カルデアの召喚室にて、新しいサーヴァントの召喚を試みるマスター───藤丸立香。
その場に居合わせたアルターエゴのサーヴァント───パッションリップ、メルトリリスは思わぬサーヴァントの召喚に目を疑う。
霊基の名を『月の王』。
──────かつて夢見た、幼い恋たちの残滓。
FGO×EXTRA CCCのコラボイベント 復刻おめでとうございます!
いつか岸波白野がカルデアに召喚されたらいいな〜と思って、初めてコラボイベントが実装された時に書いた短編シナリオです。
ザビ×BBがメインなので、ところどころ雑かもしれませんが、興味があったら是非。
「「う、嘘!?」」
目を丸くして、声を揃え驚いたのは、カルデアにて召喚されていたアルターエゴクラスのサーヴァントの二人。パッションリップとメルトリリスだった。
「知り合い……?」
マスター───藤丸立香は、圧倒されたように彼女らへと訊ねる。
その視線の先には、たった今召喚した新しいサーヴァント。
茶色い髪に、どことなく未来的な白い衣装をした青年である。
召喚された彼もまた、目を丸くして彼女たちを見ていた。
「……やあ、」
「…あ、あの! わたしあれからずっと頑張ったんです!ちゃんと自分の姿を受け入れて、前向きに生きて、少しずつだけど料理も出来るようになったんです!カルデアの皆さんは本当に親切で、友達もたくさんできたんです!
食い入るように話しかけたのは、パッションリップ。
ずっと伝えたかったことを吐き出すように、瞳に涙を湛えながら言葉にする。
けれどもう、手を握ってほしいとは口にしないと誓っていた。
対して、メルトリリスは一歩後ろに下がった。
健気に話しかけるリップと、それに頷く彼を見て、どこか寂しそうに、その目を細める。
「(馬鹿ね…リップは。あの出来事は遠い
「メルトリリスも元気そうで良かった」
「………は!?」
彼の視線は、紛れもなく彼女に向いていた。
その顔は、かつて愛しいと感じた、あの頃のままで。
「……馬鹿ね。忘れちゃいなさいよ、私のことなんて。そんなところまで、ずっと変わってないんだから」
自然と笑みがこぼれる。なんて遠くて、こんなに近い。
歩み寄るその軽やかな足取りは、どこまでも少女のままだった。
「藤丸立香です。…えっーと、月の王…さん?でいいのかな」
嬉しそうな二人を見て微笑んでいた藤丸立香は、隙を見て召喚された彼に声をかけた。
「"
そんな彼らを、私は廊下の影から眺める。
私──BBは、呆れて
こつこつと。足音だけが虚しく廊下に響く。
「ホント、リップもメルトも馬鹿な子ね。あの出来事は、ムーンセルにしか記録されていない例外。当時者である私やキアラさん、私から生まれたエゴであるあの二人くらいしか認識できない虚数事象。仮にあの人と同じ姿をしているからって、私たちの知っている彼ではないのに。…私たちが恋した人は、もっと────」
「君もいたんだね、BB」
「きゃ───────!?」
一人悪態をついていた私は、背後から近づいていた彼に気づかず、思わず間の抜けた声を発した。
「……コホン。なんですか いきなり。召喚されたばかりの
「なんで…って、 "覚えているから" じゃ、理由にならないかな」
彼は意図も容易くそう言って、軽く微笑んだ。
「………理由になるわけないじゃないですか。あの
私は、溢れ出す感情を吐露するように言い放った。
俯いた顔は、前髪に隠れて、どんな表情をしているのか誰にもわからない。
「……ごめん、BB。俺は君を泣かせてばかりだね。今までだって、いつも君に背負わせてばかりだった」
「…………え?」
けれど彼には。それがわかったのだろう。
「俺も君と一緒で、ムーンセルの使者として呼ばれたサーヴァントなんだ。"月の王"なんて肩書きは正直似合わないと思うし、他のサーヴァントのように戦える自信もない。けれど、今度こそ。君一人に背負わせたりはしない。俺は君の隣で、一緒に戦うよ。」
「っ、……貴方は。私を許せるんですか。私は貴方を救うために世界中の人々を敵に回した。…でもそれは、単に私が、貴方に生きていてほしかっただけ。独りよがりの
そう。あれはエゴだ。人に恋をしたAIのバグだ。あの出来事は、許してはならないことだ。この世界の誰に聞いたって、きっと許しはしないだろう。
「……うん。俺は召喚に際して、俺が経験するはずだった出来事、経験してきた出来事を全て知ることになったんだ。俺に関わった人達のことも。そうしないと、完全な"岸波白野"は再現できないからね。……だから。整合性も連続性も取れていない、断片的な"記録"かもしれないけど。それでも。この胸に残る想いは、きっと本物だ。」
彼は自身の胸に手を当てて、深く頷いた。
「君は俺を救うために、世界を敵に回した。だから、世界中の誰もが君を許さなくても構わない。その感情も否定しない。けれど、俺は。俺だけは君を許し続ける。それが"
「っ────、」
────その姿は、紛れもなく。
私の知る "岸波白野" の姿だった。
遠い事象。無人の放課後で重ねられた、温かな時間。
「ある」が「ない」ものに、真摯に語りかけた、尊い人。
路傍の石は、その懐かしさに、胸を焦がす。
「………ホント。貴方も馬鹿な人。関係の無い赤の他人のふりをしていれば、楽しいサーヴァントライフを過ごせたでしょうに。…ふふっ。そんなことを言われたら、BBちゃんはこれまで通りイタズラするしかないじゃないですかっ!」
そう言って、私は邪悪な笑みをこぼす。
その表情はいつもの自分らしく、どこか蠱惑的で、楽しそうで、そしてなにより、嬉しそうなものだった。
「……ああ。望むところだ、
────かつて、こんな日を夢見ていた。
美しい詩人の言葉よりも、貴方のその何気ない微笑みが、私にとっての
いつか私から貴方へ伝えた、希望のありか。
その桜の花びらは、こうして私に還された。
「覚悟してくださいね。"先輩"!」
***
小さな書斎に、男と女がいた。
「……まったく。ムーンセルも気が利かん。あの男を
みてくれにそぐわぬ悪態をつくのは、青髪の男。
机の上に散らばった本を見ながら、呆れたように口にした。
「あら。むしろ気が利くのではなくて? これは彼女たちが望んだ夢でしょうに。」
彼の言葉を拾ったのは、不敵な笑みを浮かべる法衣姿の女。
壁に背をあずけ、懐かしむように声にした。
「ふん。たとえ良い役者でも、揃いすぎては "持て余す" ということだ。主役の席は一つしか用意できんからな。これは俺やお前たちの物語ではない。もう人手は足りている。………だが。"もしも" の話とは、本質的に
男は皮肉混じりに女へ言葉をかける。
「………いいえ。綺麗なものを
女はそう言って目を閉じ、部屋を去っていった。
「…ほう。ならば"現実"の話を出すのはそれこそ野暮だったな。……いいだろう。夢ならば夢らしく、
男は本を
いつか訪れる"終わり"まで、
どうか安らかな日々を過ごせるようにと。
では。
温かな
路傍の夢 -了-