「ふぁ~……」
大きな欠伸をしながら街を歩く俺。今日はオフの日だ。
友希那とリサに遊びに行こうと誘われたが、今日はゆっくりしたいと言って断って来た。リサならともかく、あの友希那が誘ってきたのはビックリした。まぁ、これも良い方向に変わっていっているのだろう。
実は最近、妙な噂を聞く。何でも、羽丘の有名人は誰かと聞き込みしている人がいるらしい。
すると目の前に、見知った人が立っていた。
「こんにちは、内田奏さん。数日ぶりですね」
そう。あの時CiRCLEで友希那をスカウトした女性だった。
「どうも。何と言うか、予想は出来ました」
「予想、ですか?」
俺の言葉に首を傾げる女性。
「あの時の目、あれは俺を邪魔だと思った目か、もしくは俺を事務所に入れさせ、友希那を説得させるか。そのどちらかでしょう」
「流石ですね。やはり、学年一位の頭脳は伊達ではない」
「……調べたのか」
「聞き込みをしただけですよ。この羽丘女子学園で有名な人は誰か、と。勿論Roseliaの友希那さんや今井さん、Pastel*Palettesの氷川さんに大和さんがいましたが、その中にあなたの名前もあったので」
「最近聞く噂はそれか……」
まさか俺の名前まで入っているとは思わなかった。
「それで? 俺に会いに来たって事は……」
「えぇ。詳しい話は、お店の中でしましょう。大丈夫です。私が全部持ちますので」
「いや、そういう事を聞いてるんじゃ……」
「さぁ、行きましょう」
そう言って目の前を歩く女性。本当は逃げても良かったんだが、何だか面倒くさくなりそうなので、黙って付いて行く事にした。
その光景を見ていた人が、二人。
「ねぇ、りんりん。あれ、奏さんだよね……?」
「う、うん……奏君だと、思う……」
「あの女の人、誰なんだろう……りんりん! 付いて行こう!」
「えっ!? でも、良いのかな……」
「気になるじゃん! 早く早く!」
「ちょっと待って、あこちゃん……!」
☆☆★☆☆
俺達はお高そうなホテルに入り、そこのレストランにいる。
「内田さん。単刀直入に言います。私達の事務所に入ってください」
入って早々、女性がそう言う。
「何で俺なんですか?」
「先日のお話、本当かどうかPastel*Palettesの事務所にお伺いしました。本当に一ヶ月でPastel*Palettesが楽器を弾けるまで指導したのか、と」
「まぁ、普通の人なら疑うよな」
「はい。そして事務所の方も仰っていました。彼の能力は信じられない。放っておけない、と」
「そう言ってくれるのはありがたいな」
「それは我が社でも同じです。あなたは金の卵だ。全ての楽器を弾けるなら、我が事務所に所属してデビューしませんか?」
「デビュー? 俺を入れさせ、友希那を納得させるんではなく?」
「それもありました。ですが、あなたをマネージャーや技術指導に置いておくのは勿体なさすぎます。なので、内田奏さん、是非とも我が事務所に入ってください。共にデビューしましょう!」
成程。全ての楽器が弾けるなら、それを使って売れさせようってか。だが──
「……デビューしたところで、俺に何かメリットはありますか?」
この話に俺のメリットは無い。ただ名前が広がって、金がもらえる。それだけだ。俺はそんなのに興味は無い。
「申し訳ないんですが、俺には金も名誉もいらない。ただ……」
俺は五人の顔を思い浮かべる。
「俺はRoseliaが頂点へ狂い咲けば、それでいい。なんせ俺は、Roseliaのマネージャーなんだから」
「何故そこまでRoseliaに拘るんですか?」
「俺はアイツ等に救ってもらった。だから俺はその恩を返す義務がある。その恩は、俺があいつ等を頂点に連れていくことだ」
そう言って俺は立ち上がり、お辞儀をしてその場を離れる。
「……行くぞ。燐子、あこ」
後ろから付いて来た二人を回収して。
「うぇっ!? 気付いてたんですか!?」
「当たり前だ。紫色の髪がヒョコヒョコ顔出せば、誰でも分かる」
「う~ん……完璧な尾行だったと思うんだけどなぁ」
あこは顎に手をやり、唸っていた。
「奏君。どうして、断ったの……? 事務所デビューの話……」
「聞いてたのか」
「ごめんね……」
「言った通りだ。俺はRoseliaでFWF.に出場したい。お前達は俺を暗闇から、過去から救ってくれた。だから、その恩返しをしたいんだ」
すると、先程まで唸っていたあこが手を繋いできた。
「奏さんがそう言ってくれるなんて、あこ嬉しいです!」
「うん……いつも迷惑かけていたんじゃないかと、思ってたから……」
「全然迷惑なんかじゃねえよ。俺は自分の意志でお前達のマネージャーやってんだ。そんな事気にする暇あったら、今度行われるコンテストの練習でもしてろ」
俺はあこと燐子の頭に手を乗せる。
「行こうぜ」
「あ、待って下さいよ~!」
「ま、待って……」
俺はこいつ等を頂点へ行かせて見せる。それがRoseliaのマネージャーとしての、俺の役目だ。
そう胸に刻み込ませ、迫りくるコンテストに向けてメニューを考える俺だった。
☆☆★☆☆
夜──。
「へ~。そんな事があったんだ」
「全く。私が無理だと知ったら今度は奏に手を出してくるなんて……呆れたものだわ」
「まぁそうなんだけどな。それより……」
ここは俺の部屋。なのになぜか──
「何でリサと友希那が俺の部屋にいるんだよ!」
帰って来たらこの二人がいたのだ。そして何食わぬ顔で飯を食べ、何故か風呂に一緒に入ってこようとした為、それを阻止して落ち着いたと思ったら、パジャマ姿の二人が部屋で待ってた。
「何でって、一緒に寝る為じゃない」
「いや、君達の家目の前じゃん。わざわざここで寝る必要ないじゃん」
「そんな事言って~本当は嬉しいんでしょ?」
「なっ!? 何言って///」
「それに、アタシ達の気持ち、分かってるんでしょ?」
リサが言うと、俺は固まってしまった。
前々から気付いていた。二人が最近スキンシップが激しい事を。もしかしたらとは思っていたが、自分の勘違いでいてほしかった。
「沈黙は肯定と捉えるわよ?」
「……俺の勘違いでいて欲しかったんだがな」
「この写真を飾っておいて、何言ってんの」
リサは俺の机に飾ってある写真──俺を真ん中に左右に友希那とリサの幼少期──を手に取る。
あの頃は口癖のように言っていた。
『ぼく、いつかゆきなとリサにふさわしいおとこになるよ!』
でも、そんな昔の事二人が覚えている訳──
「あなたは既に、私達にふさわしい男性よ」
「覚えてたのかよ……」
「当たり前じゃない。とても嬉しかったんだから」
「もう告白同然だもんね~あの言葉」
「はっず……」
俺は多分、顔を赤くしている。
「でも、今は何も言わないわ」
「え?」
「今はRoseliaの大事な時期。余計な感情何ていらない。だから全部終わったら、その時は待ってなさい」
「アタシもだぞ~? 奏をメロメロにするんだからっ☆」
「ははっ……お手柔らかに……」
「じゃあもう寝ましょうか」
「そうだね~」
そう言って俺のベッドに入ってくる二人。
「って、何ナチュラルに入って来とんねん」
「ダメ……?」
涙目の上目遣いはダメだろ……
「……分かったよ」
そう言って俺は二人をベッドに入れた。右に友希那、左にリサだ。
今日は色々あったからすぐに寝れそうだ……
☆☆★☆☆
奏が寝て数分後。
「寝たかしら……」
「今日は色々あったみたいだから、疲れてもうぐっすりみたいだね~」
奏。あなたは私達にとってかけがえのない存在よ。だから、絶対に離さないから。
「おやすみなさい、奏」
「おやすみ、奏」
私とリサは彼の頬にそっと口付けした。
次は大事なコンテスト。絶対に負けない……。
そう思いつつ、私は眠りについた。