第一話 帰郷
車に揺られ約二時間。特にやる事もないので俺は外の景色を見ていた。
そんな俺の姿を見かねた親父が話しかけてきた。
「それにしても、ここに来るのも久しぶりだな~。何年ぶりだ?」
「そうねぇ、十年くらいかしら」
親父の質問に、お袋が答える。
「正しくは九年と九ヶ月。俺が小学校に入学してすぐに引っ越したんだろ? それぐらい覚えとけよ」
ぶっきらぼうに答える。ふと隣を見るとギターケースが置いてあった。
「そう言えば親父。引っ越し先って前と同じ家なんだろ? 地下室は無事なのか?」
「安心しろ。あの家を出る際、ここに帰ってくることを見越して入り口を隠しておいた。相当めんどくさい仕掛けをしたから、物好きでもいない限り地下室は開けられん。まぁ、十年も空けていたから掃除が大変だがな」
「機材は無事なのか?」
「それは確認しないと分からん。っと言ってるうちに着いたぞ」
俺達の目の前にはトラックが一台止まっており、家の中に荷物を運んでいる。
表札を見ると"内田"と書かれていた。
――帰って来たんだな……この街に。
俺は表札を撫でると、お袋の声が聞こえる。
「
「おーう」
申し遅れた。俺の名前は
え? 何で女子高に通うかって? その話はまた今度だ。それより……
「奏ー! 早く来てよー! このタンス何処にあったっけー?」
お袋が俺を呼んでいる。早く行かないと。
「このタンスは窓際に、その食器棚は台所の右横。テーブルはキッチンとくっつけて……」
俺は事細かに指示し、荷物を置いていく。
今指示している家具の置き方は、俺達がこの家を引っ越す前の形にしている。当時六歳の俺が、どうしてそこまで覚えているのか。それは俺の身体に秘密があった。
"サヴァン症候群"。知的障害や発達障害などのある者のうち、ごく特定の分野に限って優れた能力を発揮する者の症状だとネットではそう書かれているが、俺は知的障害と発達障害どちらも属していない。いたって普通な男子高校生だ。
何故俺がサヴァン症候群になったかは定かではないが、サヴァン症候群だと気づいたのは、俺が四歳の時、テレビでやっていた音楽番組で演奏されていた曲を何も見ずにピアノが弾けてしまったのだ。それを不思議に思った両親は俺を病院に連れていき、その時診断されたのがサヴァン症候群。
そしてもう一つ。"絶対音感"。ある音を単独に聴いたときに、その音の高さを記憶に基づいて絶対的に認識する能力。だが、ここでも一つ誤りがある。俺は単独ではなく
そこから俺は色んな楽器に手を出した。ギター、ベース、ドラムなど、全てこなしてしまった。圧倒的な音楽の才能。それが表舞台に立つことは一度もなかった。
「奏。地下室開いたぞ」
俺が色々な楽器に手を出したのもあるが、親父も元々ギターをやっていた為、思いっきり弾ける防音となる部屋が欲しかった。そこで作ったのが、この
「やっぱり埃が凄いな……」
「暫くは掃除だけで終わりそうだな……」
持ち運べない機材にはもの凄い埃が被っていた。今日使いたかったが、しょうがない。新学期までまだ数日あるから、明日やるか。
「俺、ちょっくら散歩に行ってくる」
「気を付けてね~」
三月といっても、外はまだ肌寒い。俺は薄手のコートを羽織り、玄関を出た。
玄関を開けて最初に目に映ったのは、二つの一軒家。表札を見ると今井と湊と書かれている。どちらも、あの頃と変わらない。
――覚えててくれてるかな……いや、十年も前の事だ。忘れているだろう。
けど、覚えててほしい。そう言う願望を抱きながら、街をぶらついた。
――やまぶきベーカリーに羽沢珈琲店、北沢精肉店も、何も変わってねぇな……
懐かしいと思いつつ、北沢精肉店でコロッケを買い、自分が通う羽丘女子学園に向かう。
「相変わらずコロッケの味は変わってねぇな。美味い」
コロッケを食べながら歩いていると、奥から二人組の女生徒が歩いて来た。
一人はギャルのような姿をして、一人は幼い頃から美しい銀色の長い髪を
――綺麗になったな、二人共……
そう思って歩く。二人組もそのまま通り過ぎようとした時だった。
ギャルの子が足を止めて、こちらを振り向いてこういった。
「……奏?」
内田奏(主人公)を他のバンドと絡ませる?
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絡ませる
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数名だけ絡ませる
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Roseliaだけで良い