GOD EATER2 ~Nam Oratorium~ 作:〆渡
隊長が帰った後、多少不格好なものの繕い終わった袋に、入っていた物を入れ直していく。
年季の感じられるノート数冊と記憶ディスク。
念のため、拾い忘れた物がないかと確認しながら袋に戻していく。
「……あれ?」
ディスクを手に取ったとき、何か小さなひっかかりを感じた。
けれど、それが何なのかまでは解らない。
ひとしきり考えて、それでもやっぱり解らなかったけれど、だからといって解るまで外に出しっぱなしにしておく訳にもいかない。同じようにしまっておこう。
全て仕舞い終えて顔を上げると、端末がちかちかと光っていた。どうやら、メールを受信したらしい。
ファイルを開くと、先輩からだった。
なにやら、急いでラウンジへ来るようにと書いてある。
何かあったのかとラウンジへ向かうと、先輩だけでなくコウタさんも居た。他にも、数人人が居て、その全員がラウンジに設置された大きいモニターをじっとみている。
「一体どうしたんですか、先輩?」
「しっ!良いから、黙って見てろって」
「もうちょっとこっち来なよ。そっちより見やすいから」
何か問題でも起きたのかと思っていた僕は、少し拍子抜けした気分だ。
喧嘩も何も起きておらず、それどころか周りの人たちはみんな、どこか連帯感のような物を帯びている。
一体何が始まるのかと言われた通り黙って見ていると、それまでフェンリルのマークが表示されていた画面が消えた。
代わりに、ポップな音楽が流れだし、記号的な女の子が現れた。
シプレだ。
何やら意図の掴めない歌と一緒に、プロモーションビデオというのだろうか。映像が流れている。
神機兵の広告にも使用されている曲だからだろうか。映像内でも神機兵の占める割合が高い。
以前は気にならなかったけれど、軽くて明るい音楽と、華奢な女の子。それらと神機兵の取り合わせというのは、なんだか歪な印象だった。
その後も、数本シプレの曲が流れていた。そのどれも、プロモーションビデオの様な映像つきだ。
先輩とコウタさん。それに、最初から居た人たちは全ての曲を聞き終えて満足そうにしている。
「やっぱ、いいなぁ……」
「そうっすね……」
「……大丈夫ですか、二人とも」
惚けたような状態の二人。これがバーンアウトというものなのだろうか。いや、公共の場で二人が騒いでいた訳ではないのだけれど。
「俺、大きくなったら神機兵に乗るんだ……」
「マジっすか……ヤバいっすね……」
確かにヤバい。主に二人の状態が。
一体どうしたというのか。
シプレの映像か歌詞、あるいは音楽のどこかに相手を惚けさせるサブリミナルでも仕込まれているのか。
そんなバカな事を考えたくなる位の惚けっぷりだ。
「大丈夫ですか?」
二人の顔の前で手を振ってみると、むしろ僕の方がどうしたのかという目で見られた。
「あーあ。楽しみだなあ……」
「だよなあ……」
そんな状態から、また惚けたような目に戻る二人。きっと時間が経たないと戻らないんだろう。
元に戻そうとするのは諦めて、「何がですか?」と聞いてみる。
何やらもの凄い食いつきで、お互い被り気味に説明された事を要約すると。
今度、シプレが今まで発表してきた音楽が、高音質の状態になって記録媒体、CDの状態になって販売されるらしい。
それの先着特典として、今度発表予定の新曲が収録されている、ボーナストラックとかいう物があるものも存在する。
二人とも、是非それを入手するべく動いているのだという。
そんな内容を、これの3倍程度に膨らませた状態で聞かされた。これが、熱意と愛というものなのだろうか。
とりあえず、僕としては「はあ……」としか返事のしようがない。
良く解っていないのに同意するのも、それはそれで失礼な話だろうし。
「なんだよ、反応薄いなあ」
「デイトも、シプレの映像とかよく見てたろ?好きなんじゃなかったのか?」
「いえ。シプレさんを、というよりは、神機兵のCMとして見ていたので……」
コウタさんの質問にそう返答すると、先輩に「えー?」と言われてしまった。
「なんだ。シプレ目当てじゃなかったのかー。んじゃ、急に呼び出して悪かったな」
「いえ、見ていて面白かったですよ。こういう方面の技術も、最近は延びてきているんですね」
こういう娯楽産業というものだって、幾ら必要でもそれなりの余裕がないと作れるものではないだろうし。
そういう余裕が生まれてきているという事は、いい事だと思う。
「そうなんだよなー。前はさ、昔の映像を見たりとかしか出来なかったから。あれはあれで面白いんだけどな。バガラリーとか、バガラリーとか、バガラリーとか」
何故か同じ名前が複数回言われた。
バガラリーという番組が好きなコウタさんとしては、譲れないところだったのかもしれない。
「でも、やっぱ楽しみだなあ、新しい曲!」
「ですよねっ!」
やっぱり、好きなものの話題となると話は尽きないもののようだ。
それにしても、発表から1年経つかという程度らしいけれど、そう考えると曲を集めてCDを作れる程度に発表し続けているというのは凄い事のような気がする。
僕はそもそもしたことがないけれど、歌詞を考えて、曲も考えて、更にそれを人に披露出来る位になるまで練習して。なんて、想像もつかない事に思えてくる。
新しい曲がどんな状態で二人の手に届くかは解らないけれど、何かが形になって人の手に届くというが特別な事のように感じられた。
「……新しい」
「ん?どうした、デイト」
先輩の声に答えず、思考にふける。何かが引っかかった。
新しい曲、記憶媒体。
そして、引っかかっていた物が解けだす。
「……そっか。あれだけ新しかったんだ」
先生から預かった袋の中身。その殆どが古いもので、所々日に焼けていたりしたのに、あの記憶ディスクだけが新しかったのだ。
間違って入れてしまったのかと思ったけれど、もう、そんな心配も要らないのだと気づく。
考えが暗い方に傾き始めるのを感じて、軽く頬をはたいた。
強引な方法でも、今はまだ直視したくない。僕が、もう少し強くなるまで待っていて欲しい。
「どうしたんだ?いきなり自分のこと叩いて……」
「いえ。気持ちを切り替えないとな、って」
「真面目だなあ、デイトは」
そういって、二人は屈託無く笑った。
以前に、何かあったら話して、とは言われたけれど。関わりの無かった人の事をいきなり言われても困るだろうし、僕も人に話すことになったとき、きちんと話せるか解らないし、今は、黙っておこう。
「……強くならないと」
「デイト?どうかしたのか?」
「いいえ。なんでもありませんよ。でも……」
"強く"って、どうやったらなれるんでしょうか。
そう続くはずだった言葉は、途中で止まったままだった。
コウタさんも先輩も首を傾げている。
そんな二人に別れを告げて、自室へ戻ることにした。