「今日はここまでにしましょう」
バンドが結成され、数日が経った。だが未だに、キーボードの席は空いたままだ。
そして一つ、気に食わないことがある。
「なぁ」
「どうしたの? 奏」
「何で俺、毎回呼ばれてんの? しかも今日土曜日」
そう。あこ――本人が名前で呼んでくれと言ってきた――とリサがバンドに加入してから、何故か俺も練習に呼ばれる。
「そんなの決まってるじゃない」
友希那が腕を組み、行ってくる。
「あなたにキーボードをお願いしたいからよ」
「内田さん、キーボードできるのですか?」
「キーボードどころか、楽器全般出来るわよ」
「奏さん凄い! 何かこう、闇の力を感じる!」
氷川よ、そんな意外そうな目で見るな。そしてあこよ、俺に闇の力はない。
「確かにキーボードは出来るが……」
「なら決まりね。次からは見てないで、ちゃんと練習に入りなさい」
何故か友希那は俺がキーボードをする事が決まったような口で言った。
「悪いが俺はバンドに入る気なんてさらさらない」
「何故かしら?」
「別に良いだろ。それより、時間が来てるんだから早く出ようぜ」
俺の返答が気に食わないのか、睨みを利かせる友希那。
取り合えずスタジオを出て、友希那は次の予約を取る。その間に俺は外に出ようとするが、あろうことか、氷川に捕まった。
「待って下さい」
「どうした?」
「いえ、内田さんは逃げるだろうから、捕まえとけって湊さんが」
――友希那の野郎……
「お待たせ。それで奏? どうしてバンドに入ってくれないのかしら? 理由を聞きたいのだけれど」
友希那の目を見ると、理由を話すまで帰さないと言っているかの様だった。
「分かったから、取り敢えず飯でも食いながら話そうぜ。腹減った」
CiRCLEを出て、近くのファミレスに入り、各々注文する。
氷川、昼食にフライドポテトだけっていうのはどうかと思うぜ。
「それで? 何故あなたはバンドに入る事を拒むのかしら?」
早速、友希那が口を開いた。
「そうだよ奏。折角の音楽センスがもったいないよ」
リサも友希那に応戦する。
「あの、奏さんってそんなに凄い人なんですか? 確かに全部楽器を使えるって言ってましたけど……」
あこが恐る恐る聞く。
「えぇ。あなた達も間近で見た筈よ。あことリサとのセッションの時、彼はチューナーを使わずにチューニングをしたわ。熟練者ならまだしも、高校生でここまで出来る人はそうはいない」
「ですがベースの音を狂いなくチューニングできる。それって……」
「そう、彼は絶対音感の持ち主よ」
「絶対音感ってあれですよね! 一つの音を聞いただけで、音の違いが分かるってやつ!」
あこが何か興奮している。友希那は何故か自分の事の様に嬉しそうに話す。リサは何かニコニコしてる。氷川はフライドポテトに集中してる……カオスだ。
「あこの言っている事に間違いはないわ。でも、彼は違う。彼は複数の音を聞き分けることが出来るの」
「複数の音、ですか……?」
氷川はフライドポテトを食べていた手を止め、こちらを見る。唇が油で少しテカって色っぽい。
「む……」
「いってぇ!!」
その時、隣に座っていたリサが俺の足を踏んで来た。
「何すんだよリサ!」
「べ~つに~」
リサは何処か不貞腐れた様子で、そっぽ向いた。
「何やってんのあなた達は……。それで奏。理由を聞かせて貰ってもいいかしら?」
「……別に、俺はバンドに入りたくないからそう言っているだけだ」
「だから、その理由を聞いているの。あなた、今でもあそこで弾いているのでしょ?」
「弾いてるからって、俺がバンドに入る理由にはならないだろ」
俺と友希那は睨みあう。
「ちょ、ちょっとちょっと、どうしてすぐに喧嘩腰になるのさ!」
「今の奏さん、ちょっと怖い……」
あこが涙目でこちらを見る。少し怖がらせちまったか。
「……悪い。ムキになりすぎた」
俺は頭を冷やす為、お冷を口に含む。
「俺はバンドに入る事は出来ないが、実は、お前達の欲しがっているキーボードに、心当たりがある。彼女なら、お前達の音に、更なる力を与えてくれる筈だ」
「彼女っていう事は女の人なのね? あなたと面識はあるの?」
女って言った瞬間、リサの頬が膨れた。何それ可愛い。
「一度会っているな。向こうは覚えているか分からんけど」
「じゃあどうやってその人と会うのよ。無駄な期待はさせないで頂戴」
友希那は呆れたかのように、背もたれにもたれて溜め息をつく。
「おいおい。俺がいつ会う手段がないって言ったよ」
「でも面識はないに等しいんですよね? それなのにどうやって……」
「確かに、俺は連絡手段がない。だが、この中に一人いるんだよ。そうだろ? あこ」
「ん!? うえぇええええ!?」
ドリアを頬張ってたあこがいきなり話を振られ、驚いて喉に詰まりそうだったが、何とか飲み込んだ。
「あ、あこ、キーボードに知り合いなんていませんよ!」
「なんだ。あこ、知らないのか。てっきりそっち方面で知り合ったと思ったんだが……」
「一体誰なの? 勿体ぶらないで早く言いなさい」
「……ピアノコンテストジュニア部門で、無名だったのにも関わらず数々の優勝を経験したピアノの天才――」
――――白金燐子だ。
内田奏(主人公)を他のバンドと絡ませる?
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絡ませる
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数名だけ絡ませる
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Roseliaだけで良い