「うわぁ~! すっごいカッコいい!! まさに黒の支配者、闇の破壊者!」
地下スタジオであこが騒ぐ。
「これが燐子が作った衣装か。中々良いな」
以前、俺と友希那がスカウトされた同時刻に、リサは燐子とあこと打ち上げに行った。案の定紗夜は来なかったらしい。
その時雑誌の写真を見て、リサが浮いているという話がでたそうだ。俺が言おうとしたことを、あこが代弁してくれたらしい。そこで、統一感を出そうと、燐子が衣装を作ると言う話になったそうだ。
明日はコンテスト本番。今日はその衣装合わせって所だ。
「一人一人にサブコンセプトがあって、デザインを少し変えているのね。アートワークの才能が有りそうだわ」
──紗夜なりに褒めてんのか……分かりにくいけど。
「やっほ~お待たせ~って……衣装すごっ!」
遅れてきたリサがやって来た。
「凄い凄い超良い感じじゃん! 紗夜もあこも似合ってるよ!」
リサが言うと、あこは嬉しそうに、紗夜は何か胸を張っている……?
「まぁ、燐子が凄いって事だな」
「そ、そんな事ないよ……」
そう言って扉を開けてきたのは燐子だった。ちょっと恥ずかしそうに入ってくる。
「あなた達も着替えてきたら?」
「ん! そだね!」
「じゃあ俺は外に出てるわ」
「別にいても良いんだよ~?」
「うぅ……///」
「何言ってんだアホ。早く着替えろ」
リサが言うと、燐子が顔を真っ赤にさせていたため、俺はすぐさま退散した。
階段を上りリビングに入ると、ソファーに座っている友希那がいた。
「どうした友希那? みんな衣装に着替えてるぞ」
「奏……」
その表情は友希那には珍しかった。
「不安、なのか?」
「不安……かもしれないわ。私らしくない」
俺は友希那の隣に座る。
「もし歌詞を間違えたり、音を外したり、みんなに迷惑を掛けたり……思考の負の連鎖が止まらないの」
「……まぁ、明日は今までのライブと違って、FWF.の出場権をかけた大一番だ。その連鎖もあるだろう」
でも──と言いながら友希那の手を握る。
「お前達なら大丈夫だ。今まで、この時の為に練習をしたんじゃないだろ? FWF.で頂点に狂い咲くためにやって来たんだろ? 明日はその通過点だ。此処でつまずいたら、笑われちゃうぜ」
「奏……」
すると友希那は何か吹っ切れたのかフッと笑う。
「そうね。私はRoseliaの湊友希那よ。こんな所でつまずいてられないわ」
「その意気だ。じゃあ行こうぜ」
「えぇ……ねぇ奏」
「ん? 何だ?」
「……ありがとう」
そう言って俺の横を通り過ぎる。その笑顔は、とても優しかった。
☆☆★☆☆
『出場者の皆さん。出番の五分前には──』
スタッフの声が大きな控室に響き渡る。
いよいよ本番の日がやって来た。今回は公開イベントにより、色んな人が見に来る。
「ああっやば! メンテ用のスプレー忘れた!」
「忘れものには注意って言ったじゃない」
「うぅ……」
紗夜に怒られる。
すると紗夜はスプレーを渡してきた。
「これを使って」
「あ、りがと……」
紗夜はあれ以来、柔らかくなった気がする。これも奏のお陰だ。
因みに今奏はそばにはいない。友希那と一緒にコンテストの説明を聞きに行っている。こんな時に近くにいてほしかった。隣ではあこと燐子が何やら話しており、あこが騒いでいる。
「あこ、あまり騒がないで頂戴」
説明を聞きに終えた友希那と奏が帰って来た。
すると、辺りからこんな声が聞こえる。
「ねぇ、あれってRoseliaだよね」
「もっとクールなのかと思ったら、何か意外」
「てか、あの男の人誰?」
「友希那の彼氏とか?」
「いや、スーツ来ているからそれは無いでしょ」
「見て、Roseliaの名簿にMgr.って書いてあるよ。多分マネージャーじゃない?」
「凄い。マネージャーまで雇ってるんだ」
「カッコいい……」
などと言っている。てか最後の人、カッコいいのは同感だけど、奏はあげないからね!
「一人で何やってんだお前」
「ひゃわっ///」
いきなり奏が声を掛けてきた。それに驚いて変な声を出す。
「余計な事考えてないで、今の事を考えとけ」
「う、うん……」
「皆さん、五分前です。そろそろ行きましょう」
紗夜が声を掛ける。アタシ達はステージの袖に向かう。
「いよいよね……奏。何かある?」
ステージ袖に着いたアタシ達は、奏の方を振り向く。
「そうだな……俺からは一言だけ」
全員ゴクリと喉を鳴らす。
「……お前達の全てをぶつけてこい。お前達なら、出来る」
そして──と言葉を繋げてきた。
「前を見ろ。俯くな。自分と向き合ってこい」
その言葉はまるで、アタシに言われているようだった。
奏は分かっていたのだろう。アタシが緊張して心のどこかでまた逃げているのを。それを気付かせてくれた。
──やっぱり奏は優しいな……
「Roseliaさん、お願いします」
「行ってこい!」
「「「「「はいっ!」」」」」
そして私達はステージへと向かった。
観客は超満員。みんながサイリウムやブレードを振ってくれている。
──さっきまでの緊張が嘘みたい!
まるで奏が背中を押している様な、そんな感じだった。それは紗夜達も同じようだった。
演奏が終わると、観客は歓声を上げる。アタシ達は手を振り、ステージ袖に向かうのだった。
「お疲れ。後は結果だけだな」
奏は五人分のタオルを渡してくれた。ここでもちゃんとマネージャーしてくれる。本当にありがたい。
こうしてアタシ達は結果を待つだけとなった。