友希那が出て行って、再びスタジオは静寂に包まれる。
「……奏さん。教えて下さい。この一週間、何をしていたんですか?」
「そうだよ奏。休むしか言われてないもん。何があったの?」
紗夜とリサに問い詰められる俺。ここまで来たら、言うしかない。
「その前に、一回スタジオを出よう。ここで話すのも何だし、ロビーで話す」
そう言って片付けを始める俺達。
片付けを終え、ロビーの椅子に座る俺ら。そこで、俺は話し始めた。
「……実はここ最近、音の聴き分けが出来なくなったんだ」
俺の発言に驚く二人。
「さらに言うと、絶対音感も無くなった。今、お前達の音がずれているのかすらも、分からなくなっている」
「つまり、サヴァン症候群じゃなくなってきてる……って事?」
「いや、記憶力の方は健在だ。サヴァン症候群が関係しているとは思えない。ただ、音楽の才能がこれっぽっちも存在していない」
「いつから、ですか?」
紗夜が恐る恐る聞く。
「違和感を覚えたのは、SMS出演が決まってから。初めはただ単にお前達の演奏技術が上がったのだと思った。他の曲を聴いている時はちゃんと聴き分けられたからな」
でも──と俺は続ける。
「SMSが終了して、最初の練習。俺は耳を疑った。完全に聴き分けられなくなったんだ」
「だからあの時、顔色が悪くなったんだ……」
リサの言葉に俺は頷く。
「それから俺は一週間、音楽から距離を置こうと考えた。なるべく耳を使わない様にと、耳栓までした。そうすれば、治ると思っていた」
「でも、結果は変わらなかった」
「あぁ。だから俺は練習の時、口に出せなかった。何処をどう直したら良いのか、分からなかったから」
「そうだったんですか……」
「だから友希那に黙ってろって言われた時、正直頭にきたが、アイツの言う通りだった。練習に顔も出さない奴が、口を挟むことなんて許されない」
俺は立ち上がり、リサ達に背を向けて言った。
「今はもう、Roseliaにいる理由さえも分からない……」
そう言ってCiRCLEを出る。
──また俺は、死神に戻るのか……
夜空に光る星を見ながら、俺はそう思った。
☆☆★☆☆
奏が帰って行き、CiRCLEにはアタシと紗夜が残った。
何で気付けなかったのだろう。奏が苦しんでいる事に。どうしてあの時、もっと気にかけなかったのだろう。アタシは後悔しかなかった。
「……取り敢えず、帰りましょうか」
「……うん。そうだね」
アタシと紗夜も、重たい腰を上げた。
帰り道。アタシと紗夜は口を開かなかったが、紗夜から声を掛けてきた。
「……あの、今井さん?」
「あ、うん……なんか、アタシっぽくないよね。ごめん。なんか、アタシ……何してたんだろうって思ってさ。みんなよりも演奏は下手だから、少しでも役に立てること考えてさ。みんなが良い感じに演奏できるようにって色々やってたのに、全部、Roseliaの為になってなかったんだよね……友希那の夢が叶うように、ってやってたのに……」
気付くと涙を流していた。悔しい。そんな思いが込み上げる。
「……あなたは、Roseliaのベーシストです」
「え……?」
「技術は足りていませんが、私はあなたをベーシストとして認めています。あなたの存在意義は、ちゃんとこのバンドにあります」
いつもは辛口の紗夜だが、今回ばかりは優しいことを言ってくれた。それだけで、心が少し落ち着く。
「けどさ、これからどうしていったらいいんだろう?」
「緊張感のある私達の音……確かに、これは取り戻すべきですね。ですが、今より未熟だった頃に戻る必要はない筈」
「奏が入る前に戻る必要はない……確かにそうだよね」
「私達は、奏さんに頼りすぎたのかもしれません。覚えてますか? 奏さんが一ヶ月いなかった時の事」
紗夜が言っているのは恐らく、奏がパスパレの面倒を見ていた時の事だろう。
「覚えてる。あの時の私達、何も出来なかったよね……」
「奏さんの前では強がりましたが、実際は違った。いつも奏さんがいたから、私達がいる」
「でも、今その奏が窮地に追いやられている……」
「奏さんの感覚を取り戻すには、私達の音を取り戻さなければなりません。その為にも──」
「今のこの状況を、何とかしないとね」
アタシと紗夜は、そう決意した。
次回予告
次の練習の日。そこにはアタシと紗夜と友希那しかいなかった。練習を始めようとする時、紗夜と友希那が口論してしまった。この時思ってしまった。
――こんな時、奏がいてくれたら……
そしてアタシ達は、聞きたくない言葉を、聞いてしまった。
次回、六人目の青薔薇 Neo-Aspect編
第六話「これしかわからない」
「俺、Roseliaを辞めるよ」