GOD EATER2 ~Nam Oratorium~   作:〆渡

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第8話

アラガミの急襲に対して、初陣にしては素晴らしい反応を示したデイト。だが、様子がどうもおかしい。

撃退を喜ぶでもなく、緊張を深めるでもなく、一見自然体で立っている。

けれど、表情がおかしい。

それどころか、ナナやジュリウスの声にも反応を示さない。

まさか目を開けたまま気絶でもしているのかと思ったナナが肩を掴もうとすると、それをすり抜けるように、するりと崖の下へ降りていってしまった。

『ジュリウス隊長、ブラッド1のバイタルのみ、大きく変動しています、何か異変が?』

 

「俺にも解らん、ひとまず収拾を試みる、一度切るぞ」

 

フランからの通信を切ると、追うように飛び降りる。ナナも、ここで一人待つわけにも行かず、ジュリウスを追って飛び降りた。

その先でナナが見たのは、体が二つにちぎれたオウガテイルの残骸と、ジュリウスに肩を捕まれているデイトの姿だった。

けれど、振り返っている彼に、先ほどのような異変は微塵も感じられない。

それどころか、何が起こったのかも理解していない様子だった。

 

 

肩を捕まれて振り向くと、怖い顔をした隊長が立っている。いや、怖い、というより、緊張しているのだろうか。とにかく、緊迫した空気だ。

その肩越しに見えるナナさんも、不安げな表情を浮かべていた。

―そうだ、ナナさん。

 

「あの、大丈夫でしたか?怪我は?」

「え?…覚えて、無いの?」

 

覚えてないとは、どういうことだろうか。

けれど、見た限り怪我も無いようだ。ジュリウス隊長が何とかしてくれたのだろう。

ひょっとして僕は、その時にとんでもない失態を犯してしまったのだろうか。だから、二人がこんな表情を浮かべている?

 

「あ、あの…僕、何かしちゃいましたか?」

「本当に、覚えていないのか?」

「え?あの、はい」

 

ジュリウス隊長の反応を見る限り、どうにも聞くのが怖い。けれど、もし失礼な事なんてしていたらきちんと謝罪しないといけない。

隊長は、しばらく僕の様子を観察するように見ていたけれど、何かに気づいて神機を構えた。

振り返れば、遠くに居たはずのオウガテイルがこちらに気づいている。

 

「ひとまず、話は後だ。当初の予定通り、付近一帯のアラガミを纖滅する」

「了解、です」

「了解!」

 

気持ちを切り替えて僕も神機を構える。

僕たちの実地訓練だからだろうか、隊長は比較的後方に位置して、でもいつでも僕たちの援護に回れる距離を保ってくれている。

僕たちはと言えば、先ほどの襲撃が頭に強烈な印象を残したせいか、神機こそ構えているものの距離を詰めかねている状態だ。

 

「ギャオオォォォォン」

「―っ」

 

特に、直接襲われそうになったナナさんは僕より恐怖が大きいのだろう。

なら、先ほどしてしまっただろう失態を雪ぐ為にも、ここは僕が前に出る!

 

「ナナさんは隙を見て援護をお願いしますっ」

「う、うん、大丈夫?」

「はいっ」

 

オウガテイルに向かって走る。コチラに向かって上げる威嚇の吠え声に恐怖心が頭を上げかけるけれど、それをねじ伏せて距離を詰めていく。

訓練場のダミーと同じ、尾を上げて針を射出する動作。

 

「針が来ます、避けてください」

「了解!」

 

ナナさんがステップで軌道から外れるのを横目で確認して、オウガテイルより手前の地面に穂先を刺し、棒高跳びの要領で上昇、下になっている頭の更に下を、針が通過していく。

流れを殺さず神機を振り上げ、無防備な背中に叩き込みその反動を利用して離脱。

直後、ナナさんが放った放射弾が更に傷口を焼く。

 

『アラガミの撃破を確認』

 

オウガテイル一頭分離れた位置に着地したとき、耳元のインカムからフランさんの声が続く。

 

『新たなアラガミ反応を感知、ドレッドパイク3体が出現』

 

フランさんからの情報どおり、新たなアラガミが土煙を巻き上げて現れた。

ダミーで戦ったことは無いけれど、データベース等をみる限りではそこまで手強くはない小型のアラガミだったはずだ。

それでも気は抜けない。

 

「ギュルルルル…」

「…ッ」

 

威嚇行動なのか、片足で土をかき揚げるドレッドパイク。

それとにらみ合う僕の横を、ピンクの風が駆け抜ける。

 

「えぇーいっ」

 

かけ声で気合いを入れ、力一杯にアラガミを叩き潰す。

その時、ちらりとナナさんがこちらを見た。

その表情は、「私が全部倒しちゃうよ?」と言っているようにも見える。

けれど、そんなわけにはいかない。僕だって男だ。女の子にばかり戦わせる訳にはいかない。

今の時代でそれを気にする人がいるかは解らないけれど、少なくとも僕は、そんな風にするつもりはない。

潰した反動からナナさんが着地する前に、僕もまた走り出し、手前のドレッドパイクに突きを見舞う。

助走で勢いが付きすぎたのか、神機から抜けて煉瓦の壁にぶつかり、短く鳴いて動かなくなる。

それらを見て自分の危機を察したのか、残る一匹が逃走を開始する。

僕のショットガンも、ナナさんのショットガンも、長距離の射撃には向いていない。

仕方なく、神機を保持したまま追いかける。

小型とはいえ、人間より移動スピードは早い。

ゴッドイーターが全速力で追いかけても、やっと離されない程度だ。

そのまま壁を掘り進めたような曲がりくねった通路での追いかけっこ。

終点は、本来の通路と交差した絶壁だった。

アラガミは空と奈落へ開かれた場所を背にしてはいるけれど、飛んで逃げる様子はない。

昆虫を模しているとはいっても、ザイゴート種のような飛行能力はないようだ。

そのままナナさんはハンマーを、僕は銃形態に移行してショットガンを向ける。

けれど、僕のショットガンはあくまで威嚇目的。この距離で発砲してしまっては、ナナさんにまで被弾してしまう。

 

「……」

「……」

 

お互い目で合図する。

何か来るとアラガミが構えるけれどもう遅い。

オラクルの光を纏ったナナさんの一撃が、廃墟となった図書館一帯に響いた。

 

 

 

 

『お疲れさまです。帰投準備が整うまでーーーいえ、新たな反応を確認、オウガテイルです!』

 

フランさんの緊迫した声と同時に周囲が暗くなる。

 

「跳べ!」

 

という隊長の声を聞くか聞かないか、そんな判断もできない位の間に体を投げ出すように前転、直後に重い物が落ちたような低い音が聞こえる。

ジュリウス隊長を挟んで隣に立つナナさんも無事みたいだ。

視線を前に戻せば、フランさんからの報告通り、オウガテイルが居た。それも全部で3匹。

一番手前に居る一匹が、先ほどの音の主らしい。

 

「グルルルル…」

 

という唸り声と、足で地面をかく動作が少しばかり悔しげに見える。

 

「いい機会だ、お前達が目覚めるべき『血の力』をここで見せておこう」

 

こんな状況でも余裕の伺える隊長が、気合いと共に神機を青眼に振り下ろす。

すると、隊長のオラクルの流れに反応してか、僕の体からバースト時に近いオラクル細胞の動きを感じた。

驚きを露わにするナナさんの周囲にも、オラクル細胞の活性化による発光が起こっている。

おそらく、ナナさんから見たら僕の方もそう見えるのだろう。

 

「これから『ブラッドアーツ』を目標に対して放つ。少し離れていろ」

 

「ブラッドアーツ」とは何だろうか。

ナナさんも知らなかったのか、首を傾げている。

そのままジュリウス隊長が長刀型の神機を構え、目が自然とそちらに向いた。

アラガミと対峙しているはずなのに、その表情には余計な緊張も気負いも感じられない。

ただ冷静に、相手の行動を観測する目。

そして、それは一瞬だった。

隊長が、オウガテイルの間を駆け抜け様に神機を一閃する。

いや、確かに一閃しかしていないはずなのに、巻き起こした風圧か何かで、3匹のオウガテイルを攻撃、行動不能に追い込んだ。

神機をおろす隊長の周囲で、コアからの離散が始まる。

黒い霧の向こうで、隊長が振り返ったのは解った。

 

「これが、ブラッドアーツだ」

 

今の凄まじい攻撃が、ロミオ先輩が言っていた「必殺技」なのか。

確かに、その威力は半端じゃなく、ロミオ先輩が言っていた事が、決して大げさでは無かったと知った。

隊長が言うには、このブラッドアーツは成長するらしい。

確かに、博士が言っていた元になる思いも、感情も、より強いものに塗りかえられていく。そんな風に、ブラッドアーツもどんどん変化していくのだろうか。

僕は、そんな想像に、不謹慎だけど少し心が躍った。

願いを体現する手段も、願いが切り開いてくれるのだと知って。

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