「ある所に、双子の姉妹がいました。姉は努力家で、何をやるにも一生懸命でした。妹はそんな姉の事が大好きで、姉に憧れ、姉がやってきた事を真似するようになりました。ですが妹は何をやってもすぐに飽きてしまいます。何故なら、姉がやって来たことを全て簡単に成し遂げてしまうからです。そんな妹ですが、大好きな姉と同じことがしたいため、姉が新しいことを始めると、妹も真似て始めます。いつからか双子は、比べられるようになってしまいました。姉はそんな妹に、劣等感を抱き始めました。周りは妹の事を『天才』と称したのです。そして二人は高校生となりました。そんなある日、姉が妹に言いました。もうあなたと比べられるのはうんざり、と。そこから姉と妹の間に溝が生まれました」
「その姉妹って……」
リサが恐る恐る聞いてくる。恐らく、感づいたのだろう。
「双子の姉、氷川紗夜とその妹、氷川日菜だ」
俺が二人の名前を言うと、全員固まってしまった。
「どうして奏がそこまで知っているのかしら?」
不思議に思った友希那が、聞いてくる。まぁ、当然だろう。
「この話を知ったのは偶然だけどな。先日、お前達のライブを見に行った帰りだった」
俺は当時の事を話し始めた。
「ライブが終わった後、俺はギターの弦を買いに江戸川楽器店に寄ったんだ。その時、一つのフライヤーが目に入った。そのフライヤーには、新しく結成されたアイドルバンドが映っていた。バンド名はPastel*Palettes。リーダーの丸山彩を中心に、モデルの若宮イヴ、女優の白鷺千聖等が所属していた。その中に、とある人物の名前を見つけたんだ。その人物の名前は、氷川日菜」
―――――――
―――
―
バンドを見に行ったその日の夜。俺は一人の人物に電話を掛けた。
『もしもしかー君? どうしたの?』
「悪いな日菜。こんな時間に」
Pastel*Palettes、通称パスパレの一人、氷川日菜だ。
「大したことじゃないんだが、ちょっと聞きたいことがあってな」
『なに? 彼氏ならいないよ?』
「んな事に興味はねぇ。お前、アイドルだったのか?」
『あれ? 何で知ってるの~? あ、フライヤーか!』
電話でも能天気さは変わらない。
「そもそもお前、ギター弾けたのか?」
『ギターなら始めたばっかりだよ? 元々おねーちゃんが弾いてたから、あたしも弾いてみたいとは思っていたけど』
「お姉ちゃんって、氷川紗夜の事か?」
『あれ? おねーちゃんの事知ってるの?』
「ちょっとな。それで、何でアイドルなんかに?」
『なんかるん♪ってきたから、何となくオーディションを受けただけ。そしたら受かっちゃった♪』
この時俺はこう思った。氷川日菜、彼女はもしかして天才なんじゃないかと。
よくよく考えてみると、普段の授業の風景を見ても、ノートを取っている様子はあまり見られない。だが、名指しされ黒板に答えを書きに行くと、その答えは完璧だった。
――まさか俺と同じ……いや、まだ確証はない。
「日菜、明日時間あるか?」
『あるけど……何で? デート?』
俺は純粋に思った。
「お前のギター、聞かせてくれ」
彼女の音が聞いてみたいと。
―――――――
―――
―
「そしていざ日菜の音を聞いたらビックリ。あいつは本当の天才だった。一度弾いたものを自分の物にしやがる」
「わお! まるで奏みたい……」
俺の言葉にリサは驚いているが、実際の所は違う。
「確かに、はたから見れば俺と同類だと思うだろう。だけど、俺と日菜は違う」
「違う? 話を聞いた限りだと、奏さんとひなちんは同じ様に聞こえますけど……」
「話を聞けばな。俺と日菜との決定的な違い。それはコピー能力だ」
「コピー、能力……」
「俺の能力は一度聞いたものを全く同じに真似することが出来る。その人の音色からメロディまで。でも日菜はそれが出来ない。というか、普通は出来る筈がない」
「どうして?」
疑問に思ったのか、全員が首を傾げる。
「その話は今度聞かせてやる。そんな事より、今は氷川だろ。今の話を聞いて、どう思った」
「どうって、言われても……」
あこは俯く。
「姉妹の問題に、首は突っ込めないわ」
友希那はそう言う。だが――
「そうは言うが、このままだと氷川は潰されるぞ。妹という壁に」
その発言に、友希那も俯いてしまう。
「――――はぁ」
正直言って、この話は俺にとって既に船に乗ってしまっている。
――もうバンドとは関わらないって言ったんだけどな……
だが、ここまで来てしまっては後には引けない。そう思った俺は友希那にこう告げる。
「これで最後だ」
「――え?」
「今回の件、持ち込んだのは俺でもある。氷川の件は俺に任せろ。そして、これで最後にしてくれ」
「……」
友希那は腕を組み、黙って目を瞑る。
悩んでいるのだろう。仲間を潰してまで俺を誘い続けるか、勧誘を最後にして、ようやく見つけたメンバーを取るか。
「……分かったわ」
「友希那……」
重々しく口を開く友希那。そんな友希那を心配するリサ。
「その代わり約束して。必ず、必ず紗夜を救うと」
友希那は俺の手に自らの手を添え、言ってきた。
「あぁ、任せろ」
そう言って俺は友希那の手を握るのだった。
「次のライブは何時だ?」
「二日後よ。CiRCLEでやるわ」
「って事は、一日しかないか。ぶっつけ本番になるけど、それでもいいな?」
「えぇ。手段は問わない。あなたに任せるから」
こうして俺は、最後の仕事に取り掛かる。
――氷川紗夜。お前に巻き付いているその鎖、俺が断ち切ってやる。