六人目の青薔薇   作:黒い野良猫

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第十六話 オーディション

「ライブハウスのオーディション?」

 

 翌日。地下スタジオに集まった五人に、昨日の事を話す俺。

 

「そこのライブハウスでライブするには、オーディションに合格しなければならない。昨日コンテスト終えたばかりだが、実践は多い方が良い。大丈夫か?」

「えぇ。私は構わないわ。みんなは?」

 

 友希那が代表してみんなに聞く。

 

「アタシは大丈夫だよ~」

「私もです」

「あこも平気です!」

「わ、わたしも……」

 

 どうやら全員OKの様だ。

 

「それで奏。そのオーディションは何時なの?」

「明日だ。オーディションでやる曲は一曲だ。だからって気を抜くな。あそこのオーナーは元バンドマンだからな。ちょっとのミスでも気付く」

「なるほど。まるで奏さんみたいですね」

「けどあの人は、ミスなんかよりもっと大切なものを学ばせてくれる。だから無理言ってオーディションを入れたんだ」

「ミスよりも大事な事……ですか……?」

「それは明日になれば分かる。それで、明日は何の曲をやるんだ?」

 

 俺は友希那に問いかける。

 

「BLACK SHOUTで行くわ」

「了解。じゃあ今日は調整しようか」

 

 そう言って今日は一日ブラシャを練習した。

 翌日。

 

「来たかい」

「わざわざありがとうございます、オーナー」

「今日はよろしくお願いします」

「準備しな」

 

 俺達はライブハウスSPACEに行き、オーディションを受けに行った。

 友希那達はステージに上がり、俺とオーナーは観客席に座る。

 

「いつでも始めな」

 

 オーナーが言うと、それを合図にイントロが流れ始める。

 出だしは好調。そのままの流れで演奏は続いていく。オーナーはそれを黙って見ていた。

 そして演奏は終わる。全員、俺を含めてオーナーを見る。

 

「それが、アンタたちの全力かい?」

 

 ゆっくり立ち上がるオーナー。

 

「あたしには、まだまだ出来ると思うけどね」

 

 でも──と言葉を続ける。

 

「アンタ達は本番で強くなるタイプだ。それを見せて貰うよ」

「って事は……」

「合格だ。来週のジョイントライブに出てもらうよ」

 

 その言葉であことリサが喜び、燐子はホッと安心したような表情をした。

 

「因みに、ジョイントライブって誰が出るんですか?」

「Glitter*Greenだよ」

 

 ──Glitter*Green……聞いたことないな。何処かの新生バンドか? 

 

「Glitter*Greenはここの常連さ。かなり人気があるよ」

「確か、花咲川の生徒会長である鰐部七菜先輩がいた気がします」

 

 紗夜が顎に手を添えて言う。

 

「って事は、下手すりゃ俺達よりバンド歴先輩だな。胸を借りるつもりでやらねぇとな」

「そうね。奏の言う通りだわ」

「って事でよろしくね、Roseliaさん」

 

 すると俺達の後ろから声が聞こえた。振り返ると、四人の女子高生がいた。一人はなんか人形を抱えている。

 

「初めまして。私達がGlitter*Greenです。私は牛込ゆり。宜しくね」

「私は鵜沢リィ。宜しくなのだ」

 

 鵜沢先輩は自分の名前を行った後、人形を口元に持っていき、低い声で言った。

 

「私は鰐部七菜です。宜しくお願いします」

 

 先程紗夜から聞いた鰐部先輩だ。丁寧にお辞儀までする。

 そして最後の一人はゆっくりとこちらに近付いて来た。そして優しい笑顔を向ける。

 ……なんか嫌な予感がする。すると突然、右腕を上げた。

 

「集え少女よ大志を抱け! フゥ!!」

 

 俺達は口を開いて固まってしまった。

 

「聞こえないぞぉ! 大志をいだ──」

「ハウス!!」

 

 すると鵜沢先輩が止めに入った。すると先輩はUターンして帰って行った。

 

 ──てか、ハウスって犬を躾ける言葉じゃ……

 

「あの子は二十騎ひなこ。普段あんな感じだけど、悪い子じゃないから……」

「は、はぁ……」

 

 代わりに鰐部先輩が紹介してくれた。二十騎先輩を見ると、鵜沢先輩に頭を撫でられていた。何だコレ……

 

 ──それにしても牛込って、Poppin'Partyにもいたよな……もしかして姉妹か? 

 

「ちなみに妹もバンドを組んでいるの。名前は牛込りみ。もしかしたら関わりそうだから教えておくね。姉妹共々よろしく」

「それにしても~どうしてガールズバンドの聖地に男の子がいるんだい? もしかして~女の子かい?」

 

 頭を撫でられていた二十騎先輩が俺の所に詰め寄って来た。正直、この人は苦手だ。

 

「お、俺は正真正銘男です。そう言えば、俺達も自己紹介してないな。友希那」

 

 俺が言うと、Roseliaは一列に並ぶ。

 

「Roseliaのボーカル、湊友希那です」

「ギターの氷川紗夜です」

「ベースの今井リサで~す」

「我は漆黒の闇から生まれしドラマー、宇田川あこ!」

「き、キーボードの、白金……燐子、です……」

「そしてRoseliaのマネージャー、内田奏です。宜しくお願いします」

 

 そう言って全員頭を下げる。

 

「成程~マネージャー君だったか~因みに、好きな子とかいるの?」

 

 二十騎先輩が言うと、友希那とリサが期待のある目でこちらを見る。

 

「い、いませんよ! 俺は今、Roseliaを頂点に導くことに専念したいので」

 

 俺がそう言うと、あからさまにがっかりする二人。分かりやすいな……

 

「まぁ、お互い頑張りましょう。当日宜しくお願いします」

「こちらこそ」

 

 そう言って、俺達はSPACEを後にした。

 

「何かGlitter*Greenって凄い人ばかりだね……」

「何か、どっと疲れたわ……」

 

 帰り道、リサと友希那と三人で帰っていた。

 

「それにしても、奏に好きな人がいないのは納得しないな~」

「奏は私達が好きじゃないの?」

「言ったろ。今はRoseliaを頂点に導くことが最優先だ。恋愛は、その次。てか、今は干渉しないんじゃなかったのかよ」

「確かに干渉はしないわ。でも、好きな人にそんな事言われると傷付くわよ」

 

 友希那は淋しそうな表情をする。

 

「ごめんな。勿論お前達、紗夜、あこ、燐子含めみんな好きだぜ」

「それは友達としてでしょ?」

「まぁな」

 

 俺はフッと笑う。

 

 ──俺も好きだよ。お前達の事。友達としてではなく、女として。でも、それを言うのは今じゃない。だから、待っててくれ……

 

 そう心に決め、俺達は帰路を歩く。


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