六人目の青薔薇   作:黒い野良猫

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第十五話 ここから

 俺達は今、いつものファミレスに来ている。

 紗夜はお茶、友希那は紅茶を(すす)っている。

 

「二人共相変わらずクールだなぁ……」

「覚めていたらこんな所に来ません」

「そうよ」

 

 ──いや、何回か来てんだろ……

 

 そんな突っ込みは置いて起き、あこが飲み物を机に勢いよく置く。

 

「そうですよね! 友希那さんも紗夜さんも、Wハンバーグ&エビフライ&チキンソテーのプレート、ご飯大盛りデザートつきで良いですかっ?!」

 

 あこの言葉に、二人は頷く。え、マジで? 食えるの? 

 

「じゃあそれを六人ともで! 燐子、宜しく!」

「は、はい」

 

 ──え? 俺も喰うの? 

 

「……スーパーやけ食いセット六人前……ですね……」

「頼むならちゃんとメニュー通りに頼め……」

 

 俺は頭を抱えながら突っ込むのだった。

 

「ま、結果としてはこうなっちゃったけど……」

 

 リサが口を開く。

 結果としては、俺達は落選した。有力候補と呼ばれたRoseliaが、だ。

 この時、俺はとても申し訳なく思えた。俺の力が足りなかった。俺は拳を強く握った。

 すると友希那がその手をそっと握ってくれた。

 

「安心して、あなたのせいではないわ」

「でも、俺は……お前達を……」

「講評を聞くわ。理由はそれからよ」

「……あぁ」

 

 俺達はその場に残り、審査員の講評を聞く事にした。

 俺達の番になり、講評が始まった。

 

「素晴らしい演奏だったわ。本大会で限りなくトップに近いレベルだった」

「なら、なら何故私達は落選したのですか?」

 

 紗夜が声を上げて言う。

 

「あなたたちは結成して、まだ日が浅いみたいね」

「……日は浅くても、練習量はどのバンドにも変わりないはずです」

 

 すると、審査員が、笑顔で言う。

 

「そう。……だからこそあなた達には『入賞』ではなく、『優勝』してメインステージに立ってほしいのです」

「──っ!」

「Roselia。あなた達には伸びしろがありすぎる……ですから、来年もう一回り成長した姿を私達に見せて下さい」

 

 こうして俺達の講評は終わったかの様に思えた。

 

「そして、マネージャーの内田奏さん」

「は、はい」

 

 急に俺の名前を呼ばれ、固まってしまった。

 

「噂はかねがね聞いております。あのPastel*Palettesを指導したとか」

 

 ここまで話が広まってるのか……

 

「Roseliaが短期間で成長したのは、あなたのサポートのお陰でもあります。あなたは誇っていい。あなたの能力で、Roseliaを更に進化させてください」

「……はい!」

 

 そんな事を思いだしていると、やけ食いセットが届いた。

 

「落選したけど、すっごく認めてもらえたし、アタシはそんなに悪くないんじゃないかなって」

 

 全員に行き渡ると、紗夜がいきなりがっつき始めた。

 

「でも、私は認めないわ!」

「そうよ。このジャンルを育てていきたいって言うのなら、優勝させてもっと大きな活躍を……」

 

 すると友希那もがっつき始めた。そんなにイラついてたのか……

 

「でも、確かに悔しかったですけど、それがどうでもよくなるくらい、あこ……楽しかった!」

 

 すると、俺とあこ以外固まってしまった。

 

「ちょっとわかっちゃうな~……」

「わたしも……今までで一番……」

 

 みんなが楽しそうに話している。その光景を見ながら、俺は食を進める。

 

「でも、もう一つ認められたものがあるわ」

 

 すると友希那が俺の方を見る。

 

「……ん?」

「奏。あなたのその能力が、全国に認められたのよ」

 

 その言葉を聞いた時、先生の手紙を思いだす。

 

 ──お前の事を分かってくれる人がいる筈だ。

 

 俺の事を分かってくれる。それは、俺を認めてくれるって事だったのだ。

 

 ──そっか。そういうことだったのか……

 

 漸く、俺は人に認められたのだ。

 

「そっか……そうだな」

 

 ──先生。見ていますか? 俺、やっと人に認められました。先生の言う通りになりましたね。

 

 俺は窓の外を見る。その夜空は星が輝いていた。

 

【──良かったな……】

 

 ふと、声が聞こえた気がした。

 

【お前の事、見てるからな】

 

 ──あぁ。見ててくれよ、先生。

 

「奏? どうしたの?」

「いや、何でもない。それよりどんどん食おうぜ! 冷めちまう」

「そうね。早く食べましょう」

 

 こうして俺達のコンテストは、幕を閉じた。

 俺達はここから始まる。来年に向け、俺達は新たな一歩を踏み出すのだった。

 

 ☆☆★☆☆

 

 夜──。

 友希那達と別れた俺は、ある場所に向かっていた。

 

 ──まだいるかな。覚えてくれるとありがたいが……

 

 すると、目的の場所には、目的の人物がいた。

 

「こんばんは」

「誰だい。こんな時間に」

 

 少し不機嫌な声を上げる女性。足が悪いのか、杖をついている。

 

「お久しぶりです」

「あんた、まさか……」

「内田修也、と言えば分かりますか?」

 

 内田修也と言うのは、俺の親父の名前だ。この人は、親父にギターを教えてくれた人らしい。

 

「あぁ。あいつの子供か。大きくなったね」

 

 俺の事が分かると、フッと笑う。

 

「それで、私に何の様だい」

「一つ。お願いがあります。Roseliaを、このライブハウスで演奏させてください」

 

 俺は頭を下げる。

 

「ここはオーディションで出場者を決める。明後日、ここに来な。見てあげるよ。アンタの作り上げたバンド」

「ありがとうございます──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────都築オーナー。


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