六人目の青薔薇   作:黒い野良猫

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平成最後に投稿できて良かったです。


第二十五話 新成、Roselia!

「それから奏は変わってしまったわ」

 

 私達は内田さんの過去を内田さんのお母様から聞いていた。

 

「今まで笑って弾いていたギターも、いつの日か笑顔が消えてしまった。何処か抜けたような、心にぽっかりと穴が空いた様な、そんな感じになってしまった」

 

 するとお母様の頬に、一筋の涙が零れた。

 

「音楽が大好きだったのに……サヴァン症候群のせいでバンドの解散に追い込まれ、奏の事を一番近くで見てきた先生も失ってしまって……」

 

 他の四人も俯き、悲しそうな、辛そうな表情をしている。

 

 ――内田さんはなりたくて天才になったんじゃない……むしろそのせいで自分が辛い目にあっているのに……私はそれを日菜と同等に考えてしまった……。一番辛いのは内田さんの筈なのに……

 

 私はあの日のファミレスでの発言に後悔し、後で謝ろうと決意した。

 

「奏は自分の事をこう言ってたわ。『俺は死神だ。深く関われば関わろうとするほど、周りの人は離れていく』って。だからあの子はバンドと関わるのが怖いのよ。また自分のせいで、解散の危機まで迫ってしまうんではないかって……」

「だから奏は、頑なにバンドに関わろうとしなかったんだ……」

 

 今井さんが小さく呟く。私は一つ疑問に思い、質問をした。

 

「内田さんがバンドに関わりたくない理由は分かりました。ですが、何故彼はここまで私達に協力してきたのですか? メンバー集めも、スタジオを貸してくれることも。本来なら、その事も拒むはずなのに……」

「それはね、紗夜ちゃん。多分、まだ信じたいんだと思う」

「信じる、ですか……?」

 

 今度は白金さんが呟く。

 

「うん。特に友希那ちゃんとリサちゃんをね」

「アタシ達を?」

「あの子にとって、あなた達二人はとても大切な存在。引っ越した後も二人の事を気にしていたわ。だから、僅かな可能性を二人に掛けているんだと思う。二人なら、自分の空いた心の隙間を埋めてくれるんじゃないかって。でも、それでも怖いの。また失ってしまった時の反動の方がデカいから」

 

 内田さんがここまでお二人を思ってくれているなんて……幼馴染だからでしょうか。お二人を見ると、どこか嬉しそうな表情をしていた。

 

「お願い、みんな。奏を助けてあげて。過去に縛られているあの子を、解放してあげて」

 

 そう言ってお母様は頭を下げる。

 私達は目を合わせる。四人が四人、決意をした目をしていて、頷いた。

 

「任せて、おばさん。奏は私達Roseliaが必ず救うわ。だから、安心して」

「ありがとう、友希那ちゃん、みんな……」

 

 こうして私達は内田さんを救う事を誓い、再びスタジオに戻って練習をするのだった。

 

 

 ――――――――――――

 ―――――

 ――

 

 あの日から俺は、数週間引きこもった。先生はかなり前から病気で、本来なら俺が中一の秋には亡くなってもおかしくなかったそうだ。

 

「じゃあな、先生」

 

 俺は先生に別れを告げ、その場を離れようとする。

 

「あら、あなたは……」

 

 すると向こう側から女性の声がした。その女性を見ると、花と手桶を持っていた。

 俺はとりあえず一礼する。

 

「旦那の墓参りに来てくれたのね」

「旦那、というと……」

「三島の妻です」

 

 この女性は先生の奥さんだった。

 奥さんも俺に一礼して、先生の墓の前まで行く。

 

「ありがとうね。奏君、でよかったからしら?」

「あ、はい。内田奏です」

「そう。旦那がいつも嬉しそうに話していたわ、あなたのこと」

 

 奥さんの表情は柔らかな笑みを浮かべていた。

 

「あの、葬儀に出席せず、申し訳ございません」

 

 俺は頭を下げる。

 先生の葬儀には出席しなかった。したら、本当に先生が死んでしまったと実感してしまうから。

 

「いいえ。あなたも辛かったでしょう。それなのに去年もあの人の命日にお墓参りに来てくれて」

「気づいていらしてたのですか?」

「えぇ。私が来る前に、もの新しいお花と、綺麗にされた墓石があるもの。あの人の話から聞くに、あなただとすぐ分かったわ」

「そう、ですか……」

「それとね、あの人、満足してたの。入院する前、自分のギターをあなたに渡せて良かったって」

 

 先生は分かってたんだ。もう自分に時間がないことが。

 

「あと、渡そうと思ってたんだけど、なかなか会えなくてね。これ」

 

 奥さんはカバンから、一枚の封筒を出して、俺に渡した。

 

「生前、あなたに書いた手紙だそうよ。自分が死んだとき、渡してくれって」

 

 俺は手紙を受け取ると、早速封を開いて手紙を読む。

 すると途中から文字か擦れて見えなくなってきた。手紙のせいじゃない。自分が泣いているんだとすぐに分かった。

 

「せん……せい……!」

 

 涙が止まらなかった。自分が死ぬかもしれないのに、ここまで自分のことを思ってくれたなんて。

 

「あの人の思い、無駄にしないでね」

「はい……!」

 

 こうして俺は奥さんと別れを告げ、東京へと戻るのだった。

 

 ――――――――――――

 ―――――

 ――

 

「ただいま」

 

 東京についた俺は家に帰ってきた。玄関を見ると、まだたくさんの靴が置かれていた。

 

「おかえりなさい、奏」

「ただいま。なに、まだあいつらいるの?」

 

 あいつら、友希那達のことだ。

 

「えぇ。それと、あなたが帰ってきたらすぐに地下に来てとも言ってたわ」

「まじか。何か問題でもあったのか?」

 

 俺は一旦荷物を置きに部屋に戻り、着替えて地下室に行った。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

 俺は地下に行くと、友希那達は普通に練習していた。

 

「あら、おかえりなさい奏」

「ただいま……って、今何時だと思ってんだよ。十八時だぞ」

「えぇ。知っているわ」

「じゃあ何で――」

「あなたに聞いて欲しい曲があるからよ」

 

 友希那がそう言うと、他のメンバーは準備する。

 

「それじゃ行くわよ。Re:birth day」

 

 新曲だろうか。俺の知らない曲を披露してきた。

 

 ――あれ……何でだろう……

 

 頬に伝わる冷たいもの。それが何か分かるのに時間はかからなかった。

 

 ――何で俺、泣いてんだろう……

 

 この曲を聞いているだけなのに、涙が止まらない。止まる気配がない。

 その時俺は、昼間貰った手紙を思いだす。

 

 

 ――――――――――

 拝啓、内田奏様。

 

 

 お前がこの手紙を読んでいるという事は、俺は死んだという事だな。

 病気の事、黙っててすまなかった。お前の姿を見ていると、病気である事を言えなかった。

 サヴァン症候群のせいで、バンドメンバーから嫌われ、解散まで追い込まれ、音楽に対して絶望していたお前を、見ていられなかった。

 才能あるお前に、音楽を止めてほしくなかった。だから俺は、僅かな命を全て、お前に授けようと思った。

 お前の演奏している姿を見ていると、心なしか、病気も治るんじゃないかと思った時もある。それ程お前の音は輝いていた。

 もしかしたらお前はもう、バンドなんて組めないかもしれない。また解散に追い込んでしまうだろうと、そう思ってしまうかもしれない。けどな、全員が全員、そうじゃないんだ。俺の他にも、お前の事を分かってくれる人がいる筈だ。

 無理にバンドに入れとは言わない。だが、必ずお前の能力(ちから)を欲しがっている奴がいる。そいつらの力になって欲しい。

 俺がお前にしたように、今度はお前が支える番だ。

 お前が育てた音楽、上で聞いてるからよ。

 だから、腐るなよ……

 今までありがとう、奏。

 

 

 三島 孝弘

 ――――――――――

 

「奏」

 

 演奏が終わると、友希那が声を掛けてくる。

 

「あなたの事は聞かせてもらったわ。でも、それでも私達はあなたが必要なの」

「……俺は死神だ。俺が関わると必ずバンドは解散に追い込まれる。大切な人までいなくなる」

「そんなの関係ないわ。そもそも、私達は頂点を目指しているのよ? そんな簡単に解散しないわ」

「でも、俺が!」

「奏」

 

 今度はリサが声を掛けてきた。

 

「確かに過去の事があるから信じられないのかもしれない。でも、少しはアタシ達を信じてよ! 幼馴染を、信じてよ……」

 

 するとリサも大粒の涙を流していた。

 

「内田さん」

 

 すると紗夜が近付いて来た。

 

「申し訳ありませんでした」

 

 そう言って紗夜は頭を下げる。

 

「な、何で……」

「以前、あなたの事を日菜と同じ『天才』だと言いました。ですが、今日の話を聞いて、病気のせいで苦しめられているのを知って、私はなんて失礼なことを言ったのかと後悔しました。何も知らないとはいえ、あの時の発言、申し訳ありませんでした」

「あ、頭を上げてくれ。別にそこまでしなくても……」

「それでも、私は内田さんに入って欲しいと思っています。私は更なる高みを目指したい。その為に、内田さんの力が必要です」

 

 紗夜は真剣に言ってくる。

 

「どうしてそこまでして、俺なんかを……」

「忘れたの? 昔約束したじゃない」

 

 ――昔……

 

『私、お父さんみたいなバンドマンになりたい!』

『友希那がなるなら、アタシもなる!』

『ははは、友希那もリサちゃんも嬉しいことを言ってくれるな。でも、そんな簡単じゃないぞ?』

『なら、僕が二人を支えるよ』

『奏……』

『僕が友希那とリサを、カッコいいバンドマンにする。そしていつか、お父さんやおじさんを超す最高のバンドになるんだ』

 

 ――そっか……あの時の約束、覚えてたんだ……

 

 友希那は俺の両手を取る。

 

「奏。私達を支えなさい。そして、奏のおじさんや、私のお父さんを超すバンドを作り上げなさい」

「……俺の指導は、生半可じゃないぞ」

「それぐらい覚悟しているわ」

「練習がきつくて、嫌な気持ちにさせるかもしれないぞ」

「それぐらいしなきゃ、頂点は目指せません」

「時々厳しい事を言うかもしれないぞ」

「それ程あこ達を思ってくれてるんですよね!」

「かなり高度な技術を教えることになるぞ」

「頑張り、ます……」

 

 あこ、白金も続けて俺の近くに寄る。

 

 ――先生。俺……

 

「友希那、リサ。お願いがある」

「なに?」

 

 ――俺漸く……!

 

「俺を、Roseliaのマネージャーにしてくれないか……?」

「勿論。歓迎するわ」

 

 ――漸く、居場所を見つけました……!

 

 こうして俺、内田奏はRoseliaのマネージャー兼技術指導に就任し、影でRoseliaを支えることとなった。

 

 

 

 

 

 

 これから始まるは、頂点を目指すガールズロックバンドの五人と、それを影で支える一人の男の物語。

 彼等を待ち受けるのは一体、何なのか。それはまだ、神のみぞ知る物語である。

 

 

 

 

 第一章 完




これにて、Roselia結成編を終了します。

次は第二章「日常編」がスタートします。

活動報告でも述べました通り、ここで一旦休載します。

次に戻ってくるのは恐らく夏休みごろになると思います。
勿論、それより早く帰ってくることもありますので、暫くの間、お待ちください。

この物語は始まったばかりです。必ず完結させますので、これからもこの作品をよろしくお願いします。

それではまたいつか、お会いできるその日まで……

ヒロインはどーする?

  • リサOnly!
  • Roseliaハーレム!
  • ハーレム一本!

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