GOD EATER2 ~Nam Oratorium~ 作:〆渡
先にきちんと昼食を食べ終えた隊長に「あまり食べ過ぎるなよ」と注意されたけれど、ナナさんには効果がなかったみたいだ。
僕はとい言えば、一食食べた後程良くこなれては来たけれど、訓練の時間が近づくにつれて、緊張の為か少しばかりお腹が重苦しくなってきた。
きちんとしたセットじゃなくて、軽食程度にしておいた方がよかっただろうか。
ナナさんはと言えば、あれだけ食べていたのに今僕の前に座りながら「緊張したらお腹空いてきちゃった」と言っている。
彼女の体を調べたらブラックホールでも発見されるのではないだろうか。
「それにしても、実地訓練かー、どんなことするんだろうね?」
「さあ…。最低でも、どんな場所で任務をする事になるかの体験はすると思いますけど…」
「そっかあ…、確かに、いきなり知らない所にポイッってされても、わたわたしちゃいそうだもんねー」
時間が来るまで、ロビーでナナさんと次の実地訓練の話をする。
何をするのか、というより、何をやらされるのか、と思ってしまうのは悪いことだろうか。
「それにしても、外に出るのかあー、久しぶりだなあ」
「そうなんですか?」
「うん。ほら、施設に居た頃は勝手に外に出たらいけなかったしね」
「そういうものなんですか」
「そうなんだよー。まあ、ご飯はおいしかったけどね」
いつも通り、朗らかに笑って言うナナさん。
僕はあいにくとそういった施設に縁のないまま今まできたけれど、ナナさんやロミオ先輩、そしてジュリウス隊長を見ている限り、そう悪くはなさそうな場所だ。
僕も、もう少し幼かったら、ひょっとしてそこに行っていたんだろうか。
「どうしたの、急に黙っちゃって」
「ああ、すみません。僕もそこにいたら、楽しそうだなと思って」
「そうだねえ。でも、今でも十分楽しいよ」
「そうですね」
笑顔に、笑顔で返す。
けれどやっぱり、ちょっとした寂しさは拭えなかった。
2時になるにはまだまだ余裕のある時間に、オペレーターのフランさんから、ヘリポートに行くように連絡を受けた。
どうやら、ジュリウス隊長が呼んでいるらしい。
訓練前に、何か連絡なり何なりがあるのかと思って、ナナさんと二人で向かってみれば、そこにはスタンバイ中のヘリと、計3人分の神機ケースがあった。
「遅かったな」
「あれ、隊長?2時までまだありますよ?」
首を傾げてそういうナナさんの言葉で気づいた。
実地訓練ということは、当然、フライアから出て、外にある街の跡などに行くことになるだろう。
そして、2時までには現場に到着して、出撃準備を終えていなければならない。
そんな当然の事を省いて、すっかり2時から移動を開始するものだと勘違いしてしまっていた。
「移動に時間がかかるからな、今から出る」
「ああ、そっかあ!」
「すみません、失念していました」
「いや、俺も集合時間を伝えて居なかったからな。その事を失念していた」
新人の勘違いと、ベテラン故の前提意識。
小さな事だけれど、蔑ろにしていい事じゃない。
他にもきっと、大小こう言うことがあるんだろう。それを、ゆっくりでも良いから、確実に身につけていかなければ。
決意も新たに、僕たちはヘリへ乗り込んだ。
ヘリから降りた先には、荒廃しながらも美しい景色が広がっていた。
アラガミに捕食され折れた尖塔。周りの景色が写り込んだ池。無造作に広がる公園の跡。これだけの植物がアラガミに捕食されていないというのは、ほとんど奇跡に近い。
それとも、この場所には他にもっと食欲をそそるモノでもあったのだろうか。
「ここは、植物が残ってるんですね」
「ああ。どうやら、そういった性質のアラガミが、この付近に多いんだろうな」
「ああ、アラガミも、実は個別に行動の傾向やらが違うんでしたっけ」
その傾向を調査したうえで、比較的アラガミの来ない場所に、新しい居住区を作る試みが今行われているらしい。
「ああ。もちろん、他にも要因はあるのだろうが…ん、すまない、通信が入った」
「あ、はい」
インカムの通信機能をオンにして歩いていってしまう隊長。それほど離れた場所には行かないようで、少し安心する。
僕は、自分の神機の調子を確かめながら、ナナさんの支度が終わるのを待っていた。
先ほどちらりと見たけれど、ナナさんの神機はピンクに塗られていた。とてもナナさんらしい。
ジュリウス隊長は金。ベースの黒と合わさると一見派手なようだけど、品よくシックに纏まっていて、隊長の雰囲気にぴったりだ。
僕の神機はといえば、黒をベースに、薄く緑がかった白で塗り分けられている。
これも、僕の印象にあっているんだろうか。自分ではどうもよく解らない。
それよりも問題は神機のパーツだ。
午前中の訓練から、変更しないまま来てしまった。そのせいで、未だにチャージスピアとショットガンのままだ。
午前中の訓練と、初日の訓練が頭をよぎり、不安が倍加する。
「おまたせー」
「あ。いえ。そんなに待ってませんよ。それより、ナナさんの神機はハンマーなんですね」
「うん。これでガンガンアラガミ叩いちゃうよ!」
なるほど、それであの高台はあんなにへこんで居たのか。
実際に見たことはまだないけれど、ブーストハンマーとうだけあって、ブースト機能を起動したハンマーの破壊力はすさまじいらしい。
おそらく、ダミーに避けられてしまったか何かで、目標ではなくあの高台に叩きつける事になってしまったのだろう。
「君はスピアなんだ」
「ええ…まあ。…頑張ります」
「ん?うんっ、頑張ろうねー」
取りあえず、今日は足手まといに成らない事だけ考えよう。そうしよう。
二人で、通信中のジュリウス隊長の元へ向かう。
丁度通信が終わったのを見計らって、ナナさんと二人、訓練前の挨拶をした。
「フェンリル局地化技術開発局、ブラッド所属。第2期候補生2名、参りました。本日もご指導よろしくお願いします」
「ああ。それでは、これより実地訓練を始める」
そう言って隊長が示した先には、ヴァジュラを捕食しているオウガテイル数匹。
つまり、今日の訓練は、この場所であのオウガテイルを狩るという事だ。
初日の訓練で、隊長からの無茶ぶりになれている僕とは違い、ナナさんは明らかに動揺している。
そんなナナさんに、隊長は爽やかに頼もしく笑って言う。
「お前達が実力を発揮できさえすれば、問題になるような相手じゃない」
その背後。崖の下から驚異の脚力でオウガテイルが飛び上がってきた。
その軌道の先には、状況が把握できていないナナさん。
「え?」
赤い血を幻視したとき、体が勝手に動いていた。
ナナさんを庇うように前に飛び出し、神機を銃形態に変形。大きく開けられた口に向かって引き金を引く。
「ギャアァァァッ」
悲鳴の様な鳴き声をあげて崖下へ落ちていくアラガミ。
まだだ、まだ致命傷じゃない。早く止めを刺さなければ。
神機を剣形態に戻しながら、アラガミの後を追って崖を飛び降りる。
背後から誰かの声が聞こえた。誰か居るなら益々きちんと殺しておかなければ。
崖下でもがいているアラガミ。
小さな穴が開いたその体に、落下の勢いを乗せてスピアを突き刺す。
「ギョオアァァッ」
まだだ。
しぶとい。
刺したままの神機、その柄を握り直し地面に降りる。その反動を使って、背負い投げの要領で神機毎刺さったオウガテイルを地面に叩きつけた。
ブチッという鈍い音がして胴体が分かれると、やっと離散が始まる。
それを確認していた僕の肩を、誰かが掴んだ。