六人目の青薔薇   作:黒い野良猫

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第八話 セッション

 友希那の説得をし、無事に宇田川のテストが行われるようになり、俺達はライブハウスCiRCLEに向かう。

 

「あ、友希那ちゃんいらっしゃい。あれ? 今日は人が多いね」

「ごめんなさい。三名追加しても大丈夫かしら?」

 

 友希那が申し訳なさそうに言う。

 

「大丈夫だよ。もう紗夜ちゃんも来ているから。一番スタジオね」

「はい。ありがとうございます」

 

 友希那は受付を済ますと、言われた一番スタジオへと向かう。

 中に入ると、紗夜と思われる人が既にギターを弾いていた。

 

「紗夜、お待たせ」

「お疲れ様です、湊さん。それで、この方達は?」

「あ。挨拶遅れちゃってごめんね。アタシ今井リサ。友希那の幼馴染で、今日は見学に来ましたっ♪」

 

 あれ? いまリサの語尾から音符が見えたような……気のせいか。

 

「宇田川あこです! 今日はドラムのオーディションをしてもらいに来ましたっ!」

「……オーディション?」

 

 紗夜が眉を寄せ、友希那を見る。

 

「悪いな。俺が友希那に無理言って受けさせた」

 

 俺が咄嗟に前に出る。

 

「……あなたは?」

「すまん、申し遅れた。俺は内田奏。リサと友希那の幼馴染であり、宇田川のテストを見届けに来た」

「私は氷川紗夜です。それより、勝手に決めないで貰えますか。私達は遊んでいる暇はないのです。テストなんて――」

「紗夜。私が許したの。ごめんなさい、練習時間を使って。でも、彼女も努力しているらしいから。五分でいいの。良いかしら?」

 

 友希那が言うと、氷川は黙ってあこを見る。

 

「……まぁ、湊さんが選出するなら、私は構いません。それと内田さん、でしたよね」

「お、おう」

「今後一切、このような事が無い様お願いします。湊さんから聞いていると思いますが、私達は――」

「分かってるよ。それより時間が惜しい。早く始めようぜ」

「そうね。あこ、準備して頂戴」

「は、はい! リサ姉、奏さん! あこ、合格できる様頑張るから!」

 

 あこは張り切って、ドラムの準備を始めた。

 

「できればベースもいると、リズム隊として総合的な評価が出来るのですが……」

「そうね、でもしょうがないわ。今は私達三人でやりましょう」

 

 入り口付近に座る俺とリサ。だが、俺はいいベーシストを知っている。

 

「――ベースなら、丁度良いのがそこにいるじゃねぇか」

 

 そう言って俺はリサを目だけで見る。

 

「……え!? アタシ!?」

「お前以外誰がいるんだ。今はやってないみたいだが、昔はやってたんだろ? 右手の指の硬さが物語ってる」

「確かにやってたけど……それなら奏だって……」

「いいから、騙されたと思ってやってみろ」

「う、うん……ベース取ってくる」

 

 リサは何処か納得いかないような顔で、ベースを借りに行った。

 

「奏、どうしてリサがベースをやってたって知ってるの? リサがベースを始めたのは貴方が引っ越した後よ」

 

 不思議に思った友希那が、俺に聞いて来た。

 

「俺と再会した時、リサが俺の手握ったろ。その時右と左で指の硬さが違ったんだ。勿論、一般の人には分からないごく僅かな硬さだけどな」

「そのごく僅かな硬さを見破るなんて……貴方何者ですか?」

「俺の話は良いだろ。それより、リサが帰って来たぞ」

 

 俺のそう言うと、良いタイミングでリサは入ってくる。

 

「おまたせ~。すぐに準備するから待ってて」

 

 リサはチューニングを始めると、準備が整ったのか、友希那に合図を出す。だが、そのチューニングは完璧ではない。

 

「リサ。3弦が少し高い。ちょっと貸せ」

 

 俺はリサからベースを受け取ると、ペグを緩め、ピッタリな音に合わせる。

 

「はいよ」

「さんきゅー♪やっぱり奏がいると楽でいいね」

 

 氷川は目を見開き、俺を見ていた。まるで信じられないと言っているかのように。

 

「俺を便利屋として使うんじゃねぇっての。お待たせ友希那。いつでも初めて良いぞ」

「えぇ。それでは行くわよ」

 

 宇田川の四コールから始まり、リサと氷川が弾き始め、続けて宇田川も入る。

 そして友希那の歌が入ると、全員が全員、信じられないような顔をしていた。

 

 ――そりゃそうだろ。初めてセッションしたにも関わらず、ここまで綺麗に絡み合うんだ。そこら辺の下手なバンドより、全然響いてくる。ただ……

 

 明らかに音が一つ足りない。それはキーボード。ここまで絡み合っているのにも関わらず、音が一つ足りないだけで全体の音が足りなく感じる。

 一曲のセッションが終わり、全員が全員、肩で息をしていた。そして全員、顔を見合わせる。

 俺はスタンディングオベーションをして、友希那達の方に近付く。

 

「初めてセッションしたにも関わらず、こんなに綺麗に音が合わさる。それはまるで、最初からこのメンバーでバンドを組めと言っているかのようだ」

 

 友希那は改めて、宇田川とリサを見る。

 

「どうだ友希那。これを聞いても、まだ宇田川を突き放すか?」

「言い方に気を付けてちょうだい。私は突き放そうとはしていないわ。でも――」

 

 友希那は宇田川の前まで歩く。

 

「あこ。あなたさえ良ければ、我がメンバーに入ってくれるかしら。紗夜も良いわよね?」

「え、えぇ。今のセッションを聞いて、流石に断れません」

「あ、ありがとうございます! あこ、精一杯頑張ります!」

 

 友希那から合格を受けた宇田川は喜んでいた。

 

「良かったね、あこ」

「おめでとう」

「リサ姉! 奏さん! ありがとう! あこやったよ!」

 

 はしゃぐ宇田川に、俺は頭を撫でる。宇田川は目を細めて気持ちよさそうにしていた。

 

「後はベースとキーボードですね。湊さん、どうしますか」

 

 氷川が問う。ふと、リサの表情が目に入る。自分では力不足だった。そう物語っている顔だった。

 だが、友希那の答えは違った。

 

「何を言ってるの紗夜。ベースも既に決まってるじゃない」

 

 友希那はリサの手を取って言う。

 

「リサ。確かに今のあなたは私達の求める音ではない。でも、あなたがいないと、このような音を奏でられないのもまた事実。リサ、これまでと違って遊んでいる暇はないわよ。それでもいい?」

「ゆ、友希那……それって……」

 

 リサは涙を溜め、声が震える。

 

「素直に言えよ。あなたが欲しいって」

「五月蠅いわよ奏」

 

 結構小さい声で言ったつもりだが、友希那には聞こえていたようだ。

 

「それでリサ、どうなの?」

「グスッ、うん! これからも友希那の隣にいさせて貰うね!」

 

 その言葉を聞くと、友希那は微笑む。

 

「あこ、リサ。付いてこれなくなったら置いていって、次第には抜けてもらうわ。それ程の覚悟、ある?」

 

 友希那の言葉にあことリサは顔を見合わせ、大きく頷いた。

 

「うん(はい)!」

「なら良いわ。今日は解散よ」

 

 俺は扉を開け、外に出ようとする。すると友希那に呼び止められた。

 

「奏」

「ん? どうした」

「あなた、こうなる事が分かって、リサを入れたわね」

 

 友希那はジッと俺の目を見る。

 

「さぁな」

 

 俺はフッと笑い、先を歩く。

 その時俺は思い出し、再び友希那の方を見る。

 

「友希那。久々にリサと三人で飯食おうぜ。お袋が二人を連れて来いって」

「……そうね。たまにはいいかもしれないわ」

 

 その時の表情を、俺は見逃さなかった。

 

「――やっと笑ったな、友希那」

「何か言ったかしら?」

「いーや、別に~」

 

 どうやら友希那には聞えなかったようで、片付けを終えた三人が丁度スタジオから出てきた。

 

「お待たせしました」

「じゃあ帰ろっか♪」

 

 こうして、キーボードを抜く新たなバンドが生まれた。

 もう一人のメンバー、キーボードと出会うのは、遠くないのかもしれない。

内田奏(主人公)を他のバンドと絡ませる?

  • 絡ませる
  • 数名だけ絡ませる
  • Roseliaだけで良い

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