「みんな、ちょっと来てくれ」
練習前、俺はみんなを呼び出した。
「SMS用にセットリストを友希那と考えて来た」
「演奏できるのは三曲だけ。緩急はつけずに、一気に駆け抜ける構成にしたわ。どうかしら」
友希那はセットリストをみんなに見せる。
「はいっ! あこ、すっごく良いと思います! 超カッコいいRoselia、見せちゃいたいです!」
「はい、私も良いと思います」
あこ、紗夜、それにリサと燐子も賛同する。
「じゃあこの三曲をひたすら練習だな。早速用意してくれ」
そう言ってそれぞれ用意する。今回演奏する三曲を、一曲一曲丁寧に見ていく。
「紗夜、もう少しそこは力強く!」
「はい!」
「あこ、最初から飛ばしすぎだ! ペース配分を考えろ!」
「はい!」
「リサ、少し遅れてる」
「りょーかいっ!」
「燐子、少し早い。もう少し落ち着け」
「わかり、ました……」
「友希那、今声が裏返ったな。そこは丁寧に歌ってみろ」
「分かったわ」
俺が指示を出し、みんなはそれを実行しようとする。これが何時ものRoseliaの練習風景だ。
練習が終わり、帰宅途中の俺ら。それぞれが談笑し、歩みを進める。
──おかしい……何か違和感がある……何ていうか、音の聴き分けがし辛くなった様な……
俺は今まで感じたことのない異変を感じた。いつもは全体の音から一つ一つ聴き分けられていたが、今日はそれが出来ない。
──それほどこいつらが成長したって事なのか……?
「奏? どうしたの?」
すると、隣にいたリサが声をかけて来た。
「あ、いや、何でもない」
「嘘。何か考えてる様な表情してたよ? また何か抱え込んでるの?」
「奏、あなたもRoseliaの一員なのよ。何かあったら言って欲しいわ」
友希那も声をかけてくる。流石腐っても幼馴染。何でも分かってしまうみたいだ。
「確かに考え事をしていたが、そこまで気にする事じゃない。安心してくれ」
「分かった。何かあったら言ってね」
「あぁ。ありがとう」
俺は帰宅すると、スマホにイヤホンを装着する。それを耳につけると、俺は音楽を流した。
──他のアーティストは聴き取れる……やっぱり気のせいか?
俺は考えることをやめ、SMSに集中した。
そして、SMS当日。
「さて、いよいよ今日が来たな。みんな、緊張してるか?」
「まさか。私達は私達の演奏をするだけよ。いつもと変わらないわ」
友希那が落ち着いた表情で言う。
だが──。
「うぅ……緊張して来た……」
リサだけが緊張していた。やっぱり、こういう大イベントは苦手の様だ。
「会場のざわめきがここまで聞こえてきますね」
俺達は出番を控えているため、ステージ袖にいた。確かに、熱気がここまで伝わってくる。
「それでは、こちらにスタンバイお願いします」
スタッフの方が声をかける。そして、全員俺を見る。これは一種のルーティーンの様なものだ。出番が近づくと、俺から一言貰ってステージに上がる。
「友希那の言った通りだ。変わったのはステージだけ。あとはいつもと変わらない。俺達は俺達の演奏をするだけだ」
全員が頷く。
「よし。行ってこい!」
こうしてRoseliaがステージに立った。その瞬間、観客の歓声が上がる。
演奏は上々。これなら問題ない。そう思った。なのになぜか客が減っていく。
──おかしい。いつもと、いや、それ以上の演奏の筈だぞ。なぜ客が減っていく……
ライブ後──。
楽屋は完全にお通夜モードだった。
「……悪くない、演奏だったと思います」
紗夜が口を開く。
「確かに、今までミスしてきた所も、今回はクリアできた。俺も今回の演奏は良いと思う」
「なのに、何でお客さんが減ってしまったんですか?」
あこの質問に、俺は答えることが出来なかった。
すると、スタッフが入ってくる。
「Roseliaさん。お疲れ様でした。もしかして緊張してました? なんかいつもと印象が違ったので」
「あはは、そうかもしれません……」
リサが答える。
スタッフが出て行き、再び楽屋に静寂が訪れる。
「……この後、どうする?」
「……今日は解散しましょう」
「反省会はどうしますか?」
「別の日にしましょう。今は冷静に振り替えられるとは思えないわ。それじゃ、私はこれで」
そう言って楽屋を去って行く友希那。俺はその背中を見ることしか出来なかった。
次回予告
SMSも終わり、いつもの日常が戻ったRoselia。あの時何故客が去ったのか分からないまま始めた練習。その時、奏の身体に異変が起きた。
――色が……見えない……?
次回、六人目の青薔薇 Neo-Aspect編
第三話「失われた音」