六人目の青薔薇   作:黒い野良猫

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第四話 波乱の新学期

 部屋にはギターの音が鳴り響く。アップテンポからスローテンポまで、恐らく十曲ぐらい引いただろう。

 

「奏ー! ご飯よー!」

 

 扉が開き、お袋が顔を覗かせる。掛け時計を見ると、七時半を指していた。

 

「おう、今行く」

 

 俺はギターをギタースタンドに立てると、スタジオの電気を落とし、階段を上る。

 リサ達の再会から数日。スタジオを丸一日かけて掃除し、暇あれば楽器を弾いていた。だが、それも今日から引く時間が少なくなる。

 

「今日から学校ね。奏、周りが女の子ばかりだからって、変な気は起こさないでね」

 

 エプロン姿のお袋が俺のご飯をよそい、渡してくる。

 

「そう思うなら、俺をここに転入させんなっての」

「しょうがないじゃない。この付近の学校といったら、羽丘か花咲川しかないんだから」

「どっちも女子高じゃねぇか……」

「それに、試験無しで入れたんだから良いでしょ? どうせ満点取るんだし」

 

 俺は呆れて物も言えなかった。

 俺は別に頭が良い訳ではない。前も言ったように、一度見てしまったものは覚えてしまうのだ。大学の問題だろうと、アメリカの問題だろうと、一度見てしまったら内容を覚えてしまい、自然に解けてしまう。だから試験ではいつも満点を取ってしまう。

 

「ケド、貴方が心配だわ」

「ん?」

 

 突然神妙な顔で言ってくる。

 

「病院で検査して、異状なくて、記憶力がよくて、耳も良くて……。貴方の脳に負荷が掛かりすぎていないか心配で……」

 

 するとお袋は俺の頭を撫でる。

 

「……お願いだから、無理だけはしないでね」

 

 ここまで心配してくれる、少しは嬉しいと思う自分がいる。

 

「大丈夫だよ。今までなんともなかったんだから。それに、今度は幼馴染もいるしな」

 

 俺が言うと、お袋ははにかみ小さく、そっか……といって台所に戻って行った。

 暫くすると、インターホンが鳴る。恐らく、リサ達だろう。

 玄関を開けると、案の定リサと友希那だった。

 

「おはよう、奏」

「やっほ~」

「おう、ちっと待ってろ。すぐ準備する」

 

 リサ達を中に入れ、俺はすぐにバックを取りに行く。

 

「んじゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃい。リサちゃんと友希那ちゃんに迷惑かけないでね」

「はいよ」

「リサちゃん、友希那ちゃん。息子をよろしくね」

「はーい! じゃあおばさん、行ってきます」

「行ってきます」

 

 こうして俺達は家を出て、羽丘学園へと向かった。

 

「な~んか懐かしいね、こうやって三人で通学するの」

 

 リサが嬉しそうに言ってくる。

 

「まぁな。小学校上がって俺がすぐに転校したから、一ヶ月くらいしか一緒に行ってないからな」

「でも、これからまた三人で通学できる。ね、友希那?」

「えぇ、そうね」

 

 通学中、友希那の表情は一切崩れない。無表情のままだ。

 校門が近付いてくると、周りの目が殆どこちらに向く。何故なら女子しかいない中、男一人だけ混ざっているからだ。

 周りから何か聞こえるが、俺は知らない。無視してクラス分けの書かれた掲示板へと向かう。

 

「お、俺とリサはA組、友希那はB組か」

「その様ね、じゃあ私は行くわ」

「あ、待ってよ友希那~」

 

 そう言って友希那はそそくさと教室へ入って行く。リサはそれを追う。

 

 ――友希那の心を開くには、まだ時間が掛かりそうだな。早くメンバーが見つかるといいが……

 

 メンバーが見つかれば少しでも変わるだろう。

 

 ――でも友希那。そのメンバー、案外近くにいるもんだぜ。

 

 俺は友希那を追っているもう一人の幼馴染の背中を見て、そう思ったのだった。

 

「さて、と。理事長室行くか……」

 

 取り残された俺は一人寂しく、理事長室へと向かうのであった。

 

 ―――――――

 ――――

 ――

 

 理事長室に着いた俺はノックを三回する。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 俺は中に入り、この学校で俺を女子科にいれた張本人――理事長――と対面する。

 

「君が内田奏君か。私がこの学校の理事長だ。宜しくね」

「は、はぁ。宜しくお願いします」

 

 理事長は握手を求めてきたため、握手する。

 

「それにしても、君のお母さんからここに転入したいと聞いた時は驚いたよ」

「なら何で断らなかったんですか」

「断ったら、君の転入先がなくなるだろう?」

「いや、そうですけど……せめて男子科に――」

「二年生一人だけになるだろ?」

 

 俺は察した。この人には何を言っても通じない、と。

 

「まぁ、ここに入れてくれた事は感謝しますよ。でも良いんですか? 女子科の中で男一人って……」

「君の事はお母さんから聞いている。君なら大丈夫だと」

「どっからその信用が出て来るんですか……」

 

 俺はもう呆れるしかなかった。

 

「体育とかに関しては心配しなくていい。流石にそこは一年男子科と同じにしてあげるよ」

「なんか、その一年に視線で殺されそうなんですけど……」

「ハハハ! 君は面白いな!」

 

 肩を思いっきり叩かれる。痛い……

 

「まぁ、これから宜しく頼むよ」

「は、はぁ。では、失礼します」

 

 そう言って俺は理事長室を後にする。

 自分の教室に向かうまでも、もの凄い視線を感じた。正直逃げ出したい。

 目的地のA組に向かうと、何人かはグループで、何人かは一人でいる。

 

「すぅ、ふぅ……、よし」

 

 俺は意を決してドアを開ける。すると視線は一気にこちらに向かれた。

 俺は気にしない様に黒板に張られている自分の席を確認し、すぐに離れる。

 

 ――廊下側の一番後ろで良かった……

 

 何かあればすぐに逃げれる。

 そう思ってると、リサがやって来た。

 

「どうだった? 理事長とは」

「なんかもう、疲れたよ……」

 

 そう言って俺は机に伏せる。

 

「アハハ……それは大変だったね……」

「新学期から、大変だなこりゃ」

 

 すると、俺とリサの所に一人やって来た。

 ライトグリーンの髪を持つショートカット。

 

「リサちー、この子知り合い?」

 

 リサの事を"リサちー"と呼び、親しげに話す。

 

「あ、日菜。そう、アタシと友希那の幼馴染。今日からここに転入したんだって」

「どうも、内田奏です」

 

 日菜と呼ばれた子に自己紹介する。

 すると日菜と呼ばれた子は俺の顔に自分の顔を近づけ、俺を見つめる。あまりの近さに、俺はのけ反る。

 そして、ふ~んと言って離れる。

 

「何か、るん♪ってくるね!」

「――――はぁ?」

 

 初日から変な奴に絡まれて憂鬱になる俺だった。

内田奏(主人公)を他のバンドと絡ませる?

  • 絡ませる
  • 数名だけ絡ませる
  • Roseliaだけで良い

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