六人目の青薔薇   作:黒い野良猫

58 / 62
第六話 これしかわからない

 次の練習の日。アタシと紗夜と友希那がいて、そこにあこと燐子と奏の姿は無かった。

 

「それじゃ練習を始めるわよ」

 

 三人が来ない中、練習を始めようとする友希那。それを見て、紗夜が友希那に声を掛ける。

 

「ちょっと待って下さい湊さん。宇田川さんと白金さんが来ていないのに練習を始めるのですか?」

「私達には時間がないの。紗夜も早く準備して」

「時間がないって、なんの時間ですか? 練習時間ですか? FUTURE WORLD FES.までの時間ですか? はっきり言います。後者なら今の私達には無理です」

「っ!」

「湊さん。私達が昔のような未熟な状態に戻る必要はないと思います。私達は成長しました。それを無下にするようなことは……」

「──からない……」

「友希那……?」

「分からないのよ! 他にどうしたら良いのか、分からないの! 見つからないから……こうするしか……っ! こうするしか……ないじゃない……!」

「私だって、分からないですよ! でも、こんな形でこれまでの経験を全部なかったことにしたくないんです!」

 

 紗夜と友希那が言い合いになる。アタシはその中に入る事が出来ない。

 

 ──こんな時、奏がいてくれたら……

 

 今ここにいなくて、そして頼ってはいけない人をどうしても頼ってしまう。

 

「個人的な話ですが……私は、バンドに入ったからこそ、成長することが出来ました。妹と約束したんです。彼女の隣を並んで歩けるようになると……前に進んでいくと……あなただって同じはずです、湊さん。お父様の大切な歌を歌った事。そして、奏さんと過ごしてきた事。それも全部なかったことにするんですか?」

「……それは……」

「そして、その奏さんは今、大変な状態に陥っています。彼の音楽の才能が、無くなってしまったんです」

「それって、どういう、事……?」

 

 紗夜は奏が話してくれたことを、友希那に事細かに伝えた。

 

「奏さんがいない状態で、私達は音を取り戻さないといけません。なのに、リーダーのあなたがその調子でどうするんですか!」

「──っ!」

「あっ、友希那!」

 

 友希那はアタシの横を走って行った。スタジオには、静寂が訪れる。

 

「あれ、どうしたんだ? 二人共」

 

 すると入り口の方から、聞きなれた声が聞こえた。それはとても安心する声で、アタシ達の大好きな声。

 

「奏……!」

「あこと燐子は予想できたが、友希那は?」

「さっき、友希那と言い合いになっちゃって……」

「なる程、それで出て行ったって感じか……」

「奏さんの方は、大丈夫なのですか?」

 

 紗夜の言葉に、奏は首を横に振る。

 

「そっか……」

「色々試したが、全部だめだ……。唯一残った力は、楽器が弾けることぐらいだな。身体が覚えているみたいだ」

 

 奏は深く椅子に腰かける。天井を見上げ、下を見る。

 

「……本当は、全員揃って言おうと思ったんだけどな」

「何を……」

「二人には先に言っておく」

 

 何故か嫌な予感がした。その言葉を聞いたら、何かが終わりそうな、そんな気がした。

 

「俺──」

「言わないで! 奏!」

「──Roseliaを辞めるよ」

 

 聞きたくなかった言葉が、木霊する。

 

「Roseliaを……辞める……? どういうことですか……?」

「そのままの通りさ。今の俺は、Roseliaに必要ない。それに俺がいたら、Roseliaは崩れちまう」

「崩れるって、どういう意味?」

 

 アタシは恐る恐る聞いた。

 

「前に言ったろ? 俺は死神なんだ。俺が長くRoseliaのマネージャーとして関わってきたことによって、今Roseliaは崩壊しかけている。全てはSMSが始まりだった。俺が全く役に立たないせいで、みんなに迷惑を掛けちまった。そんな俺がいつまでもRoseliaのマネージャーとして居座ってるのはおかしいだろ?」

「そんな事ありません! あなたがいたからこそ、今の私達がいます! あなたがいなければ、ここまでこれませんでした!」

「お前達をここまで来させた俺はもういない。今までありがとう」

「待ってよ奏! 奏は本当にそれで良いの!? このままRoseliaが終わっても良いの!?」

「……お前達なら、きっと取り戻せる。暫く学校も休む。じゃあな」

 

 奏はそう言ってスタジオを出て行った。アタシはその場で泣き崩れる。

 

「今井さん……」

「紗夜ぉ……このままじゃ、本当にRoseliaが無くなっちゃうよ……どうすれば良いの……?」

 

 紗夜はやさしく抱きしめてくれた。そして背中を擦りながら、言った。

 

「絶対に、音を取り戻しましょう。そして、奏さんにも戻ってきてもらうんです。私達には、あなたが必要だと」

「うん……!」

 

 アタシ達は約束した。絶対に音を取り戻すと。そして、奏に必ず戻ってきてもらうと。

 だが、次の日から奏は本当に学校に来なかった。




 次回予告

 スタジオを飛び出した友希那が出会ったのは、Poppin'Partyの戸山香澄だった。友希那は彼女に、ライブに来ないかと誘われる。そこで友希那が目にした光景とは……?

次回、六人目の青薔薇 Neo-Aspect編

第七話「どんな気持ちで~友希那side~」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。