六人目の青薔薇   作:黒い野良猫

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第十四話 コンテスト

「うわぁ~! すっごいカッコいい!! まさに黒の支配者、闇の破壊者!」

 

 地下スタジオであこが騒ぐ。

 

「これが燐子が作った衣装か。中々良いな」

 

 以前、俺と友希那がスカウトされた同時刻に、リサは燐子とあこと打ち上げに行った。案の定紗夜は来なかったらしい。

 その時雑誌の写真を見て、リサが浮いているという話がでたそうだ。俺が言おうとしたことを、あこが代弁してくれたらしい。そこで、統一感を出そうと、燐子が衣装を作ると言う話になったそうだ。

 明日はコンテスト本番。今日はその衣装合わせって所だ。

 

「一人一人にサブコンセプトがあって、デザインを少し変えているのね。アートワークの才能が有りそうだわ」

 

 ──紗夜なりに褒めてんのか……分かりにくいけど。

 

「やっほ~お待たせ~って……衣装すごっ!」

 

 遅れてきたリサがやって来た。

 

「凄い凄い超良い感じじゃん! 紗夜もあこも似合ってるよ!」

 

 リサが言うと、あこは嬉しそうに、紗夜は何か胸を張っている……? 

 

「まぁ、燐子が凄いって事だな」

「そ、そんな事ないよ……」

 

 そう言って扉を開けてきたのは燐子だった。ちょっと恥ずかしそうに入ってくる。

 

「あなた達も着替えてきたら?」

「ん! そだね!」

「じゃあ俺は外に出てるわ」

「別にいても良いんだよ~?」

「うぅ……///」

「何言ってんだアホ。早く着替えろ」

 

 リサが言うと、燐子が顔を真っ赤にさせていたため、俺はすぐさま退散した。

 階段を上りリビングに入ると、ソファーに座っている友希那がいた。

 

「どうした友希那? みんな衣装に着替えてるぞ」

「奏……」

 

 その表情は友希那には珍しかった。

 

「不安、なのか?」

「不安……かもしれないわ。私らしくない」

 

 俺は友希那の隣に座る。

 

「もし歌詞を間違えたり、音を外したり、みんなに迷惑を掛けたり……思考の負の連鎖が止まらないの」

「……まぁ、明日は今までのライブと違って、FWF.の出場権をかけた大一番だ。その連鎖もあるだろう」

 

 でも──と言いながら友希那の手を握る。

 

「お前達なら大丈夫だ。今まで、この時の為に練習をしたんじゃないだろ? FWF.で頂点に狂い咲くためにやって来たんだろ? 明日はその通過点だ。此処でつまずいたら、笑われちゃうぜ」

「奏……」

 

 すると友希那は何か吹っ切れたのかフッと笑う。

 

「そうね。私はRoseliaの湊友希那よ。こんな所でつまずいてられないわ」

「その意気だ。じゃあ行こうぜ」

「えぇ……ねぇ奏」

「ん? 何だ?」

「……ありがとう」

 

 そう言って俺の横を通り過ぎる。その笑顔は、とても優しかった。

 

 ☆☆★☆☆

 

『出場者の皆さん。出番の五分前には──』

 

 スタッフの声が大きな控室に響き渡る。

 いよいよ本番の日がやって来た。今回は公開イベントにより、色んな人が見に来る。

 

「ああっやば! メンテ用のスプレー忘れた!」

「忘れものには注意って言ったじゃない」

「うぅ……」

 

 紗夜に怒られる。

 すると紗夜はスプレーを渡してきた。

 

「これを使って」

「あ、りがと……」

 

 紗夜はあれ以来、柔らかくなった気がする。これも奏のお陰だ。

 因みに今奏はそばにはいない。友希那と一緒にコンテストの説明を聞きに行っている。こんな時に近くにいてほしかった。隣ではあこと燐子が何やら話しており、あこが騒いでいる。

 

「あこ、あまり騒がないで頂戴」

 

 説明を聞きに終えた友希那と奏が帰って来た。

 すると、辺りからこんな声が聞こえる。

 

「ねぇ、あれってRoseliaだよね」

「もっとクールなのかと思ったら、何か意外」

「てか、あの男の人誰?」

「友希那の彼氏とか?」

「いや、スーツ来ているからそれは無いでしょ」

「見て、Roseliaの名簿にMgr.って書いてあるよ。多分マネージャーじゃない?」

「凄い。マネージャーまで雇ってるんだ」

「カッコいい……」

 

 などと言っている。てか最後の人、カッコいいのは同感だけど、奏はあげないからね! 

 

「一人で何やってんだお前」

「ひゃわっ///」

 

 いきなり奏が声を掛けてきた。それに驚いて変な声を出す。

 

「余計な事考えてないで、今の事を考えとけ」

「う、うん……」

「皆さん、五分前です。そろそろ行きましょう」

 

 紗夜が声を掛ける。アタシ達はステージの袖に向かう。

 

「いよいよね……奏。何かある?」

 

 ステージ袖に着いたアタシ達は、奏の方を振り向く。

 

「そうだな……俺からは一言だけ」

 

 全員ゴクリと喉を鳴らす。

 

「……お前達の全てをぶつけてこい。お前達なら、出来る」

 

 そして──と言葉を繋げてきた。

 

「前を見ろ。俯くな。自分と向き合ってこい」

 

 その言葉はまるで、アタシに言われているようだった。

 奏は分かっていたのだろう。アタシが緊張して心のどこかでまた逃げているのを。それを気付かせてくれた。

 

 ──やっぱり奏は優しいな……

 

「Roseliaさん、お願いします」

「行ってこい!」

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 そして私達はステージへと向かった。

 観客は超満員。みんながサイリウムやブレードを振ってくれている。

 

 ──さっきまでの緊張が嘘みたい! 

 

 まるで奏が背中を押している様な、そんな感じだった。それは紗夜達も同じようだった。

 演奏が終わると、観客は歓声を上げる。アタシ達は手を振り、ステージ袖に向かうのだった。

 

「お疲れ。後は結果だけだな」

 

 奏は五人分のタオルを渡してくれた。ここでもちゃんとマネージャーしてくれる。本当にありがたい。

 こうしてアタシ達は結果を待つだけとなった。


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