友希那達と約束した次の日の放課後。白金と連絡を取り、まだ花女に氷川がいると知った俺は待ち伏せをするため、花女の校門前で待っていた。
途中、猫耳みたいな髪をした女の子が俺の方を見て何か言ってたが、無視してやった。うるさい。
まぁ、女優の白鷺千聖がこの学校の生徒だと知った時は驚いたが。
そうこうしている内に、氷川が昇降口から出て来るのが見えた。
――これで最後なんだ。いい結果で終わらせよう。
「よう」
「内田、さん……」
校門から出てきた氷川に、声を掛ける。
「どうしたんでか?」
「ちょっと、お前と話したくてな」
「すみません。今日は練習があるので」
「悪いが、お前には休んでもらう。このままだと、明日のライブで足を引っ張るぞ」
「何ですって……?」
俺の言った言葉に苛立ちを覚えたのか、睨みを利かせてくる。
「別に悪い様にはしない。まぁ、俺の話を聞いてどう思うのかは、お前の勝手だけどな」
暫く氷川は黙るが、何を思ったか、俺に付いてくることになった。
「分かりました。お話、お聞かせください」
「了解した。ここじゃあれだし、近くのファミレス寄るか」
そう言って俺達は花女を後にした。俺はスマホを取り出し、リサにメールを打つ。
『取り敢えず誘い込むことには成功した。あのファミレスで行う』
実は今回の話は、遠くでリサ達にも聞かせるつもりだ。そうすれば、少しは氷川の気持ちも分かるだろうと思って。
するとリサから返事が来た。
『リョーカイっ! じゃあアタシ達は後から入るね☆』
内容を確認した俺はスマホをしまい、目的地まで歩くのだった。
後から聞いた話だが、花女の氷川紗夜には羽丘の彼氏がいると噂になっていたそうだ。なんかごめん。
――――――
―――
―
ファミレスに着いた俺達は席に座り、取り敢えずドリンクバーを注文しておく。
「それで、話とは何ですか?」
ドリンクを取りに行くと、氷川は直ぐに聞いて来た。すると丁度良いタイミングでリサ達が入店してきて、氷川の後ろにバレない様に座った。
「そうだな……単刀直入に言う」
俺は一呼吸置き、氷川の目を見て言い放った。
「お前は、何に怯えてる」
「――っ!」
すると氷川の目が見開き、固まってしまった。
「お前の演奏をずっと聴いてきた。初めて聴いたのはお前が友希那とバンドを組んだ日だ。あの時からお前の音に違和感を感じていた。自分らしさがない、どこか焦っているように思えた。Roseliaの四人にはそれぞれ色を持っている。紫に輝く湊友希那。それを支える赤の今井リサ。力強さ見せつけるピンクの宇田川あこ。全てを照らす白の白金燐子。だが、お前には色がない。無色透明だ。周りは判らないかもしれないが、俺にははっきり判る。そして、その原因もな」
「原因……ですか?」
氷川が恐る恐る口を開く。
「妹である、氷川日菜の存在だ」
「――っ!」
「いつも自分の真似ばかりをして、そつなくこなしてしまう日菜が、憎たらしかった。なぜこんなにも努力しているのに、真似ばかりする妹だけ簡単にこなしてしまうのか。そしていつの間にか比べられ、妹に劣等感を抱いてしまった。違うか?」
氷川は何も言わずただうつむいている。だが、こちらの話は聞いているようだ。
「そんな日菜でも、未だに手を出していないジャンルがある。それが音楽だった。いくら天才でも、音楽だけはそう簡単に真似できないだろう。そう思ったお前はギターに手を伸ばした。だが、結果は残酷だった」
氷川の手が強く握られているのを感じた。
「その日菜もつい先日、音楽に手を出した。しかも、お前と同じギターをな。そしてまた、追い越されるんじゃないかと、思ってしまった」
「仕様がないじゃないですか……」
すると氷川は漸く口を開いた。
「日菜に何をやらせても私を越してしまう。そんな妹に、劣等感を抱くのは当たり前じゃないですか!」
「……」
「何で日菜なんですか……! どうして私がしてきた事を奪っていくんですか! どうして私が、こんな思いを……」
氷川は肩を震わせる。
「私にはもう、
涙を流す氷川。こんな氷川に俺は、言い放った。
「何も無くなると? 笑わせんな」