友希那の説得をし、無事に宇田川のテストが行われるようになり、俺達はライブハウスCiRCLEに向かう。
「あ、友希那ちゃんいらっしゃい。あれ? 今日は人が多いね」
「ごめんなさい。三名追加しても大丈夫かしら?」
友希那が申し訳なさそうに言う。
「大丈夫だよ。もう紗夜ちゃんも来ているから。一番スタジオね」
「はい。ありがとうございます」
友希那は受付を済ますと、言われた一番スタジオへと向かう。
中に入ると、紗夜と思われる人が既にギターを弾いていた。
「紗夜、お待たせ」
「お疲れ様です、湊さん。それで、この方達は?」
「あ。挨拶遅れちゃってごめんね。アタシ今井リサ。友希那の幼馴染で、今日は見学に来ましたっ♪」
あれ? いまリサの語尾から音符が見えたような……気のせいか。
「宇田川あこです! 今日はドラムのオーディションをしてもらいに来ましたっ!」
「……オーディション?」
紗夜が眉を寄せ、友希那を見る。
「悪いな。俺が友希那に無理言って受けさせた」
俺が咄嗟に前に出る。
「……あなたは?」
「すまん、申し遅れた。俺は内田奏。リサと友希那の幼馴染であり、宇田川のテストを見届けに来た」
「私は氷川紗夜です。それより、勝手に決めないで貰えますか。私達は遊んでいる暇はないのです。テストなんて――」
「紗夜。私が許したの。ごめんなさい、練習時間を使って。でも、彼女も努力しているらしいから。五分でいいの。良いかしら?」
友希那が言うと、氷川は黙ってあこを見る。
「……まぁ、湊さんが選出するなら、私は構いません。それと内田さん、でしたよね」
「お、おう」
「今後一切、このような事が無い様お願いします。湊さんから聞いていると思いますが、私達は――」
「分かってるよ。それより時間が惜しい。早く始めようぜ」
「そうね。あこ、準備して頂戴」
「は、はい! リサ姉、奏さん! あこ、合格できる様頑張るから!」
あこは張り切って、ドラムの準備を始めた。
「できればベースもいると、リズム隊として総合的な評価が出来るのですが……」
「そうね、でもしょうがないわ。今は私達三人でやりましょう」
入り口付近に座る俺とリサ。だが、俺はいいベーシストを知っている。
「――ベースなら、丁度良いのがそこにいるじゃねぇか」
そう言って俺はリサを目だけで見る。
「……え!? アタシ!?」
「お前以外誰がいるんだ。今はやってないみたいだが、昔はやってたんだろ? 右手の指の硬さが物語ってる」
「確かにやってたけど……それなら奏だって……」
「いいから、騙されたと思ってやってみろ」
「う、うん……ベース取ってくる」
リサは何処か納得いかないような顔で、ベースを借りに行った。
「奏、どうしてリサがベースをやってたって知ってるの? リサがベースを始めたのは貴方が引っ越した後よ」
不思議に思った友希那が、俺に聞いて来た。
「俺と再会した時、リサが俺の手握ったろ。その時右と左で指の硬さが違ったんだ。勿論、一般の人には分からないごく僅かな硬さだけどな」
「そのごく僅かな硬さを見破るなんて……貴方何者ですか?」
「俺の話は良いだろ。それより、リサが帰って来たぞ」
俺のそう言うと、良いタイミングでリサは入ってくる。
「おまたせ~。すぐに準備するから待ってて」
リサはチューニングを始めると、準備が整ったのか、友希那に合図を出す。だが、そのチューニングは完璧ではない。
「リサ。3弦が少し高い。ちょっと貸せ」
俺はリサからベースを受け取ると、ペグを緩め、ピッタリな音に合わせる。
「はいよ」
「さんきゅー♪やっぱり奏がいると楽でいいね」
氷川は目を見開き、俺を見ていた。まるで信じられないと言っているかのように。
「俺を便利屋として使うんじゃねぇっての。お待たせ友希那。いつでも初めて良いぞ」
「えぇ。それでは行くわよ」
宇田川の四コールから始まり、リサと氷川が弾き始め、続けて宇田川も入る。
そして友希那の歌が入ると、全員が全員、信じられないような顔をしていた。
――そりゃそうだろ。初めてセッションしたにも関わらず、ここまで綺麗に絡み合うんだ。そこら辺の下手なバンドより、全然響いてくる。ただ……
明らかに音が一つ足りない。それはキーボード。ここまで絡み合っているのにも関わらず、音が一つ足りないだけで全体の音が足りなく感じる。
一曲のセッションが終わり、全員が全員、肩で息をしていた。そして全員、顔を見合わせる。
俺はスタンディングオベーションをして、友希那達の方に近付く。
「初めてセッションしたにも関わらず、こんなに綺麗に音が合わさる。それはまるで、最初からこのメンバーでバンドを組めと言っているかのようだ」
友希那は改めて、宇田川とリサを見る。
「どうだ友希那。これを聞いても、まだ宇田川を突き放すか?」
「言い方に気を付けてちょうだい。私は突き放そうとはしていないわ。でも――」
友希那は宇田川の前まで歩く。
「あこ。あなたさえ良ければ、我がメンバーに入ってくれるかしら。紗夜も良いわよね?」
「え、えぇ。今のセッションを聞いて、流石に断れません」
「あ、ありがとうございます! あこ、精一杯頑張ります!」
友希那から合格を受けた宇田川は喜んでいた。
「良かったね、あこ」
「おめでとう」
「リサ姉! 奏さん! ありがとう! あこやったよ!」
はしゃぐ宇田川に、俺は頭を撫でる。宇田川は目を細めて気持ちよさそうにしていた。
「後はベースとキーボードですね。湊さん、どうしますか」
氷川が問う。ふと、リサの表情が目に入る。自分では力不足だった。そう物語っている顔だった。
だが、友希那の答えは違った。
「何を言ってるの紗夜。ベースも既に決まってるじゃない」
友希那はリサの手を取って言う。
「リサ。確かに今のあなたは私達の求める音ではない。でも、あなたがいないと、このような音を奏でられないのもまた事実。リサ、これまでと違って遊んでいる暇はないわよ。それでもいい?」
「ゆ、友希那……それって……」
リサは涙を溜め、声が震える。
「素直に言えよ。あなたが欲しいって」
「五月蠅いわよ奏」
結構小さい声で言ったつもりだが、友希那には聞こえていたようだ。
「それでリサ、どうなの?」
「グスッ、うん! これからも友希那の隣にいさせて貰うね!」
その言葉を聞くと、友希那は微笑む。
「あこ、リサ。付いてこれなくなったら置いていって、次第には抜けてもらうわ。それ程の覚悟、ある?」
友希那の言葉にあことリサは顔を見合わせ、大きく頷いた。
「うん(はい)!」
「なら良いわ。今日は解散よ」
俺は扉を開け、外に出ようとする。すると友希那に呼び止められた。
「奏」
「ん? どうした」
「あなた、こうなる事が分かって、リサを入れたわね」
友希那はジッと俺の目を見る。
「さぁな」
俺はフッと笑い、先を歩く。
その時俺は思い出し、再び友希那の方を見る。
「友希那。久々にリサと三人で飯食おうぜ。お袋が二人を連れて来いって」
「……そうね。たまにはいいかもしれないわ」
その時の表情を、俺は見逃さなかった。
「――やっと笑ったな、友希那」
「何か言ったかしら?」
「いーや、別に~」
どうやら友希那には聞えなかったようで、片付けを終えた三人が丁度スタジオから出てきた。
「お待たせしました」
「じゃあ帰ろっか♪」
こうして、キーボードを抜く新たなバンドが生まれた。
もう一人のメンバー、キーボードと出会うのは、遠くないのかもしれない。
内田奏(主人公)を他のバンドと絡ませる?
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絡ませる
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数名だけ絡ませる
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Roseliaだけで良い