六人目の青薔薇   作:黒い野良猫

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第十一話 生まれ変わったPastel*Palettes

「き、緊張してきたぁ……」

 

 丸山が控室で震えている。今日は遂に本番の日だ。今までやって来た事が、ここで披露される。

 

「何今更緊張してんだよ。お前達はやる事をやって来たんだろ? ならそれをやるだけじゃねぇか」

 

 因みに、何故か俺も控室にいる。マネージャー曰く、社長が今日だけ臨時マネージャーとして中に入れてくれたそうだ。中々優しい所あるじゃん。

 

「大丈夫か? 白鷺」

「えぇ。舞台とかは慣れているから大丈夫よ」

 

 白鷺はあれから指を完治し、無事、自分の音色を手に入れることが出来た。

 

「そっか。日菜は?」

「今すっごくるんっ♪ てきてるよ!」

 

 目をキラキラさせた状態で俺に詰め寄ってくる。近い。

 

「分かった、分かったから離れろ。大和は?」

「ジブン、柄にもなく緊張しています。変な所でミスしないか怖いっす……」

 

 スティック握る手が微かに震えていた。

 

「スタジオミュージシャンやってたんだろ? それと同じだと考えればいい。余計な事は考えるな」

「りょ、了解っす!」

「若宮は?」

「バッチリです! 意気衝天の勢いです!」

 

 若宮は張り切っていた。

 

「そ、そうか。あまり張り切りすぎるなよ?」

「はい!」

「Pastel*Palettesさん。準備をお願いします」

 

 係りの人が伝えに来た。その言葉に全員の顔つきが変わる。

 俺は最後に、五人に言葉を送った。

 

「お前達はこの一ヶ月頑張って来た。時には衝突もあったが、それを乗り越え、今のお前達がいる」

 

 全員は真剣に俺の話を聞いていた。

 

「このライブは、いわば卒業試験だ。この一ヶ月で培ったお前達の演奏、楽しみにしている。頑張れよ」

 

 その言葉に全員が頷き、控室を出た。控室には俺とマネージャーだけが残っている。

 

「ありがとね、内田君」

「えっ?」

「彼女達を育ててくれて。正直、ここまで出来るとは思わなかった」

「俺は教えただけです。後は彼女達の努力の結果ですよ」

「そっか……」

 

 そう言ってマネージャーは笑う。

 

「僕は舞台袖に行かないといけない。君はどうするんだい?」

「俺は客席の後ろでこっそり見てますよ」

「分かった。じゃあまた」

 

 そう言ってマネージャーも控室を出た。

 

「さてと……」

 

 俺も控室を出て、ある場所に向かう。

 場内は既に満席だった。

 

「あ、奏さーん! こっちこっちー!」

 

 すると紫色の髪をしたツインテール、あこの姿が見えた。

 

「悪い悪い。遅くなった」

「お疲れ様です、奏さん」

「おう、紗夜もお疲れ」

 

 ある場所と言うのは、Roseliaが座っている場所だった。実は今回、Roseliaも見に行きたいと言ってきたのだ。

 奥からあこ、燐子、紗夜、空席、俺、リサが座っていた。

 

「日菜、何か失礼な事をしていませんでしたか?」

「大丈夫だよ。変なアドリブが多かったから止めさせたけど」

「何かすみません……」

「気にすんな。それより、友希那どこ行った?」

「友希那なら少し席を外してるよ」

「そっか。それより、お前達の練習はどうなんだ? この一ヶ月何も見ていないが……」

「それなら大丈夫よ。ちゃんと奏のメニュー通りにやったわ」

 

 すると突然友希那の声が聞こえた。どうやら帰って来たようだ。

 

「お帰り。それなら良かったよ」

「えぇ。それより、彼女達の方はどうなの?」

「やれるだけの事はやった。余程の事が無い限り大丈夫だろう」

「奏が教えたんだもん。大丈夫だよ」

「何処から来るんだよその自信……」

 

 リサが笑顔で言ってきた。正直嬉しいが、そこまで過大評価されても困る。

 

「奏君は……教えるのが上手、ですから……」

「なんたって、Roseliaのマネージャーだもん!」

「ははっ。ありがとよ」

 

 そう言っていると、会場にベルが鳴り、暗くなった。いよいよ始まる。

 色々なアイドルが出る中、遂にPastel*Palettesの出番が来た。

 

「みなさーん! こんにちはーっ! 私達……」

「Pastel*Palettesです!」

「まずは一曲、聞いてください! 『しゅわりん☆どりーみん』!」

 

 こうして丸山が歌い出す。そしてハモリの所で、全員が音を鳴らす。

 すると、観客の声が少し聞こえた。

 

「これ、また口パクか?」

 

 すると丸山が音を外した。

 

「いや、今音外したし、ホントに歌ってるんじゃないのか?」

「演奏ももしかして生演奏か? アイドルなのに凄いな」

 

 観客が少しずつ、Pastel*Palettesを認め始めてきている。

 そして無事、演奏を終えることが出来た。

 

「皆さん、改めましてPastel*Palettesのボーカル、丸山彩です! 今日は来てくれてありがとーっ! 最初に、皆さんに謝りたいことがあります」

 

 すると会場が少しざわつく。

 

「私達は前回のステージで、歌も演奏もしていませんでした。ファンの皆さんに嘘をついてしまった事、とても申し訳なく思っています。本当に、ごめんなさい!」

 

 そう言ってパスパレが頭を下げる。

 

「今日は本当の演奏を聞いて欲しくて……一生懸命練習してきました! こうしてまたチャンスを頂けたことをとても嬉しく思っています。本当に、ありがとうございます! そして今後とも、Pastel*Palettesを──」

「よろしくお願いします!」

 

 すると観客がパスパレを応援する声を上げる。中には先程の音を外した事をからかう客もいた。

 

「本当でしたら、今日は一曲やって終わる予定でした。ですが、私達はある人に認めてもらいたくて、また、ある人に成長した姿を見てもらいたくて、こっそり私達で練習した曲があります。聴いてください──」

 

 そう言って、俺の聞いたことのない曲を演奏し始めた。

 

「こいつ等、一曲だけって……」

「多分彩の言う通り、奏に成長した姿見てもらいたかったんじゃない?」

「そうね。リサの言う通りだわ」

 

 確かに、俺は付きっきりで見た訳ではないが、それでも一緒に居た時間は長いと思っている。短時間で、こんなに……

 

「……あいつ等には、驚かされてばっかだな」

 

 こうしてパスパレの演奏は終わり、俺達は控室へと行った。

 

「あ、おねーちゃん!」

「ろ、Roseliaの皆さんがどうしてここに……」

 

 日菜は紗夜に抱き着き、大和は驚いていた。

 

「ちょっと日菜、離れて……」

「勿論、あなた達を見に来たのよ。奏が指導したんですもの。その結果をこの目で見ないと」

「皆さん凄かったです! こう、バーンって感じで!」

「とても楽しい気分に、なりました……」

「いや~一ヶ月で良くここまで仕上げたね、奏」

 

 リサが言うと、パスパレ全員俺の方を見る。

 

「……正直言って驚いたよ。俺に隠れて新曲やってんだからさ」

 

 俺はフッと笑い、一人一人の顔を見る。

 

「彩、日菜、千聖、麻耶、イヴ」

 

 俺が全員の名前を呼ぶ。いきなり呼ばれて日菜以外は驚いた表情を浮かべる。

 そして俺は言葉を送った。

 

「──卒業、おめでとう。もう俺の指導は必要ない。後は事務所の人達にレッスンを付けて貰え」

 

 俺が言うと、彩が涙を流し始めた。そしてイヴが嬉しさのあまり四人に抱き着く。

 

「ありがとね、奏君」

「あなたのお陰でここまでこれたわ」

「すっごいるんっ♪ てきたもん!」

「感謝感激です!」

「フヘへ……」

 

 何か一人アイドルらしからぬ笑いをした人物がいるが、スルーしよう。

 

「いやぁ素晴らしかったよ」

 

 そう言って入って来たのは事務所の社長だった。

 

「内田君、だったかな。正直ここまで出来るとは思ってもいなかった。それに客の反応も良かったし。本当にすまなかったね」

「いいえ。音楽には無限の可能性がある。その可能性に賭けただけですよ」

「ははは。そうだね。パスパレのみんなもすまなかった。考えを改めるよ」

 

 そう言って社長は頭を下げる。その行為に、誰もが驚いた。

 

「所で内田君。君に頼みたいことがあるんだが」

「何でしょう?」

「Pastel*Palettesのサブマネージャーとして、うちの事務所に来ないか?」

 

 その言葉に、全員が驚く。

 

「君の技術を無駄には出来ない。どうだろうか?」

 

 Roseliaのみんなが俺を見る。答えは決まっている。

 

「ごめんなさい。俺は既に身を固めているんです」

「どこかの事務所に入っていたのかい?」

「いいえ。俺は──」

 

 するとRoseliaが俺の後ろに立った。

 

「Roseliaのマネージャーなので」

 

 そう言って俺達は控室を後にした。

 一ヶ月にも及ぶ、Pastel*Palettes育成生活は幕を閉じた。生まれ変わったパスパレが今後どのように活躍していくのか、心の中で期待していた。


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