六人目の青薔薇   作:黒い野良猫

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第二十三話 奏の過去 前編

「奏を助けてあげて」

 

 おばさんの口から突然言われた言葉。突然のことで、私とリサ以外が固まってしまった。

 だが、すぐにあこが口を開く。

 

「奏さんを、ですか?」

「湊さん、話が見えてこないのですが……」

 

 続けて紗夜が口を開く。

 

「この写真を見て」

 

 私は先程下にあった写真を紗夜達に見せる。

 

「これは内田さんと……」

「一人の、男性の方が、写って……ますね」

「その写真がどうかしたんですか?」

 

 疑問に思ったあこが、私に聞いてくる。

 

「この写真に写っている奏、とてもいい笑顔なの。こんな笑顔、私達に向けた事ある?」

「言われてみればありませんが、それがどうかしたんですか?」

「アタシ達はね、この時の奏の笑顔を知っている。この笑顔は、心の底から音楽を楽しんでいる時なんだ」

「でも、ここに戻ってきてその笑顔を向けることは無くなった。だから、奏の過去に何かあったんじゃないかって思ったの。そうすれば、奏がバンドに関わりたくない理由が分かる筈」

 

 三人に話し終えると、今度はおばさんの方を見る。

 

「だからお願い。おばさん。奏に、何があったか教えて……?」

 

 おばさんは暫く黙っているが、一呼吸つくと、口を開いた。

 

「……あれは、奏がが小学校五年の時の話よ――」

 

 

 ―――――――――――

 ―――――

 ――

 

 目的地に着いた俺は、その場に荷物を一旦置く。

 

『三島家之墓』

 

 俺の目の前にはそう書かれた墓石が建っている。

 俺は近くの店で買った御線香に火をつけ、全体に火が行き渡ってるのを確認すると、香炉に寝かせる。

 香炉に寝かせると、あの人の好きだったおはぎとビールをお供えし、しゃがみ込んで合掌する。

 

 ――先生。あなたが亡くなってからもう二年が経ちました。俺はあれから、生まれ育った東京に戻って、ごく普通の生活をしています。

 

 俺は心の中で先生と話していると、昔の事を思いだしていた。

 

 

 ―――――――――――

 ―――――

 ――

 

 東京を離れて四年。俺は小学五年生になった。

 友達は何人か出来たが、それでも、友希那やリサの様に、俺と同じ趣味の人は現れなかった。

 五年になるとクラス替えが行われ、会ったことのない人と同じクラスになる事があった。

 そして最初に行われるのは、自己紹介。

 

「俺は内田奏といいます。俺は音楽が好きで、ギター、ベース、ドラム、キーボードなど、楽器全般弾けます。将来はバンドを組んで、FUTUR WORLD FES.という世界大会に出場し、優勝するのが俺の夢です。残り二年、宜しくお願いします」

 

 周りから拍手を浴びる中、一人俺と目があう奴がいた。そいつは俺を見るとニヤっと笑い、すぐに普通の顔に戻る。

 

 ――何なんだ、あいつ。

 

 俺はそう疑問に思いながらも、席に座った。

 授業終了の鐘が鳴る。すると先程笑っていた奴が真っ先に俺の下に飛んできた。

 

「なぁ、バンドメンバー探しているんだよな!?」

「あ、あぁ。そうだけど……」

 

 食い気味で来たため、少したじろいでしまう。

 

「やっとみつけたぁ! おい(まさる)! やっと見つけたぞ!」

 

 すると、勝と呼ばれた奴は耳を塞ぎながら俺の席にやってくる。

 

「うるさいな啓太郎(けいたろう)。そんな大声出さなくても聞こえるよ」

 

 俺の席に来たのは、同じクラスの森田啓太郎と貝沼勝だった。

 

「実は俺達、自己紹介で言ってなかったんだけど二人でバンド組んでんだ! 良かったらお前も入らないか!?」

「良かったらって……パートは何だ?」

「俺がベースで、啓太郎がドラム。だから奏にはギターボーカル頼みたいんだけど、良いか?」

 

 正直驚いた。俺と同い年で、ここまでメンツが集まっている事に。

 そして、嬉しかった。漸く俺と同じ趣味の奴を見つけた事に。

 だから俺の答えは簡単だった。

 

「俺で良かったら、喜んで」

「マジで!? サンキュ!」

 

 俺が入ると知ると、啓太郎はもの凄く喜び、俺の手を握る。少し痛い……

 

「まぁこんな奴だけど、中身は良い奴だから。宜しくな、奏」

「あぁ。宜しく、勝」

 

 俺と勝も握手を交わし、早速放課後に勝の家で実力を見ようとなった。

 

「じゃあ後でな!」

「あぁ。じゃあな」

 

 俺達はギターを取りに一旦帰り、また学校に集合となった。

 

「ただいま」

「お帰り奏。おやつあるわよ」

 

 リビングから母さんが出て来る。だが、俺は約束があるので後で食べると言った。

 だが、母さんは俺の顔をじっと見る。

 

「な、なに?」

「いえ、何か嬉しそうだなぁって思って。何か良い事あった?」

「良い事、ね……」

 

 俺は先程の出来事を思いだす。すると自然に笑みが零れた。

 

「そうだな。漸く見つけたって感じ」

「そう。良かったわね」

 

 母さんの言葉を受け取ると、ギターを取りに部屋に戻る。

 ギターをケースにしまい、背負いこむ。

 

「じゃあ、行ってくる」

「先方にご迷惑のならない様にね。行ってらっしゃい」

 

 こうして俺はギターを背負ったまま自転車を漕ぎ、目的地まで走って行った。

 

「え!? 奏って四歳から楽器弾いてんの!?」

 

 勝の家に到着し、早速俺の実力を見せようと二人の前で演奏した。

 

「あぁ。最初はピアノかな。テレビでやってた音楽番組を見て、何故か俺も出来そうだと思ってピアノを弾いてみたら弾けたって訳。そこから色んな楽器に手を出した」

「へぇ~。じゃあお前は音楽の天才なんだな!」

 

 そう言って勝はチューニングをするが、中々音が合わないのか苦戦していた。

 

「勝、ちょっと貸してみ」

「え、お、おう……」

 

 俺は勝からベースを受け取り、チューニングをする。その姿を二人はじっと見てた。

 

「これで良いだろう。ん? どうした?」

「いや、何も付けずにチューニングできるんだなって……」

「あぁ。俺は絶対音感の持ち主なんだ。だからチューニングも簡単」

「じゃあ本物の天才だ……」

 

 そんな二人は俺を驚愕の目で見ていた。

 

「じゃあさ、俺達に色々教えてくれよ! そうすればもっとうまくなる筈だ!」

「はいよ。早速練習しようぜ」

 

 こうして俺達は三人で練習し、いつかはライブハウスで演奏しようと約束した。

 その筈だった……。

 

「もうやってらんねぇよ!!」

 

 バンドを組んで二ヶ月近く。ある日の練習中、突然啓太郎が叫び出した。

 いや、叫ぶという言い方は少し語弊がある。正しくは、俺と啓太郎が言い合いになり、そこで怒鳴ったと言うのに近い。

 

「もうお前の言っている事分かんねぇよ!」

「んだよその言い方! 大体、てめぇが教えてくれって頼んで来たんだろ!」

 

 そう。啓太郎は俺の指導に付いて行けてなかった。そのせいで、イライラしていたのだろう。

 

「お前が出来ても、俺達が出来るとは限らねぇだろ!」

「だからお前達のレベルに合わせて教えてんだろうが!」

「はっ! 天才のいう事は違うね。そうやっていつも見下してんだろ」

 

 ――は? 何だよそれ……俺がいつ見下したって言うんだ……

 

 俺はもう何が何だか分からなくなった。

 

「もうお前には付いて行けねぇわ。このバンド、解散だな」

 

 そう言って啓太郎は荷物をまとめて出て行った。

 

「お前ももう、出てってくれ……」

 

 勝にそう言われる。俺は頭が真っ白だった。

 そして気付けば、家のベットに飛び込んでいた。

 こうして、俺の小学校生活は幕を閉じた。

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