俺達は今、いつものファミレスに来ている。
紗夜はお茶、友希那は紅茶を
「二人共相変わらずクールだなぁ……」
「覚めていたらこんな所に来ません」
「そうよ」
──いや、何回か来てんだろ……
そんな突っ込みは置いて起き、あこが飲み物を机に勢いよく置く。
「そうですよね! 友希那さんも紗夜さんも、Wハンバーグ&エビフライ&チキンソテーのプレート、ご飯大盛りデザートつきで良いですかっ?!」
あこの言葉に、二人は頷く。え、マジで? 食えるの?
「じゃあそれを六人ともで! 燐子、宜しく!」
「は、はい」
──え? 俺も喰うの?
「……スーパーやけ食いセット六人前……ですね……」
「頼むならちゃんとメニュー通りに頼め……」
俺は頭を抱えながら突っ込むのだった。
「ま、結果としてはこうなっちゃったけど……」
リサが口を開く。
結果としては、俺達は落選した。有力候補と呼ばれたRoseliaが、だ。
この時、俺はとても申し訳なく思えた。俺の力が足りなかった。俺は拳を強く握った。
すると友希那がその手をそっと握ってくれた。
「安心して、あなたのせいではないわ」
「でも、俺は……お前達を……」
「講評を聞くわ。理由はそれからよ」
「……あぁ」
俺達はその場に残り、審査員の講評を聞く事にした。
俺達の番になり、講評が始まった。
「素晴らしい演奏だったわ。本大会で限りなくトップに近いレベルだった」
「なら、なら何故私達は落選したのですか?」
紗夜が声を上げて言う。
「あなたたちは結成して、まだ日が浅いみたいね」
「……日は浅くても、練習量はどのバンドにも変わりないはずです」
すると、審査員が、笑顔で言う。
「そう。……だからこそあなた達には『入賞』ではなく、『優勝』してメインステージに立ってほしいのです」
「──っ!」
「Roselia。あなた達には伸びしろがありすぎる……ですから、来年もう一回り成長した姿を私達に見せて下さい」
こうして俺達の講評は終わったかの様に思えた。
「そして、マネージャーの内田奏さん」
「は、はい」
急に俺の名前を呼ばれ、固まってしまった。
「噂はかねがね聞いております。あのPastel*Palettesを指導したとか」
ここまで話が広まってるのか……
「Roseliaが短期間で成長したのは、あなたのサポートのお陰でもあります。あなたは誇っていい。あなたの能力で、Roseliaを更に進化させてください」
「……はい!」
そんな事を思いだしていると、やけ食いセットが届いた。
「落選したけど、すっごく認めてもらえたし、アタシはそんなに悪くないんじゃないかなって」
全員に行き渡ると、紗夜がいきなりがっつき始めた。
「でも、私は認めないわ!」
「そうよ。このジャンルを育てていきたいって言うのなら、優勝させてもっと大きな活躍を……」
すると友希那もがっつき始めた。そんなにイラついてたのか……
「でも、確かに悔しかったですけど、それがどうでもよくなるくらい、あこ……楽しかった!」
すると、俺とあこ以外固まってしまった。
「ちょっとわかっちゃうな~……」
「わたしも……今までで一番……」
みんなが楽しそうに話している。その光景を見ながら、俺は食を進める。
「でも、もう一つ認められたものがあるわ」
すると友希那が俺の方を見る。
「……ん?」
「奏。あなたのその能力が、全国に認められたのよ」
その言葉を聞いた時、先生の手紙を思いだす。
──お前の事を分かってくれる人がいる筈だ。
俺の事を分かってくれる。それは、俺を認めてくれるって事だったのだ。
──そっか。そういうことだったのか……
漸く、俺は人に認められたのだ。
「そっか……そうだな」
──先生。見ていますか? 俺、やっと人に認められました。先生の言う通りになりましたね。
俺は窓の外を見る。その夜空は星が輝いていた。
【──良かったな……】
ふと、声が聞こえた気がした。
【お前の事、見てるからな】
──あぁ。見ててくれよ、先生。
「奏? どうしたの?」
「いや、何でもない。それよりどんどん食おうぜ! 冷めちまう」
「そうね。早く食べましょう」
こうして俺達のコンテストは、幕を閉じた。
俺達はここから始まる。来年に向け、俺達は新たな一歩を踏み出すのだった。
☆☆★☆☆
夜──。
友希那達と別れた俺は、ある場所に向かっていた。
──まだいるかな。覚えてくれるとありがたいが……
すると、目的の場所には、目的の人物がいた。
「こんばんは」
「誰だい。こんな時間に」
少し不機嫌な声を上げる女性。足が悪いのか、杖をついている。
「お久しぶりです」
「あんた、まさか……」
「内田修也、と言えば分かりますか?」
内田修也と言うのは、俺の親父の名前だ。この人は、親父にギターを教えてくれた人らしい。
「あぁ。あいつの子供か。大きくなったね」
俺の事が分かると、フッと笑う。
「それで、私に何の様だい」
「一つ。お願いがあります。Roseliaを、このライブハウスで演奏させてください」
俺は頭を下げる。
「ここはオーディションで出場者を決める。明後日、ここに来な。見てあげるよ。アンタの作り上げたバンド」
「ありがとうございます──」
──────────都築オーナー。