部屋にはギターの音が鳴り響く。アップテンポからスローテンポまで、恐らく十曲ぐらい引いただろう。
「奏ー! ご飯よー!」
扉が開き、お袋が顔を覗かせる。掛け時計を見ると、七時半を指していた。
「おう、今行く」
俺はギターをギタースタンドに立てると、スタジオの電気を落とし、階段を上る。
リサ達の再会から数日。スタジオを丸一日かけて掃除し、暇あれば楽器を弾いていた。だが、それも今日から引く時間が少なくなる。
「今日から学校ね。奏、周りが女の子ばかりだからって、変な気は起こさないでね」
エプロン姿のお袋が俺のご飯をよそい、渡してくる。
「そう思うなら、俺をここに転入させんなっての」
「しょうがないじゃない。この付近の学校といったら、羽丘か花咲川しかないんだから」
「どっちも女子高じゃねぇか……」
「それに、試験無しで入れたんだから良いでしょ? どうせ満点取るんだし」
俺は呆れて物も言えなかった。
俺は別に頭が良い訳ではない。前も言ったように、一度見てしまったものは覚えてしまうのだ。大学の問題だろうと、アメリカの問題だろうと、一度見てしまったら内容を覚えてしまい、自然に解けてしまう。だから試験ではいつも満点を取ってしまう。
「ケド、貴方が心配だわ」
「ん?」
突然神妙な顔で言ってくる。
「病院で検査して、異状なくて、記憶力がよくて、耳も良くて……。貴方の脳に負荷が掛かりすぎていないか心配で……」
するとお袋は俺の頭を撫でる。
「……お願いだから、無理だけはしないでね」
ここまで心配してくれる、少しは嬉しいと思う自分がいる。
「大丈夫だよ。今までなんともなかったんだから。それに、今度は幼馴染もいるしな」
俺が言うと、お袋ははにかみ小さく、そっか……といって台所に戻って行った。
暫くすると、インターホンが鳴る。恐らく、リサ達だろう。
玄関を開けると、案の定リサと友希那だった。
「おはよう、奏」
「やっほ~」
「おう、ちっと待ってろ。すぐ準備する」
リサ達を中に入れ、俺はすぐにバックを取りに行く。
「んじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい。リサちゃんと友希那ちゃんに迷惑かけないでね」
「はいよ」
「リサちゃん、友希那ちゃん。息子をよろしくね」
「はーい! じゃあおばさん、行ってきます」
「行ってきます」
こうして俺達は家を出て、羽丘学園へと向かった。
「な~んか懐かしいね、こうやって三人で通学するの」
リサが嬉しそうに言ってくる。
「まぁな。小学校上がって俺がすぐに転校したから、一ヶ月くらいしか一緒に行ってないからな」
「でも、これからまた三人で通学できる。ね、友希那?」
「えぇ、そうね」
通学中、友希那の表情は一切崩れない。無表情のままだ。
校門が近付いてくると、周りの目が殆どこちらに向く。何故なら女子しかいない中、男一人だけ混ざっているからだ。
周りから何か聞こえるが、俺は知らない。無視してクラス分けの書かれた掲示板へと向かう。
「お、俺とリサはA組、友希那はB組か」
「その様ね、じゃあ私は行くわ」
「あ、待ってよ友希那~」
そう言って友希那はそそくさと教室へ入って行く。リサはそれを追う。
――友希那の心を開くには、まだ時間が掛かりそうだな。早くメンバーが見つかるといいが……
メンバーが見つかれば少しでも変わるだろう。
――でも友希那。そのメンバー、案外近くにいるもんだぜ。
俺は友希那を追っているもう一人の幼馴染の背中を見て、そう思ったのだった。
「さて、と。理事長室行くか……」
取り残された俺は一人寂しく、理事長室へと向かうのであった。
―――――――
――――
――
理事長室に着いた俺はノックを三回する。
「どうぞ」
「失礼します」
俺は中に入り、この学校で俺を女子科にいれた張本人――理事長――と対面する。
「君が内田奏君か。私がこの学校の理事長だ。宜しくね」
「は、はぁ。宜しくお願いします」
理事長は握手を求めてきたため、握手する。
「それにしても、君のお母さんからここに転入したいと聞いた時は驚いたよ」
「なら何で断らなかったんですか」
「断ったら、君の転入先がなくなるだろう?」
「いや、そうですけど……せめて男子科に――」
「二年生一人だけになるだろ?」
俺は察した。この人には何を言っても通じない、と。
「まぁ、ここに入れてくれた事は感謝しますよ。でも良いんですか? 女子科の中で男一人って……」
「君の事はお母さんから聞いている。君なら大丈夫だと」
「どっからその信用が出て来るんですか……」
俺はもう呆れるしかなかった。
「体育とかに関しては心配しなくていい。流石にそこは一年男子科と同じにしてあげるよ」
「なんか、その一年に視線で殺されそうなんですけど……」
「ハハハ! 君は面白いな!」
肩を思いっきり叩かれる。痛い……
「まぁ、これから宜しく頼むよ」
「は、はぁ。では、失礼します」
そう言って俺は理事長室を後にする。
自分の教室に向かうまでも、もの凄い視線を感じた。正直逃げ出したい。
目的地のA組に向かうと、何人かはグループで、何人かは一人でいる。
「すぅ、ふぅ……、よし」
俺は意を決してドアを開ける。すると視線は一気にこちらに向かれた。
俺は気にしない様に黒板に張られている自分の席を確認し、すぐに離れる。
――廊下側の一番後ろで良かった……
何かあればすぐに逃げれる。
そう思ってると、リサがやって来た。
「どうだった? 理事長とは」
「なんかもう、疲れたよ……」
そう言って俺は机に伏せる。
「アハハ……それは大変だったね……」
「新学期から、大変だなこりゃ」
すると、俺とリサの所に一人やって来た。
ライトグリーンの髪を持つショートカット。
「リサちー、この子知り合い?」
リサの事を"リサちー"と呼び、親しげに話す。
「あ、日菜。そう、アタシと友希那の幼馴染。今日からここに転入したんだって」
「どうも、内田奏です」
日菜と呼ばれた子に自己紹介する。
すると日菜と呼ばれた子は俺の顔に自分の顔を近づけ、俺を見つめる。あまりの近さに、俺はのけ反る。
そして、ふ~んと言って離れる。
「何か、るん♪ってくるね!」
「――――はぁ?」
初日から変な奴に絡まれて憂鬱になる俺だった。
内田奏(主人公)を他のバンドと絡ませる?
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絡ませる
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数名だけ絡ませる
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Roseliaだけで良い