六人目の青薔薇   作:黒い野良猫

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第二十話 妹の存在

 友希那達と約束した次の日の放課後。白金と連絡を取り、まだ花女に氷川がいると知った俺は待ち伏せをするため、花女の校門前で待っていた。

 途中、猫耳みたいな髪をした女の子が俺の方を見て何か言ってたが、無視してやった。うるさい。

 まぁ、女優の白鷺千聖がこの学校の生徒だと知った時は驚いたが。

 そうこうしている内に、氷川が昇降口から出て来るのが見えた。

 

 ――これで最後なんだ。いい結果で終わらせよう。

 

「よう」

「内田、さん……」

 

 校門から出てきた氷川に、声を掛ける。

 

「どうしたんでか?」

「ちょっと、お前と話したくてな」

「すみません。今日は練習があるので」

「悪いが、お前には休んでもらう。このままだと、明日のライブで足を引っ張るぞ」

「何ですって……?」

 

 俺の言った言葉に苛立ちを覚えたのか、睨みを利かせてくる。

 

「別に悪い様にはしない。まぁ、俺の話を聞いてどう思うのかは、お前の勝手だけどな」

 

 暫く氷川は黙るが、何を思ったか、俺に付いてくることになった。

 

「分かりました。お話、お聞かせください」

「了解した。ここじゃあれだし、近くのファミレス寄るか」

 

 そう言って俺達は花女を後にした。俺はスマホを取り出し、リサにメールを打つ。

 

『取り敢えず誘い込むことには成功した。あのファミレスで行う』

 

 実は今回の話は、遠くでリサ達にも聞かせるつもりだ。そうすれば、少しは氷川の気持ちも分かるだろうと思って。

 するとリサから返事が来た。

 

『リョーカイっ! じゃあアタシ達は後から入るね☆』

 

 内容を確認した俺はスマホをしまい、目的地まで歩くのだった。

 後から聞いた話だが、花女の氷川紗夜には羽丘の彼氏がいると噂になっていたそうだ。なんかごめん。

 

 ――――――

 ―――

 ―

 

 ファミレスに着いた俺達は席に座り、取り敢えずドリンクバーを注文しておく。

 

「それで、話とは何ですか?」

 

 ドリンクを取りに行くと、氷川は直ぐに聞いて来た。すると丁度良いタイミングでリサ達が入店してきて、氷川の後ろにバレない様に座った。

 

「そうだな……単刀直入に言う」

 

 俺は一呼吸置き、氷川の目を見て言い放った。

 

「お前は、何に怯えてる」

「――っ!」

 

 すると氷川の目が見開き、固まってしまった。

 

「お前の演奏をずっと聴いてきた。初めて聴いたのはお前が友希那とバンドを組んだ日だ。あの時からお前の音に違和感を感じていた。自分らしさがない、どこか焦っているように思えた。Roseliaの四人にはそれぞれ色を持っている。紫に輝く湊友希那。それを支える赤の今井リサ。力強さ見せつけるピンクの宇田川あこ。全てを照らす白の白金燐子。だが、お前には色がない。無色透明だ。周りは判らないかもしれないが、俺にははっきり判る。そして、その原因もな」

「原因……ですか?」

 

 氷川が恐る恐る口を開く。

 

「妹である、氷川日菜の存在だ」

「――っ!」

「いつも自分の真似ばかりをして、そつなくこなしてしまう日菜が、憎たらしかった。なぜこんなにも努力しているのに、真似ばかりする妹だけ簡単にこなしてしまうのか。そしていつの間にか比べられ、妹に劣等感を抱いてしまった。違うか?」

 

 氷川は何も言わずただうつむいている。だが、こちらの話は聞いているようだ。

 

「そんな日菜でも、未だに手を出していないジャンルがある。それが音楽だった。いくら天才でも、音楽だけはそう簡単に真似できないだろう。そう思ったお前はギターに手を伸ばした。だが、結果は残酷だった」

 

 氷川の手が強く握られているのを感じた。

 

「その日菜もつい先日、音楽に手を出した。しかも、お前と同じギターをな。そしてまた、追い越されるんじゃないかと、思ってしまった」

「仕様がないじゃないですか……」

 

 すると氷川は漸く口を開いた。

 

「日菜に何をやらせても私を越してしまう。そんな妹に、劣等感を抱くのは当たり前じゃないですか!」

「……」

「何で日菜なんですか……! どうして私がしてきた事を奪っていくんですか! どうして私が、こんな思いを……」

 

 氷川は肩を震わせる。

 

「私にはもう、ギター(これ)しかないんです……。これを奪われたら、私は……」

 

 涙を流す氷川。こんな氷川に俺は、言い放った。

 

「何も無くなると? 笑わせんな」


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