな」

 

また新たにカップケーキを頬張りながらのそんな返答。

先ほどは大丈夫だと言っていたのに、おかしな話だ。

そう感じたシエルが口を開くのに先んじて、リーゼロッテは続けた。

 

「何しろ、鈍感系だからな。討伐の方は問題ないだろーが、他は解らない」

 

鈍感系、という言葉にシエルは首を傾げた。

おそらくデイトの事を言っているのだとは解るが、それにしては解せなかったからだ。

確かに、デイトの察知能力は突出しているわけではないが、特に問題があるわけでもない。

一体、何をもって鈍感系と判断されたのか。

更には、隣のカノンですら「そうなんですよね……」と同意を示した。

 

「前からそわそわしてましたから、今回の事が何かきっかけになるといいんですけど……」

「どうかな。そもそも、アレがそういう感情なのか、そしてそれを本人がどの程度理解しているのかも解らない。そして、仮に理解していたとしても、そういう意味だった場合、エリナ本人があの性格だ。スムーズに行く気がしない」

「そうですよねぇ……」

 

分かりやすいため息を吐いて肩を落とすカノン。

対してリーゼロッテは、無表情でカップケーキを頬張っている。

 

「……あの、お二人は一体何の話をしているんですか?」

 

疑問を口にしたシエルに、二人の視線が向けられる。

その後、二人が見つめ合う形になった。

どんな意志疎通があったのか、口を開いたのはリーゼロッテだ。

 

「そうだな。その素晴らしいふにふにに免じて話すか」

 

その発言に、とっさに胸をかばうシエルが居た。

 

「まず、デイトがまだここに居たときから、二人は仲が良かった。病室仲間だな」

 

病室仲間とは不穏だが、取りあえず全て聞こうと先を促す。

 

「なんだかんだ言いつつ対等だと認めていた相手が居なくなって、ちょっと会わない内に何か偉そうな肩書き持って帰ってきた。それだけで大抵の人間は複雑な思いをするのに、そこに乙女心まで加えて煮込んだカオス。それが今のエリナの心境だろう」

 

言い終えると、喋って喉が乾いたのか一気に缶の中身を呷った。

 

「……つまり、エリナさんはデイトを見返したいと思っている。という事でいいのでしょうか?」

 

ミッション前の態度と、先ほどのリーゼロッテの発言から導き出された答えに、今度はカノンが「うーん」と首を小さく傾げる。

 

「どうでしょう……。そこまで攻撃的では、ないんじゃないでしょうか。ただ、遠くに行ってしまった気がして何となく寂しいというか……」

「先ほど、一緒にミッションに向かいましたが……」

 

まさか別々に移動した訳でもあるまいし、そこまで距離が離れているとは思えない。それに、移動中に限らず、今は同じ支部内に居るのだ。

会おうと思えばすぐに会える筈だ。

悩むシエルの隣から、小さな笑い声が漏れる。

見れば、カノンが口元に手を当てて微笑んでいた。

 

「物理的な距離じゃないですよ。もっと、見えない距離です」

「見えない、距離……しかし、それでは測れません」

 

シエルの言葉に頷くカノン。

 

「だから、今エリナちゃんはどうしたら良いのか解らなくなっちゃってるんじゃないでしょうか」

「まあ詰まるところ、鈍感系のせいで事態がややこしい方向に向かっているという事だ」

 

カノンが作ったいい雰囲気に、とりつく島もない結論が提示された。

流石に、カノンも苦笑いを浮かべるしかない。

 

「まあ何にせよ、今のあたし達にはどうしようもない。帰ってきた後に、エリナを慰めるかデイトを殴るかくらいしかな」

「もう。どうしてリーゼちゃんはそう極端なんですか?」

 

弾んだ調子の二人の会話を聞き流しながら、シエルの胸にもやもやとした、上手く言い表せそうにない感情が生まれた。

 

 

 

*****

 

 

 

小さく呟かれた言葉を、危うく聞き逃しそうになる。

風に紛れて消えてしまいそうなそれは、何の偶然か風が止んだ事で耳に届いた。

ミッション開始前みたいに気軽に手を伸ばせない。

"遠い"とは、今この目の前にある距離では無いような気がした。

それでも、ゆっくりと。まるで水の中で動くように手を持ち上げる。

頭の高さには全然足りないけれど、手には届く。

ぎこちない、堅い動きで何とか手を握った。

一瞬反応があって、ふりほどかれるかと思ったけれど、それは杞憂に終わる。

 

「……何よ」

「あ、その、すみません。どう言ったら良いのか解らなくなってしまって……」

 

確かに、只手を握っているだけじゃただの変な人だ。

けれど、なにが言いたいのか頭が纏まってくれない。

慌てる僕がおかしかったのか、エリナちゃんが吹き出す様に笑った。

段々と堪えられなくなったのか、声に出して笑っている。

その軽やかな笑い声に背を押される形で、口を開いた。

 

「……僕は、ここに居ます。エリナちゃんと触れ合って、話せる距離に、ちゃんと居ますよ」

「…………」

 

アイスブルーの瞳と、視線が重なった。

直後、何故か大きなため息を吐かれる。

 

「え?あの。僕、何かおかしな事言っちゃいました?」

「何でもないわ。……変なところ変わってないんだから」

 

そう言った後のエリナちゃんは、もういつもの調子に戻ったようだった。

女の子の機微は良く解らない部分が多いけれど、先ほどまでの様に落ち込んでいるより、こっちの方がずっといい。

気分を切り替える為に小さく息をつくと、強気な光が伺える目で僕を見上げた。

 

「絶対、追いついて見せるから」

 

そう言い切って笑う。

何故だろうか。その笑顔が、陽の光よりも眩しいものに思えた。

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