六人目の青薔薇   作:黒い野良猫

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第九話 キーボード

「今日はここまでにしましょう」

 

 バンドが結成され、数日が経った。だが未だに、キーボードの席は空いたままだ。

 そして一つ、気に食わないことがある。

 

「なぁ」

「どうしたの? 奏」

「何で俺、毎回呼ばれてんの? しかも今日土曜日」

 

 そう。あこ――本人が名前で呼んでくれと言ってきた――とリサがバンドに加入してから、何故か俺も練習に呼ばれる。

 

「そんなの決まってるじゃない」

 

 友希那が腕を組み、行ってくる。

 

「あなたにキーボードをお願いしたいからよ」

「内田さん、キーボードできるのですか?」

「キーボードどころか、楽器全般出来るわよ」

「奏さん凄い! 何かこう、闇の力を感じる!」

 

 氷川よ、そんな意外そうな目で見るな。そしてあこよ、俺に闇の力はない。

 

「確かにキーボードは出来るが……」

「なら決まりね。次からは見てないで、ちゃんと練習に入りなさい」

 

 何故か友希那は俺がキーボードをする事が決まったような口で言った。

 

「悪いが俺はバンドに入る気なんてさらさらない」

「何故かしら?」

「別に良いだろ。それより、時間が来てるんだから早く出ようぜ」

 

 俺の返答が気に食わないのか、睨みを利かせる友希那。

 取り合えずスタジオを出て、友希那は次の予約を取る。その間に俺は外に出ようとするが、あろうことか、氷川に捕まった。

 

「待って下さい」

「どうした?」

「いえ、内田さんは逃げるだろうから、捕まえとけって湊さんが」

 

 ――友希那の野郎……

 

「お待たせ。それで奏? どうしてバンドに入ってくれないのかしら? 理由を聞きたいのだけれど」

 

 友希那の目を見ると、理由を話すまで帰さないと言っているかの様だった。

 

「分かったから、取り敢えず飯でも食いながら話そうぜ。腹減った」

 

 CiRCLEを出て、近くのファミレスに入り、各々注文する。

 氷川、昼食にフライドポテトだけっていうのはどうかと思うぜ。

 

「それで? 何故あなたはバンドに入る事を拒むのかしら?」

 

 早速、友希那が口を開いた。

 

「そうだよ奏。折角の音楽センスがもったいないよ」

 

 リサも友希那に応戦する。

 

「あの、奏さんってそんなに凄い人なんですか? 確かに全部楽器を使えるって言ってましたけど……」

 

 あこが恐る恐る聞く。

 

「えぇ。あなた達も間近で見た筈よ。あことリサとのセッションの時、彼はチューナーを使わずにチューニングをしたわ。熟練者ならまだしも、高校生でここまで出来る人はそうはいない」

「ですがベースの音を狂いなくチューニングできる。それって……」

「そう、彼は絶対音感の持ち主よ」

「絶対音感ってあれですよね! 一つの音を聞いただけで、音の違いが分かるってやつ!」

 

 あこが何か興奮している。友希那は何故か自分の事の様に嬉しそうに話す。リサは何かニコニコしてる。氷川はフライドポテトに集中してる……カオスだ。

 

「あこの言っている事に間違いはないわ。でも、彼は違う。彼は複数の音を聞き分けることが出来るの」

「複数の音、ですか……?」

 

 氷川はフライドポテトを食べていた手を止め、こちらを見る。唇が油で少しテカって色っぽい。

 

「む……」

「いってぇ!!」

 

 その時、隣に座っていたリサが俺の足を踏んで来た。

 

「何すんだよリサ!」

「べ~つに~」

 

 リサは何処か不貞腐れた様子で、そっぽ向いた。

 

「何やってんのあなた達は……。それで奏。理由を聞かせて貰ってもいいかしら?」

「……別に、俺はバンドに入りたくないからそう言っているだけだ」

「だから、その理由を聞いているの。あなた、今でもあそこで弾いているのでしょ?」

「弾いてるからって、俺がバンドに入る理由にはならないだろ」

 

 俺と友希那は睨みあう。

 

「ちょ、ちょっとちょっと、どうしてすぐに喧嘩腰になるのさ!」

「今の奏さん、ちょっと怖い……」

 

 あこが涙目でこちらを見る。少し怖がらせちまったか。

 

「……悪い。ムキになりすぎた」

 

 俺は頭を冷やす為、お冷を口に含む。

 

「俺はバンドに入る事は出来ないが、実は、お前達の欲しがっているキーボードに、心当たりがある。彼女なら、お前達の音に、更なる力を与えてくれる筈だ」

「彼女っていう事は女の人なのね? あなたと面識はあるの?」

 

 女って言った瞬間、リサの頬が膨れた。何それ可愛い。

 

「一度会っているな。向こうは覚えているか分からんけど」

「じゃあどうやってその人と会うのよ。無駄な期待はさせないで頂戴」

 

 友希那は呆れたかのように、背もたれにもたれて溜め息をつく。

 

「おいおい。俺がいつ会う手段がないって言ったよ」

「でも面識はないに等しいんですよね? それなのにどうやって……」

「確かに、俺は連絡手段がない。だが、この中に一人いるんだよ。そうだろ? あこ」

「ん!? うえぇええええ!?」

 

 ドリアを頬張ってたあこがいきなり話を振られ、驚いて喉に詰まりそうだったが、何とか飲み込んだ。

 

「あ、あこ、キーボードに知り合いなんていませんよ!」

「なんだ。あこ、知らないのか。てっきりそっち方面で知り合ったと思ったんだが……」

「一体誰なの? 勿体ぶらないで早く言いなさい」

「……ピアノコンテストジュニア部門で、無名だったのにも関わらず数々の優勝を経験したピアノの天才――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――白金燐子だ。

内田奏(主人公)を他のバンドと絡ませる?

  • 絡ませる
  • 数名だけ絡ませる
  • Roseliaだけで良い

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