六人目の青薔薇   作:黒い野良猫

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第八話 女優との邂逅

 俺は今、窮地に立たされていた。

 

「それで? どうして奏が白鷺さんと一緒に居たの?」

「いや、だからそれには訳が……」

「訳って何? 早く教えてよ」

 

 目の前で目の光を失った友希那とリサが立っているのだから。因みに俺は正座中。

 

「はぁ。湊さん、今井さん。取り敢えず落ち着いてください」

 

 リビングで休憩していた紗夜が声を掛けた。

 

「紗夜──!」

「話を聞いてから、煮るなり焼くなりしましょう」

「俺何もやってないよね!?」

 

 すると紗夜も少しずつ目の光を失っていく。何? 病んでんの? ()ゼリアなの? 

 

「皆さん……落ち着いて、ください」

「取り敢えず奏さんの話を聞こうよ」

「燐子、あこ……!」

 

 俺は二人を初めて女神だと思えた。

 

「はぁ、そうね。奏、足を崩して良いわよ」

「ごめんね~。ちょ~っと意地悪したくなって☆」

「意地悪というより、いじめだよそれ」

「取り敢えず、お話を聞かせてくれませんか?」

「分かったよ」

 

 あれは数時間前の事──。

 

「かー君! ちょっと良い?」

 

 日菜に呼ばれた俺は、日菜に連れられ屋上に行く。

 

「どうしたんだ。こんな所で」

「実はね。かー君に会ってほしい人がいるの」

 

 何だろう。この、娘が父親に彼氏を紹介するような感じ。

 

「俺に会ってほしい人?」

「うん。千聖ちゃんなんだけど……」

「千聖……白鷺千聖の事か?」

 

 ──何故白鷺が俺に会いたいと? 訳が分からない。

 

「この間のライブの件、もう一度話し合ったんだ。本当にあれでよかったのか。その時、かー君の話になって……」

 

 日菜の話を要約するとこうだ。

 まず前回の初ライブでの出来事について、もう一度話し合ったらしい。本当にあのままで良いのか。その時、俺が当時のライブを不快に思った事と、彩達が俺に謝った事を話したら、白鷺も会いたいという話になったそうだ。

 

「まぁ、話の流れは分かった。でも、何故急に?」

「千聖ちゃん自身も、かー君に謝りたいって言ってたし、何より、聞きたいことがあるみたい」

「聞きたいこと、ねぇ……」

「場所はつぐちゃんのお店ね。放課後、一緒に行こう」

 

 こうして俺は、白鷺千聖と会うことになった。

 

 ☆☆★☆☆

 

 放課後。俺は日菜と一緒に羽沢の店へと向かった。リサ達には用事があると伝えておいた。

 

「いらっしゃいませ~。あ、内田先輩! 日菜先輩! こんにちは」

「よう」

「やっほ~つぐちゃん。千聖ちゃん、来てる?」

「はい。奥の席でお待ちです!」

「ありがと~。かー君行こっ!」

 

 こうして俺達は奥の席へと向かう。

 

「千聖ちゃんお待たせ~」

「あら日菜ちゃん。こんにちは。隣にいるのが……」

「初めまして。内田奏です。白鷺千聖、であってるよな?」

「えぇ。私が白鷺千聖よ。宜しくね」

 

 こうして俺達は邂逅を果たす。

 俺達は席に座り、注文すると早速本題に入る。

 

「で、名女優が俺に何の様で」

「まずあなたに謝罪をしたくて。初ライブの際、不快な思いをさせてしまい、申し訳ないわ。ごめんなさい」

 

 そう言って頭を下げる白鷺。

 

「話は分かった。でも、それだけで俺を呼ぶ理由にはならんだろ。実際、俺とお前が会うのは今日が初だし、何より俺に謝る義理もない。違うか?」

「えぇ。確かにその通りよ。私は本来なら貴方に謝るどころか、会う必要もない」

「なら何で」

「貴方に、お願いがあるの」

 

 真剣な眼差しを向ける白鷺。どうやら、それ程真剣なようだ。

 

「私に、ベースを教えてほしいの」

「ベース? 何でまた」

「あのライブ以降、私は考えたわ。元々エアバンドに賛成していた私だけど、彩ちゃんや日菜ちゃんから貴方の事を聞いて思ったの。本当に名前を売るだけで良いのか、と。もしかしたら貴方以外に、不快に思った人がいるのではないかと」

 

 成程。つまり白鷺は白鷺なりに、答えを導き出した訳か。

 

「その答えが、エアバンドを止め、本物のバンドとして活動していく、と」

「えぇ」

「なら尚更わからねぇな。何で俺なんだ? 事務所にもベースが、と言うか楽器弾ける人がいるだろ」

 

 俺の質問に、今度は日菜が答える。

 

「確かにいるよ。でも上の人は私達の出した答えに反対するの。このままエアバンドとしてやっていくって。お前達は名前を広げられれば、それでいいって」

 

 その言葉をきいて、俺の中に怒りが湧いた。

 

 ──やっぱり、何処の事務所も屑ばっかだ。所詮は自分達の事しか気にしていない。事務所の名前が広がれば、その事務所に入りたいと思う人が増えてくる。そしてどんどん名前を広げていく。

 

「──気に喰わねぇ」

「え?」

「お前達の事務所、気に喰わねぇって言ってんだ。名前を広げる? バカな事をぬかしてんじゃねぇよ。そんな事の為に、所縁ある音楽をバカにされてたまるか」

 

 俺は静かに言う。

 

「会わせろ」

「会わせろって……まさか!」

「お前達のトップ──社長に会わせろ。その腐った根性、叩きのめしてやる」

 

 机の下では、血が出そうなほど手を握りしめていた。

 

「……分かったわ。来週、貴方を事務所に連れていくわ。それで良い?」

「あぁ。それで良い」

 

 俺は全員分の料金を払い、俺達は店を出る。

 

「じゃあ詳しい事は日菜ちゃんを経由してお知らせするわ。宜しくね、内田君」

「ばいばいかー君!」

「おう。じゃあな」

 

 こうして俺達は別れ、俺も帰路に着こうと思った時だった。

 

「奏……?」

 

 そこには、目の光を失ったリサと友希那がいた。

 そして、冒頭に戻る。

 

「成程。でも聞かせて。どうして奏がそこまでするの? 先程まで赤の他人だった白鷺さんの為に、何でそこまで?」

 

 友希那が聞いてきた。

 

「……別に俺はアイツの為にとか思ってねぇよ。音楽をバカにされたから、その発言を撤回させるんだよ」

「やっぱり奏は音楽になると熱くなるね」

「文句あるか? 練習量倍にすんぞ」

「ちょっと、それは厳しいって!」

「そんな事より、俺達もライブが控えてるんだ。練習するぞ」

 

 俺達は地下室に向かう。

 

 ──待ってろ。その舐め腐った考え、俺が改めさせてやる。


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