最後の方は無理矢理すぎたかな……
夏休みも滞り無く過ぎていき、今日は八月二十五日。そう、リサの誕生日だ。
俺は今、リサと出かけている。残りのメンバーはリサの家で誕生日会の準備をしている。
リサの誕生日会を提案したのはあこだった。友希那と紗夜も快く了承してくれた。
作戦としては、俺とリサが出かけてる間に他の連中が準備をし、準備が完了した連絡がきたらリサの家に帰ってサプライズという感じだ。
「それにしても奏から誘ってくるなんてねぇ~。どういう風の吹き回し?」
「人の厚意を疑うなんて、なんて酷い幼馴染なんだ……」
「べ、別にそう言うつもりで言ったんじゃ──!」
「分かってるよ。俺としても、らしくないと思ってるさ。でも、今日は特別な日だからな」
「特別な日、それって……」
「さ、行こうぜ」
俺は柄にもなく照れてるのを感じた。それを隠そうと、リサの手を引っ張り先を歩く。
俺達はショッピングモールにやって来た。
「見て奏。このピアス、ライブでも付けられないかな?」
そう言って見せてきたのは、ルビーが輝くピアスだった。リサのイメージカラーとしてはピッタリだろう。
「どうだろうな。燐子が作ってくれる衣装と合えばいいけど。まぁ、リサが普段付ける分には良いんじゃねぇか? 似合うよ」
「そ、そうかな///」
「なに照れてんだよ。まぁ、買うにしても、多分お前じゃ買えんけどな」
「え? どういう……」
俺はそのピアスの値段を見せる。
「ご、五万……」
「破産するな。これ買うと」
「うぅ……」
「ピアスなんて、今付けてるのでも良いじゃん。その兎、可愛いけど」
「たまにはイメチェンしたいの。けど、しょうがないか。諦めよう……」
そう言って落ち込むリサ。こればかりはしょうがない。
次は洋服店に来た。秋が近付いているため、秋服が欲しいとの事だ。
「秋服なんて、春服と同じで良いと思うけどな」
「奏は分かってないな~。春服は春に、秋服は秋に着るんだよ」
「いや、そのままじゃねぇか……」
「ねぇ奏。これとこれ、どっちが似合う? 因みに、どっちもってのは無しね?」
そう言って二着の服を見せるリサ。俺は暫くその服を眺める。
「どっちかって言ったら、こっちかな」
「オッケ~☆ じゃあ着替えてくるね~」
そう言って試着室に行ったリサ。
「ジャジャ~ン! どう?」
リサがくるんと一周回る。
「あぁ。似合っているよ」
「ホント!? じゃあコレ買おうかな」
そう言ってすぐさま試着室に戻るリサ。あっという間に着替えると、レジに向かって行った。
リサが買い物を済ますと、お昼時になったので、フードコートで軽く済ませることに。
そこから映画を一本見て、俺のスマホに連絡が入った。準備が出来たようだ。
「じゃあ帰るか。あ、その前にトイレ行って良いか?」
リサに許可を貰い、俺はトイレに……行くふりをする。本当の目的を済ませ、俺はリサのいる場所に戻ろうとした。
「ちょ、やめてよ!」
「良いじゃん。一人なんでしょ? 俺達と遊ぼうぜ」
二人組の男がリサの手を引っ張っていた。
「アタシ一人じゃないから! 人を待ってんの!」
「でもその人いないじゃん。きっと君を置いて帰ったんだよ」
「そんな訳ないでしょ! 良いから放して!」
「ちっ、おい。無理やりにでも連れていくぞ」
そう言ってリサを連れて行こうとした、所を俺が止める。
「人の女に何やってんだ?」
「あぁ? 悪いが今立て込んでんだ。そこどいてくんない?」
「……もう一度いう。人の女に何してんだって聞いてんだよ」
「奏……」
「おい、やれ」
連れの男が俺に殴りかかって来た。俺はその拳を避けることなく受けた。
だが、俺はにやけていた。
「あ? 何笑ってやがる!」
男はもう一度殴ろうとしてきた。だが、俺はその拳を掴む。
「正当防衛、成立!」
そう言い放った後、俺は掴んだ手を放し、後ろ回し蹴りを相手の左頬に決める。すると相手の歯が飛んでいき、気絶した。
「ヒィ!?」
「次はお前の番だ。ここでチャンスをやる。今すぐ手を放し、気絶した男を連れてけ。そうすれば今回の件は見逃してやる。どうする?」
「す、すみませんでしたぁあああ!」
そう言って気絶した男を連れて消えていった。
「奏! 大丈夫!?」
「俺は大丈夫だ。それよりごめんなリサ。俺が遅かったせいで怖い目に遭わせて」
「ううん。ちっと怖かったけど、奏が助けてくれるって信じてたから」
そう言って掴んでくる手は、少し震えていた。
「帰ろう、リサ」
「うん……」
俺はその手を放さなかった。少しでも怖さを和らげられればいいと、そう思った。
☆☆★☆☆
今日はアタシの誕生日。ヒナや薫は祝ってくれたけど、Roseliaのメンバーからは誰も祝ってくれなかった。少し寂しい気持ちになった。
そんなアタシに、奏が声を掛けてくれた。一緒に出掛けようって。嬉しかった。好きな人から誘われるってこれ程嬉しい気持ちになるんだと、初めて知った。
滅多に誘って来ない奏に、アタシは少し意地悪な質問をした。
「それにしても奏から誘ってくるなんてねぇ~。どういう風の吹き回し?」
「人の厚意を疑うなんて、なんて酷い幼馴染なんだ……」
すると奏は落ち込んでしまった。別にそう言うつもりで言ったわけじゃないと弁明しようとした時、奏は言った。
「分かってるよ。俺としても、らしくないと思ってるさ。でも、今日は特別な日だからな」
「特別な日、それって……」
「さ、行こうぜ」
そう言ってアタシの手を掴んで歩く。顔を見ると、少し紅くなっているのが分かった。
──奏も意識してくれてるんだ……
そう思うと、Roseliaのメンバーが祝ってくれなかった事なんて、どうでも良くなってきた。
そこからショッピングを楽しんで、アタシ達は帰ろうとした。でも、奏がトイレに行きたいって言って、アタシは一人で待っていると、二人の男が話しかけてきた。
「ねぇお嬢さん。今一人?」
「お兄さんたちと遊ばない?」
そう言ってアタシの手を掴んで来た。
「ちょ、やめてよ!」
「良いじゃん。一人なんでしょ? 俺達と遊ぼうぜ」
その時、恐怖を感じた。アタシこれからどうなるんだろう、と。
男達はアタシと手を引っ張り、何処かへ連れて行こうとする。
──助けて、奏!
「人の女に何やってんだ?」
その時、一番来て欲しかった人が来た。
「奏……」
すると一人の男が奏を殴った。アタシは焦った。でも、奏は笑っている。そして……
「正当防衛、成立!」
そう言って回し蹴りをした。男は気絶し、アタシを掴んでいた男も、その男を連れて逃げて行った。
「奏! 大丈夫!?」
「俺は大丈夫だ。それよりごめんなリサ。俺が遅かったせいで怖い目に遭わせて」
「ううん。ちっと怖かったけど、奏が助けてくれるって信じてたから」
そう言って奏の手を掴む。けど、自分でも分かる。手が震えていた。
帰り道、アタシは気になる事を聞いた。
「ね、ねぇ奏? さっきアタシを助ける時、『俺の女』って言ってくれたけど、それって……」
「……」
すると奏の歩く速度が速くなる。アタシもそれに釣られて早くなる。
「ちょ、奏!?」
すると、奏の顔が真っ赤だった。恐らく、無意識だったのだろう。でも、嬉しかった。
その嬉しさを心の奥にしまい、アタシ達は帰路につくのだった。
「奏。今日はありがと。凄く楽しかった」
「楽しんでくれたなら何より。さあ、家に入ろうぜ」
「うん……またね」
そう言って家の中に入る。なかは真っ暗だった。
──お母さんたち、出かけてるのかな?
それを確認しようと、リビングのドアを開けたその時だった。
パパンパン!!
突然飛び交うクラッカー。するとそこには、友希那、紗夜、あこ、燐子がいた。
「「「「お誕生日おめでとう! リサ(今井さん)(リサ姉)」」」」
「みん、な……」
「今日はリサ姉の誕生日でしょ? だからサプライズしようと思って!」
「奏さんと出かけている間、私達で準備しました。おめでとうございます。今井さん」
アタシは後ろを見る。奏が優しく微笑んでいた。
すると、アタシは涙を流しているのが分かる。
「り、リサ姉!?」
「どうしましたか!?」
「ううん。違うの。嬉しくて。誰も祝ってくれないかと思ってたから……」
「そんな訳ないじゃない。今日はリサの誕生日よ。メンバーの、幼馴染の誕生日を祝わない人なんていないわ」
「友希那……みんな……」
「改めておめでとう、リサ。あなたがそばにいてくれたから、今のRoseliaがあるわ。これからもよろしく、リサ」
「うん……うん……!」
大粒の涙を流すアタシに、寄り添ってくれた友希那。それに続いて他のみんなも寄り添ってくれた。
「それじゃ、早速パーティーをやろうぜ!」
奏の一言で、始まったアタシの誕生日パーティー。みんなが騒ぎ、飲み食いをし、楽しんだ。
みんなからの誕生日プレゼントも驚いた。けど、一番驚いたのは……
「ほい、誕生日おめでとう」
奏からだった。
渡されたのは、高くて手に入らなかったルビーのピアスだった。
「奏、これって……」
「お前じゃ買えないけど、俺は買えないとは言ってないからな。誕プレに丁度いいと思って、買ってきた。つけてみろよ」
奏に言われて、つけてみる
「わぁ! 凄く綺麗だよリサ姉!」
「はい、凄く、似合っています」
「フフッありがとあこ、燐子!」
こうして、楽しかった時間は過ぎていった。
☆☆★☆☆
誕生日パーティーも恙無く終わり、他のメンバーは帰った。今、俺とリサは俺んちの玄関前にいる。
「今日は楽しかった! ありがとね、奏」
「それは良かった。ちゃんと他のメンバーにも言っとけよ」
「勿論!」
「じゃあ帰るわ。明日から普通に練習が始まるからな。そのつもりで」
「うん。またね」
そう言って俺は中に入ろうとした、その時だった。
「奏!」
突然呼ばれ、俺は振り向く。すると目の前にリサの顔があった。
鼻腔をくすぐる、女の子の独特な香り。
──え……
俺は処理が追い付かなかった。
リサは離れていき、頬を赤らめて笑顔で言った。
「おやすみ奏。大好きだよ!」
そう言って自分の家に戻るリサ。未だに立ち尽くす俺。何とか気を戻そうと、自分の唇に触れる。
──俺、キス、されたのか……? リサに……
その感触が未だに残る。
気付けば自分の部屋にいた。そして、そのままベッドに倒れていた。
──やばい……やばいやばいやばい!
頭からリサが離れなかった。
その日、俺は一睡もできず、目に隈を残した状態で、次の日を迎えるのだった。
感想や評価、お待ちしています!