六人目の青薔薇   作:黒い野良猫

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第五話 文化祭は大忙し!?

 六月。夏が近づいてきたこの時に、我ら羽丘は一つのイベントが開催されていた。

 それは──

 

「お、お帰りなさいませ、お嬢様~……」

 

 そう、文化祭だ。

 

「いやぁ似合ってるよ奏!」

「うん! 何かるんっ♪ てくる!」

 

 接客している俺を面白そうに見ているリサと日菜。何故なら俺は今執事の恰好をさせられていた。

 事の発端は数週間前に遡る。

 

「今年の文化祭、我が2Aの出し物は喫茶店にしたいんだけど、どうかな?」

 

 文化祭実行委員の一人が教卓の前に立ち、言ってきた。

 

「良いんじゃない? なんといっても我がクラスには薫様がいるし……」

「薫カフェ、なんてどうかな?」

 

 と、話は瀬田を中心にしたカフェになっていた。

 

 ──文化祭か。俺はメンドクサイ役じゃなけりゃ何でもいいや……

 

 俺は心の中でそう思っていた。

 

「てことで薫様、お願いしても良いかな?」

「フフッ。別に構わないよ。子猫ちゃん」

 

 こうして話は終わるかと思っていた。

 だが、ここで一人の人物が口を開く。

 

「ちょ~っとまったー! みんな、誰か忘れてない?」

 

 そう、日菜だ。

 

「あたし達にはもう一人、活用しなきゃいけない人がいるじゃん!」

「あ、確かに!」

 

 誰かがそう言った瞬間、全員の視線が俺の方に向く。

 

「……え? 何?」

「ここは一つ、かー君にも一肌脱いでもらおう!」

 

 こうして日菜の余計な一言により、2Aの模擬店は『執事カフェ』となってしまった。

 

「つーか知り合いにこんな姿見られたくないんだけど……」

 

 俺がそう呟いた時だった。

 

「来たわよ奏」

 

 我らがRoseliaリーダー、友希那が来てしまった。

 

「似合っているわね。その格好で毎日私の帰りを待っててほしいわ」

「勝手な事言ってんじゃねぇ。お前一人か?」

「あら? お客様に向かってその口調は何かしら?」

 

 ──この野郎。心の底から楽しんでやがるな……なら、こっちもそれ相応の対応をしてやる。

 

 すると俺は友希那の手を取り……

 

「お帰りなさいませお嬢様。お嬢様が帰って来ずとても寂しい思いをしておりました。できればこのまま離れないで欲しいものです」

 

 俺は友希那の手の甲にキスをする。すると周りから黄色い声が上がる。

 友希那を見ると、顔を真っ赤にして固まっていた。

 

「ちょちょちょ奏! 今のどういう意味!?」

 

 すると顔を真っ赤にしたリサが俺の両肩を掴み揺らしてくる。

 

「おお、落ち着けリサ! 別に深い意味は無い! 揶揄(からか)っただけだ!」

 

 俺がそう言うと、今度は別の方向からどす黒いオーラが発せられていた。

 発生源はそう、友希那である。

 

「奏……?」

「ゆ、友希那? どうした……?」

「貴方、私をおちょくったのね……?」

「友希那、その手は何でしょう……」

 

 友希那は右手を広げ、後ろに振りかぶる。

 そして──

 

「この馬鹿!」

 

パァアアアアアアン! 

 

 クラスに乾いた音が響いた。

 

「理不尽だ……」

「あはは……今のは奏が悪いよ」

 

 俺は今控室で真っ赤に腫れている頬を冷やしていた。

 

「てか友希那、あんな力強かったのか」

「しょうがないよ、元プロレスラーだもん」

「何を言ってんだお前は?」

 

 友希那がプロレスラー? そんな訳ないだろう。

 

「そんな事より! この仕事終わったら一緒に回る約束忘れてないよね?」

「忘れてねーよ。後一時間ぐらいしたらシフト交代だから、もう少し待ってろ」

「奏君そろそろ行ける?」

 

 クラスの一人が控室に入って言ってきた。

 

「あいよぉ。指名か何か?」

「うん。宜しくね」

 

 そう言って控室を出て行く。リサに氷嚢を渡し、俺も続いてホールに出た。

 

「ご指名ありがとうございます。お帰りなさいませお嬢様方……ってお前らか」

「先輩、仮にも客に向かってお前らは無いと思いますよ」

「蘭ちゃん落ち着いて……」

「エモーい」

「似合ってますよ奏先輩!」

「カッコいい……」

 

 俺を指名してきたのは、幼馴染バンド、Afterglowだった。

 

「ホントお前ら仲いいよな。席空いてるぜ。こちらへどうぞ」

 

 俺は五人を案内し、注文を取る。

 俺が五人と知り合った切欠。それはリサの働いているコンビニで青葉と知り合い、よく通っている珈琲店に羽沢が働いていて、まさかの青葉と幼馴染だと知り、あこの紹介で姉の巴を知り、そしてなんやかんやあって他の二人と知り合った。

 

「お待たせしました~」

 

 俺は注文されたものを運ぶ。

 

「そう言えばAfterglowは文化祭のライブ、出るんだろ?」

「はい。先輩は見に来るんですか?」

「まぁ俺はリサと回るから、リサが行くって言うなら行くかな。お前らの音は何時でも聞けるし」

「アドバイス、いつも参考にしています!」

 

 そう言いながらケーキを口に運ぶ上原。そのカロリーは一体どこに向かっているのやら……

 

「かー君先輩、今ひーちゃんの事エロい目で見てたでしょ~」

「見とらんわアホ」

 

 俺は青葉にチョップする。

 

「うわ~暴力はんた~い」

「モカ。遊んでないで早く食べよ。リハーサルもあるし」

「は~い」

 

 その他にも中等部のあこが来たり、他の接客などをしていた。

 

「奏君、時間だから上がって良いよ」

「おう。後宜しく」

 

 俺は更衣室で制服に着替え、外で待ってるリサの下に行く。

 

「お待たせ」

「ううん。行こっ☆」

「あら、私も一緒に良いかしら?」

 

 俺とリサが行こうとすると、友希那が来た。

 

「全然良いよ~。三人で回ろっか!」

 

 こうして俺を真ん中に、リサと友希那が俺の袖を摘んで歩く。正直歩きづらい。

 

「そう言えば蘭達のライブ見に行く?」

「俺はどっちでも良いぞ? 友希那は?」

「そうね。こういう機会もないし、見てみましょうか」

「おっけい☆」

 

 俺達は一通り出店を見て回ると、ライブの時間になり体育館へ向かう。

 体育館は超満員で、俺達は後ろの方で立ち見することになった。

 

「もしRoseliaが全員同じ学校だったら、アタシ達もここでライブやってたかな?」

「さぁな。少なくとも友希那と紗夜は反対しそうだけどな」

「当たり前じゃない。私は頂点を目指しているのよ? こんな所で遠回りなんてしている暇はないわ」

「ほらな」

 

 友希那の言葉に苦笑いし、遂にアフグロの番となった。

 

『こんにちは、Afterglowです。それでは聞いてください』

 

 こうしてアフグロの演奏が始まる。彼女達の演奏はとても力強く、彼女達の絆を見せつけられているかのようだった。

 

 ──まぁ、中学から組んで来たんだからそんなもんだろ。それにしても、良い音だ。

 

「どう? 奏から見たAfterglowは」

「そうだな。まだまだ成長できる。そんな感じだ」

「奏がそこまで言うなんて、流石美竹さん達ね。私達も負けてられないわ」

「そうだな」

 

 微笑みながら、俺は彼女達の演奏を見る。

 こうして、羽丘の文化祭は幕を閉じた。

 

 ☆☆☆☆★☆☆☆☆

 

「今日も疲れた……ん?」

 

 ベッドにダイブした俺のスマホに、一つの通知が入る。紗夜からだ。

 

『こんばんは。夜分遅くにすみません。来週、花咲川で文化祭があるのですが、是非いらしてください』

 

 ──花女の文化祭か。面白そうだな。

 

 するともう一通通知が来る。燐子からだ。

 

『こんばんは(^^)/来週花女で文化祭があるから、来てください(*^-^*)』

 

「毎回思うが、対人だと人見知りが発動して話せなくなるけど、メールだとめっちゃ人が変わるな……」

 

 俺は二人に行くという返事を返すと、そのまま眠りについたのだった。


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