六月。夏が近づいてきたこの時に、我ら羽丘は一つのイベントが開催されていた。
それは──
「お、お帰りなさいませ、お嬢様~……」
そう、文化祭だ。
「いやぁ似合ってるよ奏!」
「うん! 何かるんっ♪ てくる!」
接客している俺を面白そうに見ているリサと日菜。何故なら俺は今執事の恰好をさせられていた。
事の発端は数週間前に遡る。
「今年の文化祭、我が2Aの出し物は喫茶店にしたいんだけど、どうかな?」
文化祭実行委員の一人が教卓の前に立ち、言ってきた。
「良いんじゃない? なんといっても我がクラスには薫様がいるし……」
「薫カフェ、なんてどうかな?」
と、話は瀬田を中心にしたカフェになっていた。
──文化祭か。俺はメンドクサイ役じゃなけりゃ何でもいいや……
俺は心の中でそう思っていた。
「てことで薫様、お願いしても良いかな?」
「フフッ。別に構わないよ。子猫ちゃん」
こうして話は終わるかと思っていた。
だが、ここで一人の人物が口を開く。
「ちょ~っとまったー! みんな、誰か忘れてない?」
そう、日菜だ。
「あたし達にはもう一人、活用しなきゃいけない人がいるじゃん!」
「あ、確かに!」
誰かがそう言った瞬間、全員の視線が俺の方に向く。
「……え? 何?」
「ここは一つ、かー君にも一肌脱いでもらおう!」
こうして日菜の余計な一言により、2Aの模擬店は『執事カフェ』となってしまった。
「つーか知り合いにこんな姿見られたくないんだけど……」
俺がそう呟いた時だった。
「来たわよ奏」
我らがRoseliaリーダー、友希那が来てしまった。
「似合っているわね。その格好で毎日私の帰りを待っててほしいわ」
「勝手な事言ってんじゃねぇ。お前一人か?」
「あら? お客様に向かってその口調は何かしら?」
──この野郎。心の底から楽しんでやがるな……なら、こっちもそれ相応の対応をしてやる。
すると俺は友希那の手を取り……
「お帰りなさいませお嬢様。お嬢様が帰って来ずとても寂しい思いをしておりました。できればこのまま離れないで欲しいものです」
俺は友希那の手の甲にキスをする。すると周りから黄色い声が上がる。
友希那を見ると、顔を真っ赤にして固まっていた。
「ちょちょちょ奏! 今のどういう意味!?」
すると顔を真っ赤にしたリサが俺の両肩を掴み揺らしてくる。
「おお、落ち着けリサ! 別に深い意味は無い!
俺がそう言うと、今度は別の方向からどす黒いオーラが発せられていた。
発生源はそう、友希那である。
「奏……?」
「ゆ、友希那? どうした……?」
「貴方、私をおちょくったのね……?」
「友希那、その手は何でしょう……」
友希那は右手を広げ、後ろに振りかぶる。
そして──
「この馬鹿!」
パァアアアアアアン!
クラスに乾いた音が響いた。
「理不尽だ……」
「あはは……今のは奏が悪いよ」
俺は今控室で真っ赤に腫れている頬を冷やしていた。
「てか友希那、あんな力強かったのか」
「しょうがないよ、元プロレスラーだもん」
「何を言ってんだお前は?」
友希那がプロレスラー? そんな訳ないだろう。
「そんな事より! この仕事終わったら一緒に回る約束忘れてないよね?」
「忘れてねーよ。後一時間ぐらいしたらシフト交代だから、もう少し待ってろ」
「奏君そろそろ行ける?」
クラスの一人が控室に入って言ってきた。
「あいよぉ。指名か何か?」
「うん。宜しくね」
そう言って控室を出て行く。リサに氷嚢を渡し、俺も続いてホールに出た。
「ご指名ありがとうございます。お帰りなさいませお嬢様方……ってお前らか」
「先輩、仮にも客に向かってお前らは無いと思いますよ」
「蘭ちゃん落ち着いて……」
「エモーい」
「似合ってますよ奏先輩!」
「カッコいい……」
俺を指名してきたのは、幼馴染バンド、Afterglowだった。
「ホントお前ら仲いいよな。席空いてるぜ。こちらへどうぞ」
俺は五人を案内し、注文を取る。
俺が五人と知り合った切欠。それはリサの働いているコンビニで青葉と知り合い、よく通っている珈琲店に羽沢が働いていて、まさかの青葉と幼馴染だと知り、あこの紹介で姉の巴を知り、そしてなんやかんやあって他の二人と知り合った。
「お待たせしました~」
俺は注文されたものを運ぶ。
「そう言えばAfterglowは文化祭のライブ、出るんだろ?」
「はい。先輩は見に来るんですか?」
「まぁ俺はリサと回るから、リサが行くって言うなら行くかな。お前らの音は何時でも聞けるし」
「アドバイス、いつも参考にしています!」
そう言いながらケーキを口に運ぶ上原。そのカロリーは一体どこに向かっているのやら……
「かー君先輩、今ひーちゃんの事エロい目で見てたでしょ~」
「見とらんわアホ」
俺は青葉にチョップする。
「うわ~暴力はんた~い」
「モカ。遊んでないで早く食べよ。リハーサルもあるし」
「は~い」
その他にも中等部のあこが来たり、他の接客などをしていた。
「奏君、時間だから上がって良いよ」
「おう。後宜しく」
俺は更衣室で制服に着替え、外で待ってるリサの下に行く。
「お待たせ」
「ううん。行こっ☆」
「あら、私も一緒に良いかしら?」
俺とリサが行こうとすると、友希那が来た。
「全然良いよ~。三人で回ろっか!」
こうして俺を真ん中に、リサと友希那が俺の袖を摘んで歩く。正直歩きづらい。
「そう言えば蘭達のライブ見に行く?」
「俺はどっちでも良いぞ? 友希那は?」
「そうね。こういう機会もないし、見てみましょうか」
「おっけい☆」
俺達は一通り出店を見て回ると、ライブの時間になり体育館へ向かう。
体育館は超満員で、俺達は後ろの方で立ち見することになった。
「もしRoseliaが全員同じ学校だったら、アタシ達もここでライブやってたかな?」
「さぁな。少なくとも友希那と紗夜は反対しそうだけどな」
「当たり前じゃない。私は頂点を目指しているのよ? こんな所で遠回りなんてしている暇はないわ」
「ほらな」
友希那の言葉に苦笑いし、遂にアフグロの番となった。
『こんにちは、Afterglowです。それでは聞いてください』
こうしてアフグロの演奏が始まる。彼女達の演奏はとても力強く、彼女達の絆を見せつけられているかのようだった。
──まぁ、中学から組んで来たんだからそんなもんだろ。それにしても、良い音だ。
「どう? 奏から見たAfterglowは」
「そうだな。まだまだ成長できる。そんな感じだ」
「奏がそこまで言うなんて、流石美竹さん達ね。私達も負けてられないわ」
「そうだな」
微笑みながら、俺は彼女達の演奏を見る。
こうして、羽丘の文化祭は幕を閉じた。
☆☆☆☆★☆☆☆☆
「今日も疲れた……ん?」
ベッドにダイブした俺のスマホに、一つの通知が入る。紗夜からだ。
『こんばんは。夜分遅くにすみません。来週、花咲川で文化祭があるのですが、是非いらしてください』
──花女の文化祭か。面白そうだな。
するともう一通通知が来る。燐子からだ。
『こんばんは(^^)/来週花女で文化祭があるから、来てください(*^-^*)』
「毎回思うが、対人だと人見知りが発動して話せなくなるけど、メールだとめっちゃ人が変わるな……」
俺は二人に行くという返事を返すと、そのまま眠りについたのだった。